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新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2024年2月29日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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冒頭、3月に予定している沖縄科学技術大学院大学視察、能登半島被災地訪問について述べた後、記者の質問に答える形で、日経平均株価、金融政策、企業の政策保有株、選択的夫婦別姓、賃上げ、就職活動ルール、小売業界の再編などについて発言があった。

新 浪:経済同友会は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)との交流を行ってきた。OISTはNature誌を発行するシュプリンガー・ネイチャー社(による研究機関ランキングで国内トップとなる)世界9位であり、ここ10年で(大きな)業績を出している。OISTとの交流をもっと(活発に)するという目的のもと、3月24日に(私のほか副代表幹事6名、幹事等約15名が)OISTを訪問しシンポジウムと施設見学を実施する。産学連携によるイノベーションの創出を進めるべく、多くの企業が(OISTに)参画しており、サントリーホールディングスもその一社である。(OISTは)日本の科学研究を牽引し世界で最も結果を出している(組織の一つである)。OISTのスバンテ・ペーボ教授がノーベル生理学・医学賞を2022年に受賞している。海外と国内の有為な人材がマッチして、OISTで大きな成功を収めている。そして(前任の)ピーター・グルース氏から代わり、(カリン・マルキデス氏が)新たに学長に就任して新たなOISTとなったことから、(マルキデス学長が)どのようなことを構想しているのかを含めて意見交換をしたいと(考えている)。地元の沖縄経済同友会からも参加してもらう。マルキデス学長の講演に続いて、ギル・グラノットマイヤー首席副学長、沖縄経済同友会ならびに本会幹部で、パネルディスカッションを行う予定だ。ぜひとも(記者の)皆さんにもご取材いただきたい。もう一つが令和6年能登半島地震被災地に関する視察だ。共助資本主義の具体的な展開として、(本会は)新公益連盟やインパクトスタートアップ協会と連携し、被災地等を支援する企業やソーシャルセクターの結節点としての機能を果たす「能登半島地震支援イニシアティブ」を発足している。共助資本主義の実現委員会委員長である髙島宏平副代表幹事をはじめとしたメンバーが、3月9日、特に被害が甚大であった珠洲市・輪島市を訪問することとなった。被災状況を視察するとともに、市長等と面会して現地の実態や支援ニーズを直接伺う。また、本会による支援の内容を視察の際に発表したいと思う。こちらもご取材いただきたい。

Q:34年ぶりに(日経平均)株価が高値を更新した歴史的な出来事があったが、この34年は長かったのか、必要な時間だったのか、それともまだ早かったのか。経済史を俯瞰した視点で伺いたい。

新 浪:34年というのは、大変長かった。株価が過去最高値を更新したことは大変良かった。重要なのは、30年におよぶこのデフレスパイラルを(日本が)経験し(てきたことについて)、検証をしなければいけない。これは世界的にも重要なことだと思う。デフレを経験して、これだけ深刻に経済が停滞し、賃金も上がらなかったというのは、恐らく先進国の中では日本だけではないか。今後中国は、デフレスパイラルになるかならないかという状態にある。第一に、日銀の政策そのものがどうであったかを検証しなければいけない。私は(金融緩和政策は)効果があったと思う。(第二に、)何が課題でこれだけデフレが続いてしまったのか、そして、デフレの実態は何だったのだろうか(という点だ)。私は、(企業や個人が)アニマルスピリッツを失ったこと、それを失わせるものがあったということだと思う。経済の主役は「アニマルスピリッツ(を発揮する主体)」すなわち「民」であり、民間主体となる経済に持っていくことができなかったことに尽きると思う。(企業が)生き(残)るために、構造上、まず雇用を守るということを一心不乱にやった。これは(当時としては)悪いことではなかった。30年の検証とは(過去を)俯瞰し振り返ってみることであるが、何が悪かったのかは後になってわかるものだ。(よって、検証によって悪かったということが、)その時の判断としては正しかった可能性はある。雇用を守るから、(その代わりに)賃金は上がらない。しかし、(当時は)雇用を守れることに価値があったと思う。後から見たときに(デフレの原因が)何だったのか(を検証し)、次の時代(にデフレに陥らないよう)に備えていくことが必要だ。また、モデレートなインフレになった今(の状況では)、二度とデフレにならないようにするために何をしていくかが必要だ。その際に重要なのは、民主導の経済であり、民間が創意工夫をしていくこと。デフレの中で創意工夫をするというのはなかなか難しい。(デフレにおいては、)明日には自分たちの商品は値が下がっている。(すると)お客様は(購入のタイミングとして)値が下がるのを待つ。私達(企業)は(さらなる)値下げのためにコストカットをする。(その際は)人件費(のカット)はなるべく抑えて他でコストカットしよう、となる。このように(マインドが)働いた。そのような中で、政策的にはデフレにおける需給ギャップが起こり、それを財政で埋めようとした。これも当時にしてみれば、国民生活を守るという意味では正しかったのかもしれない。しかし、今から振り返ってみると他に方法はなかったのか(ということがあるかもしれない)。批判ではなく、何が起こって(いたのか)、こうすればよかった(のではないか)といった検証が必要だ。

Q:日銀の金融政策について伺いたい。(日本経済が)徐々に正常化へ向かう中で、金利の上昇による利払い費の増加が不可避な情勢である。一義的には国の財政の問題だが、利払い費の増加により、(財政が圧迫されて)さらなる増税や歳出削減の話になりかねない。このような経済への影響について、どの程度危機感を抱いているのか、もしくは比較的楽観視しているのか、考えを伺いたい。

新 浪:市場が金利を決めるのが、あるべき姿である。これまでは、デフレという非常事態を受けて、(日銀が金融緩和に)取り組んできた。(現在、)需給ギャップが解消されているとすると、市場の原則に任せることが必要である。国債の利払い費の増加と並行して、名目成長率および実質成長率が伸びれば税収も増加していくため、まずは税収で(利払い費の増加を)カバーすることが重要である。そして、増税の前に、EBPMを中心とした歳出のあり方についてしっかりと見直す必要がある。私は、歳出カット(という言葉)ではなく、ワイズスペンディングという言葉を用いている。我々(経済同友会)は経営者の集まりであるが、経営者というのは、上手くいっているところには(投資を減らさず)使えば良いと(いう考えに立つ)。(現在は)本当に必要(な歳出なの)かどうか、効果が出ているのかが見えない。経済財政諮問会議の議員就任以来、EBPMが重要だと考えており、データの下、(政策の)効果が出ているのか、そうでなければどのように直すべきか。または効果が出ているのであれば、追加支出を行うことで乗数効果が生まれ税収として還元されるため、使えば良いのではないかと(いう考えを持っている)。歳出改革とは歳出カットとイコールではなく、ワイズスペンディングだと言える。データを見て本当に効果が出ているのは何か(を見渡して賢く支出するという)、当たり前のことがなぜ実現できないのか。大きな疑問であり、それに取り組むことが非常に重要である。ケインズが指摘したとおり、経済が成長して需給ギャップがない時に財政支出を行っても効果はなく、一時的なバラ撒きを実施しても(国民の)消費が増える訳でもない。当たり前のことを当たり前に取り組む時期が来ているのだと思う。今後、日銀の金融政策が2%のCPI(消費者物価指数)を超えて、2.3~2.4%(の上昇率を目指す)ということであれば、(金利を)正常化させるべきである。(それには、)将来的な金利上昇の有無に関わらず、人件費によるインフレがある程度起こることが大前提である。そうでなければある程度金融緩和を継続するというスタンス(を示すこと)が必要である。(それらを踏まえると、)日銀は大変うまく舵取りをしていると評価すべきだと考えている。2%以上になるとマイナス金利政策を解除するが、一方で上振れは許容しないと言っており、こうした日銀の政策は正しい。金利上昇の局面では、経済成長と賃金の上昇が実現すると思っている。そのためには、サービス産業の賃金上昇が非常に重要である。(日本の雇用は)中小企業が7割を担っているため、生産性向上によって良い人材が入るような仕組みを作ることで実現可能だ。結果的に歳出への圧力もなくなり、増税の必要性もなくなる。私は増税論者ではないが、やるべきことをやった上で、経済がある程度安定してきた時には増税もあり得ると考えている。(ただし)現在はそのような段階ではない。政府が税金の使途を明確化することによって、国民のコンセンサスが得られた結果として、増税が許されると思っている。

Q:損害保険大手4社が、金融庁からの求めを受けて政策保有株をゼロにする方針となった。これについてどう評価するか。また、そもそも日本企業は大量の政策株を保有してきたが、その是非と、今後どうしていくべきかについての考えを伺いたい。

新 浪:経済がノーマルになっていく中で、こうしたいくつかのミクロの課題は解決していくべきだ。なぜ(政策株を)持たなければならないか。ノーマルな(経済の)状況を目指していくのであれば、政策保有株をゼロにしていくことが正しいことなのだと思う。今、企業は、東京証券取引所から自社資産のリターンを向上させるように(との要請を受けている)。株価も上がっているので良いのではないかという議論ではない。自分の意思を持って、本業のポートフォリオをしっかり見直す中で非常に意味がある。そのうえで政策保有株をゼロにしていくことは、まさに今の企業のありようが世界に評価されるための大きな一歩でもあるのだと受け止めている。

Q:「ノーマル」という言葉を使われたが、この政策保有株はグローバルな状況から見るとノーマルなものではなかった、という趣旨か。

新 浪:先ほど申し上げたように、デフレというのはノーマル(な状態)ではない。金融政策が事実上機能せず、経済合理性にも適っていない。そういう中での我々(日本)のこの30年間であった。やはり重要なのはノーマル(金利のある、モデレートなインフレ経済)になるんだという意思の表れだと思う。

Q:3月8日の「国際女性デー」に併せ、選択的夫婦別姓制度の法制化についての要望活動が行われる。経済同友会も田代桂子副代表幹事などの幹部が参加するとのことだが、選択的夫婦別姓制度には従来から賛成だったのか。それとも今回を機に意見を取りまとめたのか。

新 浪:従来から選択的夫婦別姓制度に賛成している。今回、田代桂子 社会のDEI推進委員会委員長を中心に、再度、夫婦別姓か(同姓か)のどちらを選択するかの自由度を(持って)それぞれのカップルが決定するということ(を要望するの)は、まさに価値(観)の多様化に合致することである(と見解を整理した)。昭和・平成の時代から令和になり、私たちの価値観が大きく変わってきており、そのような流れに合わせていく(必要がある)。(選択的夫婦別姓制度は)選択制であり、どちらかにしなさいと決めつけるわけではなく、自分の価値観、二人の価値観に合わせて決めようというものである。まさに(多様化の)時代に沿ったものであり、価値観の多様性というものを日本国として認めていくことが、世界の先進国としての大きな一歩になると思う。(多様性という点では)先進国の中で(日本は)遅れているため、(選択的夫婦別姓制度を)ぜひ実現していただきたい。

Q:選択的夫婦別姓制度が法制化されていないことにより、海外でのビジネスにおいて、日本企業はどのように利益を失ってきたと考えているのか。ビームサントリーをはじめ、海外企業の経営経験に照らして伺いたい。

新 浪:(夫婦別姓を許容しないことは)日本の特殊性であり、日本が特殊な国だとネガティブに思われる(影響は大きい)と思う。(海外企業が)日本企業に買収される際には、(現地の社員の間に)本当に価値観の多様性を認めてくれるのかという不安や心配が少なからずある。特殊な国(の企業)に買われてしまって大丈夫か、という社員の不安を払拭することは本当に大変であり、こうしたマイナスはこれまでたくさんあった。

Q:株価と市場の関係について伺いたい。冒頭、失われた30年の原因を検証すべきだという発言があったが、代表幹事はどこに原因があり、どうすべきだったと考えているか。また、前回の会見では現在の株高をぬか喜びすべきではないと発言された。今後、日銀の金融政策が変更されることに伴って株価も下がっていくという見立てもあるが、市場はどうなっていくと見ているか。

新 浪:まず何といっても(低迷が始まった)当初、日本はバブルが弾け、安倍政権前には円高も相当厳しく、大変な(状況の)中で企業(の生産拠点)は多くが海外に移転した。その中で、多くの労働力がサービス産業に移っていった。すると、日本の場合はサービス産業の賃金が低く抑えられているため、おおまかな数字だが、600万円だった年収が400万円に下がった。これが事実だと思う。そのようなことが(国内)工場閉鎖によって起こった。一方で、雇用の維持も図られた。例えば年収600万円が500万円になり、(雇用は維持されるものの)賃金が上がるということがない中では社員の意欲は上がらない。同時に、中国という非常に賃金の低い国からモノがどんどん入ってくる。このようなさまざまな要因があってデフレが加速された。企業も(拠点が)海外に移っていったこともあり、中には工場を閉めなくては生き残れない企業も多く出てきた(結果)、そうして賃金が下がっていく。安倍政権を振り返ってみると、やはり必要だったのは、規制緩和を始めとして、既得権益を打破して、新たなものを作っていくことだ。そしてその時に、政府として一つできることがあったとすると、リスクマネーの供給だった。JIC(産業革新投資機構)などが行っているように、国の金をリスクマネーとして供給することで新たなフロンティアをつくり、そこに投資がいくような仕組みだ。そして運営は民間が担う。やはり、アニマルスピリッツを官僚に求めるのは大変難しい。(国の進め方では)どちらかというと切磋琢磨させないことが前提になってしまう。やはり民間が切磋琢磨する仕組みをつくっていかないと新陳代謝は起こらない。活力ある経済というのは、新陳代謝によって文字通り、新しいものが出て古いものが去る。日本はこのダイナミズムをやろうとしなかった。これが大きな問題で、新陳代謝によって雇用が生まれてくることがなかった。その意味で、私は今の株価と、実体経済に繋がりが存在してないと思っている。ただ、各企業もかなり努力を始めており、新陳代謝や合従連衡も起こりつつある。その奥底にあるのは人手不足だ。それがゆえに、有為な人材を中心に多くの人が動いている。10年以上前であれば、いわゆる雇用を守ること(が大前提であったため)、(人材は)動いてはいけなかった。今は動き始めており、これが期待値になっている。その期待値の中でこれだけ株価が上がっている。つまり、人が動き、賃金が上がり、そして規制改革によって新たな投資先が出てくる。このようなことを実現しなければ、結果として株価は元に戻ってしまう。そのときに心配なのは、海外からのマネーは引く(撤退する)時は非常に速いため、これが一番怖い。すると、国内投資家、もしくは個人投資家が結果的にババ(ジョーカー)を引くような可能性もある。だからこそ絶対的に、企業(を保護するの)ではなく、人を大切にし、リスキリングを進めなければならない。現政権がやろうとしていることは本当に正しいと思う。ただし、(政治の混乱を受けて)現在のように予算が決まらないようではだめだ。政治を停滞させると、下手をすれば「やはり日本は期待したけれどもだめだった」となり、そうなった時の海外の引き(撤退)は早い。我々が今やろうとしていることは民が中心の経済だ。早くそれを実現していくことが必要だと思っている。

Q:昨日2月28日、サントリーホールディングスは2024年春闘で(平均約7%の賃上げで)妥結した。昨年10月の段階で新浪社長は、社員に対して予見可能性を持たせるためにもいち早く賃上げを表明したとおっしゃっていた。2014年から官製春闘と呼ばれたが、デフレ下においては、企業の予見可能性がなかなか見出せず、ベースアップに踏み切れなかったところがあったのだろうと思う。貴社が2年連続で満額回答され、高水準のベースアップを実現したように、昨年と本年は各企業および各経営者が勇気を持ってベースアップに踏み切った。来年以降についても継続した賃上げが実現するという予見可能性が広がっているのか。

新 浪:一番重要なことは、人的資源の需給バランスはもう変わらないということだ。人手不足は一層悪化するということが大前提となる。まず、人材を確保するためには給与を上げる(必要がある)ということと、その後、デジタルの活用など(効率化を図る取り組み)が起こってくる。つまり、両方を行わないと(人手不足を)解決できなくなってくる。無限に給与を上げることはなかなか難しく、ある一定のところに到達すると機械を活用した方が、生産性が高いという分岐点がある。サービス産業を例にすれば、(レストランで注文を届ける)配膳ロボットについても、昔であれば「なぜ人が配膳をしないのか、けしからん」と言っていた(だろう)。つまり、設備投資と人件費の両方をバランスさせていかないと経営が回らなくなってしまうということだ。都市銀行および地方銀行は(初任給を)26万円にする(ところもあると聞いている)。すごいことだ。ある一定の金額を提示しないと人が集まらず、他企業に(人材を)取られてしまうという危機感は、我々も(自社において)持っている。若い層で辞めていく人たちもおり、良い人材から辞めてしまう。だから、予見性を持って給与が上がると早く(示すのだ)。また、年功序列も(今後)変わっていくだろう。2025年(の賃上げ)については、ベースアップをどうするか(をはじめ)、まだ(現時点では)決めきれていないが、やはり賃上げをしていかないと人が集まらないという環境になっていると思う。人員が足らないことが、給与を上げるレバレッジになっている。パウエルFRB議長の発言を聞くにつけ、米国を羨ましいと思う。それは、人手不足によるインフレ(となっているからだ)。日本もそうありたいと(思っており)、そのようになる可能性があると思っている。ゆえに、機械への投資もあり、(賃上げと)両方があること(が必要)。ただ、ミスマッチも起こるため、それに対するリスキリングもすごく重要である。それらを行いながら、将来的に人手不足によって給与が上がっていく方向だと見ているため、早めに(予見性を持って賃上げを)行う。それによって、新たな人材から「そのような会社なのだな」(と思われること)と、(既に)働いている人達のモチベーション(の向上)の両方(の意図が)ある。そのスタンスを見て、経験者採用の方々も入社しやすくなる。(なお、自社においても)4割程度が経験者採用である。とりわけ、団塊ジュニアの方々も卒業(定年)を迎え(ようとしてい)る中で、優位に人材を集めるためには、戦略的に行わないと(他企業に)負けてしまう。だから、早めに(賃上げを)提示するという戦略を(取ったのである)。今後も、各社は早く(賃上げを)提示するなど、(人材の)取り合いが起こっていくのだろう(と思っている)。今の学生は、すごく勉強をされており、(学校)外でも活躍して社会性(を培った経験)のある方々もいる。(自社も)今回初任給を上げており、そのような基調は(今後も)変わらない(と思う)。経営者としては(賃上げしたことによって)業績を悪化させるわけにはいかないため、経営者にとっての圧力にもなり、悪いことではない。生産性を上げるために、さまざまなデバイスを活用するようにもなる。そうではない(そのようなことを実現できない)経営者は、代わらざるを得なくなるのだと思う。

Q:政府のルール上、明日3月1日から就職活動がスタートし、説明会等が行われる。来春卒業の学生については、本年6月から面接がスタートするが、一方で採用活動の早期化が進んでおり、既に内定率が2割くらいに上っているという調査もある。就活ルールにおいては、再来年卒業の学生から、インターンシップなどで専門性が高いと企業が判断した学生については、3カ月前倒しの面接を認めるなど、政府による見直しが進んでいるが、そもそも新卒一括採用を行わない企業が多くなっている等、実態とルールが乖離している現状もある。これらを踏まえ、必要性も含めた就活ルールのあり方について、考えを伺いたい。

新 浪:(新卒一括採用の是非については)悩んでいる。(新卒一括採用では)同期ができ、助け合いなどの良さがある。しかし、それゆえに外から(中途で)入社した人たちは疎外感がある。良い点と悪い点の両方があり、正直、何が正しいのか悩んでいるとしか申し上げられない。また、終身雇用や年功序列などもある。これまでの(ルール)をひっくり返して一気に行うことが、全体最適なのかということを悩んでいる。特に、これまで給与が高くなくでも最後まで面倒を見てもらえるからと頑張ってきた方々と、もっと責任の高いポジションに早く就きたい(から転職も辞さないという方々もおり)、この気持ちも理解できる。(今は、)端境期に来ている。これまでデフレ下において、一つのルールの中で、人材は流動しづらかった代わりに(終身雇用は)大丈夫、という状況は、実は大企業(の話で、日本全体の)2~3割くらいの雇用(の話)でしかない。この2~3割のことが日本全体のこと(を表しているわけ)ではない。(雇用の7割を占める)中小企業や、(大企業でも)サービス産業は、新卒一括採用よりも経験者採用の方が多い。サービス産業は、(前職の)ローソンにおいても人材が頻繁に動いていた。よって、(就活ルールの)解に悩んでいるのはサービス産業ではない(業界にいる)大企業であり、(日本)全体としては既に一括採用ではなくなっている。むしろ、1年間(通年)で採用しているのが一般的だと思っている。新卒一括採用よりも経験者採用の方が多くなっているという認識である。大企業だけの話を世の中全て(の話)だという考え方はやめた方がよい。実態は(雇用)全体の7割を占め、生き抜くために一生懸命に(事業を)されているサービス産業や中堅・中小企業の労働力確保が、どのようになっているかを見るべきで、大企業は例外と思った方がよい。今後の大きな流れは、経験者採用(の市場)が大きくなっていくということであり、既に全体(の雇用に占める)量としても多い。ルール云々はあまり意味がなくなっていると思う。批判もあるかもしれないが、例えばNPOでさまざまな経験をしてから、(期中の)9月や10月に入社するということは、私は良いと思う。何かしら(課外活動的なさまざまな経験を)してきた方々を評価し、入社していただく。大学や高等専門学校卒業など、(学卒)後に何か経験を積んでから、個性や特技や思いを持って就職する。個人的見解だが、その方が良いと思っている。

Q:元々、経団連が策定した(就活の)ルールを中西前会長の時に廃止し、政府が引き取ったという経緯があるが、先々はこのルール事態が必要なくなるという認識か。

新 浪:企業(全体)の平均値から見ると、(既に)なくなっていると思う。大企業だけの話では、日本の経済は回らない。いわゆる中堅・中小企業が(雇用の)7割であり、そこにフォーカスして議論をしていかなければいけない。(企業数においては)99%強が中小企業である。(大企業は)残りの1%弱で、(雇用の)2~3割しかない。日本経済を良くするためには(雇用の)7割(を占める中小企業)の人たちをどのようにするかを議論の中心に移していくことが必要だ。新卒一括採用をやめると(我々が議論を)したところで、7割(の雇用)には影響力がない。7割(の雇用を占める中小企業)は、暦年(通年採用)を行っていると思う。

Q:2025年以降の賃上げについて伺いたい。モデレートな物価上昇とそれを上回る賃上げが目指すべき方向性として各方面で共有されていると思うが、来年以降、実現するのかという点で不安視する声もある。こうした中で、2025年以降も継続的な賃上げが現実的に可能なのか、実現のために乗り越える必要がある課題は何かについて見解を伺いたい。

新 浪:大きな流れとして考えなければならないのは、CPI(消費者物価指数)の伸びを上回るベースアップ(が今後も行われる)という社会的なノルムを、どうやって作っていくかである。2024年が終わり2025年の(消費者物価指数の伸び率の)予測が2%以上になるのであれば、それがベースアップ(の基点)になるという考え方を定着させなければならないし、1%増であれば1.2~1.3%のベースアップが行われるというノルムだ。CPIがマイナスになると賃金が下がる大きな要因となるが、(賃金には下方硬直性があるため)下がることはあまりない。ただ、(失われた)30年の間、(賃金を)上げることを行っていない。ベースアップを続けるのは大変というのは(賃上げが)難しいというデフレ下で過ごしてきたため当然であり、CPIを上回るベースアップが必要だというコンセンサスをこれから作っていくことが必要だと思っている。また、働く人が足りないという現実もあるため、特にサービス産業は賃上げ率が高くなっている。来年以降どのくらい(の水準)になるかを今時点で想定することはできないが、日銀が(CPI上昇率の見通しを)1.8%と言っている以上、(ベースアップは)最低でも2%くらいになるだろう。逆に(言えば)、できない企業は人手を集められなくなるために経営が大変厳しくなり、人が集まらない企業は新陳代謝の対象となっていく可能性も生じるだろう。賃金が上がるという社会的ノルムを前提として、企業をどう経営していくか。CPI(の伸び率)くらいのベースアップができないのであれば、企業経営を続けることが難しいという意識に変えていかなければならない。そうすれば、東京証券取引所が求めている経営効率の向上を考え、コアではない事業部門を(切り離して)強い企業と合併させる(動きにもなる)と(売却・合併で競争力が高まり)その部門の社員が(賃金などで)報われることにもなる。ダイナミズムによって変わる経済社会の姿が大前提になってくるというビジョンを描かなければならないと思う。その時には、企業の中には倒産するところも生じるだろうが、そこで働いている人々は(より良い企業へ)移ることができるという社会を創る必要がある。そのためには、補助金のあり方も、(ダイナミズムを)止めるような仕組みの補助金も変えていく必要がある。これまでの政府が悪いのではなく、30年続いたデフレの中では、受け皿となって雇用を吸収する企業がない以上、雇用を守るためには(既存の企業を)倒産しないようにする仕組みが必要だった。しかし、今後はそうではない。社会のノルムとして、最低でもCPI(伸び率分のベースアップ)は行おうとなったときには企業の合従連衡も進んでいく。そういう社会が2024年後半か2025年に出来上がると良い。小売業で(大型の)合従連衡が起こっているのは大変良いことであり、経営力のある企業へと合従連衡が進み、生産性が高いことで給与水準も上がっていく仕組みに(社会が)変わっていくと良いと思っている。

Q:企業の新陳代謝が存在する社会があるべき姿だとすると、各社が共同歩調で取り組んでいる2024年に対して、来年以降は賃上げできる会社とできない会社が厳しく選抜される構図になるとの考えか。

新 浪:その通りだ。まずはサービス産業で生じるだろうし、大企業も例外ではない。経営効率上、自社で保有している事業部門(の経営)が厳しければ、もっと上手く経営できる企業へと移ることが次々と生じてくるだろう。具体的にどこの事例ということは言えないが、既に生じている。今回、東京証券取引所がリターンを重視すべきだという指針を発したのは素晴らしいことであり、株価が上昇した大きな要因の一つだと思っている。

Q:代表幹事から発言のあった小売業界の合従連衡だが、イオングループでドラッグストア関連の大きな再編の発表があった。ドラッグストア業界2位のツルハホールディングスが首位のウエルシアホールディングスを傘下にすることや、(KDDIによる)ローソンの非公開化など、小売業界ではダイナミックな動きが起きている。これまで業界全体で店舗数が右肩上がりに増えていた中で、競争が激化し、ある一定の水準に達したことで、パラダイムシフトが起きているのかという印象を受けている。小売業界全体を俯瞰して、今どのような状況にあると考えているのかを伺いたい。

新 浪:(現在は、私は小売)業界にいないため(動向については)お答えできないが、小売業界に限らないことだと思う。(特定の業界を超えて)全体的に(言えることだが、業界再編は)今までに比べたら株主から大きな圧力があり、米国をはじめとしたアクティビストなどの影響があるだろうと思う。ただ、最も大きいのは、会社としてエクイティのコストがいくらかという当然の判断について、日本の経営者が(今まで)できていなかったということだ。株式市場は、グローバルスタンダードである。マネーはグローバル(に移動する)ため、小売業界における合従連衡など、生産性が悪い(事業だ)から手放すといったこと(動き)は、やっと日本がグローバルスタンダードになってきたという評価につながる。私は(この業界再編の流れを)非常によい方向だと(思う)。(昨秋)ニデックがTOB(株式公開買付)を成立させたが、(買収された)企業の方々は、おそらく給料が上がるはずだ。今回このような業界再編が起こったことは非常によいことだ。(日本に対する)世界の評価も上向き、日本がグローバルスタンダードになったという意味で期待がある。そのため、業界再編が止まらないように(していく必要がある)。2025年に向けて、業界再編が生じ(れば)、生産性が上がり給与も上がると思う。そして、合従を受ける企業の経営陣のレベルも高いから、(買収を)行うのだろうと思う。(業界再編は)経営のレベルが日本も上がっていくことの証左だと思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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