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危機後の世界秩序と日本の再興【2009年度通常総会・代表幹事所見】

社団法人 経済同友会
代表幹事 桜井 正光

はじめに

「未曾有」「百年に一度」と言われる昨年来の世界金融・経済危機は、まさに世界経済を瞬く間に同時不況に陥らせ、わが国の実体経済に深刻な打撃を与えました。1年前のこの場において、私は国際金融・資本市場の不安定化や日本経済の先行きに対する懸念について申し上げましたが、その年の10-12月期の実質成長率が年率換算で▲12.1%と、第1次石油危機以来最大の二桁マイナス成長になるとは、当時まったく予想すら出来ませんでした。

昨年9月のいわゆる「リーマン・ショック」からわずか数カ月の間に、我々を取り巻く状況は一変しました。日本経済の牽引役である輸出型産業の深刻な不振、それに伴う設備投資の抑制、非正規雇用を中心とした急速な雇用調整、消費者マインドの冷え込みによる消費低迷など、危機の連鎖・拡大によって国民の間には底知れぬ不安が蔓延しています。

我々がまず取り組むべきは、こうした不安を一刻も早く払拭することにあります。ただし、一方で、この不安の根底にはわが国に漂ってきた閉塞感、すなわち年金など社会保障の面での将来不安、グローバル化や少子高齢化等の環境変化に対応出来ず放置されている制度・慣行や産業構造などから生じる歪み、混迷を深める政治への不信などに基づく国民の将来に対する不安があることを忘れてはなりません。したがって、緊急経済対策をいくら積み上げても国民の不安を完全に拭い去ることは出来ません。いま我々がなすべきことは、中長期を見据えた「この国のかたち」の明確化と、その実現に向け、わが国が抱える構造的問題の解決に勇気をもって取り組んでいくことではないでしょうか。

また、世界に目を転じれば、拡大し連携を深めるグローバル経済・社会の下で起きた今回の金融・経済危機が如実に示したことは、このような新たなグローバル課題の予防・解決手段として、従来のシステム(枠組み)ではまったく不十分であったとの警告ではなかったでしょうか。それは、先進国のみならず新興国や途上国を含めた各国・各地域が問題意識を共有し、意見の相違こそあれ、協調して対処するというグローバル・ガバナンスの再構築が求められる時代になったことを意味するでしょう。

資源小国でありながら、世界第2位の経済大国であるわが国として、これまで培ってきた世界からの期待と信頼を損ねることなく、こうした国際協調の舞台に積極的に関与し、応分の負担を主体的に担って世界に貢献する姿勢を強く打ち出すと共に、国益の増大を図っていかなければなりません。残念ながら、日本では、短期的かつ内向き・内輪の論理が跋扈し、この金融・経済危機下にあってもなお続く不安定な政治情勢からは、世界に関与し解決をリードするという姿勢が感じられません。海外から見ても、日本に何が期待出来るかが分かり難くなっています。私は、国際社会において、ますます「ジャパン・パッシング」が進んでいくのではとの危惧を抱かざるを得ません。

その意味で、今回の危機を「新しい国づくり」と「新しい世界秩序づくりへの主体的関与」に向けた変革の好機と捉え、2009年をその地固めの1年としなければならないと考えます。本日は、こうした問題意識を背景に、代表幹事として2期目の任をお引き受けするにあたり、私見を述べさせていただきます。

1.真に将来への投資となる経済対策を

危機後の世界で主体的役割を果たそうとするには、先進国の中で最も自国経済への影響が大きいわが国として、何よりもまず現下の経済危機を克服し、わが国の経済を新たな成長軌道に乗せ、かつ、国際経済の回復をリードすることが先決です。麻生政権は、今回の危機への対処として緊急経済対策を次々と打ち出しました。実体経済が想像以上に急降下したことを考えれば、景気の底割れを防ぐために、ある程度の財政出動はやむを得ないと考えています。

しかし、それが真に将来への投資につながる「賢い支出」であるかどうかは慎重に精査し、見直しが必要であると考えます。かつて小渕政権下で実施された大型の景気対策は、それらの公共投資が中長期的に見て、わが国の経済や社会の活性化にどのような成果をもたらしたのかが定かではなく、一方では、膨大な債務残高に苦しむ今日の厳しい財政状況をもたらす結果に終わったことは明らかです。

このほど麻生総理が発表した「経済危機対策」では、「成長戦略-未来への投資」の部分において低炭素革命、健康長寿社会、日本の魅力発揮の3分野が重点分野として絞り込まれました。こうした選択と集中が必要であることは我々も常々主張してきたことですが、それらが目指す「この国のかたち」や中長期目標を設定し、その効率的な実現のために施策を厳選すると共に、各施策の効果・成果を明示し、後にその進捗状況や成果を検証可能にしておくことが重要ではないでしょうか。

また、膨大な債務残高を抱えたわが国の財政状況を考えれば、単に財政出動の規模を重視するのではなく、規制改革の更なる断行を図り、財政支出や減税の効果を最大化することも重要ではないでしょうか。規制改革とは経済が本来持っている活力を引き出すものです。安易な規制再強化は、経済対策の効果を限定的なものとするばかりでなく、中長期的な経済活性化の芽を摘むことになります。

規制改革以外にも、市場主義の行き過ぎという観点から構造改革全般に対する大きな逆風が吹いています。これらは構造改革に誤りがあったというよりも、むしろ改革が途半ばであったが故に、旧来の制度・慣行や既得権益が残され、歪みの解消が進まなかったと捉えるべきです。民間主導による健全な経済社会を築き、地域に対して大胆に権限と財源を移譲し地域の創意工夫を促すことこそが、新たな成長のエンジンとなる新産業の創造や地域経済の活性化につながると理解すべきです。

2.政治に問う、危機後の「国のかたち」

次に、政治に求めることは、衆議院の解散・総選挙を通じた政治体制の再構築です。衆議院と参議院のねじれ現象の下で国民不在の不毛な政局争いが続き、政治に対する不信が渦巻いています。経済危機からの迅速な脱出という大きな課題が与えられている今こそ、危機後の「国のかたち」(ビジョン)とその実現に向けた戦略を示す好機であるはずです。きたるべき総選挙に際し、各党が骨太の政権公約(マニフェスト)を提示し、総選挙を通じて国民と共に真の政策論争を繰り広げることを切に期待します。

マニフェスト策定にあたっては、「この国のかたち」、すなわち国家の長期ビジョンをまず明示することが不可欠です。国家や組織を率いるリーダーの役割とは、関連する人々に、将来に対する勇気や希望を与える理念・ビジョンを語り、人々の役割を示し、その実現に向けて人々を駆り立てることにあります。今日の閉塞感の一因は、国民が納得・共鳴出来るような理念・ビジョンを政治が語っていないからではないでしょうか。「国のかたち」とは、前後が逆になりますが、構造改革や成長戦略の各々の柱において、わが国が抱える問題を解決し、最終的に辿り着く個々の姿が集大成されたものと言えるでしょう。

例えば、(1)高負担・高福祉、中負担・中福祉、低負担・低福祉のどの道を選択するか、世代間の受益と負担の格差をどこまで許容するか、(2)経済活動を政府が強く統制・規制するのか、出来るだけ民間に委ねるのか、どちらが活力と豊かさをもたらすか、(3)中央政府が全国一律に統制するのか、地方政府に大胆に権限と財源を移譲するのか、どちらが住民サービスの向上や地域活性化につながるか、(4)温暖化防止において、中期的活動に軸足を置き、今から大きな投資を行い温暖化阻止活動に努力するのか、あるいは、被害拡大への対応を覚悟の上、長期的活動に軸足を置くのか、などについて分かり易く語った「この国のかたち」が提示されれば、国民は納得と覚悟をもった選択が出来るようになるはずです。

マニフェストの策定にあたっては、こうした将来像をしっかり描いた上で、具体的政策課題、成果目標、財源、工程表を明記し、その実現に向けた政権担当能力を示していただきたいと思います。

3.「新たな責任の時代」における日本

今回の世界金融・経済危機の対応において、新興諸国も含めた主要国の首脳が緊密に連携し、国際社会が一致団結してこれを克服するという姿勢を強く打ち出したことは、新しい国際協調の時代の到来を予感させるものであります。さらに、米国において「新たな責任の時代」を謳うオバマ政権の誕生は、グローバル課題の解決に向けた変化の兆しを感じさせられます。金融システムの強化など危機後の新しい世界秩序づくりは緒についたばかりであり、わが国も主体的に関与していかなければなりません。

しかし、こうした世界における日本の役割を考える時、あらためてわが国の世界における存在感の薄さ、世界をリード出来る「顔」の不足を痛感せざるを得ません。他方、わが国が有する強みを十二分に発揮し、世界の舞台において尊敬と信頼を勝ち取り、その存在感を強めている分野が多々あることも確かです。その意味で、わが国は世界第2位の経済大国となり得た世界に冠たる強さをさらに磨き、今こそ新たな時代に向け、世界への貢献と国益の増大を図っていくべきでしょう。

その一つに、世界経済にとって、成長が期待されるアジア地域での健全なる市場を基盤とした経済圏の構築があります。世界人口の約6割を占めるアジア地域は、中国やインド等の新興諸国を中心とする将来の成長センターとして、世界中から熱い視線を集めています。しかし、急速な成長の陰にはさまざまなリスクもあり、それがグローバル化した世界経済に大きな影響を及ぼす可能性は否定出来ません。また、この地域には貧困や紛争によって不安定な国々も未だ数多く存在しています。当地域に対してわが国は長年にわたり、経済基盤から技術支援や人材育成など広い分野に及んだ支援や協力を通して信頼関係を醸成してきました。機会とリスクが交錯するアジア地域において、わが国はこの地域が抱える問題の解決や秩序づくりに関し、より一層のリーダーシップを発揮し、共存共栄関係を維持しつつ、地域の活性化と世界経済の安定成長を確かなものにしていかなければなりません。

また、地球温暖化問題では、わが国が培ってきた最先端の環境技術や、自然との共生を図るライフスタイルなどは世界に誇れる分野であります。その力を最大限活用すれば、問題解決に向けて主体的・主導的役割を果たし得る分野であると考えます。

今年の12月にはデンマーク(コペンハーゲン)にてCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)が開催され、ポスト京都議定書の枠組み合意を図ろうとしています。各国の利害が対立する中、実りある合意が得られるかどうかは予断を許しません。しかし、次期枠組みと温暖化防止活動が遅れれば遅れるほど、経済的影響が増大することを知るべきです。

しかし、ポスト京都議定書の枠組み構築に向けた流れの中で、現在、海外からは、わが国は温暖化防止問題に消極的であるとの疑念も生まれ始めています。国内では、中期目標の設定にあたり、達成に必要なコストやGDPへの影響のみが強調され、わが国が意味のある高い削減目標を掲げることを懸念する声もあります。しかし、何もしなかった場合に生じるリスクを考える必要があるでしょう。私は、温暖化防止活動は、長期的視点に立った技術革新やライフスタイル革新による21世紀型「低炭素社会」づくりのための逃してはならない変革のチャンスであると考えています。したがって、今こそわが国は自ら意味のある高い中期削減目標を設定し、国際合意に向けて主体的役割を果たすときだと考えます。

4.今試される「新・日本流経営」

以上、日本の「国のかたち」や「経済活性化」に関し、「政治への期待」について多くのことを語ってきました。しかし、それを実現する主役の一人は、民の主体である我々企業であることを忘れてはなりません。したがって、今回、当会の活動基本方針に掲げたように、「この国のかたち」を明確にするための委員会活動を強化することにしました。そしてまた、私が代表幹事に就任以来掲げてきた「新・日本流経営」は、経済危機の渦中にある今こそ、その真髄が試されるのではないかとの感を強くしています。輸出型産業を中心に日本企業は非常に厳しい時期を迎えていますが、この苦境から抜け出すには、安易に政府の景気対策にのみ依存するのではなく、まず自らの強みを磨き上げ、高い倫理観の下に、お客様や社会のニーズを先取りした形で、新しい商品・サービスを開発し提供していく地道な努力を重ねるほかありません。

今後の新しい成長の芽を考えれば、我々は低炭素社会の実現や高齢長寿社会への対応、あるいは貧困や疾病など世界的課題を社会的ニーズと捉え、技術革新やビジネスモデル開発によって、問題解決を図っていく価値創造型CSRの推進に力を入れていく必要があります。この実現にあたって、日本企業や産業全体の持つ世界を圧する強みを発揮していくことこそ、日本経済の再興と国際社会におけるわが国の存在意義の増大につながると信じます。

おわりに

経済同友会の設立の精神は、「今こそ同志相引いて互に鞭ち脳漿をしぼって我が国経済の再建に総力を傾注する」ことにありました。今日の危機を前にして、我々は今一度先人たちの置かれた状況やその志に思いを馳せ、危機の克服とわが国の再興に向け、企業経営者として全力を尽くしていこうではありませんか。本年度は、その正念場となる1年となりますが、経済同友会においても「新しい国づくり」と「新しい世界秩序づくり」に向けた議論を重ね、国内外に向けて意見を発信し自ら行動していきたいと考えています。会員の皆様方の積極的な参画をお願いします。

以上


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