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新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年11月28日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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記者の質問に答える形で、連合との幹部懇談会、賃上げ、可処分所得、人材流動化、外形標準課税、大阪・関西万博、三井住友フィナンシャルグループ太田純社長逝去について発言があった。

Q:本日の日本労働組合総連合会(連合)との幹部懇談会において、2024年春闘に向けて協調(の方向性)や一致点を見い出せたか。また、経済界としてどのように春闘に向けて取り組んでいくか。

新 浪:本日の幹部懇談会では、方向性の確認は十分できた。持続的に賃金を上げなければならない。重要なことは、実質賃金を上げ、可処分所得(を増やすことだ)。私から説明し、ご理解をいただいたと思う。実質賃金を上げ、物価(の上昇)を超える賃金(の上昇)を持続的に確保する(際には)、可処分所得の増加を重視して取り組むべきではないかと話した。実質賃金を継続的に(引き上げ、)物価(の上昇)を超えることが必要だという方向性は(連合側と)意見が一致した。私は実質賃金の上昇に向けては人材の流動化が非常に重要だと思っているが、連合側はまず企業内で(人材が移動することが前提)という話だった。これも一つの考え方だ。(人材の流動化とは、人材を)企業外に出していくだけではないが、人生100年時代、自らキャリアデザインを行い、リスキリングをしていくのが経済同友会の方向性だ。(人材の流動化には)企業内の移動も内包しているが、人材の移動を(より)大きな(枠組みで捉えて)企業外も含めて自身のキャリアをデザインしていくことに意味があるのではないかと思う。そして(人材が企業間を)動くことによって賃金の上昇ももたらすという考え方を持っていると伝えた。だから、実質賃金の上昇に至るまでの方向性には(連合と経済同友会の間で)差異があるという認識はしている。それぞれの立場(ゆえの方向性の違い)であると思っている。また、双方が解決しなければならないと思った点は、男女の賃金格差であり、今後解消しなければならない。女性が経済社会で一層活躍していくには、男女の賃金格差の問題点もDEIの側面からしっかりと考えていかなければならない。そして、(特に)サービス産業(で顕著な)年収の壁(の問題)だ。年収の壁についても今後(連合側と)議論をさせていただきたいと申し入れている。(幹部懇談会の中で)10月3日に経済同友会で公表した年収の壁タスクフォースの意見『いわゆる“年収の壁”問題への対応について-支援強化パッケージの評価と社会保険制度の中期的な改革の方向性』(から)、この3年弱のあいだで抜本的に(制度改革をしなければならない)、とりわけ年金の問題を解決しなければならないと問題提起をした。労使で意見が異なることはあるが、一緒に考えなければならない点は多々ある。そして、このまま(人材不足が進ん)でいくと、外国人の労働者をどうするのかということまで労使で考えなければならない。少なくとも今(日本に)いる(外国人労働者の)方々が働いていく上では、現在の外国人の技能実習制度(と特定技能制度)では(就労ができる業種と)できない業種(それぞれで異なり)、とりわけサービス産業(の中でも、宿泊や外食産業等は顕著)。また、介護(分野)も育児(分野)も(人手不足が深刻で)あり、そのような業種(への就労)をどのように考えていくか、今後議論をしていきたいと(連合側に)投げかけたところだ。現在、政府で議論をしている特定技能制度の問題は一層議論をしていかなければならない(と思う)。今後各国との(人材獲得の)競争もあるが、現在の(日本の)賃金体系では大変厳しい状況にあると認識している。外国人労働者をどのように考えるか、また彼らをどのように守っていくか(考えていくこと)も必要ではないか。外国人労働者の議論の中には、人権という考え方も(ある)。連合側から人権が非常に重要だという提起があり、LGBTQの問題にも話が及んだ。これは連合の意見に賛同する。経済同友会も社会のDEI推進委員会の中で(議論するが)、LGBTQをはじめ外国人労働者についても人権という観点できちんと向き合わなければならない。このように、各問題については同じ意識を持っている。アプローチの仕方は今後議論を進めたい。(各論においては)違いはあるにしても、私は(今後も連合と)深く議論をしなければならないと感じた。賃金にまつわる問題に限らず、(人材を)コストではなく投資として(捉え)、育成し社会のアセットとしていくか。人材をどのように考えていくのか(を議論したい)。(この会合は長年続けているが私が代表幹事に就任してからは初めてであり、)第1回目のスタートとしては非常によかったと感じている。

Q:連合が(2024年春闘の統一目標とした賃上げ)5%以上という要求水準をどのように評価しているか。本日の連合との幹部懇談会の中で話題に上がったのかも含め、伺いたい。

新 浪:幹部懇談会の中で、連合からは3%以上のベースアップ、そして(定昇分を含め)5%以上(の賃上げを要求する)という話があった。私自身も5%以上の賃上げが必要だと思っており、(最近の)定例会見でも同じ趣旨の話をしてきた。おそらく連合側も所与として考え議論されていたのだと思う。5%以上の賃上げを実現する方向に向かっていけばよいと思っている。今後考えなければならないのは中小企業(における賃上げ)だ。中小企業の賃上げも(幹部懇談会の中で)問題が提起された。中小企業の中でも、一部の(業績が好調な)サービス業は自ら(賃金を)上げられるが、(賃金を)上げられない(下請け)構造の中小企業をどのようにしていくのかは、非常に重要な課題だ。本日、私から提案したのは最低賃金が上がった分は(価格)転嫁することを前提に考えていくべきということだ。中小企業でアプリオリにそのようなことを受け入れられる体質、ガイドライン、指針を(整備)していくべきであり、場合によっては、ルール化も考える必要があるのではないかと申し上げた。それとともに、今後、CPIが上がった分に(連動して)賃金をプラスにしていくという、マクロスライドのような発想も考えていく必要があるのではないかと(いうアイディアを)申し上げた。これについては合意形成を図ったわけではなく、私からの一方的な提案であったかもしれない。

Q:11月22日に経済同友会が発表した「こども・子育て政策の財源に関する意見」において、可処分所得の増加に言及していたが、今後実現に向け、経済財政諮問会議などでどのように訴えていくのか。また、実現に向けてどのぐらいの時間軸を考えているのか。

新 浪:次期の予算における議論の中で、社会保険料は上げないというピン留めをしていただくべく(積極的に)伝えていきたい。本日行われる経済財政諮問会議で予算の枠組みの件が(議題として)あるので、その場でも話をしようと思っている。各方面でそれ(呼びかけ)をすることによって、そこ(これ以上社会保険料を上げないこと)がピン留めされ、(結果として)社会保障費に踏み込まなければいけないことになる。つまり、これ以上(保険料を)上げられない(という制約が掛かることで)、今の社会保険料全体、社会保障費、とりわけ医療費(の負担)について決められた中で考える(ことになる)。当然、効果のあるもの(に医療費を限定する必要性)、応能負担(によって社会保険料だけではなく社会全体で負担していくべき)といった議論になっていく。ピン留めすることによって、診療報酬の野放図な増額にならないように(すべきだ)。例えば、診療所の収益が(他業種の)中小企業に比べて圧倒的に高いという状況であれば、本当に診療報酬全体を上げる必要があるのかどうか。ピン留めをすることによって、歳出改革をしなければいけないということになってくる。これまで、そのようなピン留めがなかったのではないか。現在、最も社会において重要なことは、デフレから脱却して豊かな経済社会に向かっていこうと(している局面にあるということだ)。このような中で、可処分所得が下がるのでは(デフレ脱却に水を差すことになる)。我々企業が賃金を上げたとしても、社会保険料に取られて(しまう)。中身を見ると、風邪薬は今後も3割負担(で公費が投入されている)とか、湿布薬(に対して公費が)これだけ拠出されていておかしい、といったさまざまな疑問が出てくる。そのような問題点を出していくためのピン留めだ。(社会保障費における)お金の使い方に看過できないものが多々あり、企業や働く人たち、特に現役世代に(対して)もうこれ以上、無駄なつけを負わせるなど、犠牲にしないでいただきたい。風邪薬を処方する際、薬剤師がきちんと指導をするといったタスクシェアもできてない。医師から説明を受けて、薬剤師から(薬を受け取るだけという現状だ)。それならば、薬局で買えばよいのではないか。(専門的な指導を必要としない)レベルであれば、調剤薬局ではなくドラッグストアで買えばよい。このような工夫によって、コストが大きく下げられる可能性があるものは進めてもらわないと(いけない)。(ピン留めは)働く人や企業につけを回さないでほしいというメッセージであり、(ピン留めを端に)考えなければいけないことがたくさんある。そのようなことを意図して(言及を)行った。また、消費税を初めとした(増)税を(所与のものとして)考えるべきではない。すべきことをした上で(税については)考えていただきたい。消費税についても、本会は議論の俎上には(今は)乗せていない。消費経済を豊かにし、賃金を上げていきたいという今、(性急に)消費増税(を行うこと)は反対である。(増税の前に歳出改革で)すべきことをする、(何をすべきか)一緒に議論していく(べきである)。(発表した意見の)意味するところを広く考えて実行していただきたい、(そのために)我々も知恵を出していく、ということだ。

Q:本日開催された連合との幹部懇談会において、人材の流動化を巡っては双方異なる見解だった。社内での労働移動を求める連合に対して、経済同友会は労働市場全体で人材の流動化を行うべきだと主張していた。人材の流動化の必要性を社会へ浸透させるためにどのようなことが必要だとお考えか。

新 浪:経済協力開発機構(OECD)は15~64歳を生産年齢人口として定義している。(日本の)実態は70歳以上の方々が多く働いており、社会で働くことを65歳など年齢で区切る必要はないと思っている。目指す(社会)像は、75歳以上でも働きたい(と思う)人が働ける社会であり、そのような社会が素晴らしいと考えている。高齢になっても就労が可能な社会を前提とすれば、人材が流動化し、長年同じ会社に勤務するよりも社会貢献に取り組むなど個人のやりたいことが広がる可能性がある。年齢(の引き上げ)に限らず、(個人の)やりたいという意欲が日本社会を豊かにしていくと思う。そして、社会との接点を持ち続けるために(健康長寿である必要があり)予防医療にも関心が向くと、新しい産業が創出される(きっかけになる)。人々が生涯現役を前提にした生き方になれば、(人材の)流動化は当たり前になると思う。(すでに)副業・兼業によって(人材の)流動化が始まり、南壮一郎 ビジョナル取締役社長によれば、多くの企業が同社のサービスを利用しているとのことだ。そのような状況の中、今(社会で)起きていることを政策が後押しすることによって(人々の)ウェルビーイングに繋がれば良いと思っている。連合の立場は理解できるが、(今の)実態と乖離しているため、(国民の)幸せを考えると、例えば年金がディスインセンティブにならないような生涯現役をサポートする制度にしていくことも必要だと思う。(政府が)75歳まで働こうと言えば、年金が支払えないからそのようなことを言うのだと(国民に)ネガティブに捉えられてしまうが、積極的に(長く働ける)社会の方が良いというビジョンを出していけばよいと思う。高齢になっても働ける社会で(あれば)、(人材の)流動化は当たり前のことではないか。

Q:政府与党が検討している外形標準課税の適用拡大について伺いたい。近く、与党の税制調査会でも本格的に議論されると聞いている。総務省案では、資本金と資本剰余金の合計額によって適用を増やし、大手企業の100%子会社にも適用したいのではないかという話もある。日本商工会議所は断固反対と強く打ち出しており、また、与党内でもさまざまな議論があると聞いている。大手企業が節税のために資本金を減額して「疑似中小企業」となることが社会問題化していることも踏まえ、どのように考えているか。

新 浪:適用拡大については是とすべきだと思う。(その際、)節税対策であるかどうかが大変重要だ。本来、小規模企業ではないとカテゴライズされる企業が、あえて節税をしているということであれば、これは適用拡大すべきだ。アンフェア(な面)は正さなければいけない。その線引きはしっかりと議論した上でやるべきだと思う。各論は多々ある中で、コロナ禍において節税対策であえて(減資等を)しているといったさまざまな問題があったが、(現在は)コロナ禍が収束したため、やはりフェアにすべきである。フェアであるということを大前提にすると、適用を拡大すれば該当企業は増えることになるだろう。それはそれで良いと思う。どの線引きが良いかについてはきちんと(精査)した方が良い。(よって、)税制調査会で現在議論されているところについて、あまり違和感は無い。

Q:自民党税制調査会の宮沢洋一会長も、あくまでも大手企業の税逃れにしっかり網をかけ、中小企業に影響が及ばないよう運用面の手立てを考える必要があるとの発言をされているが、具体的なアイディアはあるか。

新 浪:本来もっと資本があり、アセット(資産)も多く保有している(にも関わらず)あえてこうしている(減資等により資本金1億円以下に止めている)のは、擬似の資本金である。これは正していかないと正直者が馬鹿を見ることになる。税は難しさがあるため、詳細については今後の議論の内容を見ていきたいと思うが、現在議論されていることは、それなりに正しい方向性ではないか。(中小企業が)突然(該当企業に)指定され、(従来よりも)多く徴税されてしまう恐れから日本商工会議所が反対意見を表明していることは理解できる。そうではなく、(大企業でありながら税を)逃れている企業は間違いなく存在しているため、それを見つけて(いくために)適切にやっていく(徴税していく)ことは必要なことだ。どこに線を引くかについては、トランスペアレントな(透明性の高い)もので、わかりやすくすべきだ。税は複雑であるため、わかりやすさがとても重要だ。

Q:本日開催された連合との幹部懇談会の中で、新浪代表幹事より消費者物価指数(CPI)の上昇に連動する賃上げを提案されたが、具体的にどのようなイメージを持たれているのか。CPIが低下した場合には、賃金もスライドで減少することになるのか。

新 浪:(CPIが低下しても賃金は)下がらない(仕組みを考えている)。欧米の賃金(決定)の仕組みを見ると、CPIが上昇すると自動的に賃金も上昇するというコンセンサスが社会に出来上がっている。それが社員の生活をきちんと守るということであり、いわば(CPIの上昇を)所与のものとして(賃金が)上がっていく。驚くことに社長や経営者も同様であり、(欧米は)ベースアップという言葉はないにしても、(物価に応じて賃金の)ベースが上昇するようになっている。欧米の場合は成果(に連動する)部分も大きいが、このような考え方を一つの案として提案した。(欧米では物価下落時に賃金が)下がるということはなく、(賃金水準を維持するために)労使が努力して生産性を上げる方向に動いていき、企業としては、良い人材を確保するために生産性を上げる方向でやっていかなければならない。日本と違うのは、欧米はポストを廃止した際には人材に辞めてもらうが、日本の場合は労働者の(整理解雇の4要件という)基本原則があり、(引き続き社内に)留まる。そのため、(賃金が)下がらないように(労使が)一緒になって努力することが必要だと付言した。デフレになった場合に(賃金は)下がるのかというと、(CPIに連動して)上がったのならば下がるのが当然だと思われるかもしれないが、下げないことを前提に考えていくべきだと思う。リーマンショックやバブル崩壊直後などの異常事態(の下)で雇用確保(が急務)の際は労使の話し合いが必要だと思うが、(平時は、CPIが低下しても賃金を)維持する努力を労使で行っていくべきではないかとの提言である。

Q:CPIが上昇した際に自動的に上がる賃金とは、ベアを指しているのか。

新 浪:ベアである。加えて、(連合との幹部懇談会で本会側参加者から)出た意見としては、ドイツをはじめとする欧州諸国のように、労使が一緒になって収益目標を設定し、達成時には必ず(労働側に)これぐらい分配する(と事前に合意する)という考え方もある。(例えば)10億円(コストを)削減したら10億円のうちの一部は必ず(労働側に)還元するなど、(労使が)一緒に取り組む目標を共有する。現在、(経営者と従業員で)共有しているものとしてストックオプションがあるが、同様の発想である。ただ、その際に株式ではなく、給与で行うという考え方もあるのではないか。この(本会参加者が示した)意見はどちらかと言うとベアではなく、ボーナスを指していると思う。

Q:(賃金に連動させる)CPIのイメージは何か。

新 浪: 生活(水準の維持)であれば通常のCPIであり、(「総合」から「食料(酒類を除く)およびエネルギー」を除いた)コアコアCPIである必要はないと考えている。ただ、そうなるとエネルギー価格や生鮮食品は(さまざまな外的要因による)上げ下げが大きいため、やはりコアコアCPIが良いとも思うが、そこまで(の詳細)は議論していない。

Q:連合との幹部懇談会において、持続的な賃上げの必要性について意見が一致したということだが、それには当然、企業が利益を生み出し続けなければならず、稼ぐ力が重要になってくる。商品価格への労務費の転嫁などは重要だが、そもそも成長していかなければならない。AIの活用、新規事業立ち上げなど方法はさまざまであると思うが、企業はどのように稼ぐ力をつけ、生産性を向上させていけばよいのか。

新 浪:「生産性向上」というのは非常に耳に優しい言葉だが、そう簡単にいくものではない。当然のことながら、しばらく厳しい取り組みを行いながら向上させていくものだ。本日の議論の中で、連合側から韓国(の活力が)素晴らしい、1人当たりGDPが日本を上回り、生産性も高いという話題があった。これは当然で、(韓国は1997年の)通貨危機を乗り越え、厳しい環境でやってきた(からこそ現在がある)。つまり、生産性の向上は、きつい取り組みをしなければなかなか達成できないというのも事実だ。今日の日本をみれば、小林喜光元代表幹事が「茹でガエル」と指摘されたのはまさにその通りだ。そのなかで本当に(生産性の向上を)やっていくのはとても大変なことである。ただ、今起きている人手不足はチャンスにもなり、ひょっとしたら企業の新陳代謝に繋がるのではないかと私は申し上げた。これは連合の立場では受け入れ難い意見であることは承知している。だが、(働いている)人を大切にするべきで、企業(体を存続させることが重要なのではなく、競争力が落ちた結果淘汰されていく企業があるの)は仕方がないことである。新陳代謝が起こり、その結果として給料が支払える、人に投資ができる企業が生き残り、(労働力が)そこへ移動していく。それが目指す姿ではないか。そうなってくると、金利のある経済への準備もできる。やはり今の経済、金融政策はノーマルではない。長期金利は(10年ぶりに)0.9%台につけ、直近は0.8%台となっている。市場に任せると、ひょっとしたらさらに上へ行くかもしれない。原油は70ドル台だ。世界的なコストプッシュインフレから、人件費プッシュインフレという、正しいかたちのモデレートなインフレになっていく可能性がある。そういう状況下で、よい人材にきちんと投資できない、もしくは賃金を上げられない企業は退出していく。我々としてはそれが正しい姿だと思う。金利がある経済になるとなおさらだ。力のある企業が人材を育て、(労働力を)引き受けていく。今、(日本の倒産件数は)年間6,000件ほどだが、全体の企業数からみればまだ少ないとも言える。倒産した企業の従業員は、他の(競争力ある)企業に移って吸収されていく。マクロ的には有効求人倍率は1.24倍と、ミスマッチは起こっていない。この機に新陳代謝が起こることで、人への投資をしている企業に人材が集まっていくという方向性がよい。本日の会合ではそうした話をさせていただいた。つまり、稼ぐ力、生産性向上というのはかなり時間のかかる話であり、そのなかで新陳代謝というのは非常に重要な要素である。人が動き(流動化し)、耐えられない企業が退出していく(ことで競争力のある企業が人材を吸収しさらに成長する)、それが稼ぐ力になっていくのだと思っている。

Q:稼ぐ力を付けるにはどのような方策があるか。サントリーホールディングスではどのような取り組みをされているか。

新 浪:団塊ジュニア世代が含まれる50歳代へのトレーニング、リスキリングは非常に重要だ。いわゆる年齢に対するアンコンシャスバイアスを持ってはいけない。リスキリングというと、何となく20歳代、特に30歳代から40歳代前半をイメージするかもしれないが、50歳代の人材もキャリアデザイン、リスキリングの対象とすべきだ。先ほど申し上げた「生涯現役」を掲げるならば、なおさらこの世代にもっとフォーカスしなければならない。この点は連合側からも同意を得られたと思っている。何となく忘れられている50歳以上の方々、その層に対するリスキリング、そしてその前提となるキャリアデザインが非常に重要だ。それをきちんと実践している企業が、社会からの信頼も得られる。またそれ故に、下の年代の方々も集まってくるのではないか。ここ(50歳代)に大きな(人口の)塊がある。そこを大切にしないと、日本の経済はカムバックしないのではないかと思っている。これもアンコンシャスバイアスではあるが、(当社で)50歳以上を対象に生成AIの研修を実施したところ、1次試験をパスし(応用編の)2次試験に進む人が85%もいた。やはり実力のある方がたくさんいる(という感想をもった)。また、ノーコードで(動かせ)、インターフェイスがとても簡単になっており、スマホ同様にとっつきやすいというのも大きい。この研修の対象をさらに広げ、全世代(へのリスキリング)ということをもっと打ち出すべきだと思っている。企業の人材投資に繋がり、それが社会からの信頼を産んでいく。(想定されているよりも)もう少し上の世代へも光を当てることが重要だと思っている。

Q:大阪・関西万博ついて、建設費が(これまで示されていた)2,350億円とは別に、新たに800億円以上の費用が生じる(見通しである)ことが判明した。受け止めを伺いたい。

新 浪:頭が痛い(問題だ)。日本館は国が設置すると認識しており、それ以外の(全体の)ところは我々(経済界が)協力しながら実施していくことで了解している。私自身、(2,350億円とは)別の費用(国費負担)があったことに少々驚いている。時間(の経過)とともにさまざまなコストが上昇した中で、今とにかく考えなければいけないことは、いかに(大阪・関西万博を)成功させるかということだ。政府は、わかりやすく前広に情報を出して(説明をして)いくことによって、(国民の)不信感を早く払拭していく。成功させるためにはそれが必要だと(思う)。今(足元で)作っていかなければならないモメンタムは、やはり皆が(開催に向けて)ワクワクするよう、不透明な点をクリアにして(費用等の問題を)終わりしていただきたい。そして、海外から訪れる方や、とりわけ国内、国民がワクワクする(機運が高まる)打ち出しをしてもらいたいと思う。

Q:経済界として、(大阪・関西万博の成功に向けて)何かアクションを起こすことをお考えか。

新 浪:特段、考えていない。開催すると決めたのだから、とにかく成功させる(ために必要な)ことを徹底的にやる。足を引っ張り合うようなことなく、きちんと開催できる(ことを示し)、そして成功に導けるように(行動する)。開催されたら皆行きたいと思うのではないか。民と官で、開催に向けたワクワク感を早く醸成していくべきだ。現在、関西経済界の方々は、相当力を入れてアナウンスをし始めている。私たち東京の経済界としても、(人々を)ワクワクさせることをしていかなければいけないと思う。相当(万博に)コミットしている(企業である)サントリーとしても、一層ワクワクさせられるよう、個別企業として取り組んでいきたい。

Q:昨日、三井住友フィナンシャルグループの太田純社長が逝去された。親交はおありだったか。

新 浪:太田氏とはお付き合いがあり、(お亡くなりになったことは)非常に残念だ。明るく、お酒が好きでたくさん飲まれる方だった。とりわけ、新しいことが大好きな方で、いわゆるコンベンショナルなバンカーではなかった。将来に向け、若い人材のスタートアップ(企業)に対し、自らのフィナンシャルグループにおいて、先頭に立って応援されていた。(また、それを受け継いで)先頭に立たれた方々ともお会いしたが、(太田氏が)築かれた素晴らしいレガシーが広がっていくのだろうと(思う)。時折お会いしていたが、実績を出されている素晴らしい経営者だと尊敬を申し上げていたため、突然のことで非常に驚いた。一緒に(お酒を)酌み交わすこともあったが、最近はお会いしていなかった。大変残念だ。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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