新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
記者の質問に答える形で、2025年春闘、トランプ政権における自動車関税、エッセンシャルワーカーの特定最低賃金、石破首相商品券問題、オワハラに対する政府要請、韓国外相との会談所感、また日中韓外相会談ならびに日中ハイレベル経済対話への期待について発言があった。
Q:先週、春闘の集中回答日および連合による第一回目の集計結果の発表があり、(平均賃上げ率は)5.46%という高い水準だった。特に中小企業においては、33年ぶりに5%を超え、3カ年連続での高い水準となったことについての所感を伺いたい。また、中小企業が高水準となったことについて、どのような理由が考えられるか。そして、これらを持続させるためにはどのような政策が必要であるか。
新 浪: 全体として言えることは、人手不足の対応が大変重要ということが十分認識されたということ(の結果)だと思う。とりわけ、中小企業の場合は、人手をしっかりと確保するためにも(賃上げが必要だと認識された)。連合は(中小企業に対し、賃上げ)6%を目標にしていたが、5%超は大変良い結果であると思う。人手不足が大きな課題であり、インフレが課題である。インフレが継続される中で従業員にきちんと報いていくことを行わないと、人手を確保できないという認識なのだと思う。これらを継続するためには、当たり前であるが生産性(が重要)である。生産性(の向上)には、さまざまな手法があるが、(どの手法であれ、生産性向上が)できる企業とできない企業においては、人材が集まってくれるか、もしくは残ってくれるか(という点で大きく異なり)、会社の存続にも関わってくると考える。
Q:4月2日に予定されているトランプ政権における自動車関税について伺いたい。日本自動車工業会の片山正則会長は、対象から除外されるのは難しく、実際に(関税を)課された場合に、生産調整も予測されると述べた。550万人以上の就業人口である自動車業界への懸念と、どのような対策を取ればよいか、代表幹事の考えを伺いたい。
新 浪: まず、(関税を)回避できないことを前提に、プランを練るべきだと思う。どの国に対しても例外措置を取らないというのが、今の(米国の)スタンスである。仮に回避できたとしたら、それは良かったとなるが、回避できない前提で、何ができるかを考えるべきである。雇用の問題もあるため、日本としては回避すること(を考えるの)ではなく、どのようにすれば付加価値の高い商品を米国へ売ることができるか、同質競争を避けることが、各社の戦略となっていくのだと思う。米国における収益性をいかに維持するか、このようなことを考えていくこと(が肝要)であると思う。懸念事項は、(むしろ)非関税障壁であり、これについて政府はより議論をすべきではないか。(しかし、)どれが非関税障壁なのか(を明確にし)、定量化することは難しい。欧州の自動車は(非関税障壁があるとしても、日本国内で)売れており、マーケディングや日本に合った商品設計などが必要であるとも言えるからだ。日本は自動車に対する関税がないため、むしろ非関税障壁に関しては、断固たるコミュニケーションをすべきである。ちなみに、数は多くないが、(米国の)ジープは(想定よりも)4倍程度売れている。やはり、日本の消費者にマッチした商品は、売れているという実績もきちんと説明すべきだと思う。
Q:先日国会で、石破首相からエッセンシャルワーカーに対して高水準の最低賃金が設けられるように、特定最低賃金の導入を検討するという表現があった。経済同友会では、今年の年頭見解において、代表幹事から当課題についての言及があったと思う。首相の発言について、与党内でも検討が進められることになっているが、この受け止めを伺いたい。
新 浪: 大変的を射たご提案だと思う。早々に特定最低賃金を設定して、エッセンシャルワーカーの皆さんが、より賃金、いわゆるやる気(が出る環境を整えていただきたい)。またエッセンシャルワーカーは、明らかに(人手が)不足している(状態にある)ため、今後エッセンシャルワーカーになりたいという方々を触発するような(水準での)設定をぜひしていただきたいと思う。
Q:石破首相が1期生議員に商品券を渡していた問題は、岸田前首相(の時代以前)にも(同様の事例が)あったのではと報じられており、かなり国会でも論争となっている。(経済同友会では)政治資金の提言(経済同友会 政治・行政改革委員会『政治資金の徹底した透明化を~国民が信頼できる政治の実現に向けて~』2025年3月11日)を出されたということも踏まえ、現状についての受け止めを一言お願いしたい。
新 浪: お金と政治(の問題)が大変取りざたされているタイミングでもあり、そのような金銭感覚に対しての配慮がなかったことは、大変残念であると(感じている)。本会としては、早くお金と政治の問題は解決して、先(の議論)へ進んでいただきたいと考えていたため、残念である。そうした中にあって、先ほど申し上げたエッセンシャルワーカーをはじめとした経済の足を引っ張っているような問題については、起死回生となるような政策を打ち出してもらいたいと思う。
Q:今の商品券の件について、私的な会合のお土産という名目で商品券を10万円配布するという点が残念であるとのお話であったが、この件について、国民の感覚とかけ離れていると感じるか。
新 浪: 10万円という金額は(国民の感覚から)乖離すると思う。この金額は決して低い金額ではない。そういった意味で残念だなと思う。
Q:来年の就職活動について、政府より(企業が)内定を出した学生に対してオワハラ(就活終われハラスメント)の防止を徹底するよう経済団体へ要請したと報道されている。代表幹事の見解を伺いたい。
新 浪: 経済団体が提案した以上のことはない。学生が勉学や学生生活を十分に楽しむことができず、就職活動に邁進せざるを得ない状況をむしろ解決する必要がある。そのためには、通年採用の拡大を進めると共に、4月1日に一斉に就職活動を開始する仕組みを始めとした採用の全体像を見直す必要がある。近年、中途採用の増加により、採用全体の状況が変化している。また、新卒の就職活動をどのように捉えていくかは別の観点から検討する必要がある。
Q:「趙兌烈(チョ・テヨル)韓国外交部長官と経済団体長の懇談会(3/21)」について、どのような話題があり、意見が一致した部分などはあったのか。
新 浪: 現在の地政学的な状況を引き起こしているトランプ政権下では、従来通り米国のサポートを前提としたアジア地域の安定が保証されるとは限らない。この認識の下、日韓がアジア地域の安定を志向すべきであるという点について、合意が得られていると考えている。アジア地域の安定があってこそ経済活動が可能になるため、両政府が政治的に不安定な状況だが、関係性を後退させることなく、日韓国交正常化60周年を契機に、共通課題に関する議論やエネルギーなどの分野への投資に協力することについてコンセンサスが得られたと思う。今後、そのような方向に進んでいくと思っている。
Q:今週末に、久しぶりの日中韓三カ国外相会談ならびに日中ハイレベル経済対話の開催が予定されている。日韓両国の政治情勢が安定していない中での開催となるが、対話の意義や期待する成果について見解を伺いたい。
新 浪: 特に中国との対話に関しては、以前はそれなりの頻度で行われていたが、米中関係の緊張感が急速に増してきた途端に、日本と中国との対話も少なくなっていった。韓国も政治的に不安定な状況にあるとしても、私は(日中韓三カ国の)ダイアログ(対話)、コミュニケーションは常に行っていなければならないと考えている。日本側がどういう状況であるとしても、中国側は常に(共産党)支配のもとにあるが、常にコミュニケーションを行うことが必要であり、どこかの時期に習近平国家主席と石破茂首相が対話をすることが実現すれば良い(と期待している)。やはりトップ同士のコミュニケーションが地域の安定には大切であり、意見の相違は必ずあるが、その中でも(両国のトップが)会って話をすることが重要であり、その前段階にあたる外相会談などもとても大切だ。中国は隣国であり、米国が見ている中国と日本が見ている中国は違うため、より良いコミュニケーションを増やしていくべきであり、政治だけではなく我々民間もコミュニケーションを取っていくことが必要だ。ただし、民間の場合、中国は政治と経済が分かれていないため、日本側の要望と中国側の要望(をそれぞれ伝えるだけ)となる。しかし、日本国内の政治状況に関わらず、(日中間の)コミュニケーションは絶え間なく行っておくべきであるが、今まで少し機会が少なかった。本会ももっと中国を訪問しなければならないと(考えており)、昨年11月に続いて今年も訪問する方針であり、中国の状況をつぶさに見てこなければならないと考えている。中国からの多数の旅行者が日本に来られており、我々(日本人)も実際に中国を訪れて(状況を)肌身に感じることが必要だ。中国経済が悪化することは世界経済にとって良いことではない。お互いに切っても切れない関係にある以上、中国との関係を深めることは非常に重要である。
Q:本日開催された趙兌烈韓国外相と経済三団体長との会談の冒頭、新浪代表幹事から、安全保障面で米国に依存しすぎるべきではなく、日本と韓国はオーストラリア、フィリピン、インドを巻き込んだ有志国の連携を強化する必要があるとの挨拶があった。これらの国々の名前をあげられた背景を伺いたい。
新 浪: これら各国は近隣諸国の中で民主主義国家であり、地域の安定にとって重要な国々として申し上げた。その他にも友好国(との関係強化)も重要と述べたが、それは恐らくEUになると思う。経済安全保障というものにはしっかりとした枠組みが必要であり、それがあることで、対峙する中国を中心とした国々との関係が構築されると考えている。それぞれ各国がいわゆるフレンドショアリングを進め、お互いにそれぞれの役割を果たしていく。例えば半導体も一カ国では製造できず、様々な技術や様々なパーツを集めて製造するため、(サプライチェーンの中で)どういう役割を担っていくのか(を考える必要がある)。エネルギーであればオーストラリアの役割があり、レアメタルであればそれぞれ(産出する)国々があるため、同志国が集まることで初めて経済安全保障が実現する。そうした経済安全保障の枠組みが確立されている中で、中国との取引や関係をどう深めていくかを考えることが必要だと思う。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)