ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文(c)へ
グローバルナビゲーション(g)へ
ローカルナビ(l)へ
サイトのご利用案内(i)へ

ここからグローバルナビです。

グローバルメニューここまでです。

ここから本文です。

「新事業創造立国」
- 輝ける日本の構築をめざして -
2003年度(平成15年度)通常総会 北城恪太郎代表幹事 就任挨拶

社団法人 経済同友会
代表幹事 北城 恪太郎

1.はじめに

経済同友会の歴史を刻む、由緒ある日本工業倶楽部で、20年ぶりに通常総会が開催され、創立以来、経営者の政策集団として、わが国社会の発展と改革に貢献してきた経済同友会の代表幹事にご推挙いただくことは、身に余る光栄に存じます。と同時に、その責任の大きさに、身の引き締まる思いで一杯です。

終戦まもない1946年4月30日、83名の発起人によって設立総会を開いた経済同友会は、爾来57年、諸先輩方が、企業経営のあり方、日本経済の骨格について議論し、提言を行い、日本の戦後を形作ってきました。

『世界経済のなかの経営者』と題する年頭見解で、グローバル化する経済のなかでの厳しい競争への経営者の備えを訴え、その5年後に『構造改革断行の年』と題する年頭見解で、待ったなしの構造改革を訴えたのは、今から40年ほど前の木川田一隆代表幹事でした。1963年、そして1968年のことです。1981年には、佐々木直代表幹事が、『民間主導型社会の実現に向けて』との所見を、会員総会で発表されました。

その後、同友会を「開かれた、行動する政策集団」と再定義した石原俊代表幹事、「世界・市場・創造」をキーワードに、日本の再構築を訴えられた速水優代表幹事、『市場主義宣言』を高らかに謳った牛尾治朗代表幹事のもと、同友会は、現代の日本経済における重要な一角を占める経営者団体として、その地位を確固たるものとしました。

そして今から4年前の1999年、小林陽太郎代表幹事は、『市場主義宣言を超えて:4つのガバナンス確立を』と題した就任挨拶で、企業、社会、世界、個人の、「4つのガバナンス」の確立を長期的なビジョンとし、市場主義の貫徹と、改革の断行を当面の課題として訴えられました。小林代表幹事は、翌2000年12月、『21世紀宣言』を発表され、同友会設立時の危機意識を再認識し、4つのガバナンスの確立の先に「市場の進化」を捉えた、いわば第二の設立趣意書を発表されました。同友会に新しい歴史の1ページが刻み込まれたのです。

4年にわたる小林代表幹事の総決算が、この春にまとめられた、第15回の企業白書です。『市場の進化と社会的責任経営』と題されたこの白書では、企業の信頼構築と、持続的な価値創造に向けた同友会の英知が、集められています。経済性、社会性、人間性を含めた、総合的な企業価値を評価する手がかりとして、「企業評価基準」が提案されました。これは、経営者が自己評価とコミットメントを行うための、画期的な手段です。私は、生みの親である小林代表幹事から、いわば育ての親として、この評価基準と、その背景に流れる思想を受け継ぎ、大きく育んでいきたいと思います。
ここに改めて、小林代表幹事のリーダーシップに深く謝意と敬意をあらわしたいと存じます。

2.「新事業創造立国」をめざして

さて、代表幹事の重責をお受けするにあたり、このような輝かしい伝統を引き継ぐには、何をなすべきか。私は、21世紀初頭の同友会の焦点を、「新事業創造立国」の実現にあてたいと思います。既存企業も、新規企業も、その社会的責任を自覚した上で、国際競争力のある経営を実践し、業績を持続的に向上させる。この、あたりまえのことを、経営者がまず実行することが、日本を不況から脱出させ、さらには、再び輝ける日本を構築することにつながる、と確信するからです。

そのためには、既存企業は、将来性の見込めない分野から勇気を持って撤退し、新規事業分野に 経営資源を大胆に再配分し、事業を再構築する必要があります。その過程では、問題を先送りせず、いやなこと、つらいことでも、必要なことは迅速に実行する。そして、中国を始めとした新興工業国に十分に打ち勝てるような、差別化され、競争力のある製品を提供する。日本人の感性や完璧さを活かし、日本の強みが活かせる研究開発体制を確立する。また、競争力のある製品やサービスの開発に、人、物、金を集中して投下する。一言で言えば、既存企業における、第二、第三の創業を進めることが必要です。

この点に関連して、先日、興味深い話を伺いました。日本では、会社の年齢、つまり社齢が30年より若い企業では、新規採用者の数が退職者の数を上回り、雇用増加に貢献しています。ところが、社齢が30年を超えると、退職者の数が新規採用者の数を上回るのです。さらに、1990年代を通して、企業の廃業率が開業率を上回って推移して来ました。

その結果、日本経済は、企業競争力の低下に加えて、企業における「少子高齢化」の進行という問題を抱えることになりました。新規雇用の創出が進まず、事業の再構築に伴う雇用の流動化も進めにくい背景が、ここにあります。

もちろん、社齢の長い企業でも、絶えざる変革を続け、新規事業を開拓し、つねに「創業」を続けている例も、多く見られます。そのような企業は、社齢の若い企業同様に、未来へ向けて事業の展望を拓き、雇用創出に貢献しているのです。しかし、そのような、第二、第三の創業のためには、経営者がリーダーシップを持って、果敢に事業の再構築に取り組んでいかなければ、なりません。

さらに、新しい企業が続々と設立され、若い企業が発展していく社会を作ることが、ぜひとも必要です。バイオやハイテクに代表される先端産業分野で、新規企業が誕生するだけではありません。顧客ニーズに密着し、国民が豊かさを実感できる生活産業の分野においても、新しい企業の役割が期待されます。そして、社齢の若い企業が増える中で、多様な雇用の機会が、新たに提供されるのです。

私は、日本がこのような社会になって初めて、新事業創造立国として、グローバル経済のなかで、新しい競争優位を確立し、経済を活性化できると、確信しています。

3.日本の現状を、どう見るか

このような考えに至った私の現状認識を、ここで簡単に、ご紹介したいと思います。

我々は今、戦後の輝かしい経済的成功を帳消しにし、その余韻すら霧散しかねないほど未曾有の困難に、直面しています。日本経済は1992年以降、実に10年以上にわたって停滞を続けています。さらに1998年春に、消費者物価指数で見たインフレ率がマイナスとなり、以来、デフレ経済が続いています。工場の海外移転が続き、失業が増え、株価は低迷しています。地方経済の冷え込みは、特に厳しいものがあります。

1)企業経営の課題

このような日本経済の閉塞状況を、我々、経営者の視点から見てみると、一つの覆いがたい事実に思い至ります。それは、国際競争力で苦戦している日本企業が少なくない、という点です。OECDのデータにもとづく調査では、1999年のアメリカの労働生産性を100とした場合、日本の同じ年のそれは、69でした。日本の労働生産性は、アメリカの7割にも満たないのです。

しかも重要なことは、日本経済が、二極分化している点です。日本では、労働者の約10%が、自動車、電子機械、鉄鋼といった、国際競争力の高い製造業で雇用され、15%が、食品加工や繊維といった内需向け製造業で、75%が小売や建設を始めとした内需向けのサービスで雇用されています。国際競争力の高い製 造業での生産性指数が120なのに対して、残り90%の日本人の生産性指数は63となっています。つまり日本経済は、国際競争力がきわめて高い10%の労働者と、労働生産性が、その半分近くの90%の労働者とに分断されているというわけです。

個々の企業が、国際競争力を高める上で欠かせない視点が、2つあると思います。一つは経済のグローバル化、もう一つが、ITに代表される技術革新です。刻々と変わるグローバルな競争と分業のなかで、自社の競争力を見直す必要があります。また、技術革新が猛烈な速度で進行するなかで、自社の技術的優位性をどう維持し、最先端の技術を、どう経営に取り込んでいけるか、という問題もあります。

先日、日本国内で、1足90円で販売されているという中国製の運動靴を拝見しました。日本で靴を買って、100円玉でおつりがくるのです。しかも中国やアジア諸国の技術水準は、急速に上がっています。私の属するIT業界でも、この10年内で、高度な技術を必要とする製品が、安く、安定的にこれらの国で製造できるようになったため、日本での製造体制を本格的に見直さざるをえませんでした。大変な時代になったと痛感したものです。このようなグローバル競争の中で、日本は、もはや従来型の技術では、完全に「追い上げ」られる側に回ってしまいました。

それに加えて、IT革命です。技術の飛躍的な進歩が、第二の産業革命をもたらしました。90年代後半にITバブルがはじけ、一部では、IT革命は終わったという見方もあるようです。しかし身近で強く感じるのは、技術革新は依然として、深く、広く、進行している、という事実です。在庫水準が劇的に下がり、事務処理が自動化できるだけではありません。国際競争力のある企業の多くで、IT技術を活用して、研究開発、製造から、流通、販売、そしてアフターサービスまで、企業活動の効率化を実現し、コストの低下を実現しています。

アメリカを始めとする諸外国では、非効率的な企業は、事業の再構築により競争力を高めるか、そうでなければ市場から退出しました。そして、新規企業が市場に参入しています。日本では、多くの企業で、競争力の回復がまだ途上であり、企業の市場からの退出も進まず、さらには新規企業の参入も、細々としか起こっていません。残念ながら、今日の日本経済の抱えている問題の根幹の一つは、ここにあると思います。

2)政治の課題

このような企業経営の課題と並行して、政治の問題も、明らかになってきました。

小泉内閣は、2001年6月、『今後の経済財政運営、および経済社会の構造改革に関する基本方針』、いわゆる「骨太の方針」を閣議決定しました。そして、「構造改革なくして、真の景気回復、すなわち持続的成長なし」と決意を表明し、「おそれず、ひるまず、とらわれず」に、不良債権問題を解決し、7分野での構造改革を推進することを、宣言しました。

この困難な改革に、正面から取り組み始めた小泉内閣に、多くの国民は強い期待と支持で応えました。同友会でも、率先して支援していくことを表明しました。しかし、その後の構造改革の進捗は、はかばかしくありません。国家予算の45%を借り入れで賄い、公的債務残高が700兆円を超えるような巨額な財政赤字は、このまま放置すれば、いずれ破綻することになります。また、急速に進む少子・高齢化への対応、あるいは、年金、医療制度の抜本的改革の遅れなど、危機の解決を先延ばしする政治的状況は、今日の日本社会に、漠然とした将来不安をもたらしています。

小泉首相には、ぜひ、原点に戻って、構造改革の実現に邁進いただきたいと思います。我々同友会、そして国民の多くも、首相のリー ダーシップに、強い期待と声援を送っています。また、我々国民に、構造改革は、どこまで進んでいるのか、どんな困難に直面しているのか、どうすれば前に進むのか、について、率直に、かつ丁寧に、語りかけてもらえれば、とも思います。構造改革の推進に必要な、国民的な支援の広がりを、もう一度作っていかなければならないと考えるからです。

4.「新事業創造立国」に向けた、我々、同友会の決意

企業と政府が、自ら課題を抱え込んだまま、困難な解決を先送りし、立ちすくんでいる、ということは、言いかえれば、社会の閉塞感は、我々自身が作り出しているということでもあります。そうであれば、我々はまた、自分たちの手で、この流れを変えることができるはずです。

すでに、いくつかの先進的な企業では、大胆な事業の再構築を実践し、大きな成果をあげています。日本経済が、我々の日々の価値創造の集積であることを省みるに、大いに勇気づけられる事実です。

幸いにして日本の基礎体力は、依然として高いものがあります。資本と技術が蓄積され、社会インフラが整い、知識集約型経済の担い手となる、高い教育を受けた人材が、その活躍の場を待っています。また、洗練された一億の市場を国内に持ち、さらに中国を中心としたアジアは、巨大な市場、および生産拠点として、日本経済との一層の連携を実現する可能性に満ちています。

そこで、わが国が「新事業創造立国」として、改めて輝くために、我々21世紀の同友会が、創立以来の先輩諸氏と同じ志を高く掲げ、その着実な実行を目指すものであることを、あらためてここに決意し、表明したいと思います。そして、具体的に3つの柱を中心に、我々の活動を推進していきたいと考えます。

第一に、企業改革と、新たな創造です。企業がやるべきことを示し、実践する場を、同友会の中心的な活動の柱の一つとします。今後もしばらくは、デフレや低成長が続く可能性が高いこと、日本経済は、もはや、今までのような「追い上げ」型の経済に戻り得ないことを前提に、経営改革に乗り出し、新たな産業の創造と、企業経営の革新を議論、提起し、目に見える形で、実現していきたいと思います。

第二の柱が、構造改革の実現への、積極的な働きかけです。新産業や新事業の創出が、生活の質の向上をもたらすとともに、雇用や需要の拡大につながり、日本経済の活性化を実現するのは明らかです。その際、政府の課題は、新産業・新規事業の育成を可能とする環境整備と、衰退産業から成長産業へのシフトを加速化する政策の実現にあります。そのためには、規制によって守られた市場の開放、そして、経済的な規制はもとより、過剰な社会的規制の撤廃、わけても医療、教育、環境、エネルギーなど、需要創造や雇用拡大に寄与する分野の規制改革の実現をはじめとした、抜本的な規制撤廃が必要です。

併せて、新産業・新事業・新しいビジネスへの、円滑な民間資金の流れを確保するための制度作りも必要です。個人がリスクに挑戦できる金融資本市場の整備を始めとした、金融システム改革、資本市場改革を、確実に進める必要があります。

もちろん、遅々としてしか進まない構造改革を見るにつけても、これまでのような努力に加えた、新たな取り組み方の必要性を強く感じるものです。この点で、規制改革特区構想には、大いに期待しています。

そして第三に、企業の経営改革や日本の構造改革の先にある、日本社会の姿について、より明瞭な形であらわし、広く国民と共有したいと考えます。このような目標と、その実現への道筋への、幅広い社会的な合意なくしては、我々の提言も、支持されるも のとはなりません。また、短期的・中期的な改革を積み上げていくための社会的な要請も、起こらないでしょう。10年後の日本の姿、長期的なビジョンを共有して初めて、国民的な改革のうねりを広げ、具体的な行動への支持が広げられると思います。

5.おわりに

焦土にひとしい荒廃の中から日本を復興すべく、我々の先輩諸氏は、57年前、ここ工業倶楽部に集い、同友会を設立しました。その設立趣意書は、「今こそ同志相引いて互いに鞭ち、脳漿をしぼって、我が国経済の再建に総力を傾注」するという、熱い決意に貫かれています。

57年後の我々もまた、別の意味での日本の困難に直面しています。同友会に脈々と伝わる、「日本の構築に全力を捧げる経済人」としての精神を、ここであらためて確認し、実践に向けて邁進する決意を、表明しようではありませんか。

一人一人が、個性を発揮し、多様性を認め合い、自己実現ができる社会。リスクをとって、新しいことに挑戦することを積極的に支持できる社会。自立した個人が、率先して新事業を創造できる社会。私は、このような社会の実現を通して、日本が再び活気あふれ、輝きに満ちた社会になれるのだと思います。そして、その実現は、我々、一人一人の手にかかっているのです。

そのためには、我々同友会の活動も、さらに一層、活発に展開していくことが必要です。提言や意見を発表するだけではなく、改革の実現に向けた具体的な行動に裏打ちされたものにしたいと思います。そのため、政治、行政との意見交換の充実をはじめとした、政策形成現場への直接的働きかけや、NPO・NGOなどとの連携を行い、改革実現に向けて、積極的に行動していきたいと思います。

輝ける日本の構築は、我々の手にかかっているのです。会員各位のご協力と積極的なご参加をお願いして、私の挨拶といたします。

以上


ローカルナビここまでです。

ここからサイトのご利用案内です。

スマートフォン版サイトに戻る

サイトのご利用案内ここまでです。