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新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2024年3月12日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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記者の質問に答える形で、春闘、日銀の金融緩和政策、政治とカネ、宿泊税、早期退職などについて発言があった。

Q:明日、春季労使交渉の集中回答日を迎える。既に高水準の要求で妥結している企業も多く出ているが、焦点となっている中小企業への波及についてと、実質賃金にどの程度効いてきそうかを伺いたい。統計上に反映するのは難しいという意見もあるが、どのように見ているか。

新 浪:実質賃金(に効いてくるか)が非常に重要だ。22カ月連続でマイナスになっており、(経営者の)皆様は、それを上回って社員により頑張ってもらいたいという意識をお持ちだと思う。そのような中で、大企業を中心に6%弱(の賃上げが見込まれている)。5%を超えるのは30年くらいぶりで、(前回実現したのは)相当昔のことだ。これは間違いなく実現するだろう。中小企業は同様のレベルには届かないと思うが、昨年に比べればプラスになってくる。その大前提は人手不足であり、一定のレベル(の賃金)を出さないと(人材の確保が)厳しいという認識を持っていると思う。(高水準の賃金を)出せる出せないという状況は(企業によって)あるにしても、有為な人材にしっかりとモチベーションを持って働いてもらうにはある一定のレベル、つまりCPI(消費者物価指数)を超えたところを目指していく(ことになる)。CPIが2.4%なのか数字の取り方は様々だが、やはり3%に近いところを目指して(経営者の)皆様が(賃上げを)行っていくと想定すれば、実質賃金も(物価を)上回るものになってくると考えている。実際にはボーナスなども含まれ、かつ政府からの支出も出てくる。その意味で夏前頃には何か目立った動きが出てくるのではないか。中小企業では(労使交渉妥結が)5月頃かもしれないが、(遅くとも)6月頃には実質賃金が(物価を)上回ると明確になってくるのではないか。今は少し消費が(弱い)云々とも聞くが、7月にはボーナスも出て明るいニュースになっていくと思っている。

Q:来週、日銀金融政策決定会合が行われる。このタイミングでマイナス金利政策が解除されるかは分からないが、総裁も(物価上昇率)2%の確度が高まってきたと発言しており、遠からずそのタイミングは来るだろう。仮にマイナス金利政策が解除されたとすれば、それによってどのような影響がありうるのか。経済、マーケットなど、どのあたりに注目されているか視点を伺いたい。

新 浪:(マイナス金利政策解除が)いつになるかは分からないが、先ほどの質問で触れた6月(に2%の物価安定目標実現)というのは、確度としてあり得るということが大前提であり、非常に重要だ。(ただ、マイナス金利政策を)解除することが、すなわち金融緩和政策を止めるということにはならないと思っている。(金利が)マイナスではなくプラスにはなるが、それが0.5%、1.0%というレベルになっていくという話ではないだろう。ここが重要なところで、(物価が)2%を超えてきたところでマイナス金利を解除したとしても、その後もどんどん(利上げを)行うかどうかの予見性が大きく影響する。日銀もこれはまだ分からないと考えているのだろう。その意味で、すでに影響が出始めているのは円とドルの関係であり、(今の為替に)織り込まれてきている。繰り返しになるが、いわゆる金融緩和政策を止めることにはならないため、この超円安と言われたものが、ある程度の円安として続く。一方で、これ以上は金融緩和をしないというメッセージになるため、住宅金利など(が上がってくるだろう)。長期金利は1%に迫っており、YCC(イールドカーブ・コントロール)も実態としては無くなってきている。そうすると大きく変化するのは円とドル(の関係)だろう。緩和政策が続くという前提で見ると、我々や物価にとって円(の状況)は少し良くなる。特に燃料代などには(円高によって)プラスにはなるが、大きく変わる(上昇する)かどうかというのは、先ほど申し上げたように6月以降も実質賃金が継続的に上がっていくかが重要なファクターになる。何年も続けてきたマイナス金利が象徴的に終わる可能性はあるが、それは金融緩和を止めていく始まりであって、(マイナス金利解除を)全てとして大きく変わることはないのだろう。日銀は慎重に進めると思う。(為替の動きを見るに)もう既に円(への影響)はある程度織り込んでおり、(1ドル)145~146円が135円になるなど、あまり大きなボラティリティにはならない。日銀は小出しにしながら上手に(政策の遂行を)やっている。我々企業経営にとって問題となるのは、何かが一気に変わることだ。そうならないように、(日銀は)期待値をうまくコントロールしていると思っている。

Q:既にYCC(イールドカーブ・コントロール)が有名無実化している中、マイナス金利が解除されると、事実上、異次元緩和を含む(日銀の金融政策の)二大看板がなくなる。異次元緩和の評価および、二大看板がなくなることが何を意味するのか、代表幹事の見解を伺いたい。

新 浪:「異次元緩和」が「緩和」になる。金融緩和政策(自体は大きく)は変わらない。(ここまでの)異次元緩和のメリットはあった。アベノミクスの中で実施することで、極端な円高が円安へと是正され、非正規雇用を中心に国内の労働者が増加するとともに、共働きが増えることで(世帯)所得が増加した。(異次元緩和は)そのようなことに大きく寄与しており、アベノミクスとニアリーイコールと言える。低成長をプラス成長に戻し、維持したことは評価すべきだ。一方で、長期間継続したことによるデメリットもあった。デフレ脱却に(金融緩和政策が)本当に有効だったのかは大いに疑問である。金融政策によってデフレを解消できるという経済理論上の大前提が(現実では)そうではなかった。金融緩和政策によりモデレートなインフレが始まったのではなく、外部要因として中国と米国、ウクライナの関係などによるサプライチェーンコストの高騰(があったためだ)。次に、人的資源の不足がある。これが(金融緩和政策によるもの)だったかは正直分からないが、そのような状況を受けて「異次元緩和」から「緩和」(の方向)に至っている。金融政策がデフレに有効であったかは議論しなければならない。先ほど述べたようにプラス成長に転じた要因でもあるが、忘れてはならないのは財政政策との両輪であったということである。(その)両方を見て評価しなければならない。今後、またデフレの状況に陥った際、どのように上手く対処すればよいかという大きな指針(教科書)になったと(思う)。繰り返すが、デフレの解消は金融政策だけではできない。財政政策との両輪で取り組んだため、国民生活に大きな混乱を生じさせなかったと(認識している)。つまり、デフレの中でも何となく成長し、非正規雇用の賃金も増加した。(日銀の金融政策は、)このような事象を支えた大きな支柱であったと思う。ただし、財政政策あってのことであり、(金融政策だけで)抜本的なデフレ脱却に大きく影響したかはまだ分からない。

Q:春闘について伺いたい。過去の労使交渉を振り返り、例年との違いなど、何か肌で感じることがあれば、お聞かせいただきたい。

新 浪:二つある。一つ目に、経営サイドが人手不足の状況に対して、必死になって取り組んだと感じている。あまり(労働組合との)トラブルも起きておらず、(各社の)回答を見ると、経営サイドの(必死の)取り組みをひしひしと感じられる。二つ目に、例年との違いとして、組合が非正規雇用の組合員の賃上げを要求するなど、組合の運動が強くなってきたと感じている。大企業を中心とした経営陣は、人手不足を解消し、賃上げを行うことで生産性を向上させるという意識に変わり、中小企業は今まさに、下請け(構造)関連で悩んでいる。そのような中で、米国から大きく感化されて、サービス産業を中心に(積極的に)組合活動をしようという、今までにはない動きが出てきた。私も米国企業を経営しているが、組合の対応は大変難しくなっている。実質賃金がマイナスという状況で、大企業・中小企業に限らず、組合活動のようなものが少し活発になってきたため、その雰囲気を読み取り、想定より早く回答した企業が(多く)あったのではないか。マイナスな言い方をすれば、早め早めに(春闘の回答が)出揃ったと思うが、サントリーHDも含めて(企業が社員に対して賃上げの)予見性を示すことで、モチベーションを上げてもらおうと思ったのだろう。このメッセージは経験者採用にも直結するため、人に対して投資をする、というスタンスを打ち出す企業が増えてきたのではないかと感じた。

Q:2月29日と3月1日に衆議院政治倫理審査会が開催され、岸田首相も出席された。しかし、実態解明には程遠いとの声もあり、その後の各紙世論調査でも内閣支持率は低迷しているが、どのような印象を持っているか。

新 浪:岸田首相は、自民党総裁であり内閣総理大臣でもある立場で、一生懸命に取り組んでおられると思う。一方で、(自民党だけでなく)どの政党にとってもそうだが、政治資金規正法をどのように変えていくのかがこれから重要(な課題)である。その際、気になるのは(政治資金の)透明性である。入り(収入)がわかったとして、出(支出)のところが本当はどのようになっているのか。これから政治資金規正法をどう改正していくかにあたり、(支出も含めた透明性が)一番重要な点である。そのため、これまでの自民党の中における(党規約改正やガバナンスコード改訂などの)議論は理解しているものの、今後の全体の制度(設計)において、(現在は)政治資金をどのように使っており、どの部分を公的(な資金で)支援していく(べき)かや、(企業)献金も是としていくべきかなど、議論が進んでいくことが必要だと思う。(政治資金の使途が)民主主義を守り、発展させ、社会の安全に役立つような政策を掲げ、実現に取り組んでいくものであれば、(企業)献金という仕組みも良いと思う。しかし、今は(使途が)適切かを検証できないため、経済同友会では、これまで(企業)献金について否定的、あるいは疑問を呈してきた。あくまでも(企業献金が)その先でどう使われているかが分からないことが前提だったが、今回の問題を契機として明確に透明化が進み、本当に(政治資金が)必要なものであれば、企業あるいは個人としてなぜ献金を行うのか、どうして(献金によってその政党や政治家を)応援しているのか、また(受けた献金を)どのような使い方をしているのかという、政治とカネの問題を一段高いレベルで明確にしてもらいたいし、そうすべきだと我々財界が伝えていくべきだと思っている。私は、意味のあるものであれば、企業献金を禁止する必要性はないと思うが、そのために(献金を行う企業には)意味があるという理由を示してもらいたい。(その理由や説明が)株主や社会からどのように見られるか、社会の公器である企業は説明責任を負うべきであり、(献金する側もされる側も)お互いにそうあるべきだと議論を発展させ、(透明性を確保する)法改正を行ってもらいたいと思っている。

Q:本日北海道ニセコ町の宿泊税導入が決まったものの、当初検討されていた定率制ではなく段階的な定額制になるなどの紆余曲折があった。先日、経済同友会は提言『自立した地域の観光経営の実現に向けた宿泊税の拡大と活用』を発表したが、税率3%以上の定率制を全国で広く導入すべきとの提言に(対し)、現実が追いついていない点への見解や、今後の課題について伺いたい。

新 浪:市町村やそれぞれの観光地で(宿泊税の)検討を行っているものの、速やかな導入には至っていないと聞いている。そうであれば、全国一律にまず国が動くべきではないかとの提言であり、それぞれの市町村で検討を行うよりも早く導入が進めば、観光資源をより良くしていくためにも有効ではないか。(宿泊税導入について)広く合意を形成することは大変であり、ニセコ町や京都市は(他に先駆けて)導入するという事態が生じているが、やはり観光支援を拡大していくためには、まず国として(定率制で税率)3%以上との宿泊税を法定税として導入し、その税収を還元することが必要ではないか。全国の市町村で足並みを揃えるのは大変であるため、まずは国が音頭を取った方が速やかに進むだろう。例えば、京都市などで導入事例が生まれており、そうした自治体が先行するというのも良いのかもしれないが、観光再生戦略委員会でも議論した結果、本会としては国が全体で導入しようという方向で進めていく方が迅速に進むのではないかと考えている。(各地において)ホテルや旅館などのそれぞれの段階でさまざまな議論があって合意が形成できない中では、国が進めた方が迅速であり、結果的に良かったと(各地も)思うのではないか。ただし、もう一つ重要な点があり、(それは)税収をどう使うかだ。あくまでも地方自治体に還元し、それぞれの地方自治体で(効果的な使途を)考えて施策を行ってもらうことが大事である。

Q:2024年の春闘は早期妥結や満額回答が相次ぎ、民間の試算では高い水準が見込まれている。2025年以降、デフレ脱却に向けて中長期的に賃上げを継続することが、日本経済は土台としてできているのか。できていないとすれば、どのようなところに課題があるのかを伺いたい。

新 浪:経済に活力あるということは、(人々が)ちょっとした幸福感を味わえるかどうかだと思っている。この幸福感を得ることが、私たちが生きてきた昭和・平成(の感覚)とは異なる。(今後、経済の)高度成長は難しい。それ(高度成長)を求めるよりも、気持ちが安定し、美味しいもの(を食べること)、家族団欒(を楽しむこと)や友達と会うこと、そのような余暇のために少しでも消費ができる環境になることが重要だ。(そのためには)当然のことながら、実質賃金が上向かなければならない。(消費が少しでも上向く環境を)維持できるかどうかは、生涯年収が上がっていくという意識(予見性)がなければ難しいと(思う)。わずかで構わないが、毎年、CPI(消費者物価指数)の上昇を上回る(程度に)賃金が上がっていくこと(が欠かせない)。また、基本的に労働力が不足している状況を鑑みれば、(インフレ圧力があるため)一気にデフレに戻るのは難しいだろうと(思うし)、デフレに戻してはならないという力を社会のノルムとして作っていかなければいけない。来年も、CPI(の上昇)を超える(程度に)給料が上がっていくことを(継続)しなればならない。(CPIの上昇を上回る賃上げが)3年連続で続けば、(国民は生涯年収が増加していくと)信じられるのではないかと考えている。それと(もう一点は)、日本の働いている方々を見ると、60歳や65歳で(いったん)リタイアしても働き続けているため、生涯年収は実は増えており、また、(生涯年収が)増加する環境を作っていくことが非常に重要だ。そうするためには、75歳まで働くことを念頭にして、人材の流動化(を前提に)自分自身のキャリアデザインを考えていかなければならない。キャリアデザインを考える場を提供すれば、意識を(明確に)持ってリスキリングができる。このような環境をどのように作っていくかは、実は2024年が勝負(の年)だと思っている。全員が転職をしなくてもよい。だが、(リスキリングを通じて)キャリアの芽が出てくること(が重要)だと思う。例えば、自分はこういう仕事をやりたいと思っているものの、どういう仕事があって(その仕事が)どれほどの給料であるかがわかるようなプラットフォームがない。厚生労働省が所管するハローワーク(公共職業安定所)では求人情報が公開されているが、より求人企業の情報を(求職者が)得やすいようすること(が重要だ)。求人(の出ている)企業でこういうことに取り組めば、より待遇が良くなったり自分がやりたいことができたりするという情報の提供が必要だ。情報の非対称性の問題を解決することは、国の仕事だろうと考えている。そして、企業は現在勤務している方々(働き手)に(向けて)、リスキリングやキャリアデザインを考える場を与えることを通じて、生産性を上げるためにこういうことに取り組まなければならないという意識を持ってもらう(必要がある)。有為な人材に(社内に)残ってもらうためにも新たなことに取り組まなければならない。人材の流動化が進むと、企業経営が難しくなる。自分の企業から良い人材がいなくなってしまう(可能性がある)ことが、もっとも重要(なポイント)だ。(人材の流動化を通じて)起こらなければならないのは、企業(同士)が切磋琢磨するようになることだ。働き手は(失業手当の給付など)社会保障(の仕組みの活用)で一定期間失業するかもしれない。しかし、失業期間中に、自分は(次の仕事では)こういうことをやろうという構想ができる。つまり、今は仕事を求めれば(見つけることが)できる時代になった。デフレの時代は(職場が)変わっても(自ら望む仕事が)あるかどうかわからなかった。これが大きな違いだ。(現在の職場が)嫌でも、社内に残らなければならないという時代が終わった。(人材の流動化の時代を迎えて)もっともつらくなるのは、企業だ。良い経営者かどうかは、これ(人材の流動化)によって試される。重要なことは、人材が(企業間を)闊達に動き始めること、そして、(働き手自身が)希望を持って(企業間を)移動すること、(企業側は求める)資格や技能など、わかりやすい情報を提供すること、そして、リスキリングの場の提供だ。その結果、企業(経営)が難しくなるため、人への投資を継続的に行わなければならない。このように(企業が)追い込まれることによって、持続的に賃金を上げて(優秀な人材を確保し、)企業は創意工夫をしながら生産性を上げるという方向に向かわねばならない。企業(経営)が難しくなれば、場合によっては新陳代謝も生じる。しかし、新陳代謝が起こっても(働き手は)心配する必要はなく、移動する企業は(他にも)ある。新しい資本主義の成長戦略の中で語られてきたことであり、現実として人材の流動化が人手不足を原因に起こってきている。企業が2024年に積極的に賃金を上げたのは、(このままでは)大変な状況になると想像している(からである)。想像ができない企業は、もしかすると経営が難しくなるが、それでよいのではないかと(思っている)。今までのデフレの時代に比べて、企業と社員の向き合い(方)が(大きく)変化している。これまでは、社員は(同じ)企業の中で働き続けなければならなかったが、「Unleash(解き放つ)」、企業から出ていくことができる時代に変わっており、これを我々は令和モデルと呼んでいる。これ(この流れ)を2024年に作れないと2025年にもつながらない。今まで通り同じ企業に勤め、もう少し(給料を)上げてもらいたいが生活は何とか(やりくり)できるからこのまま働き続けようというのではなく、面白いことがあるから少し勉強して別の会社に移動(することも検討)しようという動きが出れば、我々経営からすれば優秀な人材が社内にいなくなってしまう。そのため、こういう会社に勤め続けたいと思われるように経営を変えなければならない。今までは雇用を守るために四苦八苦していたが、(今後は)そうではない。(これまでの企業は)給料を上げず雇用を守ることに力点を置いていたが、これからは有為な人材をどう獲得するかに変わっていく。そうすることで賃金も上がっていく。これが我が国の目指す最も重要なことだと思う。2024年は(賃上げを)ある程度(の水準で実現)できると思うが、2025年は人材が(企業間を)動き始めたという感覚が出てくるのではないか。(記者の)皆様においてもさまざまな場面で働き手が(企業間を)動き始めたという感覚があると思うが、これが仕組みとして動き始めるようになる。そうすると、日本はやっとデフレを脱却して、将来的にも賃金が上がっていく。東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍(を改善要請として)掲げていることも非常に良いことだ。人材(の争奪)がゆえに、(また)投資家(の要請)がゆえに、企業は変わらざるを得ない環境になってきた。ダイナミズムが出てくれば、人材が足りないという状況にあるため(失業の)心配をしなくてもよく、何とかすれば十分生活していける社会になっている。繰り返しになるが、過去30年間は正規雇用を守るためにとにかく給料上げずに何とかしようとしていた。このパラダイムが2024年に変わると考えている。

Q:パラダイムの転換が起きたのかという点について伺いたい。現在の局面は、賃金を上げることで生産性を上げるというパラダイムシフトが起きたのか、起ころうとしているのか。それとも一時的な状況に過ぎないのか。

新 浪:(パラダイムシフトが)起ころうとしているのだと思う。起ころうとするノルムを作ることが、我々企業経営者(の責務)だと思う。このノルムに逆らった方向へ進むと、多くの有為な人材を失ってしまう可能性があるため、(ノルムに逆らっては)まずいと考えた多くの企業が、早めに春闘の回答を提示したのだと思う。(賃金だけを)無尽蔵に上げるわけにはいかず、生産性を上げていかなければならないが、デフレの際はそれができなかった。(現状は)転換点に来ている。政府が正しい成長戦略を描いても、民間が実行しなければならず、民間も転換しようとしている。(転換点か否かを)疑っていては(いけない)。おそらく(全体の)三割の人たちが(転換を)しようと思ったら変わってくるはずだ。(下請けの)多重構造を解決しよう(とする動き)など、今までなかった。米国では、トラック(業界)の多重構造を法律で変えた。日本においては、そこ(法律改正)まで行わなくても(変わるだろう)。これだけ人手不足のため、多重構造を自ずと変えていかないと運転手を集めることができなくなるからだ。高齢化も進み、エッセンシャルワーカーが少なくなってくる中で、海外からの(外国人労働者の)人材をどうすべきかなど、さまざまな議論をしていかなければならない。これまでのやり方が通じなくなってきており、(各企業は)変わってきている。慣性の法則でまた(デフレに)戻るかもしれないという恐怖を2024年に払拭し、その姿が2025年に繋がる。来年同じように質問をされたら、「(恐怖を)払拭し、変わった(パラダイムシフトが起きた)」と言えるようになりたいと思っている。皆で思いを持って取り組んでいかないと変わらないし、一人では変わることができない。(皆で)新しい経済社会をつくっていきたい。

Q:「給料は上がっていくものだ」と思えるよう(な社会)になるためには、やはり実績を積み上げていくしかないのか。

新 浪:企業側の(給与等の)実績だけではなく、人(材の流動化)もそうして(実績を積み上げて)いかなければならない。つまり、(働く場を)動くことがリスクではなくなっているということを認識する(ことが重要だが、そのため)には、情報が非対称になりすぎている。(本会会員の)南壮一郎 ビジョナル取締役社長や、吉田浩一郎 クラウドワークス取締役社長CEOとさまざまな話をすると、すごい勢いで人材の流動化が起きている(ことを実感する)。そのように、非対称性を解決すべく動いている方々がいる。これら(の動き)が広がっていくと、さまざまな情報に触れ、人々は(働く場を変えるべきかを)考えるようになる。このようなことが重要だと思う。

Q:最近、人手不足にも関わらず、大量の早期退職、希望退職を募っている企業が相次いでおり、しかも、業績予想が黒字の企業ばかりである。東京商工リサーチによると、持続的な賃上げによって人件費が増加するため、中高年の早期退職を募っているようだ。横並び体質の強い企業が(このような早期退職を)行っていくことにより、個人消費が上がらず好循環が生まれなくなる。つまり、全体の賃金のパイが増えないという現象も起こる。総人件費を増やさない経営をしている企業があるということについて、どのように考えるか。

新 浪:おそらく、このタイミングで(早期退職を利用して)辞めたいという意識を持った人は、先ほどの(情報の)非対称性だと(捉え)、辞めた方がよいという結論を出したのだと思う。つまり、この経営者について行っても駄目だと思う人がたくさんいるのではないかということだ。それならば、他(の企業)でハッピーになった方がよいと思う人が出てくるため、このタイミングで早期退職(が行われる)ということは、すごく重要である。(早期退職を)実施する企業も自信がないから実施しているわけだ。他(の企業)へ移る人が多くいるということは、その企業で働き続ける人たちにも影響がある。その後、「やはり(この企業は)駄目だ」と思い、インセンティブを受け取らずに辞める人たちが出てくる。(インセンティブがないのに)リスクを取って(企業を去ることを選択して)いるということは、他の社員に対する影響がすごく大きい。私は、(早期退職の募集が)是とは思わないが、他のところで(働く場を見つけ、結果として)良かったという人たちも出てくるのではないかと(思う)。株価や業績に自信がないから、(早期退職など)行うことは、それぞれの企業の考え方であり、方法論(の一つ)であるが、驚いている。今までの経営がうまくいかなかった結果であろう。良い人材を確保することは、大変である。(早期退職者を)指名することはできず、(退職希望者には)良いと思う人材が結構多かったりする。情報の非対称性で(転職等を)考えなくてはならなくなったが、(インセンティブも)貰って、(結果的に他企業にも移動できて)良かったということがあり、その恩恵に被る(良い人材を確保することができた)企業もあることを忘れないでいただきたい。繰り返しになるが、このようなこと(早期退職)を行うと、優秀な人材はすぐ去る。そのような経営をしているところに留まろうと思わず、自分はこれで(その企業に縛られず)放たれたと考え、良い人材が(他企業へ)動く可能性がすごく高いと思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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