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今年こそ明るい展望を
- 信頼の回復とガバナンスの確立 -
2002年度(平成14年度)通常総会 小林陽太郎代表幹事所見

目次

はじめに — 小泉内閣の一年

  1. 企業のガバナンスの確立 — 経営者の自覚と実践
  2. 国家のガバナンスの確立 — 政治改革の推進
  3. 当面の経済政策課題 — 経営者の前向きな行動とそれを促す税制改革と規制改革
  4. 経済同友会の挑戦

おわりに ― 改めて個人のガバナンスの確立を

21世紀の新しい国づくりの大切さと、それに全面的に参加する企業人の決意と志を標榜した『21世紀宣言』を、経済同友会が世に問うてから、早くも一年半が経ちました。そして、その新しい国づくりに「聖域なき構造改革」と「改革なくして成長なし」を基本理念に掲げ、わが国のみならず、世界の大きな期待の下に誕生した小泉純一郎内閣の一年目が終ろうとしています。

この一年間を振り返って、わが国が直面する課題とともに、新しい年度を迎えて、経済同友会がめざす活動について、所信を述べたいと思います。

はじめに — 小泉内閣の一年

この一年は具体的にいかに推移したでしょうか。結論から言えば、目に見える成果、結果という面では、政治、経済、あるいは行政ともに明るい話題が乏しい、多くの苦さを残した一年でありました。最近、ようやく企業業績の先行きに上向きの傾向が見え始めたものの、失業、倒産などは高水準で推移し、不良債権問題と銀行など金融機関の経営体質強化の問題も、いわゆる三月危機は何とか乗り越えたとはいえ、未だに完全に処理し終えたとの印象はありません。

それに加えて、食品業界における産地偽装事件や、銀行統合におけるシステム障害など、企業の信頼を損なう事態が続出し、何とか明るさが見えつつある景気に水を差しているという現実を、企業人として厳粛に受け止めねばなりません。また、政治における金銭問題、秘書問題など、数々の不祥事の露呈を見ると、政治風土や仕組みが55年体制から全く変わっていないことに驚きます。政治の仕組みの抜本的改革が、国民の政治に対する信頼回復に不可欠であると同時に、我々国民一人ひとりの政治家を選ぶ責任を痛感せざるをえません。

他方、小泉政権のプラスの成果に目を移しますと、小泉政権で目立つ成果は、国民に開かれた透明な議論を展開し、内閣のリーダーシップを発揮する、という政策決定の手法にあったと思います。その結果、特殊法人改革、郵政三事業、健康保険制度改革、政と官の関係の見直しなど、これまで手をつけることができなかった幾つかの分野において、既存の枠組みを変える提案が行われました。とりわけ、経済財政諮問会議の果たした役割は、非常に大きなものがあったと考えます。2002年度予算編成の基本方針の策定をはじめ、所謂『骨太の方針』や、『構造改革と経済財政の中期展望について』は、ともに閣議決定され、『改革工程表』とあわせて、構造改革の実現に向けた基本的枠組みとして位置付けられています。

また、9月11日の同時多発テロ後の「世界の反テロ同盟」への積極的参加、特措法の制定、それによる自衛隊艦艇のインド洋派遣、そして直近の有事法制などは、いわゆる「普通の国」に向けて一歩を踏み出したという点で評価されるべきと考えます。もっとも、これらは全て今後も極めて慎重かつ念入りに、わが国のあり方を憲法との関係、世界情勢の変化との関係において吟味し続ける必要があることは言うまでもありません。

目に見える経済的成果が不十分であるとか、プロセス面でも強い抵抗に合って、改革が徹底し切れず国民の失望を生んでいるといった見方もあります。しかし、改革が目に見える成果を生むまでには時間がかかります。構造改革とはプロセス改革ですから、これは止むをえません。小泉内閣が、これまで取り組まれなかった政策課題に挑戦し、少なからぬ変化をもたらしつつある点は、改革の第一歩として評価すべきだと思います。その上で、我々は、本年度、実効ある改革の実現に政権の真価をかけた小泉総理のより効果的なリーダーシップに期待し、これまで通り強い支持と協力を惜しまぬ姿勢を持ちつづけたいと思います。

ただ、ここで敢えて総理に申し上げるならば、一つ目に、何を目指すか、何故かなど、改革によって実現しようとする具体的な将来像をご自身の言葉でもう少し多めに語っていただきたい。二つ目に、その言葉を国民や企業の可能性と活力に直接訴えかける形で語っていただくことも必要です。そして三つ目に、壊すことは一人でも出来ますが、創ることは一人では出来ません。小泉内閣のチームワークをもっと見せていただきたいと思います。

1.企業のガバナンスの確立 — 経営者の自覚と実践

このような一年を振り返って、まず強く申し上げたいのは、企業に対する信頼の回復であります。わが国が、明るい未来を切り拓くために、痛みを伴う改革に取り組まなければならない時に、その先頭に立つべき企業・政治・行政に対する信頼がなければ、改革に対する国民の共感を得ることは到底できません。企業不祥事が多発するようでは、我々は小泉改革を支持するどころか、足を引っ張ることになりかねません。我々は、もう一度自らの足元を見つめ直し、信頼の回復に取り組むことが当面の最大かつ基本的な課題です。

折から、米国でのエンロン事件により、企業のガバナンス、企業会計、会計事務所と会計監査のあり方など、米国型市場主義に対する信頼が揺らいでいます。この事件に対して、我々は単に米国型の仕組みの不具合を批判するだけではなく、エンロン問題を、企業と社会のガバナンスの問題として認識し、より良い仕組みの再構築に向けて、直ちに具体的な制度改革に取り組む米国の姿勢にこそ、学ばなければならないと思います。

我々は、一昨年の末に『21世紀宣言』をまとめ、発表いたしました。『21世紀宣言』の冒頭「我々の決意」において以下のように謳っております。

「企業が人々の価値観や生き方にますます大きな影響を持つ社会的存在であることを改めて認識し、企業と社会との相互信頼をより確かなものにしていく必要がある。」

我々は、このように決意を表明した上で、経済性とともに人間性と社会性を合わせて実現する「市場の進化」や企業のガバナンスの再構築を訴えて参りました。今改めて、この『21世紀宣言』の主旨を、経営者の責任として実践しなければなりません。

具体的には、以下の3点を中心とした企業のガバナンスの再構築が急務であると考えます。

第1に、取締役会の監督機能の強化であります。商法改正により、企業には、大きく二つの選択肢が用意されます。それぞれの企業に適したガバナンスの仕組みを早急に整備し、強化する必要があります。

第2に、企業倫理とコンプライアンス意識を高める仕組みの構築を、経営者の責任として自覚する必要があります。「現場が組織的に隠したら取締役会でチェックすることは不可能である」との言い訳は経営者としての責任の放棄であります。そのためにも、経営者は適格者を任にあてるとともに、自ら現場に足を運び、自分の目で執行を確認することも必要でありましょう。

第3に、透明性の向上であります。企業は、投資家のみならず消費者をはじめとする様々なステークホルダーズに対して、情報を開示し、コミュニケーションを十分に図っていく責任があります。

以上申し上げた企業のガバナンスの再構築は、システムの問題であると同時に、我々経営者自身の意志と行動の問題であります。経営者個人のガバナンスの確立なしには、如何に精緻な仕組みやシステムも骨抜きになってしまうであろうことは言をまちません。

2.国家のガバナンスの確立 — 政治改革の推進

次は、政治に対する信頼の回復であります。三権分立の徹底と透明性の向上を鍵に、具体的な改革として、次の3点を直ちに進める必要があります。

第1に、民主主義の原点に戻る必要があります。総選挙によって多数を得た政党が政権を担い、有権者はその成果を次の総選挙で評価し、引き続き同じ政党に政権を委ねるのか、他党に任せるのかを決定する、という民主主義の基本原理を確認することが重要です。その実現のためには、衆議院議員選挙における一票の格差の是正とともに、思い切って単純小選挙区制の導入を検討課題とすべきです。

第2に、政治における情報公開の促進であります。IT革命の進展により情報公開には多様かつ簡便な方法が用意されています。政治に関する情報公開のあり方について、政治資金の公開方法を含めて、早急に法整備される必要があります。その際、米国のロビーイング制度に習い、行政府や政治家・政党に対する政策要望を、陳情を含めて全て公開することを検討する必要があると思います。民主主義とは、政策要望を調整するメカニズムです。政策要望そのものを制限することは民主主義の機能を弱めることにもなりかねません。政治資金と政策要望の両者を公開することで、その評価を市民に委ねることが適当だと考えます。

第3に、内閣と与党の関係も抜本的に改革し、二元政治を早急に解消する必要があります。そのためには、少なくとも与党の政策調査会長など政策責任者が政策調整大臣に就任するなど、与党の幹部が閣僚を兼ねる仕組みに直ちに移行すべきであります。

経済同友会では、このような観点から、政治委員会を中心に議論を進め、政治改革の課題について、早急に意見を発表したいと思います。

また、ここではあえて政治家のモラルについては触れませんでしたが、政治の仕組みについての改革も、政治家の個人のガバナンス抜きに語ることができないことは経営者の場合と同じ、いや国民の選良として国事にあたる政治家の「個人のガバナンス」は、誰にもまして磨き抜かれたものでなくてはなりません。

3.当面の経済政策課題 — 経営者の前向きな行動とそれを促す税制改革と規制改革

次に、当面の経済問題について申し上げます。今まさに経済は正念場にあります。回復感が著しいといわれる米国経済も、本年後半以降の見通しはまだまだ不透明でありますが、わが国の企業業績に明るさが見え、景気に循環的底入れ感が出始めた今日こそ、民間主導型の経済活性化を実現するために、企業経営者は、需要創造や技術・研究開発をはじめとして、前向きに積極的な企業経営を展開し、明るい展望を開いていくことが求められています。企業の成長がない限り、景気の本格的回復はありません。経営者の積極的な経営を促し、経済活性化を実現する鍵は、税制改革と規制改革の推進であり、そして金融機関の健全経営と国際競争力の回復です。

税制については、個人と企業という民間の活力を引き出す施策が必要です。税制改革は、歳出の徹底的な削減と効率化が前提となります。経済活性化に向けた減税の財源はまずは歳出削減に求め、狭い意味での税収中立にこだわるべきではありません。税制を梃子に経済活性化を図ることが、自律的な経済回復につながり、長期的には安定的な税収増につながると思います。そして、法人課税においては、税制のグローバルな競争力を維持するとともに、新規事業や投資促進に資する税制として整備する必要があります。また、個人所得課税については、個人の「自助・自立」を促す税制への転換といった観点が重要だと思います。我々は、昨年の「小泉内閣への提言シリーズ」をはじめ、これまで多くの税制提言を行なって参りました。これまでの提言を再構成し、今まさに行なうべき税制改正の具体的課題と方向性を早急に発表したいと考えております。

規制改革については、総合規制改革会議が重要な任務を果たしています。新事業の創出、官製市場での事業活性化、ビジネス・生活インフラ整備など、分野横断的な経済活性化のための規制改革とともに、規制改革特区の創設が検討されています。特に、規制改革特区の構想は、規制改革の突破口としての成果が期待されています。経済同友会としても、これらの活動を全面的に支持し、協力したいと思います。

健全な金融システムの存在は、いかなる経済にとっても不可欠です。不良債権問題を含め、わが国金融機関の経営健全性や国際競争力強化については、一日も早く国内外の不安感に終止符を打つ必要があります。当事者、関係者の一段の努力に期待したいと思います。

4.経済同友会の挑戦

さて、経済同友会のこの一年と、これから一年の活動について述べさせていただきます。まず、経済同友会の存在意義については、経営者が個人として参画し、個別産業や企業の利害を超えて議論し、国民経済的視点から意見を述べていく、という我々経済同友会の役割はますます重要になると思います。経済界の良心として、その役割に対する社会の期待も大きなものがあります。問題は、我々経営者に、そうした志や気概があるのかどうか、経済同友会は社会の期待に応える力があるのかどうか、ということであります。

そのための活動の活性化に向けた組織や運営面については、組織活性化委員会を通じて、積極的かつ意欲的な検討が行なわれたと自負しております。幹事会のあり方も時間帯を含めて新しい試みを行ない、出席者数も増えるとともに、活発な意見交換が行なわれるなど、活性化の成果はあったと考えます。また、先程ご承認をいただきましたように、定款の変更による幹事の民法上の理事就任、副代表幹事の定数増加は、事業計画で示しました委員会編成の工夫とも相俟って、活発で開かれた運営のためのインフラ整備であります。これらに基づき、本年度も、昨年度に引き続き、新しい国づくり、新しい企業モデル、企業と政治の関係、企業ガバナンスなどの主要課題について、筋の通った、主張がよりわかりやすい、骨太のメッセージとして取りまとめ、効果的な対外発信活動を展開する所存であります。

特に今年度は、『21世紀宣言』で提唱をしました「市場の進化」というコンセプトの集大成を行ないます。わが国経済と企業がグローバルな競争に伍していくためには市場機能の強化が不可欠ですが、それをより良い日本の国づくりと社会からの信頼回復につなげるためにも、経済性のみならず社会性と人間性を含めた総合的な企業価値が評価されるような市場の構築が必要です。それには、企業と経営者は単に社会の変化を受動的に受け止めるのではなく、自らの信念を市場に問いかけ、働きかけていくという、イニシアティブを発揮することが極めて重要な役割になることを意味します。

さらに、本年度も続けて、財政再建プログラム、国と地方の関係の抜本的改革などの課題に取り組みます。全国の経済同友会の共同プロジェクトである「全国経済同友会地方行財政改革推進会議」では、本年中に結論をまとめる予定です。

今後も、経済同友会が、経営者の政策提言集団として、積極的な役割を担うべく、会員各位の積極的なご参加とご協力をお願いいたします。

おわりに — 改めて個人のガバナンスの確立を

我々は、『21世紀宣言』の中で、以下のような決意を表明いたしました。

「今こそ、社会各層のリーダーは、改革の必要性と改革がもたらす新しい可能性について国民的共感を得て、新しいエネルギーを生み出す必要がある。そのために、我々は、この大いなる挑戦に向けた高い志と強い意志、そして創造的破壊をも辞さぬ勇気を持ち、自ら率先して改革に取り組まねばならない。」

繰り返し申し上げたように、企業と国家のガバナンスを確固たるものにするため、その基盤として最も重要なのは、個人のガバナンスの確立であり、信頼であります。企業も、国家も、ガバナンスを強化する仕組みを整備したとしても、それらを活かす個人の意志がなければ、実効あるガバナンスを確立することはできません。企業のガバナンスを確立するためには、経営者が個人として高い志と倫理観を持ち、企業経営を担う必要があります。また、国家のガバナンスにとっては、政治家や官僚が高い使命感と倫理観を持って職務に取り組む必要があります。そして、我々一人ひとりが国民の立場に立った時、消費者として、従業員として、有権者として、また社会を構成する一人の人間として、パブリック・マインドを持ち、行動することで、はじめて社会のガバナンスが確立されることになります。我々は、パブリック・マインドを強く意識した経営者の集団である経済同友会の会員として、このことを絶えずお互いに問いかけ合いながら行動して参りたいと思います。

以上


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