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21世紀へのアクション・プログラム - 牛尾治朗代表幹事就任挨拶 -

社団法人 経済同友会
代表幹事 牛尾 治朗

1.はじめに
2.21世紀への責任
3.21世紀へのアクションプログラム
4.イニシアティブを発揮する同友会
5.おわりに

1.はじめに

ただいま代表幹事のご推挙を頂戴し、その責任の大きさに身が引き締まる思いです。経済同友会は来年50周年を迎えます。半世紀にわたり多くの先輩が志を注いで築いてこられた、伝統ある経済同友会を引き継ぐ事は、誠に光栄であります。

代表幹事という大役をお受けするに当たり、私の決意と所信を申し上げ、ご挨拶とさせて頂きます。

2.21世紀への責任

最初に、我々は現状をどう捉え、これからの時代にどのような心構えで臨むべきかについて申し上げたいと思います。

日本経済は高度成長をはさんで、奇跡とも言うべき成功を成し遂げました。日本独特の協調主義の枠組みの中で、政・官・業、あるいは労使、与党と野党、さらには企業と市場が相互に依存し合いながら、一国繁栄主義のレールの上をひた走り、発展してまいりました。しかし冷戦終了前後から、社会は協調主義の不透明さに不信を持ち、談合・なれ合い・癒着を廃して、たとえ対立があっても透明である方が好ましい、というように流れが変わってきました。また他方、経済力第2位となった日本に、世界は当然のように市場開放と世界経済への責任を求めてまいりました。我々は、この新しい流れに対応する日本の枠組みを作り、また一国繁栄主義を越えて世界の責任を分担することを求められているのです。

しかし残念なことに、この新しい流れを認めながら、変革の方向に力強く踏み出す自己決断力を、政治も行政も持ち合わせなかったようです。既存の仕組みとの軋轢を避けようとするあまり、ことごとく問題をただ先送りするうちに、日本社会の混迷は進み、閉塞感が強まり、今や不安と不信が満ちていると言わざるをえません。

最近、政治における無党派現象が出てまいりました。先日の東京、大阪の知事選では、選挙のために談合した既存政党と、行政出身の候補者が、結果としては拒否されました。我々は、市民が政治・行政に対して何を不信として取り上げ、何を期待しようとしているのか、静かにその変化を学習し、本当の改革につなげていく必要があると思います。

また、阪神大震災では行政の備えや国のクライシス・マネージメントが社会の都市化現象に充分対応していないことが明らかになりました。地下鉄サリン事件や警察庁長官狙撃事件においては、日本では起こりえないと思っていた事態の発生により、「治安の安定した国・日本」が幻想に過ぎなかった事に気づかされ、さらに、多元・多様化する自由・人権と社会の秩序の両立について問題が提起されました。

一方、本年に入ってからの急ピッチな円高の流れは、もはや一国主義に内向した日本の行政の手に負えるところでは無くなってまいりました。政治もまた、色々な努力にもかかわらず、結果としてはほとんど無力であります。これは、短期的にはさまざまな理由がありますが、世界が求める日本への大きな期待と現実の相違に根本的な原因があります。国内的には内外価格差は大きく、市場開放は進まず、グローバルな経営意識も乏しい、といったことが背景にあります。つまり天井知らずの円高は、ある面では改革を先送りしてきたツケなのであって、我々はそのことを深く反省しなければならないのであります。

あたかも現在の日本は自らのあるべき姿を見失っているような状態にあります。このままでは経済はさらに停滞し、世界での孤立感を深め、企業も国民生活もその基盤が崩れてしまう恐れがあるように思われます。

我々はともすれば現状の体制を維持するのが一番楽だという意識に囚われてはいないでしょうか。特に我々以上の世代は、戦前・戦後の苦しみを耐え抜いて来ただけに、今日の豊かな成熟時代の中にいると、少々の逆境があっても「満月は必ず欠けるもの」といった一種の諦めと、過去の成功に対する満足感に包まれて、現状に対する革新的な思考に、やや消極的になりがちです。しかし、いまの若い世代は、現状にはまだそれほど不安を感じていないかもしれませんが、21世紀には多くの不安感を持っています。様々な要因があるとは思いますが、自分の子供を作ろうとしない少子化などは、将来への不安を敏感に感じ取っていることの現われではないかと思います。

我々は、21世紀に生きる世代に対して大きな責任があることを、もう一度自覚をする必要があります。

そのために我々が今なすべき課題は、21世紀の日本のために、旧きを脱し、透明性に満ちた枠組みに改造するグランド・デザイン(総合的構想)を描き、それを実現するためのアクション・プログラム(実施計画)を作り、実行していくことであります。実行へのリードタイム(準備期間)を考えれば、21世紀までに残された5年間はむしろ足りないくらいで、直ちに着手しなければなりません。しかも、かつての高度成長期のような、何もかも同時に実現するような逞しい成長力はもはや期待出来ませんので、グランド・デザインはプライオリティ(優先順位)を明確にして描かざるを得ません。

この課題に経済同友会が挑戦することは、大変に厳しい目標ではありますが、勇気を持って取り組んでいきたいと思います。

3.21世紀へのアクションプログラム

そこで次に、日本改造のグランド・デザインをどう描き、21世紀へのアクション・プログラムをどう作るべきか、私が基本的な課題と考えている点について申し上げたいと思います。

(1)世界への参画

第一は「世界への参画」についてであります。

冷戦終了後は、世界に市場経済のルールをどのように広めて行くかという「グローバル・インテグレーション」が大きなテーマになっています。そこではグローバルな発想をもって、国も企業も世界やアジアを分母にして考え、行動する必要があります。それには日本外交も、流動する世界の政治・経済地図への明確な展望を持ち、対症療法から脱皮しなければなりません。これからの日米関係は、積極的かつ建設的なパートナーシップを目指すべきであります。またアジアに関しては、アジアの中の日本という視点に立って、謙虚さを保ちつつ、この地域の発展のために共同作業をしていく必要があると思います。

日本としては一国繁栄主義・一国平和主義を超えて世界の繁栄と平和を実現するために、成功の蓄積や文明をどう活用していくかが問われています。つまり日本が持っているハイテク技術、商品化及び生産能力、サービス・ネットワーク、さらに情報や知識・経験を、日本だけのためではなく、地球規模でどのように活かし、貢献していけるかを考えるべきであります。そのためには国連、WTO、IMFなどの国際機関に国として積極的に貢献しなければなりませんが、同時に民間、行政、地域社会などの多層的なネットワークによる、多様な価値観の交流が必要です。そういった時代に重要になるのは、組織対組織ではなく、個人と個人のつながりであり、公正と人道主義に富み、国際的に説得力を持った経営者の存在であります。このような個人の知的ネットワーク作りのために、経済同友会は努力していきたいと思います。

また円高問題については、一定の期間内に日本の経常黒字を半減させる位のことを考えないと、この円高の趨勢は変わらないでしょう。輸出企業が円建てのプライシングをするのは、いわば当然のことであります。また、円を基軸通貨としてドルと共存させ、世界の中でもっと使いやすい通貨にしていくことを考えた場合、今はその最大のチャンスであります。円を日本だけの通貨として考える時代は終わったのです。通貨当局は円が基軸通貨の一翼を担えるように、早急に環境整備を進めるべきであります。いま日本経済に大きな影響を与えている急激な円高に対処するに当たっては、政治的な外交交渉に委ねるか、市場に任せて円高に耐えながら自力で解決するか、その判断は難しく、さらに検討を加えた上で、我々国民が選択しなければならないと思います。

(2)市場の再設計

第二の課題は「市場の再設計」であります。

21世紀にかけて、日本は低成長の成熟時代に入り、若年社会から高齢社会へ、フローからストックへ、インフレ経済からデフレ経済へと変わっていくでしょう。経済構造は輸出生産型から輸入内需型にウエイトが移り、社会構造はサービス・情報型にシフトしていきます。日本企業のマネージメントも、会社中心から個人尊重型に軸が移り、それに伴って雇用も流動性を増していくでしょう。既に日本独特の法人中心の経済は、この数年で個人家計中心に移りつつあります。今はまだ変化は徐々に静かに進んでいますが、それらは単に経済構造の変化にとどまらず、政治・経済・社会・価値観の変化をもたらし、それらが相互に作用し合ってさらに大きな変化をもたらす「大変革の時代」となって現れてくるでありましょう。

我々経営者がこうした大変革に即応しようとする時、経営の軸は企業家精神の発揮によるリストラとリエンジニアリングを通じて、戦略型経営へと飛躍的に転換していかねばなりません。経営者が強い自立と自己責任の意識をもち、行政の計画調整に頼ることなく、自らの洞察力と見識によって乗り切ることが、市場経済の基本であります。むしろ、市場での多数のアイデアや想像力を競い合うことによってしか、モデル無き大変革の時代の経済や社会の多様性・成熟化には対応できないと思います。

そこで我々は第二の課題である「市場の再設計」に取り組まねばならないのであります。それは3つの側面に分けて考えられます。まず、市場を活性化させるために規制を撤廃して、市場の機能を回復すること、次に国境を越え世界共通の新しい市場ルールにすること、そして市場経済と民主主義が共存するためのサブ・システムを考えること、であります。これらは「世界への参画」のためにも必要なことです。

まず市場の活性化ですが、私はこれだけの大変革への対処は、経営者の企業家精神に委ねるしかないと思うのであります。従って、そのためには経営者の活力を増進することが必要であり、まず、現在ある行政の介入、市場での自由な活躍を制限するあらゆる諸規制の撤廃が必要です。さらに、税制の改革、例えば法人税や創業者利益に対する課税の思い切った軽減等も考慮されるべきです。

第二は市場の新ルールの確立であります。前述したように、市場は民間主導による競争を原則としますが、そのルールや諸制度は透明であることはもちろん、できるだけ先進諸国と共通化し、常に国境を超えた活動が出来るようにしなければなりません。そしてグローバル化された市場に、日本の企業のみならず、諸外国の企業が全く同等に参入出来るようにしていくのです。また我々は西欧社会と全く同じ土俵で戦うことになる訳ですから、西欧社会の経営者に与えられた数々の自由な条件を、日本でも同じように手にする必要があります。

次には、このように市場経済原理が機能するようになるとすれば、効率を求めるあまり、市場ルールが市民社会の参加を阻害していないか、あるいは自由な企業競争のために、公正さが損なわれてはいないか、という懸念が生まれてきます。独占の弊害も排除しなければなりません。また、発展途上国、中小企業、消費者など弱い立場への配慮、さらには環境や文化などの経済的価値だけでない、多様な価値を尊重していくことも必要になります。そうしたことを行政の介入によって行なうのではなく、公開されたシステムやルールによって解決することが重要なポイントになります。市場は、そうしたサブ・システムやサブ・ルールがビルト・インされることによって信頼されるものになるでありましょう。

我々は、市場経済と民主主義が共存出来るようにするために、多くの考え方について、議論をする必要があります。

4.イニシアティブを発揮する同友会

最後に、これからの経済同友会の運営について、申し上げたいと思います。

私は、まず何よりも、経済同友会に集う1500有余の会員が、理念や志を共有し、積極的に「求心力」を高めて行く事に努力をしていきたいと思います。そして、自主独立の精神を持つ経営者の率直かつ手作りの議論をベースに、21世紀への指導理念や具体的指針を提案していく「発信力」と、会員の多様なネットワークや、「産」と「学」のパートナーシップ、政治・行政との公開された交流を通じて、さらに議論を深め、社会の共感を得ながら提案の実現を図っていく「実行力」を高めていきたいと思います。経済同友会は、そうしたイニシアティブを発揮する経営者の政策集団であることに挑戦していきたいと思います。そのためには事務局組織も柔軟性と弾力性を持ったものにする必要があるでしょう。

経済同友会もまた、今、岐路に立っています。ポジションの取り方によっては、存在意義すら失いかねません。しかし、このような大変革の時代にこそ、かつて日本の再建に向けて、経営者が情熱と理想を結集したあの創始の精神に立ち返って、21世紀に向けての責任を果たしていきたいと思います。

5.おわりに

以上、代表幹事就任に際して、私の決意と所信を申し上げました。

石原代表幹事の「開かれた行動する政策集団」としてのリーダーシップ、また、世界、市場、創造を座標軸として「時代への挑戦」を掲げられた速水代表幹事の国際経験豊かな良識と、困難の中にあっても揺らぐことのない強い信念に対して、深い感銘を覚えております。優れた前任者の英知と指導力を学びつつ、新たにスタートする本日、自分の所信を表明させて頂きました。

重ねて、会員の皆様のご支援をお願いします。

以上


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