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世界とともに拓く未来 【2008年度通常総会・代表幹事所見】

社団法人 経済同友会
代表幹事 桜井 正光

はじめに

昨今のわが国には、閉塞感が漂うとともに、内向きかつ短期的な議論が先行しているように思います。政治は、いわゆる「ねじれ国会」により機能不全に陥っております。新しい政策形成のあり方の模索が続いていますが、未だに打開の糸口さえ見えません。いわゆる「道路特定財源」の問題も、民主党が議論に参加せず、時間切れの形で暫定税率が廃止されるなど、次の衆議院選挙を意識した政局が優先されており、本質の議論が欠けていると思わざるを得ません。経済もまた、日本企業の基礎体力は盤石であるものの、米国のサブプライム・ローン問題に端を発した国際金融・資本市場の不安定化やその国際経済への影響、さらには国際的な原材料費の値上がりなどを背景に、日本経済の先行きについては不確実性が増しつつあります。このような情勢の中、昨今の議論では、規制改革や外資規制などに関して、内向きの議論が目立ったことは残念なことです。

我々は、グローバリゼーションの深化と拡大の過程の真只中にいます。すなわち経済の相互依存関係が、多くの国と地域に拡大しつつあるとともに、多種多様な経済連携協定が提携されるなどその関係が拡大かつ深化しつつあります。わが国も、グローバリゼーションの諸課題に真正面から積極的に挑戦し、健全で安定的な成長の持続を確実なものとし、同時に、世界の発展に貢献し続けなければなりません。

折しも、本年7月には、わが国が議長国として、北海道洞爺湖サミットが開催されます。世界の持続可能な発展と人類の繁栄を確かなものとするために、気候変動、貧困、テロ・大量破壊兵器の拡散、国際経済の安定的成長などの諸課題に関して、国際社会が連携して取り組むべく、その意思を示す重要な会議であります。福田総理をはじめとする日本政府が強いリーダーシップを発揮され、高い成果を上げられることを期待しております。

このような時代背景にあって、閉塞感を打破し、わが国の明るい未来を拓くためには、わが国は、改めて、世界とともに生きる覚悟を固め、世界と価値観を共有し、自ら、諸制度の再設計を加速することを決意すべきであると考えます。本日は、その課題として、地球温暖化問題への取り組み、構造改革の推進と政治の課題、そして新・日本流経営の確立について私見を述べさせていただきます。

1.地球温暖化問題への積極的貢献

(危機感の共有)

気候変動問題、いわゆる地球温暖化問題は、深刻な状況になりつつあります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)が、昨年11月に第4次評価報告書を採択いたしました。そこでは、「20世紀半ば以降の世界の平均気温の上昇は、その大部分が、人間活動による温室効果ガスの増加によりもたらされた可能性が非常に高い」ことが確認されました。そして、このまま、化石エネルギー源を中心に、高い経済成長を続ければ、21世紀末には、20世紀末に比べて世界の平均気温は、4.0℃以上上昇するとの報告がなされています。そうなれば、海面上昇や、干ばつ・洪水・台風などの異常気象、農作物や生態系の異変などの影響、そして感染症の拡大など、人間社会や生態系への計り知れない影響があることを示唆しております。

地球温暖化問題への対策が遅れれば遅れるほど被害が拡大し、その対策コストも増加します。2006年10月に英国政府から発表された「スターン・レビュー:気候変動の経済学」においては、「対応策を講じなかった場合の気候変動のリスクとコストの総額は、最大で世界のGDPの20%以上に達する可能性」を示唆する一方で、「温室効果ガスの排出量削減などの対応策を講じた場合の費用は、世界のGDPの1パーセント程度で済むであろう」としています。まず、我々は、これらの科学的分析結果に基づく警鐘を真剣に受け止め、地球の将来に対する危機感を世界と共有することが重要です。

(洞爺湖サミットへの期待)

洞爺湖サミットに関しまして、経済同友会は、既に、サミットで実現すべき成果を、意見として発表いたしました。その第一は、温暖化による人類及び生態系への影響と温暖化防止活動による世界経済への影響の双方をバランスさせつつ最小化するために、長期目標として、2050年までの世界の温室効果ガス排出量の半減につき合意すること、第二に、中期目標として、排出量を下降に転じさせるピークアウト時期につき合意を形成し、COP15に成果をつなげること、第三に、それらの中・長期目標を達成するために、いわゆる主要排出国である先進国と新興国が「共通にして差異ある責任」を負い、先進国は高い中・長期削減目標設定の必要性、新興国は排出増加抑制など実効性のある目標設定の必要性を確認すること、第四に、実効性を高めると考えられる政策手段を対象に、その運用に対する国際的整合性を協議することを合意する、そして、第五に、排出量についての客観的・科学的調査と、目標設定のためのデータ策定、排出実績管理のための国際的体制構築の必要性を確認すること、の五点です。

(日本の課題と求められる対応)

そして、サミット議長国として、リーダーシップを発揮し、これらの成果の実現を図るため、わが国の課題と求められる対応についても提案いたしました。それは、第一に、日本自ら高い削減目標を設定し、国際的に宣言すること、第二に、長期的視点に立った「投資」活動として、代替エネルギー開発など革新的技術開発に取り組むこと、第三に、国民的理解の醸成により、全員参加の国民運動を推進すること、そして第四に先進国と途上国の架け橋となるため、日本の強みを活かすこと、の四点です。これらは、1月のダボス会議で福田総理が発表した「クールアース構想」とも方向性を一にするものでもあります。

(目標設定の重要性)

ここで、温室効果ガスの削減目標について述べておきたいと思います。世界は、半世紀をかけて温室効果ガスの大胆な削減という課題に取り組む必要に迫られています。それは、京都議定書で定められた削減量を大幅に超えるものです。そのためには可能な方法・手段の積み上げによる目標設定ではなく、温暖化による人類及び生態系への影響と、温暖化防止活動による世界経済への影響の双方をバランスさせ、最小化させるための目標設定、言い換えれば『実現すべき目標』の設定が必要となります。大幅な削減を要求されるポスト京都の活動では、到達すべき目標を明示して取り組むことが重要です。そうでなければ高い目標は達成できません。

『実現すべき目標』を達成するには、少なくとも主要排出国すべてが参加し、削減努力を担う仕組みが必要です。しかし、新興国や発展途上国の参加を促すためには、まず、先進国が、自ら高い総量削減目標を示し義務的責任を負うことが求められています。先進国が、世界の長期目標と中期目標について合意すること、加えて、先進国それぞれが、達成義務をもった長期目標と中期目標を定めることが重要です。そして、新興国も長期目標とビジョンを共有し、排出量の増加ペースの抑制など、実効性のある中期目標の設定に向けた議論が深まることを期待したいと思います。

わが国は、セクター別アプローチを提唱しています。これにより、これまでの省エネ努力を前提に、途上国への技術移転や資金援助を通じて、国際的に公平で、効率的な実現性の高い削減目標を設定できる可能性が、幾つかの業種・分野において期待されています。しかし、温暖化を阻止するための、『実現すべき目標』の設定方法としてはいくつかの解決すべき問題点が残されています。

(大変革の必要性)

企業にとっては、高い削減目標への挑戦が求められますが、これは新しい成長につながる挑戦であると確信しております。日本は、1970年代のエネルギー危機を、技術革新とプロセス革新で克服し、世界で最もエネルギー効率の高い社会を実現しました。環境保全と経済成長が両立する持続可能な「低炭素社会」を構築するためには、企業の「技術革新」や「経営革新」に対する不断の努力が最も重要だと思います。現在の地球環境問題を、企業競争力強化と成長の大きなチャンスと捉えて、経営者には、未来への挑戦を続けることが期待されています。特に、トップ・マネジメントは、地球を守るとの強い使命感に基づき、リーダーシップを発揮しなければなりません。

高い目標の実現のためには、企業における技術・経営革新ばかりではありません。経済社会システムや政治行政システムに大きな変革を迫ることになるとともに、国民一人ひとりが、ライフスタイルの大幅な変更や経済的負担、利便性の制約などを受け入れることが不可欠になります。福田総理のリーダーシップで全員参加の国民運動を展開されることを期待しつつ、その運動に経済同友会としても積極的に参加する所存であります。その際、地方自治体も重要な役割を担うことが期待されています。既に、幾つかの都道府県や基礎自治体では、削減目標を定めて、環境配慮型行動などに対するインセンティブの付与や規制が行われているようです。まだ、緒についたばかりかもしれませんが、このような動きが広がることを期待したいと思います。

(市場の活用)

地球温暖化対策には、実効性ある政策手段を多角的に検討することは不可欠であります。

長期間にわたる企業や市民の温暖化防止活動を支えるためのインセンティブの構築や、地球規模での削減ポテンシャルの総合的活用環境作り、さらに予想される膨大な資金の調達を多様化するには、市場の活用が重要です。いわゆる排出権取引や炭素税は、炭素に価格をつけることで代替エネルギーやライフスタイルの変化にインセンティブを与え、かつ経済的見地から削減ポテンシャルの有効活用を促進することになります。市場の失敗には十分配慮しつつ、市場の活力を信じて十分活用することが重要です。

2.構造改革の推進と政治の役割

グローバリゼーションが進展する中で、わが国は、世界に類を見ない巨額の公的債務残高を抱えつつ、少子化と高齢化、人口減少という課題に直面しています。振り返ってみれば、わが国は、戦後の荒廃からの復興を果たし、国際社会の一員としての地位と各国からの信頼を獲得してきました。その基礎となったのは高度成長を実現した経済の力に他なりません。今後も、資源小国のわが国が、グローバル競争の中で自らの地位を維持していくためには、最大の資源である人の力を活かし、自らの経済力に磨きをかけていくことしか道はありません。

今、目指すべきことは、日本経済を世界に向けてオープン化し、活性化し、活力と魅力あるものにすることで、経済力を高めることです。しかし、残念なことに、昨今の政治は、政局重視の内向きの議論が優先されています。

政治には、経済大国を維持し、経済の活性化や成長をもたらすための制度整備や環境整備を進める責任があります。改めて、「官から民へ」、「国から地方へ」という構造改革の断行を求めたいと思います。

(規制改革)

開かれた国際的に魅力ある国を構築するための構造改革の第一は、規制改革の推進であります。規制改革、特に規制の撤廃は、新たなビジネス・チャンスの創造を通じて、民間活力の発揮による経済活性化をもたらします。特に、農業、医療、教育、保育の各分野の規制改革の推進は、新しいサービスの創出を通じて雇用を拡大し、成長をもたらすことが期待されるばかりでなく、地域経済の活性化をもたらす中心的な産業群を生み出すことにもつながります。そして、規制改革は古い産業から新しい産業への切り替えを促進させ、資源の効率的な活用を通じて経済社会の更なる活力を生み出します。

(公的部門改革)

第二に、公的部門改革であります。2011年度の基礎的財政収支の黒字化の実現やその後の債務残高の持続的削減を確固たるものとするためにも、歳出削減を軸とする公的部門改革を一層進展させなければなりません。同時に、個人と企業の活力を再生する、世界に開かれた国際的にも魅力ある税制への抜本的改革に取り組むことも重要です。

(地域主権)

そして第三に、地域主権政治の確立であります。現在、政府の「地方分権改革推進委員会」は、国から地方への権限移譲や税源移譲を通して自立的地方政府の樹立について検討を進めています。何を置いても、生活行政は、住民に近いところで行うことで、政策決定等の面で地方の自由度が向上するために、地域活性化につながります。大胆な権限移譲を期待したいと思います。

(新しい政策決定の仕組み)

構造改革が停滞しつつある大きな原因は政治の状況にあります。日本経済の活力を取り戻し、成長を確実にするために、政治のリーダーシップが期待されていますが、政治が機能不全に陥っています。いわゆる「ねじれ国会」における政策決定のあり方について、国会の責任において議論し、新しい仕組みやルールを作り出していただくよう強く希望したいと思います。

そのためには、社会保障問題や公務員制度改革を含む行政改革問題など、政策の継続性が重視される課題や、与野党で、ほぼ同じ方向で政策のあり方を考えている分野については、国会を通じて透明な審議や協議・調整を図り、早期に成案を得る一方で、全く政策の異なる分野については、選挙の争点として争う、といった政策のタイプ別に協議・議論を行い、政策決定を行うことが必要だと思います。いずれにしても、政策決定の停滞は、経済成長のリスク要因となる可能性が大きいと言わざるを得ません。早急に新しい政策形成の仕組みやルールを作っていただきたいと思います。

3.「新・日本流経営」の確立

一年前、代表幹事に就任した際に、市場主義に根差す「新・日本流経営」の創造を訴えました。現在、企業経営委員会で検討を重ねていただいておりますが、徐々にその方向性が明らかになりつつあります。その特徴は、日本社会がもつ強みを活かした「強さからのスタート」、欧米企業の持つ価値創造などの長所を取り込む「融合経営」、そしてそれらと積極的に社会が抱える課題解決に取り組む「価値創造型CSR経営」との同時実現であります。

しかし、足元では不祥事は後を絶たず、企業に対する信頼は低下しています。我々、企業の創業者たちは、戦後のゼロからのスタートにあたり、国民の必要とする商品・サービスをくまなくお届けすることを創業の精神として企業を興しました。高度成長期には、より新しい商品やサービスを開発し提供することにより、更に豊かな社会を構築するとの思いで企業を経営し、社会の期待と要請に応えてきたのだと思います。今まさにグローバルな経済・社会の進展、地球規模の問題・課題が山積する中で、企業経営者に求められていることは、世界と共に生きる、世界と競争が出来る企業を作り上げていくことではないでしょうか。それはまさに、「強さからのスタート」、「融合経営」、「価値創造型CSR経営」を梃子として、第三の創業に取り組むことではないでしょうか。決して、短期的な利益を追求することが企業の役割ではないと思います。自らの長所を活かし、内向き志向を排し、海外の強さを受入れ、市場競争に果敢に挑戦することにより、国際社会からの大きな評価と信頼を勝ち取ることが、世界とともに生きる企業像であります。

我々経営者は、政治、行政、地域社会が何をしてくれるかではなく、我々自身が何をすべきか、何ができるかを考え行動する必要があります。高い倫理観は当然のこととし、健全な市場競争を通じて社会に貢献していくことが、企業競争力と企業に対する信頼の回復につながることを確信しております。

おわりに

経済同友会は、経営者が個人の資格で参加し、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視点から、議論をし、提言や意見を発表してきました。グローバリゼーションが進展する中で、わが国が内向きにならずに、世界とともに生きる決意を固め、様々な制度改革を成し遂げることは、現世代の次世代への責任だと思います。国民の共感を得て、政策提言の発信と実現に努めていく所存であります。本年度も、引き続き、会員の皆様方の積極的な参画をお願いいたします。

以上


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