代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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記者の質問に答える形で、定額減税、自動車メーカー5社の型式指定の認証不正問題、日産自動車の下請法違反に関する記者会見、政治資金規正法、ライドシェアなどについて発言があった。

Q:今月から実施される定額減税ついて伺いたい。小売の現場ではセールの動きが出てきているが、一方で消費者の反応をみると、貯金に回すとか、ありがたいけれども(消費に回さない)といった反応が結構多い。この(定額減税による)消費の押し上げ効果をどのぐらい見ているか。また、課題があるとしたらどういった点なのか。

新 浪:私はこれをやる時(昨年定額減税の方向性が打ち出された時)に、やるべきではないという立場であった。当時に比べて円安が進行してしまったため、評価としては、現状「△(三角)」だと思っている。「△」という(評価をした)のはもう一つ理由があり、今まで消費をどうしようか悩んでいた人にとっては、実質賃金がプラスになってくる可能性もあり、(それらと合わせて)消費を押し上げる可能性はあると思っている。一方で、電気代・ガス代が(上昇して)これからきつい(生活を圧迫する)という人たちもいるため、どちらかというと精神的には厳しいと思っている。したがって、消費押し上げ効果は、政府が考えていたほどにはないだろうと思う。消費者は必ず先々(の生活)を見越すため、電気代が一層上昇するのか、円安は大丈夫かということ(感覚)なのだろう。しかし、落ち着いてくれば貯まったお金を使う可能性もあるため、「△」とみて(評価して)いる。この夏にかけて、ボーナスも(以前より)多くもらえ、7月から9月にかけて実質賃金(の増加)を実感できれば(消費が上向く)。また、中小企業はこれから賃金が上がってくるということ(状況)が出てくるため、そのような効果も他のこと(定額減税による負担減など)と合わせ技で(消費にとって)プラスになってくる可能性があり、期待をしている。課題は、これ(定額減税)が一過性であるということだ。(しかし、)政府にずっと(定額減税を)続けてほしいということではない。健康で自らが働きたいという方々がずっと働ける社会の創造が重要であり、結果として生涯年収が増えていくという実感(が持てる社会となること)が必要である。そのようなことが消費には大変重要だ。長期に向けた対策は、しっかりと官民を挙げて賃金が恒常的に上がっていく(状況を作り出していくことだ)。社会通念として、CPIが上がった分は給与も上がっていくということ(概念)が広まっていくことが必要だと思う。

Q:自動車メーカー5社(トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキ)による(自動車などの量産に必要な)型式指定の認証不正問題で、国土交通省はこのうち3社(トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機)の一部車種で出荷停止などを指示した。また、本日午前にトヨタ自動車への立ち入り検査なども行われたが、一連の不正に対する受け止めと、日本経済への影響について伺いたい。

新 浪:まず、政府への(型式指定における)申請で改ざんがあったのであれば、これは由々しき事態であり、大変遺憾である。(2023年に起きたダイハツ工業などの認証不正問題に続き)「またか」という(状況であり)、消費者や社会からの信頼を失う行為になったと思う。一方で、各社において自動車が安全で(あると判断され、消費者が)安心して乗ってもらえているのであれば、型式指定が安全・安心にどれだけ機能しているのか(という意見もあるものの)、型式指定は間違いなく重要である。(自動車にまつわる)新しい技術も出てきたため、今回を機に、本当の安心・安全は何であるのかを見て(考えて)いかなければならないタイミングに来ているのかもしれない。国土交通省は、常に(認証)基準をよく精査していると思う。だが、メーカー各社それぞれが、自動車が安全だということを主張しているところ(を考慮すれば、メーカーと国交省との間に認証基準について)何らかの乖離の可能性があるのかもしれない。安全であるものが安全でないと思われてしまうと問題である。日本経済への影響については、早期に自動車(の安全)が大丈夫であることを明確に出してもらうことが必要だ。私自身は(出荷停止の対象となる)車種も限られているため、(日本経済に)大きな影響はないと思っているが、今後の立ち入りで新たな事実が発覚すれば、本当にとんでもない(影響を及ぼす)ということになりかねない。メーカーが主張している安全性が実際には安全ではない、ということはないだろうとは思っている。したがって、日本経済に与える影響は、車種が限られていることやバイクもふくまれていることもあり、ダイハツ工業(の品質不正問題の時)ほど日本経済に与える影響は大きくないのではないかと予想している。

Q:5月31日に行われた日産自動車の下請法違反に関する記者会見について伺いたい。会見ではテレビ東京の(公正取引委員会の勧告後も法令違反があった疑いがあるという)報道に対して、直ちに下請け法に違反する事例ではないと説明しているが、取引先から不満があることは事実だと認めている。法令違反ではないということも踏まえ、日産自動車の対応は十分だとお考えか。調査も社内調査に留まっており、取引先に対しては(調査が)進んでいない。こうした状況を踏まえ、今回の対応についての考えを伺いたい。

新 浪:日産自動車の経営陣が監督責任を認めたことが、大きな(意味がある)ことだと思う。再発防止に向けて取り組みを明確に表明したことは、評価すべきである。(また、取り組みについて)全社に周知されたことが重要であり、今後の改善に向けて大変プラスな影響を与えている。下請け(企業)にとっても、(再発防止の取り組みが明示されたことは)朗報だと思っている。今後、取引の適正化をしっかりと進めていただきたい(と思う)。(依然として取引に関して)不満を持っている方もいるため、徹底して調査を行い、内田社長が表明されたことを明確に実行していただく。こうした対応が、日本の全体の下請け企業に対する(今後の)対応に大きく影響する(と考える)。

Q:先程、型式指定に関して認証基準を精査する必要があるのではないかという趣旨の発言をされたが、各社トップが昨日の会見で言及された技術進歩に伴って増加している検査の工程数の見直しが必要という考えか。

新 浪:(検査の)手間数が増えること自体は、良いことでも悪いことでもなく、ニュートラルに考えるべきだが、(技術)進化に伴って安全基準が異なってくることもあれば、新たに加えるべきものや不要な検査があるかもしれない。こうした観点から見直す(必要がある)と申し上げた。これだけAI(が進歩する)時代であり、パーツも色々と日進月歩で変わっている中、安全基準という型式(指定)を行う上で、意味がないとは言わないが、もっと重視しなければならない項目もあるかもしれない。ダイハツ工業に続いてトヨタ自動車でもこういった問題が生じており、そうした(基準や項目などの)見直しも考え方としてあってもいいのではないか。(型式指定を)通れば、(一台一台については)メーカーが検査することになっている。型式指定の検査を行うにあたり、自動車という日々進化しているものに合わせて、本当に(適切な)基準となっているか。(技術進歩に行政が)付いていくこと自体も難しいかもしれないが、合わせていくことも必要なのかもしれない。(ただし、)今回(各社の)行ったことが許されるという話ではなく、(データの)改ざんなどが実際に行われたのであれば(許されることではない)。本当に良い自動車を生産する上で必要な(型式指定の)安全基準は常に見直していく必要があるが、こうした考え方は今(市場に)ある自動車は安全だというのが前提である。(型式指定の基準に)触れてしまった自動車は安全ではないが、型式(指定)の時に(データの)改ざんがあったとすれば、(販売されている自動車は安全という各社の主張とは)何らかの矛盾があると思うが、その点はよくわからないため、(認証基準の見直しも必要ではないかと)申し上げた。

Q:昨年末のダイハツ工業に比べると対象車種数も少ないため、日本経済への影響は相対的に小さいだろうと発言されたが、5社が出荷停止となれば相応の影響があるのではないか。

新 浪:もし仮に(多くの車種で長期間の)出荷停止という事態になれば(影響は大きい)と思うが、出荷停止がどうなるかがまだ判然としていない。また、せっかく賃金も上がってきた中で、そうならないで欲しいとの希望もある。だからこそ(各社が)安全という車であれば、大きな影響がない方が良いと思っている。(出荷停止の程度が)ダイハツ工業とは違うのではないかと思うが、実は安全ではないという事態になれば大きな経済的影響があると思う。しかし、現時点でメーカー各社の説明を仄聞する限り、(対象車種が)安全ではないために(長期間の)出荷停止という事態にはならないと想定している。ただ、仮に安全ではないということになれば大きな影響が生じ、自動車(産業)だけではなく(日本経済)全体に影響が及ぶことになるが、今の状況はそうではないと私は認識している。

Q:安全性に問題はないとしても、自動車各社で型式指定を巡る不正が相次いでいる中、日本車のブランド力に対する影響をどう考えているか。

新 浪:(販売された自動車が)安全であること分かれば(ブランド力に対する)問題はないと思う。過去に生じた排ガス規制などのデータ改ざんは大きな問題だったが、今回起きたことの多くは、安全ではないにも関わらず安全だと偽装するものではないと理解している。いわゆる嘘を言ったというものの内容が重要であり、実態として、コストを下げるために必要な部品を外して安全を損ねたというものではない。日本車(のブランド力)が傷つくことはなく、トヨタ自動車をはじめ日本車の性能の良さは担保されていると思う。

Q:トヨタ自動車については、ダイハツ工業の小型車の型式の指定について今後責任を持ち、指導していく立場であったにも関わらず、類似するような認証取得にあたっての不正が見つかったが、トヨタ自動車のガバナンスの問題について伺いたい。

新 浪:(今回の)結果に対して(トヨタ自動車の)ガバナンスというのは、確かにそういうこと(指摘)なのかもしれないが、工場における(認証取得に向けた)一つ一つの作業というのは、細かく見ていかなければいけない。(今回の問題のように)起こってはいけない改ざんが起こるということは、ガバナンスをしっかりと締めていかないといけない。ガバナンスは(現場に)任せ、そして締め、また(現場に)任せ・・・。この繰り返しである。よって、こういうことが起こっていいとは言わないが、どれだけガバナンスのネジを今以上に締めるのかどうか(が重要だ)。経営というのは、この(ガバナンスのネジを)きつくする時と、少し(現場の)皆さんに任せる(時)という繰り返しであり、完璧なガバナンスはない。(トヨタ自動車は)安全な自動車を作り続けるというプライドを持っている会社であり、サントリーもそうなのだが、日本のメーカーは皆モラルを持っている。なぜ改ざんが起こったのかは承知しないが、きっと安全な自動車を作ろうということはやっていたと(考えている)。(今回の件をもって)ガバナンスが緩かったと(捉える)のではなくて、(安全な自動車を作ろうという)想いはあったのだと思う。今後は、これからの調査を見るしかない。

Q:政治資金(規制法)については、自民党、公明党、日本維新の会の3党で一定の合意が見えてきており、パーティー券の購入者の公開基準を5万円超にすることや、政策活動費の領収書を10年後ではあるが公開するという内容が盛り込まれるという話が出ている。これに対する評価と、企業側の政治への関わりに対する影響について伺いたい。

新 浪:(パーティー券購入者の公開基準を)5万円超にしたことは、経済同友会が求めてきたことと合致しており、私は政権与党が正しい方向性を示してくれたと思う。政策活動費に関しては、何に使っているのかわからないということが国民の疑問である。政策活動費は、一定の金をもらう政治資金規正法(に基づく金)とは別の枠である。(具体的に)何に政治は金がかかるのかという点に最も国民の関心があるのにもかかわらず、それを表に出さないため、きっと何か良くない金の使い方をしているのではないかと国民は非常に疑念を抱いているのだ。今まさに、日本維新の会から(使途を)明確に出していくべきだという話があり、採決が延びていると承知しているが、私はその点がクリアになることは非常に重要であると(考え)、繰り返し経済同友会も申し上げてきた。それ(金がかかる理由)がそうなのかと(認識されれば)、企業献金や個人献金も必要だと(国民の理解が)進展する。(献金する側も)民主主義を支え、また経済社会を運営するために、(政党や)そこに所属する代議士等を応援(献金)することが是となる。(使途の明確化が)逆に(献金の)賛同を得られることになっていくのではないかと(考える)。これは、与党自民党だけではなく、他の政党もすべきことである。政治に金がかかるというと、皆悪いイメージを抱くが、これをクリアにしてもらうことで、個人や企業が応援(献金)できるようになり、企業は株主に対してどのような政治や社会を応援したいという(説明責任を果たす)ことにもつながっていく。よって、議論の方向性としては良い方向にあると(思う)。(政策活動費等の議論を)逆手にとって、応援する人たちを築いていくために、金の使われ方をわかるようにすることだ。1円単位(で明確化する)という話ではないが、(一方で)政策秘書がどうしても20名必要だということもあるかもしれない。そのように(明確化をする基準をどこで)線引きをするかということは、国民が判断することである。官僚に頼らず自身で政策を作りたいという政治家やそのようなグループが立法化すれば、企業も応援するし個人も応援する。また、民主主義においては、数の論理もやはり必要だとなれば、同じ思いを持った人たちが一緒に議論する場や機会を作る際に、例えば会場費が必要になるかもしれない。しかし、(いずれにせよ使途を)出してもらわなければ、何に使われているのかわからない。正直、私は突飛なことに使っているとは思っていないが、国民が理解することがとても重要であり、(使途に対して)なるほどと思ったところに信頼が回復していくのではないかと思う。これらを乗り切っていただきたい。

Q:定額減税の制度として、給料明細に減税額を示さなければいけない。人手不足の小さい自治体や中小企業は、非常に経理の負担が大きいということだが、この点について伺いたい。

新 浪:やはり唐突だと思う。これだけの(規模の)こと(減税)があるということは、メディアやソーシャルメディアを経由して伝えれば良いし、それを理解してもらったらそれとなく話をすれば良いわけであり、(減税額の給与明細への記載は、)相当唐突感があると私は思う。そこまでやる必要についての理由は、あまり説明されていないと思う。

Q:日本版ライドシェアについて、斉藤鉄夫 国土交通大臣がタクシー事業者以外の参入について早急に結論を出すべきではないと河野太郎 規制改革担当大臣に伝えるなど動きがあった。結局、全面解禁の議論は継続となっているが、このスピード感と政府内の動きについてどう捉えているか。

新 浪:政府が2つに分かれていると思う。早期に全面解禁をしたいという意思を持っている(人がいる)一方で、タクシー会社を中心に現状の日本版ライドシェアを継続的にやると(いう人がいる)。まず、どこに目線を合わせるかが重要だ。地域(地方)に行けば、タクシーが来ないことが非常に大きな社会問題である。私が関係する飲食店は、飲食店に行くのにタクシーが来ないため、(移動に)かなりの時間がかかってしまい、場合によってはお客様が(来るのを)諦めてしまう。やはり、(交通の)足をきちんと確保することによって経済活動は動く。高齢の方々が、病院に行きたい(が行く手段がないため)、救急車が何台あったら良いのか(という話にも及ぶ)。このように、利用される方々のニーズや社会問題に焦点を当てた場合、今の日本版ライドシェアでは解決できないと思う。私は年内に法制度をしっかり(議論)して、全面解禁に向けて進めるべきだと思う。そして、ぜひ悩んでいる方々の問題を解決してほしい。その際、(運転手が)健康で運転をきちんとできることがとても重要であるため、健診結果や運転手の(接遇)態度のデータをフル活用して(ほしい)。運転(手として活躍)できる方々がたくさんいると思う。また、もう一つの課題としてタクシーの料金がものすごく高くなっているという話を聞く。しかし、企業によるが、タクシー運転手の賃金が大幅に上がっているという話が(聞こえてこ)ない。このような状況を考えると、今(タクシーを)運転されている方々の給料が十分でなければ、逆にライドシェアをやることもあり得る。給料をきちんともらえて、しっかりとした経営をしているところへ移るなど、労働環境(の改善等)という別の観点もあり、運転される方々の自由(度)も重要だと思う。これによって、いわゆる合従連衡やコンソリデーション(整理統合)、新陳代謝にも繋がっていくのではないか。もっと自由に(市場に)参加(参入可能に)し、働く人たちにも健康な限りは自由度がある(働き方ができる)という仕組みを作り、新たな社会問題の解決の象徴的なケースにしていただくよう、ぜひ全面解禁できる体制をつくってほしい。今のままでは、本当に悩み苦労されている方々、社会問題の解決には繋がっていかない中途半端(な状態)であり、逆にそれが問題(の抜本解決)を先延ばしになってしまうと思う。岸田文雄 首相、河野太郎 規制改革担当大臣、茂木敏充 自民党幹事長が全面解禁を標榜されていると承知している。ぜひ実現に向けて進めていただきたい。


以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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