新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
冒頭、本日公表した意見(経済同友会『新政権に望む-日本経済の構造転換にむけた経済財政運営-』2024年11月12日)、代表幹事中国ミッション、のとマルチセクター・ダイアローグについて述べた後、記者の質問に答える形で、米国大統領選の結果、年収の壁、中小企業支援の障壁、首班指名選挙における無効票、政治資金問題について発言があった。
新 浪:(本日発表した)『新政権に望む-日本経済の構造転換にむけた経済財政運営-』について要点を説明する。今回の(衆院選の)結果を見ると、有権者は政治資金問題に対して大変な怒りを覚えて(いることは明らかで)、政治不信を何とか払拭しなければならない。速やかに(政治不信を)払拭することにより、(継続的な賃上げの実現などで)良い状況になってきた経済がインフレによって消費も(弱含みに)変わってきてしまっているなかで、経済政策を実施しなければならないが、政治不信があると(政策論議が)なかなか進まない。そのため、早く払拭していただくことが重要である。(その上で)まず何と言っても、国民のウェルビーイングを高める国家ビジョンをしっかりと掲げていただきたい。そのためには、私も経済財政諮問会議で何度も申し上げてきた通り、可処分所得をしっかりとサステイナブルに高めていくことが重要である。その第一歩が賃金であり、さらに実質賃金、可処分所得へとつながっていくため、可処分所得を恒常的にしっかりと上げていくというビジョンを掲げてもらいたい。併せて、年齢に関係なく生き生きと働ける社会づくりに取り組んでもらいたいと申し上げてきた。現在、経済のダイナミズムが回復していく可能性が高い状況にあるため、こうしたビジョンを掲げることで、どういう目的で(諸政策を)行っていくのか(を国民に示してもらいたい)。民主動の経済への転換はこれまでの失われた30年の中でなかなかできなかったが、(現在は民間の投資)資金もある以上、経済のダイナミズムを回復していくことが非常に重要である。その際に間違えてはいけないのは、デフレ脱却の掛け声の下、財政政策を行うことである。インフレの現状に即した経済政策を考えるべきであり、財政支出についてはやはり良い効果が見込まれる政策をしっかりと見極め、効果のない財政支出は取りやめるワイズスペンディングを旨として行っていくべきである。また、消費者物価指数(CPI)を必ず上回る賃上げを行うためのノルム作りも推進していく必要がある。そうした(持続的な賃上げ)中でも可処分所得をあげていくためには、社会保障分野における保険料負担が増加し、後期高齢者負担金が増加していくといった(税金と異なり負担が見えにくい)裏側から課されている負担をきちんと説明できるものとしていく必要がある。今まで、現役世代がより多く負担している状況を変えていくことが必要であり、昭和・平成期に形成された制度が疲弊しているため、令和の(経済社会)環境に応じた制度へと変えていくことが可処分所得を高めていくために必要だ。ただ、この応能負担をめぐる議論はずっと行われてきたが実現してこなかった。政治に対する不信があり、有権者が現政権・現与党では(改革を進めることが)難しいのではないかと考えている中では、政治改革とセットで取り組んでもらう必要があるのではないか。(デフレから)インフレに(経済の基調が)転換した今、これまで保険料負担の方が(賃金よりも伸びが)大きかった状況を早く解決する必要がある。エネルギー対策も重要であり、(ガソリン等に対する補助金総額の)予算が7.1兆円に達しているが、モラルハザードにならないような政策の運営が必要であり、(家計負担額が)安ければ良いというものではなく、やはり日本の持っている原子力などの重要な技術をもっと(内外に)活用できるようにすべきであり、もっと安定的で低廉なエネルギーが必要だという国民的コンセンサスを形成する必要がある。電力需要がこれから増加していくと予想されており、この増加に対応できるエネルギー(供給体制)が必要である。さらに、人口減少が進む中、地方創生も全ての地方自治体を活性化することは現実的に難しくなっているため、地方創生(交付金の倍増により)予算を増やす方針が示されているが、(交付金を活用して各自治体が)何をしていくのか、まちづくりをどう進めていくのかについてリアリティを備えた議論が行われなければ、今まで通りに過疎化が一層進展し、東京一極集中は解決されないのではないか(と懸念している)。そのため、30万人以下の中規模自治体の活力を高めるために、自治体間の連携を進める政策をしっかりと進めない限り、予算を支出しても徒労に終わってしまう可能性があると心配している。社会保障(改革)についても意見を述べており、「年収の壁」を早く取り除かなければならないが、支援強化パッケージはどうなったのか(を政府に伺いたい)。厚生労働省が「106万円の壁」をなくす方針だと急に報道されており、支援強化パッケージに関する言及がないまま、突然、可処分所得が下がる議論が出てきたことに驚いている。(年収の壁とその背後にある社会保障制度全体について)丁寧な議論を行っていただきたい。(社会保障制度と)可処分所得に関しては、現役世代が負担する後期高齢者負担金が毎年増加しており、(税金と異なり負担が見えにくい)裏側で課せられているが、十分に議論されないままに決められてきたため、見直しの議論を行わなければならない。高齢者が増加していく現状では、医療費が増加していくのは自然なことではあるが、その際にいかに無駄な支出を抑え込んでいくかが重要である。そして、(高齢者の医療費を)誰が負担するかという点については、現役(世代)だけで負担するのはもう無理が生じているため、もっと資産を有する方々に負担いただくという大きなターニングポイントを迎えていると思う。(社会保障制度改革の)中での「年収の壁」について、第3号被保険者を今後どうしていくのか(を国会で議論して欲しい)。本会では、(年金)制度をしっかりさせるために(第3号被保険者を)廃止する方向性で(改革を)進めるべきではないかと考えており、そのための様々な制度改革を今後提言していきたい。また、社会のDEIをしっかりと推進するために、選択的夫婦別姓制度を早期に導入する(必要がある)。国民の多数が賛同している(選択的夫婦別姓制度)が、なぜ進まないのか。政治が止めることのないようにお願いしたい。最後は政治改革であり、(政治資金規正)制度そのものが機能せずに(国民の)信頼を損ねたのであり、(政党)ガバナンス・コードなどをしっかりと機能させる(ように取り組み)、それがうまく機能しない場合には政党法を制定するという大きな政治改革が必要ではないかと思う。同時に、国会改革も必要であり、首相や閣僚が(出席を義務付けられるのは)重要な議論に絞り込んで(その他は)副大臣に任せることとし、世界(情勢)が混迷して将来を見通せない状況の中では、(首相や閣僚は)各国に行って情報を聴取して世界とつながりながら、米国が内向きになる中で大変重要な通商(交渉)や海外からの投資の呼び込みなどの外交を進めて欲しい。日本国を守るために外交は大変重要であり、閣僚にはぜひとも海外との繋がりをもっと持ってもらう必要がある。今回、野党が(常任)委員会(の委員長ポスト)をいくつか得たことから、今後の政権交代の可能性も考えて、国会が効果的に(審議を行い)、日本にとってなくてはならない(首脳)外交を行うことができる(国会)改革をしていただきたい。
新 浪:2点目として、代表幹事中国ミッションについて触れたい。11月3日~11月5日の3日間、約20名の経営者と共に北京・上海に訪れた。メディアや様々な方より中国について話を聞くが、中国の実情を理解することが重要だと考え、訪中した。(現地では)韓正副主席と面会し、日中交流の必要性を感じつつも、なかなか実現できていない理由や未だ懸念が残っていること(に対して)、それらを解決いただきたい(という要望をお伝えし)、非常にざっくばらんな話ができたと思う。岸田前政権の際は米国を中心に関係を深めたが、米国が内向きになる中で、もう1つの大国である中国とのコミュニケーションも重要な要素である。そのような意味で、(今回中国側と)コミュニケーションを取れたことは大変意義のあることだと思う。年に1回は同時期に訪中したい。
新 浪:最後に、11月9日(土)に開催したのとマルチセクター・ダイアローグについて、共助資本主義の実現委員会のメンバーと石川県能登地域を訪問した。復興ではなく、未だ復旧の段階にあり、依然として深刻な状況を目の当たりにし驚いた。9月に(令和6年9月能登半島豪雨により)再度被災をしているため、(復興が進み)大丈夫だと(希望が抱けると)いう状況ではない。現地視察を通じて、国や経済同友会としても更なるサポートの必要性を痛感した。(会議では)馳浩 石川県知事、泉谷満寿裕 珠洲市長をはじめ、地元の経営者や関係者、NPO、本会を合わせた約100名の参加者と議論を行った。今後は「IPPO IPPO NIPPONプロジェクト能登支援」という名称で、支援を強化し各地経済同友会とも共同しながら、能登地域の早期復旧・復興の実現に向けた仕組み作りに取り組む必要がある。(例えば)企業版ふるさと納税は(企業の寄付額が税額控除により)1割負担となる。対象期間の延長など、制度の活用により企業が参画しやすい仕組みを構築するといった工夫をしなければ、(復旧・復興は)進まないと(思っている)。(復興・復旧の支援を行う)企業もあまり多くないという実情を受けて、会議で出てきたアイデアをNPOや石川県と共に実現していきたい。また、(羽田空港から能登空港への飛行機が)1便しか発着していないため、(帰京する際は)金沢で新幹線を利用する必要がある。飛行機であれば東京から1時間程度で能登を訪問することができるため、(復旧・復興支援の観点から、移動についても)国に対して補助の必要性を強く求めることや小中高の学生との接点を持つなど、経済同友会としても様々な支援が可能だと思っている。ぜひとも、引き続き支援をしていきたい。
Q:本日公表した意見『新政権に望む-日本経済の構造転換にむけた経済財政運営-』と、10月4日に石破首相に手交した要望書と大きく変わった点などがあれば伺いたい。
新 浪:(今回の意見は)具体性を出した。可処分所得や社会保障改革など、具体的に細かく書いている。今まで(意見やコメントは)1ページにまとめていたが、(今回は)必要な事項は全て記載した。(4ページと)多くなったということは、それだけ(政治課題が)溜まってしまったということであり、政治は止まってはいけない(証左である)。これらのことから、(10月4日の)要望書に比べるとボリュームが多くなった。
Q:米国大統領選挙について、率直な感想を伺いたい。また、ドナルド・トランプ氏が当選し、いろいろ懸念事項もあると考えるが、見解をご教示いただきたい。
新 浪:(選挙結果は)正直なところ予想通りだった。米国に限らず、民主主義において現職は非常にきつい(選挙を強いられる)。なぜなら、インフレだからだ。日本もインフレが厳しいが、さらに外部要因によってデフレから急にインフレになった(ため、ことさらに日本は厳しい)。(外部要因とは)いわゆるサプライチェーンのコストが一気に上昇したことに輪をかけ、人件費(も上昇した)。米国や欧州も各地で同じこと(が起きているが)、中国だけが異なる状況にある。このような中で、民主国家としてまずはインフレを退治しなければならないのだが、世界中でインフレの退治ができていない。(ロシアとウクライナの)戦争は終わらず、次に中東での戦争も始まった(ことが背景にある)。今までであれば、米国等が戦争をコントロールする力を持っていたが、今は世界の問題を解決するリーダーが居なくなってしまった。自国で責任を持ってインフレを退治できれば良いが、これだけ世界が繋がっていると自国だけでインフレを退治できる国は無い。第一義的に、(インフレを退治できないことで)米国で現職(与党の勝利)が非常に難しかったということは、明らかである。その次に、いわゆる違法移民といった問題などがあるが、一番の問題はやはり経済であり、インフレであった。この問題は、米国だけではないため、現職がどこ(の国で)も負けてしまっている。これは、実は日本も同様な部分がある。政治資金の問題はあったにしても、これだけ物価が上がって大変な状況にあるのにも関わらず、政府はまだ「デフレ脱却」と言っている。問題は、(既にデフレ脱却とは)全然違う点にあるのだ。現職が問題をしっかり把握して手を打つことが必要だが、なかなかできない。(世界の問題を)解決する策、解決する人、解決する国がおらず、世界中で現職(与党)が負けていく中での大統領選挙だった。つまり、ジョー・バイデン大統領、そして(後継候補の)カマラ・ハリス副大統領が(いわば)現職(の立場)である。ハリス副大統領は、バイデン大統領の政策を否定したわけでもないし、副大統領として否定しようがなかった(点からも現職と見なせる)と思う。今回(の大統領選挙は)、現職がきつかったことが明確になった。予想では、(トランプ氏と)拮抗していたが、実は(現職に不満があると)思っていた人たちが非常に多くいた結果だと思う。この結果がどのような影響を与えていくか。米国は、どんどん米国の問題だけを解決しようと(していく)。過去に米国は、自由主義で共産主義との冷戦を戦い、世界のポリスとして、理念を広めていくことをしてきたが、もうそれをやる気は持っておらず、世界の大問題を解決することから手を引いていく。そのような中で、(米国は)ウクライナにあれだけの支援を出しているのは、(見方を変えれば)当事者の一部にはなりたくない、それは自分たち(米国)の問題ではなく、あなたたち欧州の問題である(ということではないか)。戦争が終われば世界にとって良いことだが、それは短期的なもので、その後まだ戦争が繰り返される可能性がある。今、経済が大変厳しい欧州で、そのような状況に耐えられるようになるのか。そうすると、ロシアがより領土拡大をしていく。このような安定感のない世界が出来ていく可能性もある。中東問題に関しては、(米国と)イスラエルとの関係が深くなると、イランとの関係が非常に厳しくなり、イランを追い込むとテロリズムが起こるなど、世界の問題がどんどん広がっていく可能性もある。一方、米国は(世界の問題に)自らが手を出すことはもう辞めていきたい。アジアにおいても、台湾(有事)については日本、韓国、場合によってはフィリピン、(それぞれが)防衛策をしっかり行い、自らの国は自ら守ってください、という地政学的な姿になっていく可能性が高いのではないか。わが国が隣国と一緒になってどのように自らの国を守る仕組みを作っていくか、これは急務である。経済面においては、大統領が決められる関税(の引上げ)はすぐ実行される可能性がある。これは米国においてインフレの材料になり、自由貿易の存在感がますます弱くなり、WTOをはじめ各国際機関がより弱くなっていく。そのような中で、日本はCPTPPやRCEPなどの枠組みをもっと強化していくことが必要である。また、RCEPのメンバーである中国においては、CPTPPに加入したいと言っているが、少なくとも(交渉の)テーブルについて話し合いをすることは必要だと思う、ただ、(CPTPPの)高水準を中国が(実現)できるのかという点に課題があるが、各地域における自由貿易そして投資を、国を越えて行える仕組みは、日本がリーダーシップを持ってやっていく必要がある。また、インドをはじめとしたグローバルサウスとの関係も強化していく必要がある。米国が(世界のリーダーから)抜けていく中で、日本が果たす役割はますます大きくなっているが、政治の安定無くしてはできない。世界の状況に鑑み、早く政治資金問題を解決して、(国内)政治の安定を図っていただきたい。
Q:(次期)トランプ政権について、陣容が見え始め、米国務長官にマルコ・ルビオ氏、安全保障政策担当 大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏が起用されるとの報道が米国メディアから出ている。いずれも対中強硬派と目されており、選挙中から言われていた中国に対する厳しい姿勢が見えてきた。この動きは既に株式市場にも影響を与えているが、(次期政権の)米国の対中姿勢について、新浪代表幹事の率直な人事のご感想を伺いたい。
新 浪:まず、バイデン大統領時代の対中政策も決して甘くはなく、やはり結構厳しかった。バイデン政権もある程度第1期トランプ政権の(対中)政策を踏襲しており、中国に対する(姿勢自体には)驚きはない。特にファーウェイなどへの(対応に見る)ように、今後も経済安全保障の観点からさらに厳しい(措置を)進めていくということだろう。(この流れの中で、)中国人が米国でエンジニアリングやサイエンス(の分野)を学ぶ(機会が)、より閉ざされる状況になっていくと(受け止めている)。今でも(米中間には)厳しい姿勢があるが、さらに厳しい対応が取られ、米中間の断絶の方向へと向かっていくのだろう。つまり、これまでの方向性を維持しつつ、さらに(対中政策が)強化されていくと考える。そしてそこにタリフ(関税)がプラスになっていく。こうした中で、日本にはおそらく米国(側)につくよう求められるようなことが出てくると思う。つまり、日本が(米中)どちら(側)を選ぶのかが問われる可能性がある。これはバイデン大統領時代とは異なる点である。バイデン大統領の時には、米中どちらを選ぶのかと(直接的に)問われることはなかった。(今後、)こうした厳しい選択を避けるための外交(戦略)が政権に求められる。例えばASEANの中心であるシンガポールなどは、両国のバランスをうまく保ちながら外交を進めている。同様に、インドも米国一辺倒というわけではない。しかし、日本は今(の状況で)どちらかを選ぶように言われるのは大変困るなと(感じている)。人口が減少し、経済成長もままならない中、日米安保が基軸である日本にとって、米国を選ばなければ基軸が揺らぐといった形での脅かし方も想定される。こうした(厳しい)局面において、トランプ大統領との関係をどう構築していくかは(非常に重要で)、安倍政権が取った対応から学ぶべき点があると(思う)。安倍政権は習近平国家主席とも直接会ってコミュニケーションをしている。同様に、トランプ次期大統領とも対話を重ね、中国との関係も重視することが求められる。(日本にとって)日米安全保障は絶対(的な基軸)だが、同時に中国との貿易も2割が中国(に依存している)ため、米国の次期大統領と緊密なコミュニケーションを早期に構築することが重要だ。大変難しい局面になるだろう。
Q:年収の壁の、103万円の壁と106万円の壁それぞれについてお伺いしたい。103万円の壁は、主に国民民主党の玉木雄一郎代表が求めている103万円から178万円への上限引き上げについて。手取りが増える一方で税収が減るという側面もあるが、どのように受け止めているか。もう1点の106万円の壁については、そのうち年金としてかえってくるとはいえ一時的に手取りが大きく減少する問題があり、厚生労働省も検討していると報じられているが、これについてどのように受け止めているか、2点お願いしたい。
新 浪:まず、103万円の壁については、心理的に106(万円の壁)も含めて(意識されて)いると認識している。実態としては106(万円の壁)が103(万円の壁)を包含しているだろう。そのため、103万円の壁では、そのラインを超えると負担が増えるという心理が(強く)働いており、多くの方がこの範囲で働き控えをしていると(理解している)。106万円を少し超えるだけで20万円などの大変な金額が(社会保障として引かれて)いくため、(結果的に)その手前の103万円が心理的に(大きな)壁となっている。テクニカルには超えた分だけ所得税と住民税がかかるため(103万円の壁は、大きな)壁ではない。しかし実態として、企業がこの(金額で)配偶者手当を出しているところがまだまだあるということもあり、103(万円)という(金額)が象徴的な、心理的な壁であるのは間違いない。こうした点を受けて、玉木(国民民主党)代表がこの(引き上げを)提案しているのだと(思う)。可処分所得を上げ、働く層を応援するという(意義は)分かるが、(103万円を)超えても次は106万円(の壁)があるわけで、106万円(の壁)を超えるのはハードルが高い。しかしながら(引上げ目標の)178万円(まで稼ぐこと)で高いハードルも超えて、実質収入を得ていきたいという戦術なのだろうなと思う。いずれにしても手取り収入が大きく増えるわけではないが、可処分所得は確実に増えることになる。しかしここで問題となるのは、財政需要が非常に高まっている現状で、(世界情勢を鑑みると)自国を守るよう今後迫られる(可能性がある点だ)。そうなると防衛費の増額が2%では収まらない可能性がある。これは円安もあり43兆円で済まない可能性がある。もう1つは少子高齢化に伴う財政負担が増している中で、(103万円の壁の引き上げによる)7兆円の減収は非常に厳しいものがある。この状況下では徹底したワイズスペンディングを行い、むしろ社会保障費を思いきり減らすと(いった施策が必要だ)。例えば湿布薬や風邪薬など薬の一部を保険から外すなど思い切った施策を講じなければ、この問題は解決しない。また、現在の日本の国債は87%が国内で賄われているものの、既に1割以上を海外(の投資家)に依存している状況である。こうした状況下で、短期的に(103万円の壁を引き上げることが)本当に正しいかどうかは長期的な視座に(立って)考えるべきだ。178万円というよりも、(現実的には)もっと低い水準に(目標を)置くべきだと(考える)。政治がこの点を決定するにあたっては政治の安定性が求められるため、リアリティを踏まえた金額設定も致し方ないと思う。そして、106万円の(壁に関する)厚生労働省の検討については、まず支援強化パッケージが一体どこへ行ったのか(と思わざるを得ない)。可処分所得を増やしたいといった話がある中で、突然このような議論が出てきたのは非常に不可思議で、もっと丁寧な説明が必要である。厚生労働省が(106万円の)年収の壁を撤廃することについて、本当に総理が「うん」と言ったのかどうか(も疑問である)。もし総理が賛成しているのであれば、国民との話し合いと違う方向でやっているということだ。これでは(話が)まとまらない。よって、この106万円の問題は、やはり支援(強化)パッケージをしっかりと(再評価し、)中小企業にも使いやすい仕組みへと改良し、103万円の壁に関する話と併せて国民と議論していくべきだと(考える)。そして本質的には、第3号(被保険者)の方々をどうするかという大きな議論も必要だ。私達(経済同友会)は第3号(被保険者)をなくすべきだという考えを持っているが、(それを実現するには)財源が不可欠である。こういった大きな問題の解決を通じて、働き手に働きたいだけ働ける環境をつくることが必要であり、本質的な議論を重ねて年金問題を解決していくべきだと思う。
Q:本日公表の意見『新政権に望む-日本経済の構造転換にむけた経済財政運営-』の中の「市場からの退出がやむを得ない企業への補助金など政策的支援を廃止する」という部分について、もちろん「個人に対するセーフティネットの拡充」とセットだが、全くその通りだと思う。ではいざ実現させるときに、何が障壁になっているのか、どうすれば実現するのかを改めてお聞きしたい。例えば中小企業庁のスタンスや、あるいは与野党共に中小(企業)保護のスタンスの中でどうすれば話が進んでいくのか。いざやっていただく時に何が必要で何が障壁になっているのかを明らかにしていただきたい。
新 浪:(日本の中小企業は)現在350万社ほどあるが、やはり重要なのは、やる気のある企業が、市場環境において(経営を)やりやすくなる環境を作ることだ。そして人間社会で(において)頑張っていないところはどこにでもあると思うが、そこに補助金が出てしまっている。これはフェアではない。つまり、フェアな状況をどう作るかを全て見直さなければならないと思っている。そのフェア(の観点)でもう1つあるのは下請け構造で、これは別のフェアが必要だと(思う)。フェアネスをきちんと中小企業の経営に入れ込んでいかなければならない。また、やる気があるが今なかなか(成長)できないというところ(中小企業)の支援策をどのようにしていくか(も問題だ)。例えば、IT・デジタルをどのように提供していくか、経営・会計を支援する等。私が申し上げたいのは、やる気があるができないというところ(中小企業)に対しては、きちんと支援すべきということだ。そういう仕組みを作っていくことで、(やる気のある中小企業の成長を後押しできる。)私は、日本の場合、潜在成長率を上げるのは大企業ではないと思っており、これは中小企業だと(思う)。(中小企業には働く人の)7割の雇用があり、(日本の全企業における中小企業の割合は)99.7% というこの数値そのものは横において、(働く人の)7割の方々の働く意欲と生産性が上がれば、日本は今の0.6 %と言われた潜在成長率が必ず上がり、またジャンプする(飛躍的に向上する)可能性も高いエリア(分野)だと思う。そのために、やる気のある企業がきちんとやれる(成長できる)仕組みを作るというのは(重要だ。)やはり守ろうとすれば、やる気のある企業がうまくいかない。私は過去の30年はそれでよかったのだと思う。雇用をしっかりとそこで守ってもらうと(言う意味において)。しかし、今、いわゆる人材が採れない(採用できない)から倒産する企業が増えている。それでいて、失業率が上がっているかと(いうと)、そうではない。むしろ、他のところへ行って(転職して)賃金が上がったという結果が出ている。よって、やはり人に起因するため、その(やる気のある企業への転職の)結果として賃金が上がり、やる気が起こり、そこに良い経営があれば生産性が上がる。そうすると潜在成長力が上がっていく。ここのマクロ論において、大企業を置いておいて、やはり中小企業が活力を持ったら、この国は良くなる。中小企業の活力に重点を置いて、今まで(最低賃金の全国加重平均)1500円(への引き上げ)の話も申し上げてきた。(全ての中小企業を)守ろうと思えば、(経済の)ダイナミズムを失う。人材に関しては、しっかりとしたリスキリング等のそういうチャンスが必要だ。中小企業の方々で、初歩的なもの(リスキリングのプログラム)を導入することにより、生産性が上がる企業もある。その意味で、もっとやる気のある企業にある意味では(支援を)手厚くしていくことが必要なのだと思う。
Q:先般の首班指名選挙で80票以上の無効票が出た。そういった票を投じた野党の一部の議員についてどういった意思を感じるか。あるいは無効票を投じることについてどういった意味があるのか、(新浪)代表幹事のお考えをお聞かせいただきたい。
新 浪:自分たちが(首班指名に)良しとする方がいないということなのだと思うが、大変残念ではある。意思はあるべきだ。企業経営をしていれば、人事というものにパーフェクトなものはなく、やはり自分はどちらがいいかというのは判断すべきものである。その意味では、白票(無効票)というのはよくない。どちらが良いのかは、人事なので、決めていくのが国を治めていく人たちの意思であるべきだと思う。
Q:政治とカネの問題について伺いたい。自民党が政治改革本部の初会合を開き、首相から年内にも政治資金規正法の再改正を目指そうという話があった。政策活動費の廃止も含めて議論していく、企業団体の献金の取り扱いについても議論していくということだが、この方向性についての見解は。
新 浪:方向性としてはよいと思うが、その前にお金は何にかかるのかをきちんとクリアするべきだ。私は、例えば議員達が集まって会合する費用がかかるのは当然だと(思う)。みんなが議論しなければ、1人で行動は出来ない。まして、地元の人たちを集めて話をするのにも経費がかかる。だから私はここで間違えてはいけないのは、国を預かって(国会議員としての職務を)やっていく方々は、広く意見を求め、同じ意見の人たちを集めなければならない。そのために(一緒に)夕食や昼食を取ると、お金がかかる。そのような行動が制限された結果として、必要な情報が入らない、必要な意見交換が出来ない(ことがあると)まずい。どのようなところに、そして何にお金がかかっているのかをつぶさにみんな(国民)に示したらいいと思う。堂々とこういうものが必要だ、(それは)なぜという議論をしないと(いけない)。支出の話がなく、(お金が)入る部分ばかりを話している。だが必要なものには(お金を)使うべきで、私は経営において必要なものは使うべきだと(申し上げている。)そして広い知見を持ち、その結果として国政を預かっているわけで(ある)。場合によっては、5人政策スタッフが必要だ、(それは)なぜと(いうような議論で)、こういうことに(お金が)必要だという話をもう少し堂々とすればよいと思う。(お金を)使っているものが全て悪いとは私自身は思ってない。きっとお金についてそういうふうにしないと国民は納得しない。国民が知りたいのは入るところではなく何に使っているかだ。(議論の)入口が間違えていると思う。隠せば隠すほど、(国民は)変なものに使っているのかもしれない(適切に資金が使われていない)と思うだろう。知り合いの自民党の国会議員の先生は、多くの(政策)スタッフを抱え、それにより色々な情報を集めて(おり、)これはこれで1つのやり方で(あると思う)。そのために自らパーティーを開き、お金を集めている。見ていて派手なフランス料理を食べているわけではない。だが、(国民は)何か派手なものを食べているのではないか、料亭でドンチャン騒ぎやっているのではないかと思っているのではないか。地方議員に(お金を)配って派手にやっているのだろうと。まずいところはやめたらいい。しかし、必要なところはここだと、正々堂々と(議論を)するべきだと私は思う。(資金の用途開示を)やらないから疑われるため、その前に何を本当に使っているのかをクリアにした方が(よい)。必要であれば、必要なお金としてきちんと出して、ましてや領収書を何年後に公開するという(議論が)あるが、出せばよい。そのように堂々としていればよいのではないかと(思う)。ほとんどの方は、そんな変なお金の使い方を(していない)。私が知っている限りは自民党の先生たちはみんな集まって弁当を食べながら(議論を)やっているな(という印象だ。)夕食もそんなに良いものを食べているわけではない。活動の制限にならないようなこと(議論)にしていっていただきたい。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)