代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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冒頭、本日公表した意見(経済同友会『将来のエネルギー・GX戦略に関する意見』2024年12月2日)について述べた後、記者の質問に答える形で、政治資金規正法の再改正、賃上げや最低賃金の引き上げを巡る足元の動き、温室効果ガス削減の政府目標案、読売333、2024ユーキャン新語・流行語大賞について発言があった。

新 浪:私からは、本日公表した「エネルギー・GX戦略」に関する意見について触れたい。先の衆議院選挙の結果を受け、少数与党での政権運営が始まったが、「エネルギー・GX戦略」については、前政権からの方向性を踏襲して今後の姿を決定していくべきである。また、各計画について、年内の素案提示を石破総理が指示をしたことから、今一度、経済同友会から意見を発信することとした。まず、GX2040ビジョンについては、脱炭素と経済産業を両立するための「GXの勝ち筋シナリオ」において、織り込むべきテーマをいくつか示している。地方創生に資する電源と産業の最適配置、エネルギーを有する諸外国で「地産地消」するグローバルなバリューチェーンを構築することが非常に重要である。グリーン産業においては、ルールメイキングを主導し、特にアジアのグリーン市場拡大のリーダーシップを取っていくことが必要である。また、GXの実現には高度人材の確保が重要で、教育・研究機関との連携や外国人材受け入れ環境の整備が必要である。これらは将来の経済発展の重要な基盤になり得ると考える。さらに、少子高齢化や労働力不足など国内課題の解決を通じて、自らの意思で自らを成功に導く「課題解決先進国」である姿を示すことで、世界からの投資と優秀な人材を呼び込む基盤を築くことができる。次期エネルギー基本計画は、不確実性の高い将来においても常にアジャイルかつ柔軟に工夫を凝らし続けられる、「蓋然性(がいぜんせい)」「予見性」「具体性」のある、明確な道筋を示してもらいたい。再生可能エネルギーについては、これまで積み上げてきた設備の維持と、省庁の壁を越えた再エネ開発の一層の推進を実現してほしい。原子力に関しては、審査に合格した発電所の早期再稼働、リプレース・新増設の開始と、投資しやすい事業環境を実現していただきたい。NDC(Nationally Determined Contribution)と地球温暖化対策計画についてだが、温室効果ガスの排出量削減目標であるNDCについては、現行の削減目標(2013年度比46%削減)の実現が極めて困難な見通しであり、不都合な事実となってしまっている。それに正面から向き合って検証していくことが重要である。カーボンニュートラルの実現は世界の共通目標であるが、米国、欧州、中国、インドなどの現状や見通しを十分意識しながら、今まで以上に「したたか」に戦略を描いてもらいたい。

Q:政治資金規正法の再改正に向けて与野党の議論が先週から始まり、政策活動費は廃止すると概ね決したと思うが、企業・団体献金については与野党で考えに隔たりがあり、野党は企業団体献金の禁止を主張している。この問題に関して改めて考えをお聞かせいただきたい。

新 浪:常々申し上げていることだが、(お金が)入る部分と出る部分があり、出る部分のところで一体何が起こっているかを早く示していくべきだと思う。そのときに本当に、政策を含めてこういうスタッフが必要だとか、これだけお金がかかるということであれば、それを支援していただけるところからお金をもらってくることは決して悪いことではない。どのようなものに使われているかがあまり明確になっていない。よって必要な経費があるのであれば堂々と話をするべきである。その財源・資源として政治団体や企業があるが、今(の状況を)見ていると、どちらかというとそれぞれの資金源を守りながらやっていこう、いわゆる政党同士がお互いのメリットが合うようなところは一緒に合意していこうという議論になっているような感じがしてならない。特に政治団体だ。その意味で本当に何にお金がかかっているのか、そして何にお金をかけていきたいか、例えばシンクタンク機能のようなところ(人材)を採用して政策に(活かす)等、やはり何かしらプラスになるものが出てこなければならない。何となくそれぞれの政党のメリットで議論しているような感じがしてならない。今回、玉木(国民民主党)代表の(改正法案の)「政治団体は除く」というのはまずいのではないかというご指摘もあり、立憲民主党・自民党が悩んでいる(状況にある)。しかしどうしてもこれ(お金)が必要だと(いうのであれば)、なぜ必要かを明確に示していただきたいと思う。日本の今の経済運営と世界情勢において、(本問題を)長々と議論している余裕はない。しっかりと早期にこれ(政治資金問題)を解決していただくことが重要である。

Q:先日首相官邸で経済財政諮問会議の賃上げの特別セッションがあり、同じ日には政労使の意見交換もあり、政府は最低賃金の引き上げに向けた対応策について来年の春までに取りまとめる方針を示した。こういった賃上げや最低賃金の引き上げを巡る足元の動きについてのご所感を伺いたい。

新 浪:人材不足が極まりない状況は、経済界でも十分に認識されているが、大手企業は別にして、中小(企業)をどうするかが一番重要な問題であると私自身も諮問会議で発言している。(労働者の)7割が働く中小企業の賃金が上がっていく画をちゃんと描けないと、全体の賃金が恒常的に上昇することはない。そのためには、中小企業が労働力(の対価)を転嫁できる大手企業との(適切な)関係を徹底的に(構築)することが必要であり、(この取り組みは)まだ緒に就いたばかりだと思う。また、蓋然性・予見性という(観点)から、経済同友会は3年(以内に最低賃金の全国加重平均1,500円達成)というすごく高い(目標)を掲げている。決してできないとは思っていないが、ある一定の期間内でこれを達成するには、生産性向上を実現する必要がある。先に生産性が上がった後で(最低賃金)1,500円(へ引き上げる)というのは現実的ではなく、目標を先に設定することで、生産性向上を促すべきである。(日本の労働力の)7割の中小企業全体の生産性が向上すれば、日本の潜在成長率は1%を超える可能性が十分にある。その意味で早期に中小企業が賃金を引き上げられる仕組みを整えることが重要である。大手企業ではCPIプラスアルファの賃上げを織り込んでいるケースが多いと思うので、中小(企業)がこの課題にどう取り組むかが重要であると考える。

Q:冒頭のエネルギー政策に関する意見について伺いたい。政府は、2035年度に(2013年度比)60%削減(を軸に調整)するという案を示しているが、これは現行(目標)の46%削減の延長線上の数字である。今回のコメントでは、理想よりも現実に即した数字を示すべきだと言及していると受け取った。この60%削減という数字についての評価を伺いたい。

新 浪:(削減のプロセスや)方法論をどのようにしていくのか(ということが重要である)。先ほども申し上げたように、世界中がどのような状況になっているのかということも考え合わせながら、やっていかなければならない。(温室効果ガスの削減は)方法論によっては、産業界に対して相当な投資を強いることになる。それが、本当に良い意味で競争力になっているのか、そのような世界情勢にあるのかということも合わせながら、考えていかなければいけない。つまり、世界を見渡して現実的なもの(目標)にしていかなければいけない。最終的には、CCSを始めとしたさまざまな技術を活用しながら、削減をしなければならないわけだが、現実的に、2050年(カーボンニュートラル)、1.5度(目標)は大変厳しくなっている。むしろ、(1.5度を)超えたらどのようにしていくのか(も含め)、現実を見てやっていかなければいけない。(ただし、)日本国だけで現実を考えていくことはできないため、(世界の情勢も踏まえながら)現実的な数値をきちんと考えていくべきである。

Q:弊社(読売新聞)で先週新しい株価指数である読売333という株価指数を創設すると発表した。これについての受け止めと評価を一言いただきたい。

新 浪:333という数字は面白いが、どのような株価(指数)であれ、その中を見ていく必要がある。ただ、このインデックスは新しく、面白い(試みだと感じる)。これを活用して、例えばインデックスファンドが登場し、NISAなどで利用されるようになれば非常に良い(展開になる)だろう。活用面でそういった動きが出てきているかどうか、それを作ろうとしているのか(が重要だ)。また、日経に対して読売(の指標)を打ち出そうとしているモデルも面白いと思う。そういった意味で、333銘柄の選定基準や手法を、恣意性のない形で行うのか、あるいは経済発展を意図した銘柄選定を行うのか、こういった意図がすごく重要だと思う。できれば、(経済成長を後押しする)「上げ潮」となるようにしていただきたい。

Q:「現代用語の基礎知識選 2024ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、「ふてほど」(テレビドラマ「不適切にもほどがある!」の略称)が年間大賞に選出された。「ふてほど」にちなみ、かつては適切だったが現在では不適切とされ、ジレンマを感じられることはあるか。

新 浪:ドラマ「不適切にもほどがある!」は面白かった。質問の趣旨とは異なるが、ドラマ自体の感想として、(ドラマが描いていた1980年代)当時の時代背景の下では許容されていたが、現在では罰せられるものは多くあり、それを面白く表現していた。しかし、当時は必ず仲間がおり、仲間同士で励ましあうという(人間関係の)温かさがあったとも思う。バブル前は特にそうだったが、バブル崩壊後はそれぞれ(の企業)が生き抜くことが大変になり、個人や家族(の生活)に対して会社が当てにならなくなってしまった。(バブル前の)温かい(人間関係の)中で何か(厳しいことを)言われても、みんなで一緒になって頑張ろうという(周囲の支え)もあったと思う。現在では、組織が生き抜くのが大変な時代であり、(仲間同士で)お互いに支え合うのが難しくなっており、当時との(背景の)違いをしっかりと考えなければならないと思う。社員旅行を復活させる(企業が増えている)ことに良い意味で驚いているが、社員同士が交流する機会を何かしら作らなければならないという認識――英語でbondingと言うが――がもう一度戻ってきているという印象を持っている。今までは(積極的に関わると)パワハラと言われてしまうのではないかとの不安があり、避けようという面があったが、人への投資を進めるためにはやはりコミュニケーションが重要だと(の認識が広がり)、単なる研修だけではなく様々な方法でお互いを理解し、メンタルヘルスが課題となる中で、皆で助け合わなければならないという動きも出てきている。当時から現在へと時間が進む中で、もう1回(仲間で)お互いに助け合おうという方向へと変わってきたのだと思う。怒るのは愛情があるからだが、怒った後には必ずフォローをしなければならない。怒った後のフォローの重要性や、怒る相手である部下に対する思いを持っていることの大切さは、当時も今も変わることはない。ただ、自分自身が昔とは違う物言いをせざるを得なくなっていることに、若干寂しさを感じることはあり、もっと突っ込んで厳しく指摘する方が、相手にとって本当は良いのではないかと思ったりすることもある。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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