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2006年度代表幹事所見「イノベーションによる活力ある経済社会の構築」
-「自立」「公正」「思いやり」に基づいた国づくりをめざして-

社団法人 経済同友会
代表幹事 北城 恪太郎

はじめに - 創立60周年を迎えて

経済同友会は4月30日に創立60周年、まさに「還暦」という記念すべき節目を迎えます。戦後日本の歩みの中で、常に先見性と良心に基づいた正論を世に問い、政策集団としての歴史を築いてこられた先輩諸氏ならびに会員の皆様のご尽力に対し、ここに深甚なる敬意と謝意を表したいと思います。

日本経済は今、長く続いた困難の時代を脱し、着実に回復軌道を歩み始めました。今年に入って、株価が小泉政権発足以来の高値を更新したことや、危機を未然に防ぐための非常手段であった量的緩和が解除されたことは、その象徴的出来事と言えるでしょう。しかし、中長期的視点からわが国の将来を考えると、国と地方の膨大な債務残高、急速な少子高齢化と人口減少など数多くのリスク要因が存在しており、決して楽観できる状況ではありません。

また、近い将来において、中国やインドなど新興諸国が世界経済の主役を担うことが予想されています。そのような時代が訪れた時、わが国が国際競争力を有する魅力的な国として存在し、国民が豊かな生活を享受するためには、現下の課題である構造改革を成し遂げた上に、人口減少下の成熟社会において新たな成長基盤を確立するという難題に取り組まなければなりません。

その解を求め、自ら実行することこそ、経済社会の担い手である我々の使命であると考えます。こうした問題意識を踏まえ、新年度の活動においては「活力ある経済社会の構築」に焦点を当て、これまで提起してきた「新事業創造」「イノベーション」の考え方を一層深化させながら、代表幹事として残された最後の1年を締めくくりたいと考えています。

1.「自立」「公正」「思いやり」が持続可能な活力ある経済社会を築く

活力ある経済社会を構築していくためには、社会のあらゆる分野においてイノベーション(改革)を続けていかなければなりません。これによって既存の枠組みを超えた新機軸を打ち出し、変化を次々と起こしていくことが、活力を生み出す源泉となるからです。このような思いから、私は「イノベーション立国・日本」を掲げ、企業経営、公的部門、個人の意識におけるイノベーションの必要性を説いてきました。

こうした考え方をさらに深めていく上で、「自立」「公正」「思いやり」の3つの価値観が欠かせないと考えます。

「自立」こそイノベーションの原動力

まず、イノベーションに結び付くようなアイデアや行動は、「自立」の精神なくして生まれません。「自分で何とかしなければいけない」という強い当事者意識があってこそ、リスクをとり、現状を大胆に変革する覚悟が生まれ、既成概念にとらわれない斬新な発想が生まれるのです。

我々企業経営者は、経営が厳しいからといって、国や自治体からの支援を求めるのではなく、自立し、自らの努力で改革を断行し、健全な企業をつくらなければなりません。

全国各地を訪れると、特殊な分野で高いシェアを獲得している地元企業、大企業が断念した新技術の開発に成功した町工場など、小さいながらもイノベーションに挑戦し、成果を挙げている例を数多く見聞きします。いずれも、政府の財政出動による公共事業に期待したり、規制や業界慣行の保護に安住することなく、自立の精神をもって挑んだからこそ、イノベーションに成功することができたのです。

同様の観点から、今最も自立の精神が求められているのが各地域です。地域の自立なくして活力ある経済社会を築くことは不可能、と言っても過言ではありません。

戦後の経済復興・高度成長を支えた中央集権型システムはすでに制度疲労を起こし、人口減少社会を迎えたわが国において「国土の均衡ある発展」をめざした政策はもはや困難になりました。小泉政権による三位一体改革が一定の進展を見せましたが、権限や財源の多くが中央に残されたままでは、地域の自立を図ることは不可能です。

各地域の人口や経済規模が世界の中堅の国々に匹敵することを考えると、外交や安全保障など国が担うべき仕事を除き、地域のことは地域が決定する地域主権型システム(国、道州、基礎自治体から成る三層システム)に早急に転換を図るべきです。「地域の特色ある発展」をめざすために、経営者としての経験を活かして、積極的に提言したいと思います。

何よりも重視されるべき「公正」

また、イノベーションは過去の経験や常識を否定することから始まり、時に社会を大きく揺るがすことになりますが、それが法律やルールに違反したり、違反でなくても法律やルールの趣旨に照らして好ましくない方法で行われることは、決して許される行為ではありません。

耐震強度偽装問題、ライブドア事件など昨今の企業不祥事を見る度に、企業経営者の条件として、常にイノベーションを先導するリーダーであるとともに、社会のルールや公正を重んじる高い倫理観を兼ね備えていなければならないことを強く感じます。我々の取り組むイノベーションの最終目的は、社会をより良い方向へと変革していくことにあり、「公正」は何よりも重視されなければならないのです。

「思いやり」の溢れた社会を築く

さらに、個人に「自立」の精神を求める一方で、失敗しても再挑戦が可能な仕組み・風土があり、ハンディキャップを持った人たちなど、真に救済を必要としている人たちに十分な支援の手が差し伸べられるような、「思いやり」の溢れた社会を築くことが必要だと思います。

例えば、若者のニート問題について、「自立しない若者が悪い」と言って突き放してしまうのは簡単ですが、適切な支援が提供されることによって、彼らに再出発の道が拓けるのであれば、我々はその支援に必要な労力を惜しむべきではありません。

また、企業経営においても、単に経済的利益を追求するだけでなく、「思いやり」をもって社会のさまざまなニーズに配慮することも、企業の社会的責任であります。

2.「市場主義」のあるべき姿を求めて

経済同友会では、21世紀の経済社会において我々が備えるべき基本理念として、「市場主義」を掲げてきました。市場における健全な競争は、さまざまな創意工夫を生み、効率的な資源配分と価値創造を可能にするからです。小泉政権が進めている構造改革は、市場主義に基づいた経済システムを築くためのプロセスと言えます。

昨今、「格差」論議の高まりや企業不祥事の頻発を受け、市場主義や構造改革の「影」を問う声が強まっています。しかし、競争や改革自体を否定するような議論は、わが国の活力を失わせる方向に導きかねません。活力ある経済社会の構築をめざす立場として、ここであらためて「市場主義」のあるべき姿を再確認し、その有効性を社会に広く提示していきたいと考えています。

市場は人々に「機会」の拡大をもたらす

経済史を振り返れば、市場経済の発展は人々に「機会」の拡大をもたらしてきました。例えば、金融・資本市場が発達したことによって、富を持たざる者であってもアイデアや意欲さえあれば、新しい事業を起こす機会を得ることができるようになったのです。

新たな事業に挑戦する機会が拡大し、ベンチャー企業が次々と生まれて経済発展の原動力になれば、人々の機会はさらに拡大していくことになります。また、わが国が「科学技術立国」をめざす際、ベンチャー企業は研究成果を実用化に結び付け、雇用を創出し、日本の競争力を高める上で、大きな役割を担う可能性があります。さらに、製造業に比較し、国際競争力の面で課題のあるサービス分野においても、ベンチャー企業によるイノベーションによって雇用の機会がつくられることが期待されます。

市場の健全性を高めるための制度を構築する

今のところ、市場経済に優る経済システムは存在していませんが、市場は決して完全な制度ではありません。したがって、それを補完するさまざまな制度を準備することによって、市場を有効かつ健全に機能させることが必要です。

市場の参加者である経営者には、「企業の社会的責任(CSR)」に基づき、高い倫理観に基づいた規律ある行動が求められています。しかし、厳しい市場競争の中では、市場のルールに違反して不当な利益を得ようと考える者が必ず現われます。

市場にはある意味で自浄作用があり、こうした不当な活動はいずれ消費者や株主などから厳しい批判を浴び、持続不可能になることは、数多くの事件が示しています。ただし、市場の自浄作用が働くには時間がかかり、その間に被害が拡大する恐れがあります。したがって、市場ルールや市場監視機能を確立するとともに、ルールに違反した場合の刑罰を強化することによって、不正行為の抑止効果を高めるべきです。後を絶たない談合事件などの例を見ても、経済犯罪に対する刑罰は十分な抑止力となっていないことを痛感します。

再挑戦を可能にする制度を構築する

次に、市場の活力を維持するために、再挑戦を可能にする制度を構築することが必要です。競争があれば勝者と敗者が生まれるのは必然であり、そこにある程度の格差が生じます。努力した者が報われることにより、ある程度の格差が生じたとしても、その格差が固定化してしまっては、逆に社会の活力は失われてしまいます。

再挑戦を可能にする起業支援の整備に関しては、公的機関による補助金や無担保融資などの方法ではなく、創業時に民間の資本金が集まりやすいエンジェル税制の導入が実現するよう働きかけていきます。

3.教育改革こそ新しい国づくりの根幹

わが国が、人口減少下において経済成長を成し遂げていくためには、国民一人ひとりの生産性の向上が必要であり、その核となるような人材を育成していかなければなりません。しかし、現在の教育システムは依然として一昔前に必要とされた人材を育成することが中心であり、社会をとりまく環境変化に対応できていません。国づくりの根幹は将来を担う人材を育成するための教育改革であり、わが国も早急に時代の要請に基づいた教育改革に取り組む必要があります。

活力ある経済社会を担う人材が備えるべきは、(1)倫理感、(2)基礎学力、(3)イノベーションに資する能力(創造的思考力、情熱など)、そして、(4)専門知識であると考えます。こうした観点から、初等中等教育のカリキュラムを再構築し、教育効果を検証できるような仕組みを導入するとともに、高等教育についても研究だけでなく、将来を担う人材育成という観点から教育を重視していくことが必要です。

さらに、社会がますます多様化していく中で、教育現場を教員だけに任せることには限界があります。我々経営者を含めて多様な大人が教育現場に出向き、就業観や社会の仕組みを直接教えていくことで、子供たちに将来の夢や目標を持たせることが可能になるのです。次の時代を担う若者を育てるために、実社会の経験豊富な我々経営者の果たすべき役割は大きなものがあります。

おわりに

こうした新しい国づくりをめざす上では、政治が明確なビジョンを示し、具体的政策を確実に実行していくことが何より重要です。小泉総理は今年9月に任期満了を迎えますが、自民党総裁選挙に際し、次の総裁候補者にはぜひ自らの政権公約(マニフェスト)を示していただき、重要政策課題についての具体的方針を国民の前に示していただきたいと考えています。また、民主党の代表選出に際しても、同様の政権公約が提示されることを期待します。

おわりに、本会の設立趣意書に書き綴られた「経済人として新生日本の構築に全力を捧げたい」という一節を紹介し、締めくくりの言葉とさせていただきます。この言葉は、60年という歳月を経た今日もなお、我々自身を突き動かす使命感と情熱を示す言葉でもあります。時を超えて共有されたこの思いを胸に、我々は自らの叡智と行動力を結集し、「次の60年」に向けた新たな歴史を刻んでいきたいと考えています。

以上


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