代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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記者の質問に答える形で、日銀金融政策決定会合と経済環境、政治資金規正法改正案、選択的夫婦別姓制度、改正出入国管理法、中小企業の賃上げ状況、2024年度(第39回)経済同友会夏季セミナー、足元の実質賃金の状況などについて発言があった。

Q:日銀の金融政策と経済環境のことについて伺いたい。日銀は先週の会合で国債の買い入れ減額の方針を決めたが、一方で今、実質賃金マイナスの状態が続いており、円安で物価の上昇やインフレが続いている中でなかなか難しい部分があると思う。日銀が今後思い描くような形で政策転換を進めるためには、どういった経済環境がポイントになってくると見ているか。

新 浪:まず何に一番の重きを置いていくかが重要。国民生活(において)、今インフレが非常に大きな課題になっていると(考える)。デフレから急に(インフレに転換して)きたことへの対応力がそう簡単にはつかない(ことが問題だ)。今まではずっと値段が下がってきたものがいろいろな形で(上昇してきて)インフレが現実化され、そして賃金も上がってきた。しかしインフレの方が(賃金上昇より)上回っている。この国民生活(や)社会における、「生活が厳しい」という感覚、ここが非常に重要なポイントで(ある)。それに(対して)どういう政策をとっていったらよいかは、金融政策だけでは(解決)できない話(である)。よって金利をすぐに上げて、現在の円安を抑えるというのは、何かしらのプラスにはなるかもしれないが、全体的にそれだけで解決できる問題でもない。また金利だけの問題でもないと(いうことだ)。やはり円に対する実需が非常に弱いという(点が問題である)。この複雑な状況の中で、金利を上げると日銀としても、中小企業や住宅ローンなど別の観点の問題も出てくる。こういった中でぜひとも政府と日銀がどこに重きを置いて(施策を)やっていくべきかという議論をしなければならないが、私はやはりインフレに対する対応は、すごく重要な問題であると思う。また米国のFED(連邦準備制度)の発表で今日も景気の良さを確認した中で、やはりFED頼みというのも大変難しい(と感じている)。他力本願が難しくなってきた状況で、政府日銀が対応していかなければならないこのインフレの対応策が、私自身も今後インフレ(は)問題ないと言えるほど状況が良くないと感じており、実質賃金が今後どの時点でプラスになっていくか、7~9(月)の中で、実質賃金がプラスになる可能性は大いにあると思うが、課題はこれ以上円安になり、インフレの状況が悪くならないことだと(考えている)。つまり、いろいろな方々が(円相場が)160円になるのではと(不安に感じており)、この不安感をどう払拭するか(が重要である)。そのためには、多少なりとも金利は影響があるので、今回の発表は次善の策で、金利を上げる意思はあるということを植田日銀総裁はお話されたのだと思う。その意味で、今後早期に手を打つ必要がそろそろ出てきたと思う。ただ、これで国民のインフレに対する懸念、生活の苦しさはすぐさまには払拭し得ない。いきなり(金利が)跳ね上がるようなところまでは手は打てない(だろう)。ぜひともある一定の(円相場が)160円(に)ならないよう抑えられるように、物価対策を政府日銀で一緒になって考えていただきたい。(今は)非常に難しい状況にあり、私自身もすぐさまに解がない。もう一つ言えるのは、海外から国内にもっと投資を増やしてもらう(ことである)。サントリーも相当(海外に)投資をしており、それが日本に投資(として)戻ってくる(ことが必要だ)。そのためには私は今回の骨太(の方針)の(原案作成の議論の)中で相当申し上げたのは、柔軟性がすごく重要だと(いうことだ)。投資を早くしてもらい、円買いが進むように、日本にどんどん投資をしやすい環境を(作って)いくべきだと(考える)。そのためには、大幅な減税や人材獲得のためエッセンシャルワーカーの方々(に)海外からゴールデンビザを出すなど、今回の法律によって行いやすくなった施策を早期にやっていく(ことが重要だ)。しかし、このとき注意が必要なのは、同一労働同一賃金(の実現)やエッセンシャルワーカーの賃上げでこの循環を行わないと、国内の投資が進まない。サントリーのように日本の企業で海外に資産を持ち、それを日本に持って帰って日本に投資(する要望のある企業や)、海外から投資をしたい(企業が)もっと投資しやすい環境を(作るべきだ)。もう一つはシンガポールのEDB(経済開発庁)、つまり投資庁のようなものを早急にタスクフォースでも何でもいいので、国内投資のためのワンストップショッピングの機関を早急に組成(するなどにより、)実需が生まれる予見性を作っていくこと(が重要)だ。長くなったが、それだけ政策がいくつか重ね合わないと、現状の国民のインフレに(よる)将来への厳しい(感覚が)払しょくできない。今のような循環によって賃金が今後とも上がっていく予見性が見える(ようになる)こと(を期待する)。

Q:政治資金規正法の改正案について、2点伺いたい。1点目は、経済同友会は政治資金の支出の可視化や政治活動費の領収書を含めた速やかな公開がなければ、(政治資金規正法の)見直しもやむを得ないという考えだった。自由民主党が中心となって取りまとめた改正案について、そうした考えに基づき、どのように評価されているのか。2点目は、今国会で不成立となった場合、政治不信が一段と高まるのか。あるいは政局問題に至るかを含めて所見を伺いたい。

新 浪:第一に、今回は始まりの始まりである。改正案の成立有無は別として、入口の議論をしっかりと行う必要がある。(例えば)パーティー券購入者の公開基準を5万円超に引き下げることや10年後に(使途の公開義務のない政策活動費の領収書を)公開することについて、特に後者はさらなる議論が必要だと思う。本会でもパーティー券購入者の公開基準について、5万円超ということを提言(経済同友会 政治・行政改革委員会『政治不信の解消に向けた政治改革~改革のモメンタムを高めるための5つの提言~』2024年5月10日)している。今後、支出の詳細を公開するためのルール作りを早期に着手する必要がある。国民が注視しているのは、(政治資金が)何に使用されているのかというところである。自由民主党だけでなく、政党に対してお金を何に利用しているか(分からない)ということが(国民の)不信感の根底にあるのではないか。(政党が)資金を不正利用しているとは考えていないが、国民はその点について疑問を抱いていると思う。「政治には金がかかる」という一言が昔から言われているが、一方で何に使用されていたのかが明確になっていない、これに尽きる。(不信感の払拭に向けて)例えば、政治家だけで勉強会の開催や有識者と議論をすることもあるだろう。このようなことがあって然るべきであり、議論なくして政策はできない(と思っている)。(議論した内容を)まとめるには秘書が必要であり、議員についても地方の議員などもいる。もう少し大枠で(議論を行い)、国民に(政治に対する不信感を)払拭するために、変な使い方をしていないと(発信する)。米国の政治家に比べて日本の政治家は金銭面について、非常に真面目に対応されていると思っているが、(何れにしても使途の)可視化が必要であり、どの程度可視化するかをこれから議論しなければならない。そうした意味では(改正案は)第1ステップだと思っている。別の観点では、より大きな金額である予算も可視化が必要である。だからこそ10年間、EBPMの重要性を申し上げてきた。目的と合った形でどのようにお金が使用され、かつワイズスペンディングとして効果のあるお金の使い方になっているか(が重要である)。骨太の方針2024(の原案作成)ではEBPM(の徹底を訴えた)。データを提供する側は非難されやすいが、データがあって初めて議論することができる。本会では政治資金に関しても相当提言を申し上げてきたが、いわゆる補正(予算)に一体どのように使われて何が起こったのか、一般会計についても同様である。こうしたこともしっかりと見る必要があり、(予算などの)大きな金額についてはより効果的に使用してもらわなければならないと思っている。EBPMや可視化は国民の信頼につながるため、重要だと思っている。今後の議論をぜひ期待したい。

Q:先日経団連が選択的夫婦別姓の提言をまとめたが、同友会でも3月に要望書(経済同友会 社会のDEI推進委員会『選択的夫婦別姓制度の早期実現に向けた要望』2024年3月8日)を出している。法制審議会が答申から30年近く動いていないテーマである中で、改めてこの議論を前に進めるために何が必要と考えるか、また経済団体がこういう要望書をまとめる意義をお聞かせいただきたい。

新 浪:私どもは、(夫婦同姓しか選択できない現状は)大変不都合があると思っており、やはり昔ながらの一つの姓を選ばなければいけないという非常に不都合なことがずっと行われてきて、それが放置されたままであった。そのような中で日本も新型コロナウイルス禍からあけて、より積極的に物事をやっていこうと(考え)たときに、残された課題がまだたくさんあると(いう話となった。)とりわけ女性の皆さんにも、もっともっと社会に出て活躍していただきたい、そのときの不都合をどうやって取り除いていくか、これは政治が前向きに解決をしないのであれば、私達経済界がもっとものを言っていかなければいけない。そしてまた、私達の働く仲間の中に多くの方々が(選択的夫婦別姓の制度がないせいで)不都合を感じているわけなので、これを早期に解決してもらいたいと(考える。)むしろ私は、これは経済界が大きな声を一つにして、(声を)上げていくことであると(考えている。)今回の経団連さんがお話されたことと本会が考えることは同一のため、ぜひとも一緒になって進めていきたい。

Q:先週成立した改正出入国管理法では、従来の技能実習制度に代わる育成就労制度が設けられ、特定技能の習得によって実質的に永住も可能となった。しかし、現在の円安下で日本での就労を希望する人材がいるのか、外国人材が増加することで国内の雇用環境はどうなるのか、という懸念もある。2027年までに施行されるにあたり、新浪代表幹事の課題認識を伺いたい。

新 浪:ビッグピクチャーとして、海外の人材に日本のコミュニティに入っていただくことが考え方であり、どうやって実現するかという議論をもう少し行う必要がある。東京などでは隣に住んでいる方が分からないという状況もあるが、(日本では)コミュニティを大切にするという(文化や社会風土が)元々存在している。海外の方々が入ってきて永住をしてもらうことはプラスであり、異なる因子が加わることが先端科学技術(の研究開発)を進める上でも非常に重要である。また、(海外人材には)エッセンシャルワーカーとしても大変重要な役割を担っていただくことになる。その際、どういう社会を私達は一緒に作っていくのか。例えば、言葉の問題やゴミ捨てのルールなどのコミュニティのルールをきちんと守っていただくための方法論をどのように考えていけばよいのか。米国や欧州の事例をそのまま適用するのではなく、日本として、どうあるべきかをしっかりと議論しなければいけない。(改正出入国管理法が施行される)2027年までに、どういうコミュニティを形成していくかという(国民的)コンセンサスに向けた大きな議論が必要だ。本会としても議論を深めるため、プロジェクトチームを組成したところであり、私も参加して検討を深めていきたい。育成就労制度を設けても、新たな制度が混乱を招く要因になってはならないため、国民の間にそうした(混乱が生じるという)イメージがあるならば早く手を打つ必要がある。(海外人材に来てもらうことは)ウェルカムだが、(受け入れにあたっての)対応を行う体制を整備する。(海外人材を受け入れるのは)人件費が高いか安いかという話ではなく、社会的コストが発生する。既に関東圏でも受け入れが円滑に進んでいる地域があり、家族の教育などを適切に行われている例がある。こうした事例に基づいて、日本に永住し、日本人になっていただくためのインフラ作りを、学校の先生をはじめとするソフトやハードについて、すべて対応できる体制を整備していくことが必要だ。日本に来ていただきたいが、私が何度も申し上げているのは、日本人になっていただくとは何なのかをきちんと考え、その実現に取り組んでいくべきだということだ。

Q:日本商工会議所が6月5日に発表した中小企業の今年の賃上げ率は平均3.62%であり、大手企業とは2%程度の差があった。中小企業の賃上げ率についてどう受け止めているか。

新 浪:結果的には、インフレ率に対してほぼ同じ水準であり、電気代・ガス代に対する補助金が終了する中では、何とか良い数字ではあったのではないかと思っている。ただし、中小企業にも相当の差がある。例えば、サービス業、とりわけインバウンドに対応しているレストランやホテルなどのエッセンシャルワーカーと言われる方々などは、(賃金が)かなり上がっている。そうではない(製造業の)いわゆる二次・三次の下請け(企業)の方々とでは、差が大変大きくなっていると思う。こうした状況をきちんと把握していかなければならないと思っており、(引き続き手を)緩めてはいけないのは下請法(の遵守の状況)であり、しっかりと(公正取引委員会が)管理監督していくことが必要である。日本の場合、多重(下請)構造になっていることが大きな課題であり、人件費にあたるものが多重構造の中できちんと付加することができる体制(を整備すること)が大変重要である。一方、倒産している中小企業も増えていると聞いているが、多くの場合は人手不足が原因であり、その人手不足は人件費が払えないためである。下請けであるために(労務費の転嫁分を)払ってもらえないケースも多いのではないかと考えており、(賃上げ率の)平均値だけではなく、高い(賃上げを行っている)企業だけでなく(賃上げ率が)低い企業がどういう状況にあるのかを見なければならない。ただ、全体として(中小企業の賃上げは)良い傾向だったと考えている。

Q:7月開催予定の2024年度(第39回)経済同友会夏季セミナーの見どころを伺いたい。

新 浪:短期的なイシューよりも、将来にわたって日本はどうあるべきかといったことを中心に話していきたい。日本が今後地政学的にどのように生きていくべきか、また人口減少などの短期的に解決できない問題を(含め)中長期の視座で我が国をどのように新しい経済社会にしていくかを、いろいろなメンバーの方々に侃々諤々話し合っていただきたいと思っている。楽しみにしていただきたい。

Q:3月の春闘の集中回答日前付近の記者会見で、実質賃金がプラスに転じる時期について「6月頃には」と期待感を示されていた。しかし結局今はどうなのかという状況だ。インフレがまだ進んでいることによるものか、実際期待外れという状況であるのか、改めて代表幹事の今の認識を伺いたい。

新 浪:(3月の段階では)為替(円安)がここまでになっているという(予測ではなく)、つまりもう少し日銀とFED(連邦準備制度)が(金利政策に)踏み込むのではないかという大前提があった。特に後者に関しては、非常にデータがまだら模様だ。私の経営しているサントリーが展開している米国は消費が非常に悪い。(米国は)日本のGDPと同じ程度の規模のコロナ対策費を使って、多くの方々が解雇された際にまとまったお金を受け取れるようにした。(受け取ったお金が)随分銀行に残っていたものの(今は)それが無くなってしまった状況である。(預金が無くなったことによって)就職を希望する人が増加している。(また、)非常にトレードダウン、価格の低いところ(を求める方向)へどんどん進んでいる。実態を見ているとFEDが手を打つだろうと(思ったため)、パウエル 連邦準備制度理事会議長にも(その旨を)申し上げた。(ところが、)データを見ていると、決して良い状況ではないが強気のものも出てくるため、(何か手を打つことを)すごく怖がっているのだなと(感じる)。一方で、(米国は)いわゆるCHIPS法にしても、IRA(インフレ抑制法)にしてもあれだけ拡張した財政をやっている。そのようなことから見ても、実はFEDだけで対応できていないということだ。あの時(3月)はFEDも日銀もやるだろうなと(推測し)、(対ドル)145円ぐらいにはなっているのだろうと思っていた。だが今はどちらかというと逆の方に進んでいる。7~9月のあたりで、実質賃金がプラスになるとよい。為替がかなり重要な問題だと思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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