2025年度4月通常総会、理事会後記者会見発言要旨
山下 良則 前副代表幹事(退任)
髙島 宏平 前副代表幹事(退任)
吉松 徹郎 副代表幹事(新任)※
廣田 康人 副代表幹事(新任)
南部 智一 副代表幹事(新任)
※吉は土よし(以下本文中も同様)
山下 良則、髙島 宏平各前副代表幹事より退任の挨拶を行った。次いで、吉松 徹郎、廣田 康人、南部 智一各副代表幹事から新任の挨拶を行った。
退任挨拶
山 下: コロナ真っ只中の2021年4月に副代表幹事を拝命し、4年間務めさせていただいた。振り返ると多くの取り組みに関わったが、私自身は大変充実した時間を過ごさせていただいた。特に地域共創委員会の委員長をずっと続けさせていただき、コロナ禍で地方創生テレワークを実施したり、広域連携についての政策提言を行い、政府への要望を出したりと進めてきた。なかなか進まないところもあるが、大分その心は浸透してきたと思う。コロナ禍ということもあって、働き方や暮らし方が大きく変わったが、実は地方にとっては新たなチャンスや契機が生まれたような気がしている。それから全国44の経済同友会が一堂に会する全国経済同友会セミナーを年に1回やっているが、この企画委員長もやらせていただき、これも含めて私自身にとっては非常に有効で充実していたと思う。これからは引き続き、現場に根付いた視点を持って幹事として取り組んでまいりたいと思うため、ぜひよろしくお願いしたい。ありがとうございました。
髙 島: 私自身はスタートアップ経営者で25年前に2000年に立ち上げたため、こういう財界活動と縁がない人生を送るものと思っており興味がなかったのだが、縁をいただき4年間副代表幹事をやらせていただいた。非常にいい意味で驚いたのは、経済同友会の組織がとてもフラットで、企業規模や社歴とかそういったものを全く問わず、一経営者として皆さんに接していただいた(ことだ)。本当に多くの機会をいただくこともでき、ベースとして相互リスペクトのある状態で活動させていただけたのは、本当にいい意味での驚きで大変感謝している。この2年間は共助資本主義の実現委員会と広報委員会をやらせていただいているためメディアの皆様にも大変お世話になった。(広報は)もう少し長く4年 やっている。新浪代表幹事の発信力に完全におんぶにだっこのような広報ではあったが、少しずつ経済同友会の発信力が上がってきていると感じている。ぜひその辺はメディアの皆さんにこれからもよろしくお願いしたいと思う。私自身のパフォーマンスに関しては、多くの機会をいただいたわりに大きなインパクトは残せなかったなと感じており、なかなか社会を変革するのは難しいということを痛感している。共助資本主義の実現委員会に関してはこの後も引き続き委員長をやらせていただくため、そこはしっかり覚悟を持ってコミットしたいと思う。社会インパクトを出すのはどうしたらいいかは、改めてちゃんと勉強しないと、打席に立ったわりにはなかなかヒットを打てないと感じたため、しっかり勉強したいと思っている。ありがとうございました。
新任挨拶
吉 松: 私が経済同友会に参加させていただいた2015年はまだ40歳ちょっとだったが、50歳以下がまだ50人もいないような経済同友会だった。この10年間で経済同友会は大きく様変わりし、非常に若い人たちやスタートアップの経営者も参加している。今日いろいろお話があったが、多くの経営者が集まる中で若手からそして大企業の経営者同士の学ぶ場として、どんどん社会を変革していく礎となるような経済同友会に微力ながら尽力していきたいと思っている。
廣 田: 2023年に経済同友会に入会し、スポーツ・エンターテインメント事業活性化委員会の共同委員長などを務めさせていただいた。この度副代表幹事を拝命し、改めて共助資本主義の理念のもと日本経済の発展に努めてまいりたいと思っている。新浪代表幹事が三菱商事に入社した時私は1年先に入社しており、それ以来約45年にわたって濃厚なお付き合いをさせていただいたが、またこういった形で新たに新浪代表幹事のために一緒にお仕事できることを大変喜んでいる。先ほどの通常総会後のシンポジウムで程 近智 共助資本主義の実現委員会委員長から話があったが、2年前の通常総会で新浪代表幹事が共助資本主義という話をされて、そのときに私どもも何かできないかということで、アシックスとしてもこの度ASICS Foundation という財団を設立した。このような形で提言するだけではなく、行動する経済同友会のために仕事をさせていただきたいと思う。
南 部: 私は商社人生活を43年やっており、国内外、特に米国駐在が長かったもので、今のウェークアップコールの中でさあどうしたものかと(感じている)。この中で経済同友会を約2年、本日までやらせていただいている。内容としては、先端科学技術戦略検討委員会で、日本が長期的に見て戦略的不可欠性を持つための非常に重要な分野について、今後博士人材の活躍というメッセージで発信させていただく(予定である)。ぜひよろしくお願いしたい。共助資本主義については大変共感している。私は長年、豊かで教育を受けた中間層の数が多い国ほどやはり安定すると思っており、日本が新たな資本主義の形を示す良い機会だと思う。新浪代表幹事の発信力を活用させていただき、フォローさせていただきたいと思う。
質疑応答
Q:代表幹事任期1期目の総括と2期目の抱負を伺いたい。特に国内外で分断と対立が広がり、資本主義の限界を感じざるを得ない状況のなか、共助資本主義の浸透と成果創出に向けたお考えを伺いたい。また、トランプ政権による関税政策の影響でグローバル経済の見通しが悪化しているが、国内の賃上げや設備投資の機運の見通しはどうか
新 浪: 共助資本主義の展開として3点を挙げたい。1点目は、より多くの方々に(共助資本主義の)必要性を理解していただくことである。本日(発表した代表幹事所見で)も、トランプ大統領を生んだ米国(の状況を説明し)、我々日本は(米国を)他山の石として学ばなければならないと申し上げた。(国内でもNPOによる子ども・若者支援の)現場に行くと、本当に驚愕するような厳しい状況がある。正直なところ、経営者の生活実感とは異なる状況で暮らしている方々が大勢いらっしゃる。そうした方々が増えることにより、ビジネスを行う基盤・基礎が崩れつつある。この状況を(会員をはじめとする多くの方々に)理解してもらうことが重要であり、子ども食堂の運営など貧困にあえぐ子ども達を支援されている多くのNPOの方々と接点を持つことにより、支援しなければならないという感覚を(会員に)持っていただきたいと考えており、こうした活動を引き続き行っていく。2点目は、廣田 康人 副代表幹事が言及された(利益の)1%(の社会貢献)など、企業としてできる支援を具体的に明確化し、多くの企業の方々に参画してもらうことだ。この2年間で(支援に取り組む)企業が増加しているが、もっと(参画する企業を)増やすことが必要である。3点目は制度設計に関わる課題であり、いわゆる寄附税制や企業版ふるさと納税といった制度は中央(政府)が税金を徴収して(寄附相当額を)控除するという形になっているが、もっと企業が利用しやすい制度にできないか。企業が資金提供だけでなく人材やノウハウも提供することで、共助の実現やその先にあるコミュニティの再生に役立つため、(寄附)制度そのものについて、政府・与党や野党に呼びかけて(企業が)より使いやすいものへと変えていきたい。トランプ政権の追加関税によって今後どのような影響が生じるかについては、10%程度をベースに追加関税が課されると思うが、最も重要なのは、米国による対中関税の結末だろう。お互いに引くことが難しいとなると、米国のインフレは大変な課題になってくる。(インフレが加速すると米国経済の)リセッションやスタグフレーションが現実味を帯びてくる。中国経済も決して良い状況ではないため、(米中という)世界経済の2つの機関車が変調をきたすことになれば大きな問題となる。そのため、(米中の関税引き上げが)続くようであれば日本経済に大きな影響を与えることは間違いない。日本経済は世界につながっているため、(日本経済への影響を)避けるためにも、様々な商品やサービスの開発や生産を行えるように国内により投資しやすい環境を作ってもらいたい。(日本企業は)340兆円の余剰資金を備えており、国内やグローバルサウスなど、投資のポートフォリオを考え直していく必要がある。ただし、トランプ大統領が中国との(貿易も)しっかりと行わなければならないと(関税政策を)翻意して、米国経済がリセッションに陥らない可能性もある。ただ、このまま米国経済がリセッションに陥る可能性は5割程度あるため、それに備えるには国内投資が非常に重要である。政府には、財政に頼って補正予算を編成するといった考えではなく、民間企業が投資を行いやすい環境作りとして、規制緩和や既得権益の打破に取り組み、我々民間企業が(国内投資に)資金を使える環境を作ってもらいたい。補正予算では、お金を配るといった考えはないようにしてもらいない。
Q:トランプ大統領の政策方針を受けて、米国を離れるエリート層が増加しているとの報道がある。日本にとっては高度人材を獲得する好機であるとも言えるが、企業の受け入れ姿勢を含めてどう考えているか。
新 浪: 米国から様々な国々に移動する方は確かにいるとは思うが、依然として大多数の優秀な人材は米国にとどまっており、ハーバードをはじめとする優秀な大学に対する補助金削減(というトランプ政権の政策方針)により、彼らが流出するといわれている段階だと思う。私は、一部の博士人材が客員教授などの形で日本に来てくれる可能性は十分あると思うが、日本に彼らを迎え入れる体制を整える覚悟があるかと問われると、まだ全然足りないと考えている。まずそういう(高度なエリート)人材が暮らしやすく、彼ら彼女らの家族が暮らしやすい街づくりはできていない。人材育成の仕組みや給与体系など、受け入れるために企業はそれなりのことをやれるとは思うが、大学をはじめとする公的機関にも同様の取り組みをぜひとも進めていただきたい。大学では、もっと自由に各大学が(教員の)給与を決められるように改革を行い、(高度なエリート)人材が働きやすいようにしなければならない。少しは国立大学でも(給与水準の決定を)行えるようになったが、(トップクラスの大学教員に対する日米の給与)金額は全く異なる水準であるため、今回を機に、迎え入れられる体制を早急に作らなければならない。しかし、日本の現在の仕組みの中で、国が早急に整備できるのかと聞かれると疑問である。優秀な博士人材を研究機関で雇用するなど、我々企業としてできることをしっかりと行っていきたい。ただし、日本で今必要とされているデジタルやAIなどの分野における非常に高度な人材については、インドなどにも多く存在するため、米国(を離れる人材)に限らず優秀な研究者に来ていただけるような取り組みをしっかりと進めていかなければならない。
Q:最近政界では消費税減税の議論が出てきている。食品限定時限措置を選挙公約に掲げる政党も出てきているようだが、やはり民間投資の環境作りが先決なのかどうか、消費税減税について改めて見解を伺いたい。
新 浪: (参議院)選挙が7月にあるからといって消費税減税を行うという考え方は、気持ちは理解できるが、違うかなとも思う。要は消費税は目的税となっており、社会保障(財源)として非常に重要だ。したがって、消費税を減税するのであれば、代わりにどこから(財源を)確保するのかという議論を行わなければならない。高齢化は(今後)ますます進展するため、片方で税収を減らすのであれば、もう片方で必ず財源を補う必要がある。仮に消費税から食品を(対象から)除外とするのであれば、他に何を増税するのか、あるいはどのように(財源を)確保するのかをちゃんと議論しなければならない。要するに、何かを減らすのであれば、何かを増やす。この(バランスをとる)ことこそが、まさに(財政)規律を守るということである。単に減税だけを主張するのは非常に簡単な話であるが、それでは(日本)国が抱える(巨額の)国債が本当に将来的に大丈夫かと問われることとなる。私が申し上げたいのは、「食品の消費税を取らない」というのであれば、それに伴い社会保障費が今後さらに増加する中で、どのように財源を確保するのかを必ず議論しなければならないということである。こうした議論を省略したまま、単に減税だけを論じるべきではない。減税を主張するのであれば、同時に増税(や他の財源確保策)についてもしっかり議論すべきである。そのうえであれば、1つ(の考え方)として理解できる余地はある。決して減らすだけではならない。(単なる)減税論では、将来の国債が大丈夫か問われ、結果として日本経済の基盤そのものが危うくなる。したがって、減税と増税、あるいは財源確保の大原則をしっかりと踏まえた上で、与野党を問わず、政治はしっかり(議論を)進めてもらいたいと思う。
Q:トランプ政権による関税により、10%あるいは25%の(追加)関税が課され、日本から米国向け輸出額のうち9割近くが何らかの形で追加の関税を賦課されているという状況になり、まもなく1ヶ月が経つ。 企業は、現実的にどのように価格に上乗せするか、どれだけ自社で血を流して吸収できるかということを考えなければいけないフェーズに来ているものと考える。米国において企業が価格引き上げを判断する際、どういった点が基準となると思われるか。企業がどれだけ競争力を持っているかという点や、どういうサプライチェーンを持っているかという点が複雑に絡んでくるとは思うが、ご見解を伺いたい。
新 浪: 米国の製造業においてまず第一に考えるべき点は、現地生産をより増やすか(どうか)ということである。例えば日本でしか生産できない製品については(引き続き)日本で製造するしかないが、業態によって値上げできるか否かの対応は異なる。マクロ的に見れば、米国がこのまま関税政策を続ければ、当然リセッションに陥る(可能性が高い)。その場合、価格転嫁が困難となり、我々企業の収益も厳しくなり、価格が同じでも売上が減少することになる。そうなれば、(米国以外の市場に)広げる必要に迫られる。(仮に)トランプ関税が現在の水準で維持された場合、たとえ10%(の関税)でもインフレ要因となる。米国経済がその分価格を引き上げられるほどの経済力があるのか(が問われるところである)。最近発表されたように、関税収入を所得(減税)として還元するという議論もあるが、それが消費を冷え込ませない効果を持つかどうか、またその効果がどれほど持続するかについては我々自身も考えていかなければならない。トランプ関税が長期化すれば、米国だけでなく世界(経済)にも大きな影響を与えることとなり、結果として所得減税を行ったところで米国の景気が良くなるのかどうか(疑問だ)。そのため、他国市場への販路拡大も検討しなければならないと思う。今後の販売先のポートフォリオの拡大が必要である。現状、インターナショナリスト(国際協調派)と呼ばれるベッセント財務長官をはじめ、(関税水準を)10%程度に抑えようとする動きも見られる。これぐらい(の水準)で収まれば、何とか(対応)可能であると考えられる。ただし、最大の焦点はやはり中国との関係である。中国と(の関税交渉が)どう決着するかは少し時間を要するだろう。お互いが見合っている状況で、中国の関税次第で米国のインフレ率に大きな影響を及ぼすため、中国との関係は極めて重要な要素である。
Q:30日に赤澤亮正 経済再生担当大臣がまた米国を(訪問し)、協議を行う。現時点で新浪代表幹事が懸念されていた国債の流通利回りに関する議論や安全保障と一緒にされないような議論はできているような印象を持っているが、現時点での評価と今後の期待について伺いたい。
新 浪: 赤澤亮正 経済再生担当大臣については、向こうからもいくつか提案が漏れ伝わってきている。例えば、ガス開発の共同プロジェクトや、船舶建造における協力など、日本側が(交渉)カードとして持ち得る分野があると考えられる。また、現在不足している米の緊急輸入や、自動車の安全基準の緩和といったカードも想定される。ただし、フォードやGMといった米国メーカーが本気で(日本市場で)売りたいと思っているかは別問題である。赤澤亮正 経済再生担当大臣には一定の交渉カードがあり、(これらを適切に活用することで、)トランプ大統領側にメリットを感じさせることができれば、安全保障問題などのより大きな議題がクローズアップされない(で済む)可能性がある。ただ最終的には、どこかで踏み込んだ話が不可欠となるだろうが、その際は首脳レベルでの協議となるだろう。赤澤亮正 経済再生担当大臣はあくまで関税問題への対応(が主眼)であり、今申し上げたような提案を(交渉の材料と)されるのかなと思う。その結果、今(懸案の)自動車関税問題の解決を目指すことになると思う。様々なカードを切って自動車の関税問題をなんとかしたいというのが、赤澤亮正 経済再生担当大臣が最も重視している課題だ。トランプ大統領(自身)も、何らか(の合意)をまとめる必要性に迫られており、ご本人もマーケットへのメッセージとして「まとまりつつある」と発信している。(このことからも、)一定の良い結果が期待できるのではないかと考えている。なお、米軍基地費用の人件費(の議論)については、今回の(交渉)段階では出てこないものとみている。これらは、最終的には大統領との(直接)協議に委ねられることになるだろう。また、為替問題についても、どこかの段階で議題に上る可能性はあるが、まずは、米国側にまとめたいという強い意向があるため、少なくともMOU(覚書)レベルの(合意に至る)可能性はある。方向性の一致を確認するような形で合意が成立することを期待している。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)