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1999年度小林陽太郎代表幹事就任挨拶
「市場主義宣言」を超えて-四つのガバナンス確立を-

社団法人 経済同友会
代表幹事 小林 陽太郎

はじめに
I.市場主義宣言を超えて - 四つのガバナンス理念の探求
II.当面の課題 - 市場主義の貫徹と改革の断行
III.「変化を起こし、創造する」経済同友会をめざして
おわりに

はじめに

半世紀を超えて、多くの諸先輩がその志を注いでこられた伝統ある経済同友会の代表幹事にご推挙いただくことは、まことに光栄であります。同時に、昨今のわが国をめぐる諸情勢を考えた時、その責任の大きさにあらためて身の引き締まる思いで一杯であります。

近年の経済同友会は3人のリーダーの下で積極的な活動を展開し、大きな役割を果たしてきました。すなわち、現在の「開かれた行動する政策集団」としての経済同友会の基盤を確立された石原代表幹事、わが国の新しい時代は「世界」「市場」「創造」という三つの座標軸の上に創られるべきことを明確に方向づけされた速水代表幹事、そして就任に際して「21世紀へのアクション・プログラム」の策定を目標に掲げ、それを「市場主義宣言」として打ち立てられた牛尾代表幹事であります。とりわけこの4年間、わが国が極めて厳しい経済情勢に直面し混乱と混迷を深める中で、民間の力を確信し、民間主導型経済社会を目指すという一貫した姿勢で、明るいリーダーシップを発揮してこられた牛尾代表幹事の鋭い感性と行動力には多くを教えられました。ここに、あらためて深く謝意と敬意をあらわしたいと存じます。

本日は、代表幹事の重責をお受けするに当たり、経済同友会が取り組まねばならない課題や、運営についての私の考えを申し述べ、会員各位のご理解とこれからのご協力をお願いしたいと存じます。

I.市場主義宣言を超えて――四つのガバナンス理念の探求

まず最初に、21世紀を目前にした大きな節目にある現在、同友会が取り組まねばならない最も重要な課題と私が考えることから申し上げたいと思います。それは、来るべき新世紀、すなわち次代の日本のバックボーンとなる理念の探求であります。私はこの作業を「市場主義宣言を超えて」と位置づけ、私が取り組む第一の課題に掲げたいと考えます。

内外の歴史的地殻変動と何といっても長い経済不況の中で、わが国はいまだに混乱と混迷から抜け出せずにおり、拭い切れぬ自信喪失感が広く日本に漂っています。同友会は一昨年「市場主義宣言」を世に問い、それを日本経済再生のテコとすることを訴え、推進してきました。この仕事はまだ終わっていません。したがって、当面の課題が市場主義宣言の貫徹とその実践にあることは言うまでもありません。それなのになぜ「市場主義宣言を超えて」なのでしょうか。これには2つの理由があります。

一つには、市場主義の貫徹は当面の、しかも重要な課題ではありますが、最終ゴールではないと考えるからであります。われわれの最終ゴールは市場主義の先にあり、それが何かを探求する中で、市場主義ですべてが割り切れるのか、市場主義だけで新しい時代の日本を築けるのか、といった問いかけに対するわれわれの答えを見つけ出さなければなりません。すなわち、十年、二十年先を視野に入れ、いかなる日本を築いたら良いのか、日本の持つ豊かなポテンシャルを大きく開花させるにはどうすべきなのか、その新しい日本を支えるアイデンティティー・哲学・理念・価値を深く考えて整理・確立することが、今こそ必要だと考えるからです。

そして二つ目に、こうした作業こそ、自由かつ高い視点に立って行動する同友会に期待される役割であると考えるからです。終戦直後の「修正資本主義」、高度成長期の「企業の社会的責任」等、同友会はそれぞれの時代のリーダーの行動に大きな影響を与えてきました。今のそれは「市場主義宣言」です。そして、それは生きています。だからこそ、今、それを超え、その先を探求する仕事に同友会が取り組まねばならないと考えるのです。

では、そこで考えるべき問題は何か。私は、とりわけ「四つのガバナンス」の問題を挙げたいと思います。ここで私の言うガバナンスとは、「それぞれの世界における秩序とダイナミズムを自律的におさめる仕組みと哲学」を指します。

その問題の第一は、企業のガバナンス、すなわちコーポレート・ガバナンスであります。企業は、ますます市場から厳しく評価されるようになっています。企業が社会の重要な構成員である以上、社会の信頼と、社会から求められる様々なニーズに応えることなしにはそのダイナミズムを長期にわたって維持することはできません。その意味でも、企業の「市場性」と「社会性」をその時々の「時代性」の中でより高い次元で調和させることが重要であり、そのための企業とステークホルダーズとの関係、またステークホルダーズ間の秩序についての理論的枠組みが求められています。これは、市場主義を超えた新しい時代における日本の企業経営を創り出していくための前提となるものであります。

第二は、社会のガバナンスです。かつての成長を支えた政・官・業の「鉄の三角形」に代わって、「市民が主役の社会」をどう創るのかが、社会のガバナンスの課題だと思います。市民は主権者であり、行政サービスの受け手であり、企業人であり、消費者であり、コミュニティーをつくる市民でもあります。最早、市民の積極的かつ広範な参画を抜きにした社会の運営は考えられません。これからは、政・官・業の関係をオープンで緊張感のある関係に再構築するとともに、それに市民を加えた「四角形」によって社会を運営していく仕組みを創り上げていく必要があると考えます。特に企業は、新しい仕組みにおける政・官・市民との関係について自らの立場とその基本となる理念を鮮明にし、次の時代における企業の社会に対する責任のあり方を明確にしなければなりません。

第三は、世界のガバナンスの問題です。世界の政治と経済を日米欧の三極で仕切っていた時代は終わりつつあります。アメリカの一国超大国現象もこのまま続くとは考えられません。そうした中での今後の日本の位置づけを考える時、日米中の関係を含めた日本とアジアとの関係をどう再定義していくか、それを踏まえた日米関係・日欧関係を、そしてこれからの日米欧三極関係をどう再考していくかが重要な課題であります。こうした世界のガバナンスの中で、日本はどのような役割を果たしていくのかについて、総合安全保障の問題も含め、次代における日本外交の座標軸を明確にしていきたいと考えます。

最後の第四は、個人のガバナンスです。これは、人の問題、教育の問題であります。同友会は早くから教育を重要な活動の対象と位置づけ、数々の注目される提言を世に送り出してきました。個性的であることや、一人ひとりの生きる力、問題探求能力を育むとともに、日本語のみならず外国語によるコミュニケーション能力を高める教育の重要性は言うまでもありません。そして、パブリックマインドとか、有徳・品格といった価値観が当然のものとして根付いた社会を取り戻すための教育はいかにあるべきでしょうか。教育はまさに日本人一人ひとりの心のガバナンスの問題として考えていかねばならないと思います。

以上、同友会が市場主義宣言を超えて、その次の日本の姿を求めていくための「四つのガバナンス」について申し上げました。われわれを取り巻く環境はますます複雑化、グローバル化しており、曖昧さを安易に切り捨てたり、問題を深く掘り下げることのないまま、一つの解答を断定し、その一つの解答に固執することは危険です。企業経営のあり方一つをとっても、われわれは単純な二者択一の世界から、多様な価値の並立や、パラドックスをも呑み込む世界に踏み出さなければならないのです。非西欧の先導役として、日本が二元論に縛られない新たな道を切り拓くことが、市場主義宣言を超えた最終ゴールに向けて求められています。

私は、この課題を新設した「経済社会思想を考える委員会」を中心に会員各位とともに深く掘り下げて考え、探求していきたいと思います。そして、われわれの解答を21世紀の幕開けを待たずに提示することを目標にしたいと考えております。

II.当面の課題――市場主義の貫徹と改革の断行

次に、同友会が当面全力をあげて取り組まねばならない課題について申し上げます。それは市場主義の貫徹であり、改革の断行であります。

この10年、わが国は経済のグローバル化や成熟化、高齢化、少子化、情報化などの社会変化に対応すべく、経済構造改革、政治・行政改革、そして教育改革などの諸改革を進めてきました。これらの改革は、好ましい方向に動き出したとはいえ、その成果はまだまだであります。一方、世界は、構造改革を軸とした日本経済の回復こそが、世界経済、とりわけアジア経済の回復にとって最も重要な課題であるとのメッセージを送り続けています。

こうした中で同友会は、先にも申し上げましたように1997年には「市場主義宣言」を発表し、小さな政府と活力ある民間主導型社会を構築するためのアクション・プログラムを提示し、この宣言を基軸とする活動を展開してきました。同友会にとっての当面の課題は、この貫徹と改革の断行であります。21世紀までに残された2年間で、具体的制度改革を実現するとともに、さらに時間のかかる問題については、その道筋を明確にしなければなりません。幸い、様々な問題を内包してはいますが、未曾有の財政出動による経済対策、金融システム安定化策の実施によって、景気は最悪期を脱しつつあり、一部には上向きに転じる兆しも出てきています。しかし、日本経済の再生を確実かつ本格的なものとするためには、構造改革の総仕上げに向けた決断の必要性を訴え続けねばなりません。その意味で、「市場主義宣言」を超えるためには、その前に「市場主義宣言」を貫徹しなければならないことを強く申し上げたいと思います。

特に日本経済の再生が民間主導の段階に入ってきた今、われわれ経営者の役割と責任は極めて大きくなっています。絶えざる自己革新なしに企業活性化はありえません。われわれは自らの責任においてバブルの清算に取り組むとともに、時価・連結といった国際会計基準の本格導入を目前に控え、透明な、厳しいコーポレート・ガバナンスに裏づけられた生産性の高い企業経営をめざして、勇気をもって自己改革に取組まなければなりません。それは何よりも経営の意思決定のスピードと柔軟性を高めることであり、生き残るためにグローバル・スタンダードとの調整を断固として図ることであります。これは「無定見な英米化」との批判があろうとも、経営効率において欧米企業に大きく遅れをとっている日本企業にとっては、グローバルな競争の土俵に上がるため、まず今、最優先に取り組まねばならない課題であります。例えば、収益性をROEで言えば、まず二桁に上げていくことも目標の一つになりましょうし、雇用に対する圧力が高まりつつある今日、社員のエンプロイアビリティーの向上に一段の工夫と努力を払うことは、われわれ経営者の重大な責任であります。

もちろん、このような諸改革の推進は、痛みと不安を伴います。しかし、われわれは改革の先延ばしによる負担を次世代に残さずに、活力ある新しい社会を受け渡すという次世代への責任を、改めて強く認識し、改革をわれわれ自身の手で完遂せねばなりません。既に改革のメニューは出尽くしています。私は、まずこの改革の実現に同友会として全力をあげて取り組むことを訴えたいと存じます。それはまた、今世紀最後の10年を、まさに「失われた10年」としてではなく、21世紀の新しい国創りに向けて、希望と可能性に満ちた「新世紀の序章」として終えるための極めて意義ある活動です。

III.「変化を起こし、創造する」経済同友会をめざして

最後に、これからの同友会の運営について申し上げます。

昭和21年の同友会の設立趣意書には、「日本国民は旧き衣を脱ぎ捨て、現在の経済的、道徳的、思想的頽廃、混乱の暴風を乗り切って全く新たなる天地を開拓しなければならない」と謳われています。それから半世紀を経て、まさに設立時と同じような状況にある今こそ、同友会の同友会らしさを発揮しなければならない時であります。90年代は旧き衣を脱ぎ捨てる「解体の10年」でしたが、これからは「創造の新世紀」に入らなければなりません。

そのためには、第一に、同友会の発言や提言が触媒となって、世に変化を起こし、新しい時代を創造していくことが必要です。同友会の真骨頂は新しい時代のさきがけとなるフレッシュで本質的な考え方や理念、そしてそれを実現するためのアクション・プログラムを提示することにより、会員はもとより、他の企業人、そして政治・行政にたずさわる人々、市民・消費者といった他の行動主体にも良い影響を与えることにあります。われわれはわが同友会をもってしても、狂奔的なバブルの流れの歯止めとなりえなかったことを忘れずに、企業やわれわれ自身にとって厳しいことでも、わが国にとって必要であるならば、自ら進んでその厳しさに挑戦していく勇気が必要です。また、人々の行動を変化させるためには、われわれの提言や会員の行動に、説得性、ドラマ性といった、心を打つ何かを持たせるための工夫をし続けることも重要でしょう。

第二に、そうした同友会からの発信は、もはや国内だけに止まるのでは十分ではありません。私は、わが国が世界のガバナンスに積極的に参画していくためにも、またわが国に対する世界の理解を深めていくためにも、海外との双方向のコミュニケーションをこれまで以上に豊かにして、「日本企業人」の考えを効果的に発信するとともに、われわれの海外理解も質的に充実させていきたいと考えております。

第三に、環境変化の速さや多様性を考えるならば、同友会自身が常にそれに相応しい多彩な会員構成であることが必要です。伝統的な企業の経営者のみならず、新しい産業や企業の経営者にも、また次代を担う若手の方々や女性、日本で活躍する外国企業の経営者にも大いに活躍していただけるような同友会にしていきたいと思います。

おわりに

以上、代表幹事就任に際しまして、私の考えをいくつか申し上げました。

経済同友会は、経営者が個人の資格で参加する団体であり、より良い企業とより良い社会の実現という「志」を同じくする企業経営者の集まりです。企業、社会、国家のガバナンスの確立は、結局はわれわれ一人ひとりのガバナンス、すなわち良心と良識なしには不可能であります。このような個人のガバナンスを同友会の諸活動を通じて会員各位がより確固たるものとし、それが会員各位の高い志の実現、ひいては日本企業や日本社会の信頼と魅力と活力の発揮につながるよう、会員各位のご協力と積極的な参加をお願いして私の挨拶といたします。

以上


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