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新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年10月20日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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冒頭、11月に開催する牛尾治朗元代表幹事追悼シンポジウムについて紹介した後、経済対策・所得税減税、春闘・賃上げ、大阪・関西万博、中国で拘束された日本人の正式逮捕、就任半年について発言があった。

新 浪:11月に「牛尾治朗 元代表監事 追悼シンポジウム」を開催する。牛尾元代表幹事とともに活躍された竹中平蔵 慶應義塾大学名誉教授並びに宮内義彦 終身幹事(オリックス シニアチェアマン)にお越しいただき、当時のことを振り返りながら我々(現在の)経済同友会への期待を伺う。その上で、改革派の政治家の方々に議論していただき、そして、政策集団としての経済同友会のあり様を議論する会にしたい。「湿っぽく」ではなく、どちらかというともっと前向きに、当時の牛尾元代表幹事の活力を学ぶ会議を開催したいと思う。ぜひ、取材にお越しいただきたい。

Q:政府の経済対策に関連して伺う。本日臨時国会が召集され、夜にも岸田首相から、税収増を国民に還元するために期限付きの所得税減税を与党幹部に指示するという話が伝わっている。物価高(への対応)や賃上げに向けて、経済対策の重要性は論を俟たないと思うが、一方で、このタイミングでの所得減税は財政規律(の緩み)や、期限付きとはいえ一律で減税することはいかがなものかという異論が学識者・与党の一部からも出ていると聞いている。代表幹事としてはこうした減税の対応、方向性についてどのように評価しているか。

新 浪:結論から言うと、どのようにこれ(所得減税)をするかにおいて、中間層に対して時限付で実施すことには賛成だ。(その理由は、)実質賃金のマイナスが2%を超えており、ゆゆしき事態である(からだ)。国民生活は大変厳しい状況である。その中で、円安が大きな要素だと思うが、インフレになった状況において、二つの主体が得をしている。一つは、税収は名目で上がっているため国としてプラスだ。また、(もう一つは)とりわけ大手企業において、輸出産業など海外との関係があるところは、これ(円安)によってプラスになる。一方で、マイナスになっているのは国民であるとこういうことから、中間層に対して(所得減税を行うことには賛成だ)。それ以上(の高所得層)に対しては、私は(減税を)する必要はないと思う。大変厳しくなっている国民経済というものに対して、サポートすることはあり得ると思うが、本当に時期を切ってできるかどうかという点だけは疑問がある。これまで、(一度減税を行うと)ずっと続いてしまっているのではないか。この点がすごく重要だ。もう一つ考えなければいけないのは、米国は今、インフレがまだまだ厳しい状況にあり、(日米の)金利差が広がってくる可能性がある。これによって、一層コストプッシュ型のインフレになる可能性があり、減税だけで済む話ではなくなる可能性がある。そのときに金融政策をどうするかについて、合わせて議論しなければいけない。従って、条件付き(の賛成)ということだ。

Q:あくまできちんと期限を区切った上で、どの程度下げるかということについても精緻に議論していかないと、野放図にバラマキになってしまうという懸念があるということか。

新 浪:絶対にバラマキは良くない。中間層が中心であると考えているが、先ほど来申し上げている通り、金融政策をどのようにしていくのかということは、本当に真面目な議論を(する必要がある)。それこそ私は経済財政諮問会議のメンバーであり、そこでしっかりとした議論をしていかなければいけない。

Q:サントリーホールディングスは来年の春闘でベースアップを含めた7%程度の賃上げを行う方針だと報道されている。7%という具体的な数字と実際の感触を含めて、代表幹事のお考えをお聞かせいただきたい。

新 浪:(報道は)事実である。サントリーホールディングスとして、2023年(の春闘で)は7%の賃上げを実現したが、(2024年も)同程度(の賃上げ)を考えている。9 月全国消費者物価指数(の生鮮食品を除く食料)は8.8%(上昇)と公表されており、社員に対して物価高は大変厳しい状況になっている。安心して働いてもらうために、(将来賃上げが行われるという)予見性を高めることが必要だと思い、賃上げの方針を公表した。デフレの時代は(社員に対して)賃上げよりも生産性の向上が求められていたが、現在は人手不足のため、(企業が)賃上げの実施を早期に公表することにより、(社員に)生き生きと働いてもらい、(その結果)生産性を上げるというパラダイムシフトが起こっている。それほど人材は重要であり、(社員には)モチベーションを高く働いてもらわなければならない。賃上げだけでは不十分だと考えている。もう一つ重要なことは、50歳以上に活躍していただくことである。(サントリーホールディングスでは)リスキリングとして(50歳以上の全社員に)生成AIを学習してもらう。私自身も生成AIを活用しているが、(生成AIは操作が)簡単であり、質問力が高い人ほど(生成AIの)中にデータが蓄積される。ノウハウのある50歳以上の社員に(生成AIの)利便性を学習してもらうとともに、(生成AIへ)データを蓄積して、クローズドな(形で)生成AIの仕組みを構築していこうと(考えている)。リスキリングや人材投資(に掛けるコスト)を賃金として(社員へ)還元することも可能だが、熟練の方にも(生成AIを)習得して自分のスキルにしてもらう(ことも必要だ)。こうした人材投資と賃上げの合わせ技でやっていきたい(と考えている)。

Q:大阪・関西万博について伺いたい。本日夕方に、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が会場建設費増額分を政府・自治体・経済界などに向けて報告する方針である。最大2,350億円と当初想定より500億円程度の増額になるが、このような大幅な増額の受け止めについて、伺いたい。

新 浪:第一に(大阪・関西万博を)絶対成功させることが重要である。昨今の人材不足や資材高騰という情勢から、建設費が増額するのは認めざるを得ない。このような情勢に対応するため、働き手の給与を増加するなど、最大限の努力をした結果だと理解している。(大阪・関西万博は)国としての事業である。中途半端ではなく、きちんとしたものを作ることが重要なため、経済界も各社がさまざまな形で協力して、しっかりと支えていくことが必要である。

Q:日本労働組合総連合会(連合)が5%の賃上げを要求する方針を固めた。経済同友会の代表幹事としてどのようにお考えか。

新 浪:大手企業は(連合が要求している)水準で(賃金を)上げていかないと、良い人材が集まらない時代になった。デフレの時代とは大きく変化した点であり、人手不足の時代において5%程度(の賃上げ)は適当な数値である。一方で、中小企業が(5%の賃上げを)本当に(実現)できるかどうかということは考える必要がある。中小企業の賃上げ実現には、大企業が中小企業の人件費上昇による(製品への)価格転嫁を受け入れる環境づくりも大変重要だ。

Q:(中小企業の)取引先の大手企業として、(人件費上昇分を)価格転嫁する必要があるとお考えか。

新 浪:今まで、(大手企業の中には、中小企業の)人件費上昇による価格転嫁を認めてこなかったことがあると聞いている。公正取引委員会や経済産業省など、国がしっかりと監視し、場合によっては指導していくことが必要であり、より一層そのようなことに取り組んでいただきたい。給与の増加に伴い価格転嫁が行われなければならず、それによって物価上昇が(国民に)受け入れられるようなサイクルを構築しなければならないと思っている。

Q:価格転嫁した分を賃上げに反映する必要があるとお考えか。

新 浪:賃上げにより、(国民が)物価上昇を受け入れられるというサイクルにする必要がある。今は(賃金よりも)先に物価が高騰しているため、これ(構造)を逆転させなければならない。

Q:(連合が目標とする)5%以上の賃上げについて、先日、日商の小林会頭は中小企業には厳しいとの見方を示した。中小企業(の賃金)が上がらなければ日本全体(の賃金)が上がるということには決してならない。次の春闘で、大企業から賃上げを回していくというやり方で、中小も含めた全体的な賃上げが進むと思うか。

新 浪:中小企業のなかでも下請け構造にあるところと、そうではないところがある。サービス産業は下請け構造になく、企業によっては(賃上げ率が)二桁のところもある。下請け構造にある企業は、自分たちだけでは決められないので(厳しい)。(よって、中小企業全体において)5%はあり得るかもしれない。(中小企業が総じて)上げられない、ということではないと思う。構造上、(中小企業は)サービス産業にとても多いため、そこ(サービス産業)が(賃金を)上げやすくするように考える。ニワトリと卵の話になるが、周りが賃金を上げていけば、(応じやすい)。予見性を持たせられるように、今のタイミングから(賃上げの見通しを)言っていくことが重要だ。特に大手企業が今(から)5%以上(賃金を)上げていくと示すことによって、中小企業も上げやすい環境になっていくのではないか。とりわけサービス産業では、顧客が(賃金が)上がるものと思ってお金を使っていけば、企業も上げやすくなる。

Q:サントリーホールディングスにおいては、昨年もかなり早い段階で賃上げを表明されたが、今年はさらに早い。2016年も10月に表明されていた。賃上げの機運が高まっている中で、大手企業がこれだけ早いタイミングで賃上げを表明するのはなぜか。また、その意義は。

新 浪:物流をはじめとして、人手不足に対する現場からの声が非常に大きい(ことが要因だ)。以前はそこまで(人手不足と)言われていなかったが、ここまで言われる人手不足の深刻さは過去に(例が)ない。私自身が政策に関わるようになって10年ほどになるが、少なくともその中で最も厳しい状況にある。今こうして(賃上げを)表明することによって予見性を早く高めることが、以前よりも非常に重要になってきた。正直、もう少し早くてもよいと思っていた。そのためには組合とも話をしなければならないし、業績との見合いなども考えた。しかし、仮に業績が今よりも悪くなったとしても、(賃上げを)やらないと(ならないと考えている)。昔に比べ、中途採用がすごく増えている。すなわち、昔に比べ人材の流動化が起こっているということだ。良い人材を採るには、(採用活動を)戦略的に行わないと(他企業に)負けてしまう。どのように採っていくかがとても重要である。(賃上げの表明は)早ければ早い方が採りやすいのではないか。そのような(賃上げをしていく)会社であると理解してもらうのが重要だと思い、思い切り早く(見通しを)出そうではないかと考えた。社長である私の思いだけでなく、人事、工場や物流の状況などを考え、しっかり調整して行っている。(春闘より)相当早めに表明したのは、それだけ人が足りない、(人材が)流動化している(中で)良い人材を採りたいという意思の表れである。

Q:サントリーホールディングスは、2023年春闘では6%と表明し、着地が7%(の賃上げ)だった。今回、それを上回る水準を表明されている。かなり高いレベルの賃上げが続くが、原資はどうするのか。

新 浪:一つは国内の収益だ。(もう一つとして)海外での収益も使う。当社の利益は50%以上が海外であり、円安メリットも受けている。海外での収益は国内の努力があってのものなので、それも還流する。

Q:予見可能性を高めるとのご発言について、それは誰にとっての予見性か。

新 浪:社員である。

Q:人材を早く採るためというご発言は、これからサントリーホールディングスを転職先として考えていくような人材から、モデレートに賃上げをしていく企業だと目されたいとの趣旨か。

新 浪:その通りである。早めに(賃上げを)表明し、良い人材に早く(当社に)関心を持ってもらいたい。

Q:原油価格やイスラエルのスタートアップへの影響も含めて、現下の中東情勢は日本企業と日本経済にどのような影響を与えると見ているのか。

新 浪:(今後については)全てがイランの対応、つまり(レバノンの親イラン武装組織)ヒズボラ(の動向次第)だと思うが、(イランの介入を止めるためには)どこまでイスラエルの反撃、攻撃を米国が止められるか(が重要である)。ホロコースト以来(の大惨事で)、これだけ多くの犠牲者を出している。どこで止められるのかと(思う)。ただ、(イスラエルが)ガザ地区を徹底的に攻撃すれば、当然ヨルダン川西岸地区の怒りを買わないはずはない。(イスラエルがガザ地区への攻撃を)しすぎると、ヒズボラやパレスチナ自治政府が(イスラエルの攻撃を)許せなくなり、(事態が)エスカレーションする可能性がある。エスカレーションをどのように抑えるのか。誰が抑えるか。これはおそらく米国しかない。米国は、現在(融和に向けた)努力を一生懸命に行っている。仮に衝突が収まらず、多くの犠牲者が現在のようにパレスチナで発生する(ことが続き)、「このような悲惨なことをされる由縁はない」と(捉えて)、ヒズボラやパレスチナ自治政府が(イスラエルに)反撃に出れば、原油価格に大きく影響する。隣国が(イスラエルとパレスチナ自治政府の)どちらを支援するかという話になれば、とりわけ油田を保有している国々が(イスラム教)シーア派もスンニ派も(宗派を)超えて、イスラエルはやりすぎだと(という方向性で一致する)。そうなれば、米国に対する反発も大きくなり、(原油市場において)不安定要素が生じる。原油価格には現在は影響が出ていないが、これから影響する可能性もある。だから、(日本は原油価格上昇に)備えなければならないと思う。期限付きの所得税減税は国民生活の問題であると(申し上げた)。大きな要素はインフレであり、インフレの源泉は原油価格の上昇と円安だ。原油価格が上昇すると、今度はドル(の価値)が上昇する可能性がある。なぜなら、金利差がより広がる、つまりFRBがより金利を引き上げる可能性がある(からだ)。(政策)金利を引き上げれば、当然(円の価値が)150円では済まなくなる。それこそ日本の我々の生活が厳しくなる。さらなる円安に対して、どのような策を考えていくかを考えなければならない。エネルギー政策をより真剣に(考え、)対策を打たなければならない。私は(イスラエル・パレスチナ問題が)エスカレーションするか否かを考えて、エスカレーションした場合(の対応)をきちんと考えていく必要がある(と思う)。その場合、エネルギー対策をどうすればよいか。依然として(エネルギーを)中東に依存している日本の脆弱さをどのようにして克服するか(について、)短期策、中期策をしっかりと打ち出し講じていく必要があると思う。そのときには、安全で(あると確認され、)地域のご理解が得られた原子力発電をどう考えるか。そして、まだ安全ではないと言われている部分をどのように安全にし、地域の方々にご理解いただけるかが重要だ。また、再生可能エネルギーも可能な限りどんどん早く進めることを考えていく必要があると思う。楽観論ではなく、有事の際は悲観論で対策を作っていく必要がある。

Q:岸田首相は増税志向だとSNS上で度々批判を受けている。インフレの影響もあって国民生活が厳しいということに対して、(所得税減税を打ち出されたことは)岸田政権が聞く力を発揮して、国民の意向に応えていると理解してよいのか。

新 浪:(岸田首相は)増税をしたがっているという話が(SNS上を中心に)相当流布されているが、現政権の本音としては、国民の実質賃金のマイナス(が続いている点)に最も頭を悩ませているのではないかと思う。したがって、所得税や法人税についてさまざまな意見が出ているが、正直(な私の印象は)、与党内でも(見解が)分かれているから、そのような(さまざまな)話が出てくるのだろう。与党内には、財政規律派と当然(減税や財政出動を)もっと行うべきだという両方の考え方がある。岸田首相は、防衛や少子化(対策)にはお金が掛かることをよく承知されているため、増税の可能性や社会保障費を上げなければならないということも考えられる一方で、税収は名目成長(率に応じて増加)することから、(増収分を)どのように活用するかという二軸で考えたときに、短期的には現在増えている名目(成長に伴う増収)のところを使い、将来的にはさまざまな(財政改革の)オプションを考えるのが当然だと思う。例えば、(会社員の場合)キャピタルゲインには社会保険料が課されないが、(社会保険料負担を)求めるなど、中間層ではなくキャピタルゲインを得られる(金融資産が多く所得水準の)上の方の人々にもう少し(増税を)求めるなど、さまざまな形で負担を求めることも(オプションとして)あり得る。そのため、どの(所得水準の)層に増税や負担を求めていくかという議論をしっかりとしなければならず、全部(増税という)一つ(の切り口)で考えるのは良くない。キャピタルゲインの中で社会保障費を負担してもらうことも一理あると考えており、そうすると、増税(志向)のように見られるかもしれない。しかし、よく考えると、賛同を得られる可能性もあるのではないかと思う。(税負担の対象や内容を)細かく見ていかなければならないが、そこを(捨象して)負担が(一律に)増えると捉えるのは間違いだ。所得税減税も、(年収)300万円弱の(課税最低限を下回る所得水準の)方々に本当に有効なのかはよくわからない。ただ、(所得税を納めている)中間層は実質賃金がマイナスであり、生活がもっと豊かになるように救ってあげたいなど、どの層(を対象)にどのようなかたちで(減税を)行うかという方法論がしっかりと示されていない中では、増税となれば自分たちにも(負担が)生じると思うため、岸田首相や首相周辺の方々はもう少し詳しく語っていくべきだと思う。こうした意味では、昨日、(鈴木俊一)財務大臣が述べられた(所得税減税の)仕組みをどのように適切なものにするかが重要だ。何か標準的な(一律の)議論ではないと考えている。

Q:年末には防衛力強化の財源確保に関する議論が行われるなど、少子化対策も含めて財源が必要という認識がある。一方で、税収増分を国民に還元するということになるが、整合性をどう受け止めているか。

新 浪:税収(増加分)を(国民に)戻すのは、現在のコストプッシュ型ではないインフレにどう変えていくかという(課題と関わっており)、独自でできる対応は、やはり日米の金利差を変えていくことだ。しかし(金利を引き上げると)、一方で問題も起こってくる。(財政出動と金融引き締めの)どちらが国民生活にとって望ましいのか、大きな議論をしていかなければならないのであり、まさに経済財政諮問会議の運営の中で新藤義孝 経済再生担当大臣が考えていらっしゃるため、これから議論が行われると思う。歳出改革では、短期的に所得税を軽減して今の税(収増分)を中間層(の支援にあてる)などの議論を行うだけでなく、抜本的な財政のあり方やEBPMなどの仕組みを考えていかなければならない。これまでは、デフレの中で需給バランスのギャップにパッチワーク(的に対策)をしなければならなかったが、(需給)ギャップのない環境で、財政支出をどうするか、税収をどう増やしていくか。税収を増やすには民間(主導の)経済に変えるしかない。デフレの中では、ギャップを埋めるために真水(となる財政支出)を投入してきたが、需給ギャップはもうほとんどないため、今度は民間(主導)で経済をどう回していくかが重要になっており、(民間主導で経済を)促進させるためには二つの要素が必要だ。新しいフロンティアがどこにあるのかを(考え)構造改革の一つとして規制改革をどうやって進めていくか。それとともに、(規制緩和した)その分野に参入してもらうための投資減税(が重要だ)。これらを合わせて(行うことで)、急ぎ経済を民間(主導)に移していく必要がある。ただ、すぐに(企業の投資に)エンジンをかけるのは難しいため、投資減税という話をしている。まだデフレのイナーシャ(慣性)が残っており、これまで30年間ずっとデフレが続いてきたところから、突然(企業に投資の)エンジンをかけさせようとしても時間が掛かる。なるべく早くするには、ニューフロンティアであるグリーンイノベーションや予防(医療)など(が重要)だ。75歳くらいまで元気があると、人生でさまざまなことを経験しながら働ける。健康長寿には予防(医療)が必要だが、ここは(公的保険ではなく)民間が取り組むべきだ。民間が(ヘルスケア分野に)投資を活発に行って新たな分野を創る(ことが望ましいが)、あまりにもデフレが長く続いたため、新規参入を逡巡してしまう。(企業の決断を)後押しする投資減税が必要であり、その原資は足元の税収増の中からも使う必要があり、(将来の税収増として)戻ってくる。そのため、歳出改革では、減らすだけではなく、税収を増やす乗数効果のあるものには支出していかなければならない。こうしたデザインを行うのは、本来、経済財政諮問会議が担うべき機能だ。(経済財政諮問)会議も、デフレの下でのあり方とは異なり、コストプッシュによってデフレからインフレの下での民間主導経済を創り上げていく(ような会議のあり方に変えていく)必要があるのではないか。

Q:コストプッシュ型ではなく、デマンドプル型の物価と賃金が好循環を描くマイルドなインフレが望ましいが、実現は容易ではない。所得税減税の期限を設定しても、あるべき姿がすぐには実現せずに期間延長を求める状況が予想されるが、どういう制度設計が望ましいのか。

新 浪:(遺憾ながら)お金の使い方に対するガバナンスがこの国には存在しないため、(所得税減税が)続く可能性がある。もし続く可能性があるのであれば、行わないほうが良い。そのため、意思決定を行う上では、与党内でしっかりとしたコンセンサスを作らなければならない。独立財政機関を設置することが大変重要であり、補正予算がバラマキにならないような仕組みを作る(必要がある)。ただ、時間が掛かるため、(現時点では)本当に(期限延長を)行わないと国民に宣言し、いつまでに必ず終えるということを政府・与党として自信を持って言えるかどうかにかかっている。(期限の厳守を)言えないのであれば、(所得税減税は)止めるべきである。(所得税減税ではなく)他の方法でもあり得ると思う。

Q:中国でアステラス製薬の社員が(正式)逮捕される事態となった。今後、長い期間拘束されることが予測されるが、未だ、どのようなことをして、何が悪くて逮捕されたのかわからない。このような状況において、今後経済界が中国とビジネスをしていくことは大丈夫なのか。何かしらの行動を起こし、中国に(対して)国際的におかしな状況であると理解してもらうなど、考え直してもらわないと(ビジネス上の)付き合いをしていけないと思うが、如何か。

新 浪:その通りである。中国経済は厳しい(という懸念もある)が、まだ可能性があるので投資してほしいという世界に対するメッセージ(を発信している)と思う。外交において、おそらくサンフランシスコでバイデン大統領と習近平国家主席が会談をする可能性が高いと思っている。中国の経済(が景気悪化している)がゆえ、ここで「やった・やられた」という状況を休戦にしようということになるのではないかと私は読んでいるが、(それですぐ)中国に投資をするようになるかというと、いわゆる反スパイ法が解決しないと「雪解け」はなかなか難しいと思う。そのため、どのようなガイドラインがあるのか、「do not」を明確にしてもらい、そして今回、なぜ「do not」に触れてしまったのかをクリアにしていただくことがすごく重要だと思う。しかし、現実はこちら(経済の側面)の問題がある。なぜなら、あれだけの規模の経済があり、自由貿易を謳歌してきた中で、(中国には)工場がたくさんあり、人件費が(以前より)上がったとは言え、そこで作られたものは圧倒的に安い。だから、ここ(中国)から買わざるを得ないような環境があるため、竹を割ったように「これは駄目だ」というわけにはいかない。例えば、(日本は)ビタミンC(の輸入)を90%以上中国に頼っている。これから(工場を)ベトナムに作るとしても、コストは圧倒的に中国の方が安い。お客様に対し「中国との問題があるから値上げをする」と簡単にはいかない。中国のサプライチェーンにおける強みがあるため、「(中国との経済関係を)止めます」というわけにはいかない。(一方、)「増やします」ということにもいかず、(むしろ)別のサプライチェーンをベトナムに移すなど(中国依存を)漸減して、チャイナ・プラスワンもしくはプラスツーを(各企業は)行っており、それがソリューションである。もし(中国が我々に対し)、チャイナ・プラスワン、プラスツーをやらないでほしいということであれは、いわゆる反スパイ法はどのようなことをしてはいけないかを明確にしてもらいたい。突然捕まるようなことがあるのではないかと心配になってしまう現状の中国を考えると、何か新しいこと(投資)をやろうという雰囲気を作ることは、非常に難しい。status quo(現状維持)、あるいは減らす、という(現状と)あまり大きく変わらない状況に(各企業は)あるのではないかと思う。今後、習近平国家主席とバイデン大統領の会談によって、少し緊張感がほぐれるとは思うが、だからといってdevastation、二国間の厳しい緊張感が全て壊れていく、なくなるわけではなく、壊れるまで(のスピード)がゆっくりになるだけだと思う。そして、米国大統領選の結果次第によっては、壊れる時期がすごく早くなるか、それとも現状の状況が続くか、ということになるだろう。以上のようなことからも、やはり反スパイ法の定義を早く明確にしていただかなくてはいけない。ただ、(例えば)どのデータを持っていくのはいけないという線引きは実は難しい可能性もある。同情する必要はないが、多分、中国も困っているのではないかと思う。(いずれにせよ、)軟禁から拘束、完全拘束となったという理由は、きちんと述べていただく必要がある。

Q:税収増の(国民への)還元の話だが、剰余金というのは財政法で半分は赤字削減(返済)に充てなければならず、残り半分についても既に防衛費増額に充てると決めているため、財源自体がない。新たな国債発行となれば、国債格付けやリスクプレミアムなどに話が及びかねない。そのあたりの基本的な考えを伺いたい。

新 浪:これ以上、お金(財源)の使い方を野放図にすれば、国債の格付けにも問題が及ぶ可能性があり、常に注意をしていかなければならないと思うが、現状、税収が増えている事実もある。防衛費はどのように捻出するか、少子化対策にはどのようにするのか、これらは明確にされていない。例えば、NTT株をどうするのか等、国家資産を売却するという話もある。さまざまな手を尽くして、赤字国債を発行しないよう努力することは国債の格付けにとって悪いことではない。一方で、国民が大変な状況の中で出てきたもの(剰余金)を一時的に充てるということは大いにあり得る。「一時的」ということが非常に大きな条件であり、それ(の厳守)ができる自信があるのであれば、私は良いと思う。その後に控えている防衛費(増額)と少子化(対策)も大変お金の掛かる話であるが、(例えば)防衛費はこのまま43兆円まで積み上げていくことが本当に我が国を守るために良いことなのかは、常に議論しながら進めていく必要がある。ただ、(この議論において)中国経済が厳しいから台湾有事にはならない、沖縄有事や日本有事に繋がるようなことにはならない、と決めつけてはいけない。備えがあるから戦争が起こらないのであり、備えはしなければならない。防衛力強化に知恵を絞っていくのは必要なことだと思う。税収が増えたからとバラマキをするようなことだけは、経済界として止めていかなければならない。何度も申し上げるが、一時的(であること)、そしてどれを減税していくか、制度設計はしっかり細部を見ていく必要があると思う。

Q:10月末で代表幹事就任から半年を迎える。自己評価や今後の課題を改めて伺いたい。

新 浪:私が(代表幹事に)就任した際に申し上げたことを(基に)、詳細な100日プランを統合政策委員会で作成した。先日も、(正副代表幹事、委員長)皆で集まり議論をしている。自分自身の評価は、まだまだだと思っている。三つの重要なポイントがある。(一つめのポイントは)学び合うこと。本日(1020日)も幹事会でさまざま方にお話をしていただいた。経済同友会に入会し(た会員同士が)互いに学び合うことが進んできた。もう一つ(のポイント)は、経済同友会に入会してさまざまな会員と繋がること。これもできてきている。会員数もプラスに転じているため、ある程度(達成)できたと(思う)。三つめの(ポイントである)政策提言は、まだ(途上だと)と思っている。103日にロイヤルホールディングスの菊地唯夫 取締役会長(年収の壁タスクフォース座長)に、「いわゆる『年収の壁』問題への対応について支援強化パッケージの評価と社会保険制度の中長期的な改革の方向性」を発表いただいた。政策提言は非常に難しい。規制改革やそれに類することに対して政策提言し、かつ、(政策立案者が)なるほどと思う提言ができているかと言えば、まだ至っていないと思う。しかし、一つめ、二つめ(のポイント)は、(以前に比べ)相当変わってきていると(会員から)ご理解を得ていると思う。大きなポイントは、さまざまな(バックグラウンドをもつ)方々に(本会の活動に)加わっていただいたことだ。とりわけ、若い方、スタートアップ、NPOである。ダイバーシティが進み、さまざまな議論を行うことは緒に就いていると感じている。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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