日本再生への経営者の行動指針 - 1996年年頭見解 -
1.1996年:実行の年
2.経営者の行動指針
3.おわりに
1.1996年:実行の年
景気低迷は5年目に入った。本年も日本経済の顕著な回復は難しい。しかし、その中でも業績を伸ばす企業が出てきているし、アジア・太平洋地域を中心とする新しい国際分業が進むなど、日本経済の明るい方向が見えはじめてきた。
躍動するアジア経済を見るまでもなく、日本を再生する活力の源泉は市場にある。そこでの主役は民間、すなわち国民と企業である。もちろん市場は優勝劣敗の場であり、参加者全てに自己責任が厳しく問われる。しかし、より重要なのは市場は創造と発展の機会を提供する場だということである。我々は市場の再設計により、既存ビジネスのリストラとともに、新たな事業や多彩な企業を輩出させ、日本経済に活力を取り戻さねばならない。
そのためには多くの改革が不可欠だが、改革は一向に進まず、閉塞感だけを深めた。その結果、この一年、状況はさらに悪化し、日本経済に対する国際的な信認も揺らいでいる。もう改革の先送りはできず、今年こそ実行の年としなければならない。
そうした年の初めに、新政権が誕生することになった。新首相には強いリーダーシップを発揮して当面の懸案処理に当たるとともに、構造改革や安全保障を含めた世界の中の日本のあり方について、基本理念と政策を明確にすることを強く求めたい。そして、日本が21世紀への進路の選択を迫られている今、出来るだけ早急に選挙によって民意を問うべきである。
2.経営者の行動指針
今年は我々経済同友会にとり創立50周年の節目の年である。我々の先輩は敗戦の荒廃から、新生日本の構築に全力をあげることを決意し、実践した。それから半世紀、戦後の繁栄システムが行き詰まった現状を打破すべく、我々には新たな決意と実践が求められている。
我々は、1996年を、21世紀に向け日本を再生するためのアクション・プログラムを樹立し、我々自身が第一歩を踏み出す、実行の年とする決意である。
我々は、規制撤廃・緩和をはじめ、日本再生に向けた改革の推進に、政治が強い指導力を発揮することを期待する。しかし、ひるがえって、我々自身、改革へのリーダーシップをとってきたか、厳しく問い直すことから始める必要がある。改革の遅れは我々の責任でもあるとの認識に立って、いま、我々は自らの決断と責任において具体的な行動を起こす決意を表明する。
我々が行動する舞台は市場である。その市場をより効率的、かつ公正に機能させるためには、我々のイニシアティブによって市場を再設計する必要がある。具体的には、
(1)規制撤廃・緩和により市場の範囲を拡大する、
(2)市場の透明性を高め、国際的に通用する市場のルールに改める、
(3)創造性溢れる企業家の積極果敢な活動を歓迎し、敗者には復活の機会が確保される市場を創る、
(4)経済政策とは峻別して、市場への参加が制約された「真の弱者」への社会政策を構築する、
(5)公正かつ自由な競争を維持、促進するための市場監視の諸制度を確立する、
これら5つの作業に、委員会活動の場などを通して我々経済同友会は積極的に取り組んでいく。このような観点から、今年の我々の行動指針を以下に掲げる。
(1)経営者の使命感と指導力の発揮
我々は、経営者としての使命感はもちろん、企業の枠を超えた社会的責任の自覚をもって自らを律し、指導力を発揮する。変革期の経営者に求められるのは、経営方針を樹立し、実行する、強い指導力である。コンセンサス重視のみでは改革はできない。我々、経営の任にある全ての者は、経営責任を厳しく自覚し、行動する。その際、我々が行動する舞台である市場は今やグローバルな拡がりをもっており、もはや仲間内のルール、ローカルなルールによる行動は許されない。
(2)政治・行政からの自立と民民規制の撤廃
我々は、市場の主役は民間であり、我々には市場の機能を発展させる役割があることを自覚し、行動する。政治・行政に頼る姿勢を捨て、市場のルールは我々市場参加者が自ら作り、遵守するとの原則を確認し、自立することによって、新しい官と民の関係を作る。
また、我々は公的規制の撤廃・緩和を求めるだけでなく、市場をより自由で活力あるものにするため、我々自身の問題として参入抑制的、価格硬直的な効果をもっている業界慣行や民民規制を撤廃し、業界団体の機能の再検討に取り組む。
さらに、企業内においても自己責任の下、社員一人一人が自立し、その持てる多様な能力を発揮することが新たな活力、創造力につながる。我々はそうした企業に改革していく。
(3)積極的な情報開示
我々は、透明で開かれた信頼される市場の確立のため、国際的な会計規準にのっとった会計情報の開示をはじめ、積極的な企業情報の開示に取り組む。95年の経験を振り返るまでもなく、情報開示と市場の活性化は表裏一体の関係にある。我々は積極的な情報開示による市場の評価を尊重し、自らの行動の舞台である市場の機能を高め、発展させていく。
3.おわりに
経済同友会は、志を共にする経営者の集団である。改革には軋轢も予想されるが、我々は自らが先導役・牽引車となって日本経済の改革に取り組む。我々が行動を起こすことによって、政治・行政の変化につながることも期待したい。
以上