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今こそ信念を持って自らの経営を
-2000年度(平成12年度)通常総会 小林陽太郎代表幹事 所見-

社団法人 経済同友会
代表幹事 小林 陽太郎

はじめに

代表幹事就任からの1年間を振り返り、また本日から始まる今年度を展望してみると、21世紀の始まりという大きな時代の節目にあたり、わが国と我々日本人が将来の日本を考える上で、厳しい選択に迫られていると実感する。
その選択肢や、それを裏付ける政策実施のあり方について、現在、一方で学者を中心にした理論的立場からの見解があり、他方で、その何十倍ものジャーナリズムの立場からの見解がある。これらは往々にして対極的な見解になりがちであり、"理論対世論"と言い換えてもいい。

しかし多くの場合、政治であれ、行政であれ、企業経営であれ、実際の選択は、現実(リアリズム)の世界を対象としたものである。それは、単純に白黒をつけたり、一方の極論に偏した二者択一的"Trade-Off" ではなく、一見対立するように見える考え方や政策を組み合わせたり、バランスさせたりする、いわば "Trade-On" の選択である。これは決して容易なことではなく、問題の本質を見極め、その上で自らの理想の実現に向かって努力していく真摯な姿勢に基づく選択である。

言うまでもなく、我々経営者の第一の仕事は、その現実の世界で経営の実をあげることである。しかし同時に、市民として、選挙権を持つ者として、国や地域の政策形成や評価にも責任ある声を発しなければならない。今日のように将来の国家・国民の命運が、政策の選択によって大きく左右されようとしている時期においては尚更であり、特に経営に関連するマクロの財政・金融や福祉、労働などの分野についての発言の責任は重い。
また我々が社会に発言する場合、その視点はあくまでも現実世界での正否、メリット・デメリット、さらには時間軸を踏まえたものでなければならない。「景気優先か財政再建か」、「地方分権・地域主権か中央集権維持か」、あるいは我々経営者が直面する「短期と長期のバランス」や「雇用維持か収益性確保か」といった難しい命題についても、単純な二者択一図式に堕することなく、上記 "Trade-On" の考え方を念頭に置く必要がある。

内外には様々な重要課題が山積しているが、本日は、以上を意識しつつ、特に3点に絞って所信を申し上げたい。

1.経済政策”正常化”に向けて

(第1は、政府の経済政策についてである。)

経済の現状については、昨年度を通して、ある程度のプラス成長が確保できたという予測が支配的である。足元を見ても、企業の生産活動、設備投資は上昇を続けており、日本経済の体力は、自らの”足”、すなわち民間需要によって立ち上がれるまでに回復してきたと考えられる。
こうした環境の下で、ここ数年の深刻な経済状況を何としても回復軌道に乗せるために採用されてきた巨額の財政支出やゼロ金利政策などの緊急事態対応の処方箋を転換し、経済政策”正常化”へのシフトを決断する時期は近づきつつある。
既に景気対策のための補正予算の必要性はないものと判断できるが、さらに一歩踏み込んで、財政健全化に向けた抜本的取組みについても、先の財政構造改革法の問題点を明確にしつつ、将来のシナリオを明示した上で、財政構造改革をどのように進めるか歳出・歳入両面から検討し、国民が真剣に議論し、選択すべき時にある。このように厳しくとも将来の姿を明らかにすることは、個人消費回復の妨げとなっている国民の将来不安の解消にもつながる。

また、今年は衆議院総選挙の年である。財政再建といい、高齢化・少子化・人口減という不可避の将来を前提とした年金制度の改革といい、受益の削減と負担の増加、自己責任の明確化といった”厳しさ”をも含めた「あるべき姿」の全体像がきちんと示され、総選挙における政党間の争点にならねばならない。

そして、こうした問題が政党間で真剣に論じられ、選挙の争点として国民に議論されるためには、われわれ企業経営者を含めた有権者が、それを正面から受けとめる姿勢を持たねばならない。選ぶ側である我々自身の責任ある態度・選択が合わせて問われていることを忘れないようにしたい。

2.市場に信念を問いかける経営

(第2は、企業と経営者についてである。)

情報技術革命、ネットワーク革命が進展する中で、わが国においても、若くエネルギーに溢れたベンチャー企業家、ドットコムあるいはE-ビジネス企業が続々と誕生している。日本経済の閉塞感を打破するような彼らのチャレンジに対する期待は大きい。もちろん、これらの全てが成功するわけではないし、バブルとして一時の話題提供に終わるところもあろう。
今、市場に期待されるのは、こうした動きの中から、将来に向かって大きくなる太い幹を見極め、育てていくことである。現在の胎動を、単に情報処理とコミュニケーション・ツールの革新に終わらせるのではなく、ビジネス・モデル全体の革新、さらには、歴史的な意味で人類の幸福を一段、飛躍させるものにまで導くことが期待されている。

一方で、資本市場が時価極大化至上主義や株主利益極大化に偏する様相も見える。資本市場は時にオーバーシュートする。資本市場自体のIT化、インターネット化の進展が、そうした行き過ぎを増幅させる面もある。
そうした中では、企業の将来の競争力や新しい事業創出に必要な基礎的研究開発などの中長期的取り組みが、結果的に軽視されるのではないかとの懸念がある。また、将来の雇用創出に結びつくような企業・産業の構造改革が、短期指向の資本市場からは正当な評価が得られず、結果的にその勇気をくじかれることも考えられる。

我々経営者は、資本市場が重視する短期的視点と、他方、長期的視点にたったステークホールダーズの利益のバランスの問題に、どう対処すべきであろうか。

そこで重要なことは、市場の評価を受身に捉えるのではなく、主体的に市場に向き合う姿勢である。個々の企業そして経営者が、自社における、収益性・社会性・時代性の最適なバランスのあり方を考え抜き、「これが、わが社と自分の考えるベスト・バランスである」と、堂々と市場に問い、世に訴えかける勇気がますます大切になってきたと考える。
経営者は、市場の評価に振り回されるのではなく、自らの信念を持ち、確固たるコーポレート・ガバナンスをバックに、やるべきことを愚直に、かつ着実に進め、その成果と積極的IR活動をもって、自分の思い・志を堂々と訴え、日本のみならず世界の市場の理解と信任を獲得することが求められている。
バランスのとり方や訴え方が企業や経営者によって違ってくるのは当然である。むしろ今日のような変化と激動の時代であればこそ、我々経営者は、勇気と信念と個性をもって自らの企業のあり方について、市場と社会の評価と判断に対して主体的に立ち向かわねばならない。また、それこそ、市場が期待する本来の経営者の姿勢であろう。

3.本年度の経済同友会:「21世紀宣言」に向けて

(最後に、本年度の経済同友会の運営について述べる。)

経済同友会は終戦直後にスタートし、50余年の時を経て、本年度は新世紀の幕開けという大きな節目を迎える。同友会が新しい時代性の中で、本来の使命をどう再認識して、同友会らしさを発揮していくかを再考する絶好の時期である。
そこで、設立当時の志を大切にしつつ、将来を見つめ、時代性を踏まえた経済同友会の新しいミッション・ステートメントを「21世紀宣言」として来年の年頭に発表したいと考える。 諸先輩がつくられた同友会の設立趣意書は、香り高いすばらしい文章で綴られている。新しい国づくりにかけた当時の溢れるばかりの意気込みは今なお息づいている。しかし、改めて社会の中における企業のあり方の問題、あるいは企業のリーダー、経営者のあり方について、新しい時代のテストに耐え得るような内容と表現の「宣言」を世に問いたい。
これが自ずから、一部に唱えられている経済団体の再編論に対する我々の答えにもつながっていくものと思う。

そのために、昨年から議論を続けている「経済社会思想を考える委員会」の提言を思想的バックボーンとして、この「21世紀宣言」の裏付けとなる、同友会の考える”21世紀の日本と企業経営のビジョン”を、今年の終りまでに明確にしたい。
21世紀に向かって直面する課題のうち、教育、環境、社会保障、国際金融環境、あるいは新しい企業経営モデル等については、昨年度以来の各委員会で、引き続き新しい視点からの検討を進めていく。
加えて本年度は、まさに今日的課題を意識して、既にスタートしている「E-エコノミー委員会」、そして「新技術戦略委員会」を新たに設けた。ここで、E-ビジネスの展開や新技術戦略を、わが国やわが国全体のグローバルな競争力や、わが国市場の魅力を増すためにどう結びつけるかといった課題、更にはこうした新しいビジネス分野やIT、バイオ、DNAといった新技術が、人間と社会のかかわり方にどのようなインパクトを与えるか等も、併せて考えていきたい。

こうした活動を中心に、今後も、同友会らしい幅広く深い問題意識を持って諸問題を取り上げ、本質を見失うことなく、同友会ならではの先進性とシャープさをもって、対外的にきちんと発信していきたい。
その際、本会の設立時の精神である”若さ”や”新しい時代性”が外部からも明確に見えるよう、若手会員の皆さん、新しい業種の会員の皆さん、もちろん女性や外国人の会員の皆さんにも、従来以上に活躍していただける運営を目指したい。

今年度は新世紀への最終準備の年というだけでなく、経済同友会にとって新しいスタートの年であると認識している。代表幹事として、同友会が世の中の期待に応えることができるように、本年度も、会員の皆さんの協力を得て努力していく所存である。

以上


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