代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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冒頭、「日本版ライドシェア導入から1年」について所感を述べた後、記者の質問に答える形で、トランプ大統領の関税政策に対する赤澤亮正 経済再生担当大臣の日米交渉への期待や、米国トリプル安への受け止め、日本の減税対策のほか、米国のソフトパワーの減少、高齢者向けNISA導入等について発言があった。

新 浪: 本日配布している「日本版ライドシェア導入から1年」について説明する。日本版ライドシェアの導入から1年経過したが、未だタクシー不足や地域交通の利便性の向上にはつながらず、社会問題が解決できていない。また、訪日外国人からも「ライドシェアがあると本当にありがたい」という声が多く寄せられていると聞いている。(このような現状を踏まえ、政府や国会では)ライドシェア事業を規定する新法を制定し、負を解消する方向へ議論を進めていただきたい。さらに、ライドシェアを担う運転手に対して業務委託契約の提供といった負を解決し、多様な働き方の実現をする必要がある。今一度、ライドシェアのあり方を見直さなければ、地域社会がより一層厳しい状況になることを考えていただきたい。

Q:トランプ政権の関税政策を巡り、本日、赤澤亮正 経済再生担当大臣が米国に向けて出発した。日米の担当閣僚が早期に交渉することになるが、協議に求めることについて伺いたい。

新 浪: 日本は、米国の同盟国として共に平和を守る一番のパートナーだと認識している。そのため、関税政策を巡る問題によって日米関係が乱れることなく、これまでと同様に東アジアの平和を維持できる関係の構築に向けて働きかけてほしい。関税の問題にとどまらず、日米が協働し、必要に応じて韓国を巻き込む形で、東アジア、アジア、さらにAPACの安定に今まで通りコミットしていただくよう要請していただきたい。また、日本は対米投資額が5年連続首位という米国の中で最も大きな投資国であり、(特に)製造業の占める割合が高く、トランプ大統領の求めるパートナーであることは間違いない。ぜひ早期の問題解決を求めたい。また、スコット・ベッセント 財務長官とジェミソン・グリア 米国通商代表部代表が交渉担当となった背景には、米国が日本の交渉で早期に問題を解決できると見込んでいるからだと考えている。ぜひとも世界が安心するような交渉結果になることを期待したい。現状が長引くと日本経済への影響も大きいため、赤澤亮正 経済再生担当大臣にはこうした点についてお願いしたい。

Q:ここ最近の金融市場においては、ドル安・米国債券安・米国株安という、米国のトリプル安の現象が見られる。トランプ政権の関税政策によって不透明感が強まり、米国に対する信認の低下があるのではないかとの指摘も金融市場関係者から出ているが、この現状についての受け止めを伺いたい。

新 浪:市場は、正直でそのような受け止めをしている(ということ)だと(考える)。とりわけ米国債に対して、トランプ大統領(自身)が驚いた発言をしているが、やはり米国に対する信認に市場がクエスチョンマークを付けたということは明らかである。関税政策に関する朝令朝改的な発言があり、市場が正直に米国の信認(の揺らぎ)を明確にしたものと受け止めている。特に国債に関しては、米国には約8兆ドルの歳入がある一方で、常に2兆ドル程度の赤字を抱えている。このような恒常的な(財政)赤字の状況下で、信認を揺るがすような関税政策がよいのかを(市場が)判断した結果ということだと思う。よって、大統領が(その後)様々な修正を行っているのは、まさにそうした(市場の)「リアリティ」に直面しているからである。市場はやはり「リアリティ」であり、大統領の掲げる「アイディアル(理想)」とは差がある。このギャップがMAGA(Make America Great Again)である。トランプ政権は、これまで米国を担っていた民主主義者やエリート層による、グローバリゼーションや自由貿易の結果、生活が厳しくなったと感じる層の不満を受け止めてきた。そうした(層の期待に応える)解決の方法論の大きな目玉が関税であった。つまり、関税は方法論であり、その方法論について市場が厳しく評価を下した結果、90日間の一時停止(という対応)が取られたのである。したがって、(今後は)市場というリアリティとどのように向き合うか(が問われている)。とりわけ米国債に対する信認を得るためには、日本が一番最初であるべきだ。なぜベッセント財務長官が出てくるのかといえば2つの要素があり、1つは日本が(米)国債を1.1兆ドルと(いう規模で)最大保有していることがある。これを売却しないで(ほしい)というのが米国側の要望であり、その見返りとして、日本が何を得るかというと、(米国債を)売らないので、アジアの安定、特に中国・北朝鮮・台湾問題に対して一緒にやろうということだ。したがって、国債がこれ以上おかしなことになると、米国にとって良いことではなく、日本はそういった意味で一緒に協調してほしいと、おそらくそういった話をしたいのではないかと(思う)。加えて、(現在の)日本は実質金利がマイナスであり、(為替レートが)142円台であるにもかかわらず、なお円安と言われかねない状況にある。これはテクニカルには正しい(認識である)が、意図して実施している政策ではない。それでも、(ベッセント)財務長官との対話において(その点が話題となる可能性はあるため)、そこを言及しない代わりに日本側は国債保有を継続してほしいといった話はおそらく出てくる。本来であれば、(通商交渉は)USTR(米国合衆国通商代表部)(が主導する分野)であるが、今回、ベッセント財務長官が前面に出てくるのは、国際協調派(インターナショナリスト)がリードしている(証左であり)、トランプ大統領が市場のリアリティと理想の狭間に立たされている(ことを示している)。しかしその中で、MAGAはトランプ大統領を生み出した大きな源であり、前政権に対する不信感を持っており、このグループが非常に強く、関税(政策)で納得させようとした。特に中国に対しては、双方の対中強硬姿勢が一致しており、ここにはほとんど対立がない。しかし、中国からの輸入品に対して10%の関税(を課した場合)、MIT(マサチューセッツ工科大学)のレポートによれば(米国の)インフレ率は0.7%上昇する。(関税が)20%になると1.4%、100数%となれば想像を絶する数値で、米国のインフレは大変なことになるため、どこかで(政策の)落としどころを見出す必要がある。最終的には10〜20%程度(の関税)に落ち着く可能性があるが、それでもインフレのリスクは残るため、抑制策が求められる。そのために、まず第一にガソリン価格の引き下げ、(第二に)住宅に規制が多くあり(費用が)高いため規制の緩和、(第三に)戦争の終結による物価の抑制である。この3つの方策を2年以内に実行していこうとしているのだと思う。そのような中で、日本とは本来もめたくないわけなので、むしろ、最も信頼できるパートナーである日本との関係を重視し、国際社会に対して自国の姿勢を示したいと考えているはずである。ただし、先ほども申し上げたように、日本に対しては、国際的な役割を果たすよう要請がなされることになるだろう。日本としても、米国に対しては東アジアの安定にしっかりとコミットしてほしいと(要請していく必要がある)。それでも、欧州の現状を見れば明らかなように、米国が有事の際に必ず出てきてくれるという保証はない。今回のトランプショックは、関税の問題ではなく、欧州を見るとわかるように、我々自身も自国を守るためにはそれなりの対応をしなければならないということだ。(日本は)2027年までに(防衛費をGDP比)2%に引き上げる計画を掲げているが、その中身について改めて検証し、本当に自国を守るための体制が整っているかを考えなければならない。これがトランプショックである。よって、今回赤澤亮正 経済再生担当大臣が(日米交渉に)行かれることは大変いいことだが、日本を振り返ってみると、米国がくしゃみをしたら日本がおかしくなるということでは困るわけで、やはり日本が日本を守るために何をすべきか考えなければならない。しかし、最も重要なのは、日本の財政、そして国債の状況が非常に厳しくなりつつあるという現実である。このような状況下において、国の資金を用いて次々と補正予算(サプリメンタル・バジェット)を組み、追加でどんどん予算を組んでいくようなことをすると、現に日本の国債自体が危うい状況にある。その一方で、民間企業には約340兆円にも上る過剰資金(エクセス)を持っているので、(今後は、)いかにしてこの資金を民間投資へと誘導し、日本国内での投資を喚起し、経済をより活発化させていくかを考えなければならない。それによってこそ、税収も増加し、結果として(防衛費の)GDP比2%という目標に向けた中身の議論も、(より現実的なものとして進めることが可能となる)。加えて、日本が自国を守るために、いかなる仕組みを構築すべきか、そして日本にしかできないこととは何か(を見極めなければならない)。たとえば、(電力分野における)グリッドは、世界的にも非常に重要な技術を有している。また、鉄道(インフラ)においても、(日本の)レールは質が高く、気候が暑くなったとはいえ(高温環境でも)変形しにくい。こうした日本独自の強みがある。今回(の一連の要因)は関税であるが、その本質は「ウェークアップコール」である。トランプ氏による警鐘ともいえる現象であり、それは欧州にとっても、日本にとっても同様である。せっかくデフレからようやく脱却し、インフレ(経済)へと転換しつつある今だからこそ、日本国内の投資をもっと闊達にする(ことが重要だ)。規制改革を含め、そうした環境整備こそが、現在取り組むべきことではないかと思う。赤澤亮正 経済再生担当大臣の訪米にあたって、こうした観点から、私の考えるところを申し上げた。

Q:日本国債の信認という点に関連して、経済対策として減税や給付金を検討すべきとの発言が与野党であがっているが、新浪代表幹事のお考えを伺いたい。

新 浪:確かにインフレが進行しており、関税問題により米国経済が悪化する(懸念が広まっている)うえ、中国の景気も決して好調ではなく、世界中で経済の先行きが大丈夫かという不安が広がっている。(悪い材料の)掛け算によって、せっかくデフレが終わってインフレに転じ、日本経済の状況が変わると(国民が)思い始めたところに水を差すような事態が生じている。そのため、補佐予算によって何とかしようという考え方があるのは当然なのだろうとは思うが、先ほど申し上げたとおり、日本国債に対する信認も非常に厳しい状況になりつつある状況を考えなければならない。個人的には厳しい状況だと思っており、そうした状況下では、やはり民間(企業)がもっと投資できるような環境づくりを進めていかなければならない。一方で、一定の対象者を決めて、高額所得者などの政策的な意味の乏しい方々は対象から必ず外し、本当に(政策による支援を)必要としている方々へ届く仕組みを作るためには、納税している方々が対象となる減税よりは給付金という議論はありうるのかもしれない。しかし、財政規律についてしっかりと明確なコミットを行わなければならず、無駄の多い社会保障分野について(応能)負担にするなど、何か(に財政支出を)行うならば、何か(無駄な歳出)を減らすという姿勢を明確に示さなければ、国債(に対する信認)が厳しくなる可能性が高まる。米国が直面している課題は日本にも共通する課題であり、(財政規律へのコミットは)しっかりと行わなければ大変厳しい事態になると思う。この点を市場は非常に敏感に見ており、甘く見るべきではない。このまま何も考えずに歳出を拡大すると(市場に)判断された途端に、日本国債への信認は大変厳しい事態になるため、ぜひとも(与野党には)何かに支出するならば何かを減らすという姿勢を明確に示してもらいたい。

Q:トランプ政権については、関税問題だけでなく、これまで米国のソフトパワーを支えてきたUSAID(米国国際開発局)の廃止が波紋を広げている。内政干渉になるため米国内の歳出について発言しにくいかもしれないが、日本が言うべきことや新浪代表幹事のお考えを伺いたい。

新 浪: 言論の自由であり、(日本がUSAIDについて)発言すること自体に差し支えはないと思う。私はUSAIDを廃止したことは(トランプ政権の)最大の失敗だと思っている。米国が備えている「自由」という考え方の素晴らしさを喧伝し、多くの国々を助け、人権(尊重)を進めるうえで最大の失敗だろう。しかし、米国にこのことを指摘して(USAIDを)戻すという議論を行うよりも、日本の活動は高く評価されているため、JICA(国際協力機構)やTICAD(アフリカ開発会議)などをもっと強化して(USAIDが失った)穴を埋めるという役割を果たすことや、インドをはじめとするグローバルサウス諸国との関係を一層強化して効果的な(活動とする)仕組み(を考えるべきだ)。同時に、日本企業も考えなければならないことは、原材料やレアメタルをただ輸入するという発想ではなく、生産国で付加価値を高める取り組みにもっと協力し、グローバルサウスを中心とする国々に雇用が生まれる仕組みを整えていくことが必要という点だ。(グローバルサウス諸国に)進出している中国に対し、各国で日本企業が雇用機会を作り、人材育成を進め、付加価値を向上させる仕組みを日本は整えるべきであり、JBIC(国際協力銀行)などの政府機関が(民間企業の活動を)促進する体制を作って(民間企業が)カントリーリスクを取りやすくなる仕組みを作ることが重要だ。米国が抜けた部分を日本が補うとともに、ソフトパワーを活用して日本の国益を高めていくチャンスでもあると考えており、(日本政府には)ぜひ取り組んでもらいたい。

Q:先ほど社会保障は無駄だらけで応能負担を徹底すべきというお話があったが、年金改革法案の提出時期が中々決まらない状況が続いている。5年に一度の年金改革がこれで頓挫するという懸念もあるかと思うが、本法案を巡る動きをどのようにご覧になっているか。年金法案にはおそらく厚生年金の適用拡大や在職老齢年金等の企業の人手不足解消に繋がる改正項目も色々あったかと思うが、これが進まない現状をどのようにご覧になっているか伺いたい。

新 浪: これはもう是非とも進めなければならない。とりわけ在職老齢年金をはじめとして今の時代に合った年金(制度)に変える必要があるため、早急に議論していただきたい。ここは待ったなしだ。そしてまた年収の壁にも関わるため、是非とも年金の大きな議論を行うことによって、国民も議論の中にいろいろな形で参加していただくことが大変重要だ。私達(経済同友会)は第3号被保険者制度を無くして第2号被保険者(へ移行し、第2号被保険者の保険料負担を低減するべき)という議論をしている。この議論が止まってはならず、早期に(改革することにより現役世代の働く意欲を高めて)ここは(老後の年金制度への)安心材料にもなる。また人手不足にも関係し、高齢の方が働いてもある一定のインセンティブがある仕組み(在職老齢年金)も大変重要だ。まさに昭和の時代にできた制度を令和に合った形に直すという1つの大きなポイントであるため、早急に議論していただきたい。必要であれば法案を直せばよいと思うため、まずは一歩進めていかなければならない。

Q:自民党の資産運用立国議員連盟が高齢者向けのNISAについて提言を発表予定だ。金融庁も高齢者向けNISAの導入に向けて検討していく方向だが、このような高齢者向け(制度)については長期保有で投資のリスクを下げることが難しい等賛否両論あると思うが、どう考えるか。

新 浪: まずNISAを拡大していくことは大いに結構だと思う。ただ現在のように株式が一気に下がると皆さん(の投資意欲)が引いてしまうため、長期に保有してくださいというのは大いにある話だと思う。資産運用を怖がらず、しかしすぐさま何かメリット(利益)を得るのではなくしっかりとやるものだという1つのメッセージでもあるため、私は早期に対応を考えたことはよいと思う。確かにこれほど急にそれもいわゆる個別企業のパフォーマンスではなく、米国の大統領が引き起こしたこと(トリプル安)のため、何かしらの(資産運用を促す)手をこのような形で打たないといけないのだと思う。ただ本当に資産運用立国になっていく道はまだまだ険しいため、あの手この手を考えていかなければならないと思う。その意味で若い方々が(金融商品を)持ってそれでマイナスになった、困ったなと(感じている)ことも先程のいわゆる景気が冷えている(と国民が感じる)1つの大きなポイントにもなるわけで、何かしら手を打つということだ。ただし、やはり資産運用にはリスクもあるため、それも理解して政府の掲げた資産運用立国(の方針)を曲げないようにしっかりとやり抜いていってもらいたいと思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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