代表幹事の発言

経済3団体長 新年合同記者会見 経済同友会 新浪剛史代表幹事発言要旨

新浪 剛史 経済同友会 代表幹事(幹事)
小林 健 日本・東京商工会議所 会頭
十倉 雅和 日本経済団体連合会 会長

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新年合同記者会見における新浪代表幹事(中央)

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記者の質問に答える形で、2025年の日本経済の見通し、USスチール買収阻止問題、2025年春闘の賃上げ、社会保障制度改革、政治改革関連法案、能登地震と大阪・関西万博などについて発言があった。

Q : 2024年は世界各国で大型選挙が相次いだ他、「金利のある世界」の到来や30年ぶりの水準の賃上げなど経済にも動きがあった。2025年もD・トランプ氏の米国大統領就任、参院選など、国内外で情勢が動く年になりそうだが、2025年の日本経済を占うキーワードは何か、どういう経済の見通しになるか。
また、日本製鉄のUSスチール買収計画について、バイデン大統領が中止命令を下したが、同盟国である日本企業の買収提案が安保上の理由で拒まれる異例の事態であり、日本企業の今後の対米投資への影響も懸念される。所感と対応策を伺いたい。

新 浪:(2025年の日本経済を占う)キーワードは「賃上げを社会のノルムとする」ことであり、それとともに「人材の流動化が活発となる」ことの2つではないかと思う。日本経済がどうなるかについては、やや少ないように見えるかもしれないが(実質)GDPが1%強成長し、これにより初めて需給ギャップも解消され、民主導の経済体制ができる。こういった意味で2025年は大変重要な年になってくる。いわゆる「失われた30年」を脱皮していくためには、賃金がきちんと上がっていく見通しが出来上がり、そして人材が流動化することによってますます賃金が上がっていく中で、新陳代謝も併せて進んでいく(ことが重要であり)、こうした意味で(2025年は)ダイナミズムが日本経済に戻ってくる年であると思っている。不安要素はトランプ氏が(大統領に就任されて米国の経済政策運営が)どうなってくるかだが、決して不安要素ではないとも思っている。1987年に出版された自叙伝を読むと、(トランプ氏は)攪乱作戦を意識しており、とにかく相手を混乱に陥れた後に(有利な条件を)引き出す。良いか悪いかは別にして、(トランプ氏は)そういう手法を用いる(人物だ)。その中では、日本が米国に対して世界で最も多額の投資を行っており、(米国内での)モノづくりに貢献し、雇用を創出している国である事実を伝え、我々(日本側)は何を言われたとしてもぶれることなく、しっかりと事実を踏まえて、各企業経営者が米国との関係を考えていけばよいと思う。ただし、防衛問題については政治が国家間でしっかりとコミュニケーションを取るべき(テーマ)であり、その点では、2月に石破総理がトランプ新大統領と対話することは大変意義があり、お互いがしっかりと準備をして話ができる素晴らしいタイミング(での会談)だと思っている。日本製鉄によるUSスチール(買収へのバイデン大統領の中止命令)は、何年先かはわからないが、トランプ新政権が(日本製鉄による買収が)良いことだと考え、(中止命令を)覆す可能性はなくもないだろう。その理由は、日本以上に米国にとって良い話であるためだ。厳しい状況にある米国の鉄鋼業に日本製鉄が付加価値を提供することになるうえ、(米国)自動車産業を何とかしたいと述べているトランプ氏にとって、自動車に必須の高品質の部材を(米国内で)生産できることは自動車産業にプラスとなる。(日本製鉄によるUSスチール買収計画は)日本経済以上に米国の産業活性化にとって良い取引だが、その点を理解できない現在の米国政治の状況に疑問を抱かざるを得ない。安全保障上の理由で(停止命令が下された)とは思えない。安全保障上の懸念よりも、米国の政治情勢、クリーブランド・クリフス社とUSスチール(を合併した)日本製鉄との競争力、日本(型の企業組合)とは異なる(産業別で構成される)労働組合の影響といった問題により、非常に残念な意思決定がされたのだと思う。ただ、繰り返しになるが、米国にとって良いことは何かを最終的に俯瞰したときに、(中止命令が)覆る可能性は全くないとは言えないため、日本製鉄にはぜひ戦い抜いていただきたい。

小林会頭 :(略)
十倉会長 :(略)

Q : 2024年春季労使交渉では、2023年に続いて33年ぶりの高水準の賃金引き上げが実現した。本年の春闘に関して連合は2024年と同水準となる5%以上の賃上げ、中小企業には6%以上の賃上げを要求する方針を示している。これに対して、経営者側としてどのような方針で臨むのか。また、本年は「賃上げの定着」がテーマになると思われるが、経営者側にとってどのように位置づけているのか、伺いたい。

新 浪:経済同友会の2024年12月(第151回)景気定点観測アンケート調査では、73.8%の会員の方々が賃上げをすると回答している。そのうち、約8割が昨年と同程度以上、約2割が(昨年を)下回ると回答、加重平均すると3.89%である。少しもの足りない印象だが、これからの交渉によって、5%(以上)の方向へ進んでいくのだろうと見ており、大手企業は昨年と同程度になると思っている。中小企業においては、パートナーシップ構築宣言をしっかり行うことが非常に重要である。経済三団体が強固に、しっかりやっていくということが中小企業の(賃上げの)仕上げにつながる。中小企業の賃上げこそが、日本経済にとって大変重要な役割となる。6%が良いのかなど、今後さまざまな議論があると思うが、いずれにせよ、昨年を上回るレベルとなり三年連続(の賃上げ)となることが重要だ。今回の春闘は結構面白い交渉となる可能性がある。これまで、あまり激しい交渉が行われてこなかった経緯があるが、今後は労働組合とのさまざまな議論が出てくると想定している。とりわけ、大手企業においては労働分配率(が過去最低だった等)の話もある。(賃上げの)定着について重要なことは、約7割の(雇用を占める)中小企業にいかに定着していくかということだ。パートナーシップ構築宣言をはじめ、消費マインドが変わっていかないといけない。(賃上げの実現は)これらに掛かっていると思う。

小林会頭 :(略)
十倉会長 :(略)

Q : 社会保障制度改革について十倉会長に伺いたい。昨日の石破総理の年頭記者会見では、年金制度改革について与野党協議を進めたいとの意向が示された。経済界(日商・東商、経済同友会)や労働界(連合)が第3号の廃止を提言しており、厚生労働省も対応の方向に傾いてきている。このタイミングで、経団連も提言を出していただければと思うが、どのようにお考えか。

十倉会長 :(略)

Q : 政治資金について、昨年末の臨時国会で政治改革関連法案が成立し、政策活動費の廃止が決まる一方で、企業団体献金の扱いについては今年3月末までに結論を出すということで先送りされた。この件についての受け止めと、企業団体献金に関する今後の議論に望まれることを伺いたい。

新 浪:(企業団体献金の扱いについて)先延ばしされたことは、そうなってしまった以上、改めて論じるつもりはない。ただ、その間に議論が必要なのは、収入と支出の支出(の中身)を明確にすることだ。この点については自民党からも(案が)出されているが、企業から(資金を)受け取る場合でも、誰から得て、何に使ったのかが明確になることがとても重要だと考える。使途に秘密の部分が存在することは承知しているが、全体として使途が明確になること(が必要だ)。この秘密とされる部分は国家にとって必要なものも当然あるだろうが、それを特定する以前に、まず考え方としてすべてしっかりと支出をオープンにしていくという姿勢が重要だ。企業献金についても、使途が不透明なままでは企業側も資金を提供できない。ただし、民主国家を支えるための費用として、何に使われているかが明確であれば(意義がある)。自民党内でも非常に議論が進み、野党からも合意が得られる方向にあるので、(この問題は)良い方向に向かっていると感じる。早急にこの問題を解決し、経済活動や世界が直面している困難な状況に対応するため、この問題以上に優先度の高い他の課題に、政策議論を進められるようにしていただきたい。

小林会頭 :(略)
十倉会長 :(略)

Q : 昨年は能登半島地震の直後の開催だったため、能登の復興と万博の整備の兼ね合いをどうするかと質問した。それに対してお二方は万博も能登復興も両方やれるだけの底力が日本にはあるというお答えだった。お一方は人命第一で大阪万博の延期については留保された。今一年経ってみて、災害の関連死を含めて死者が500人で、人口流出が6,000人に達しているという現状だ。なぜ6,000人もの人が流出しているのか、復興をやると言っておきながら一向に進んでいない(のは)本気度がないのか、あるいは知恵がないのか。やろうと思えば、例えば洋上の風力発電や船上の風力発電などを持っていくとか、色々なリサーチセンターを持っていくとか、あるいは諸々の半導体など、何らかのプロジェクトを持っていくことも考えられる。この現状についてどうお考えかお伺いしたい。

新 浪:問題意識としては似たようなところがあるが、ただ捉え方が少し違うと思う。現状は復興ではなく復旧のところであくせくしているという捉え方をしているが、私達経済同友会また経済団体が現状をしっかりと把握し、課題がある(と認識している)こともあり、今回補正予算の中に相当復興に対して手を入れることになった。その意味で、何事も遅すぎたことはなく、手を打つこと(復興へ向けた取り組み)はここから進んでいくと思っている。そして現地へ行ってみると、相当いろいろな企業がサポートに入っている。NPOの皆さんも相当県・町・市と一緒になって取り組み始めている。確かにまだまだ復旧の段階にあるという認識だが、非常に良くなりつつある状況は確認できている。その意味で、現政権において、政治も少し不安定なところがあり手をつけていなかった、しっかりとした必要なお金も入ってなかったという反省はあるが、今後企業も参加して復興に当たっていく。まず復旧から復興へいきたいと(思う)。また制度的にも今までのもの(設備等)を復旧させる費用は(補助が)出るが、新たなもの(最新の設備)は入れられない(補助が出ない)等の大きな問題もわかっている。それらにも対応することで、今後は相当なスピードで進んでくると期待している。(ご質問の)昨年の話だが、(我が国に)底力があることが認められたのではないかと思っている。ただおっしゃるように、少し遅れたということは事実で、ぜひとも早急に復興が進むように私達経済同友会も現地に足を運びやっている。各企業また各団体と一緒になって、より復興に向けて取り組んでいきたいと考えている。

小林会頭 :(略)
十倉会長 :(略)

以 上
 (文責:経済同友会 事務局)

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