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新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年6月14日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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冒頭、今年度本会委員会委員長の人選、骨太の方針、少子化戦略について言及。
その後、少子化財源、女性版骨太の方針、男性育休と週休3日制、労働市場改革、児童手当の所得制限撤廃、最低賃金、日経平均株価、LGBTQ+、日本国際博覧会(万博)、ロビー活動などについて発言があった。

新 浪:本日、委員長名簿をお配りした。それぞれの委員会で様々な方に就任いただいているが、これまでと二つの違いがある。一つは、担当副代表幹事制。私だけではなく、副代表幹事が委員会運営に入り、(さらに)委員長を兼務いただくこともある。それぞれの委員会の内容が幅広いことから、全体最適の観点で委員会ごとにマネジメントをしていただくため、場合によっては複数人の担当副代表幹事を指名している。そして(もう一つとして)今回は、特にその分野に明るい方々に委員長をお願いした。一つの委員会の中でも、(扱う領域には)色々な産業があるため、様々な専門性をお持ちになっている方に広く就いていただいた。例えば、サービス産業活性化委員会においては、(森トラスト 取締役社長の)伊達美和子副代表幹事と(オイシックス・ラ・大地 取締役社長の)髙島宏平副代表幹事のお二人(を担当副代表幹事とし)、委員長はロイヤルホストを運営しているロイヤルホールディングス 取締役会長の菊地唯夫氏、スシローを運営しているFOOD&LIFECOMPANIES 取締役社長CEOの水留浩一氏、(加えて伊達副代表幹事)にお願いした。まさに、その産業で意見をお持ちの様々な方に就任いただいた。一例として、(社会保険における)106万円、130万円の壁問題は、とりわけサービス産業において大変課題であり、これらの方々から生の声を聴いて委員会を運営する。また、DXであれば、(デジタルガレージ 取締役兼専務執行役員チーフアーキテクトの)伊藤穣一委員長やインテル取締役社長の鈴木国正委員長に入っていただいており、まさに(DXの)専門(家である)。エネルギーであれば、東京電力にいらっしゃった(スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー 取締役社長の)見學信一郎委員長、住友商事取締役社長執行役員CEOの兵頭誠之委員長は、エネルギー分野の専門家。先端技術は、住友商事代表取締役の南部智一委員長や(パナソニックコネクト取締役執行役員プレジデント・CEOの)樋口泰行委員長、(CO2資源化研究所代表取締役CEOの)湯川英明委員長、ソニーグループ執行役CTOの北野宏明委員長など、それぞれの分野で非常に専門性の高い方々が就き、議論を深めていただく。スタートアップは、大企業とのネットワーク、スタートアップがより発展する仕組みを作りたいということで、三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役執行役会長の三毛兼承副代表幹事(らが担当副代表幹事に就き)、みずほフィナンシャルグループ 取締役兼執行役社長グループCEOの木原正裕委員長にもお願いして、様々な企業にお声掛けをしていただこうと(考えている)。また、ベンチャーキャピタルなどにも来ていただき、委員会を運営していく。その後の(スタータップの)交流会は、特に(ビジョナル取締役社長の)南壮一郎委員長が中心となり、日本だけではなくASEAN、韓国、イスラエル、シリコンバレー、海外とも繋がっていく。また、大企業と繋がるラウンドテーブル的な会合も実施していきたい。企業変革委員会は、プライベートエクイティのお二人やソニーグループ取締役代表執行役会長CEOの吉田憲一郎委員長に就いていただき、日本産業の競争力向上を目指す。そして、中堅・中小企業活性化委員会、サービス産業活性化委員会、スポーツ・エンターテインメント事業活性化委員会についても、産業競争力の向上を目指し、それぞれ専門の方々に就いていただいている。スポーツ・エンターテインメントであれば、東京ドーム 取締役会長CEOの北原義一委員長、JCOM取締役会長の芳賀敏委員長、そしてアシックス取締役社長CEO兼COOの廣田康人社長だ。政治・行政改革委員会については、以前も申し上げたが、令和臨調と共に日本の政治・行政改革に関与し実現していくということで、令和臨調会員の方々が委員長になられている。このように広い分野に亘って(それぞれの委員会を)運営していきたい。
二つ目の配布物は2023年度(第38回)本会夏季セミナーの案内状だ。本年は(例年よりも)いくつか趣向を凝らしてやっていきたいと考えている。
三つ目は骨太の方針、四つ目が少子化戦略についてである。(それぞれ)私の思うところをお話し申し上げたい。経済財政諮問会議ならびにこども未来戦略会議においてもお話しをさせていただいている(内容である)。骨太の方針原案については、大変多岐に亘るアイディアが書かれており、(策定に)大変ご苦労されたと思う。(これまで会議の中で)申し上げたのは、今後、歳出改革をどのように実施していくかが大変重要なことであるが、歳出改革をどのように定義するかということである。私は、よい政策で経済浮揚ならびに社会保障で本当に効果が出ているものは、継続的に、場合によっては増やす必要があるのではないかと(考える)。他方、そうではないものは一気に削る、もしくはやり方を改める。しかし、その際「何をもって成功とするのか」というKPIを設定しなければならないと思う。毎年申し上げているが、なぜ70~80ページに及ぶあれだけのもの(骨太の方針)を毎年策定しなければならないのか。財政は、単年度ベースではなく多年度で実施しないと効果が出ないことは明白であるから、基金を活用しているわけであるが、仕組みそのものは単年度ベースで実施している。中長期プランのもとに、「何ができなかったのか」「何が課題なのか」と、課題を設定し検証をしながら財政を運営すべきである。この点が旧態依然の仕組みのままなのではないか。もう改めなければいけない。なぜなら、時代が大きく変わった、見える風景が変わったからである。インフレの社会に変わった。そして、世界が平和ではなくなった。このような状況において、財政需要が(以前よりも)非常に増えてきた。インフレにおいては、ご案内の通りガソリン代などで支援をしているものの継続的な実施はできない。それから、高齢化のスピードが非常に速い(ことも大きく変わったことの一つだ)。つまり、社会保障費がどんどん増加していく。このように、財政需要が増えていくことが見えている中では、単年度ベースではなく中長期にどのように経済を好転させ、最終的には生産性と共に継続的に賃金が上がっていく経済運営をしていく(ことが肝要だ)。そのような経済運営が実施されているかを検証する仕組みを構築していかなければならない。数年前から申し上げ、(経済・財政一体改革推進)委員会を設置したのだが、EBPMをしっかり実施していくためにはデータが必要である。私は、5,000もの事業でEBPMを導入できるわけがないと思っている。学術機関や研究機関がEBPMを実施する仕組みは、まだ緒に就いたばかりであり、(EBPMを)やり切れる仕組みを構築したうえで実施していかなければならないからだ。いくつか試験的に実施しているのはよいと思うが、EBPMを実施する体制を構築し、その上で毎年の骨太の方針を策定していくべきだと考える。そのようなことからも、多年度ベースに合う仕組みの骨太の方針に変えていく必要があると提案した。それから、マクロ経済が大変重要であるにも関わらず、官庁エコノミスト機能がどんどん無くなっている。かつては内閣府の中に経済企画庁があり、立派なエコノミストがマクロベースで中長期に経済運営を見ていた。その機能が無くなってしまったのではないかと大変不安である。多年度(財政)を実施する上では、そのような官庁エコノミストを育成していかなければならないのではないかと、経済財政諮問会議で岸田首相に直接お願い申し上げた。何人かのエコノミストから伺った話をしっかりまとめ、日本のマクロ経済を運営するためのスペシャリストを国として育てていかなければ、マクロ経済の運営が大変厳しくなる。財政需要がものすごく増えてくる中で、どのような政策の乗数効果が高く、経済浮揚に関わるのかを理解している官庁エコノミストが必要ではないか。骨太の方針原案に対しては細かい指摘はあると思うが、いわゆる「型」をしっかりとしていかなければならないのではないか。岸田首相には、(今が)時代の折り返し地点だという問題意識をお持ちなのであれば、やり方を変えていく必要があるのではないか、と発言した。
少子化対策について申し上げる。最も重要なことは、恒常的に賃金が上がっていく経済でないと安心できないということだ。希望出生率は増えていかないだろう。現金を渡すことは一つの方法論ではあると思うが、過去、これが成功しているようには見えない。なぜなら、既に7.5兆円を費やしており、この検証がされない中で3.5兆円も増やすのはいかがなものか。これを(こども未来戦略会議の中で)申し上げた。少子化対策に手を打たなければならないのは事実で、基本的な考え方は大賛成であるが、これまでも財源を充てていないわけはないことから、何を改める必要があるかということをしっかりと見定めなければならない。そのためには、何をもって成功とし、何をもって見直さなければならないかというKPIをしっかり設置していく必要がある。財源を充てた結果何が起こり成功だと言えるのか、その道標が無い。今後、これについて議論した上で、必要であれば現金を給付すればいいと思う。7人に1人の子どもが貧困化している状況を考えると、所得制限の撤廃を決めたとことに私は大反対である。そうではなく、必要なところにもっと厚くすべきだ。例えば、貧困の連鎖という言葉があるが、このようなところ(世帯)へ財源が回ることに主眼に置いていくべきである。現金だけでなく、サービスの無償化などを行うことも一つだ。そしてもう一つ重要なのは、保育士の待遇改善である。人手不足の中で保育士の方々に気持ちよく仕事をしていただける環境は非常に重要である。このようなところに光を当てるべきだ。さらに、「結婚していなくてはいけない」ではなく、多様化している価値観に合うような家族の形を実現できるようにしていただきたいと思う。所得制限の撤廃については、例えば確定申告の対象者や子どもの人数が多い方など、一定のところで少し例外処理をする等は必要だと思う。私は、本当に必要としているところ(人)に、より厚く(手当を)することの方が重要だと思う。この所得制限撤廃についての議論は、経団連の十倉雅和会長、そして日本商工会議所の小林健会頭、三人揃って異を唱えていると私は理解をしている。(財源を)使うなと言っているわけではない。必要なところに使うべきで、所得の高い人に充てる必要があるのか(を問いたい)。マイナンバーによって、ある程度所得は把握できるわけだから、そのようなことを行うべきではないか。経済三団体はそう申し上げている。所得制限撤廃を唱えることは、政治的にはわかりやすい。しかし、7人に1人の子どもが貧困というのは最悪だ。このようなところに目を向けて(支援を)行うべきではないかと思う。
働き方改革は、企業が率先してやるべきことであり、これについては我々経済同友会も会員所属企業に成功事例をきちんと横展開して、働き方改革を実現していきたいと思っている。目標とするのは、結婚しているかどうかは別にして、二人で働いていて、正規(雇用)化し、継続的に賃金(所得)が上がっていく、このような環境を作ることだ。育休や、ビジネスケアラーなど両親の介護をしている方々もいる。そのためには、より一層生産性を上げ、企業として努力をしていくことが必要だと思う。これらについては、サービス産業が(全体の)7割超を占め、働いてる方々のマジョリティーであることから、サービス産業活性化委員会の中でこの議論を行っていく。シフト勤務がある、24時間運営がある、そのような中で本当に(現行の)保育所や保育士でそれらをカバーできているのか、このあたりの議論も本会として是非していきたい。(例えば、夜の)8時半過ぎや9時半(までの保育が必要なケースもある)。公だけではなく共助の社会においても協力しあえる仕組み作りが必要なのではないかと(考える)。とりわけ、日本においてサービス産業というのは大変重要である。是非とも働き方改革の解決とともに、年収の壁の問題もあるが、サービス産業の方々にも子育てに希望を持っていただき、希望出生率が上がるような仕組み作りが必要だと思う。今後本会での議論を踏まえ、サービス産業の方々の意見を代表して、私達は伝えていきたい。

Q:少子化対策に関し、財源の議論は年末までと先送りになった。経済団体として期待や要望があれば伺いたい。

新 浪:ある意味では、歳出改革は突然出てきたような話である。本質的には、この少子化対策だけではなく全て(の政策)においてやるべきことだ。ただし、歳出改革は歳出削減ではなく、ここを間違えてはいけない。必要なところにはお金を使う。極端な事例かもしれないが、日本経済はバブル崩壊以降、コストカット(のみ)をしてきた。現在の経営者も、考えることがコストカットだけに陥りがちだ。やはり使うことも必要で、何をもって必要とするかの基準はつくっていかなければならない。それが歳出改革であり、すなわちワイズスペンディングだ。これを進めることが重要で、その意味では、とりわけ社会保障(領域)においてイノベーションを起こせば(期待が大きい)。例えばChatGPTのようなさまざまな技術が出てきたが、そういったもの(高度なAI技術)を使えば、医療費(への歳出)を下げたり、安くよいものが提供できるようになる。こういった規制改革をしっかりとやること(が必要)で、歳出改革は規制改革とともに行わなければ成しえない。そのためには政治的な対立も出てくる。これを乗り切る覚悟を持って、現政権、与党は当たっていただきたい。この財源(の議論が必要で)、それはまたイノベーション伴って予算を使わなければ(ならない)。デジタル(領域)で2周、3周遅れの日本がAIやIoTを使って生産性を高め、その結果として歳出を改革する、世界的にも(先進事例になりうる)。主役は歳出改革ではなく、イノベーションだ。政府与党にはここにしっかりと取り組んでいただきたい。甘利明衆議院議員など、そうしたことを言い続けてこられた方々もおり、大いに期待している。岸田首相もこの分野に関心をお持ちであり、若手議員も時間を割いて取り組もうと意欲を持っている。ぜひ実現していただきたい。

Q:昨日政府は、いわゆる「女性版骨太の方針2023」で、東証プライム上場企業に対し2025年をめどに女性役員最低1人の選任と、2030年までに女性役員比率30%以上とする目標、努力義務を設けた。これについて所見を伺いたい。

新 浪:大変良いことだ。ただ、経済界としては、政府に努力目標と言われる前に自ら取り組んでいかなければならないことだと思う。DEIの必要性とは何かというと、イノベーティブ、クリエイティブなアイディアや意見を受け入れる力を持つことにある。そうでなければ、国際競争に勝てない。

Q:少子化対策についてだが、昨日決定されたこども未来戦略方針の中で2点伺いたい。まず男性の育児休業取得率の開示(制度の拡充)などの話が出たと思うが、制度はあるが実際には(育児休業を)なかなか取得できないという男性の方も多いことを実感している。また、選択的週休3日制の普及についても、実現できれば一層よいが実際に労働日数減少の中でどのように作業効率を上げていくのか。これら2つの実現可能性をどのように見ているのか伺いたい。

新 浪:一つめの(男性の育児休業取得向上の)実現可能性は、まず大企業からやっていくべきであり、実現可能性はあると(思う)。このようなこと(目標)を設定すると、必要に応じて様々な新しい技術を取り入れる、仕事のやり方を変える、ということが起こる。このこと自体がよいことだと思う。最終的に(男性の育児休業取得率を)100%にすることは、実は非常に難しい。80%前後までは(比較的達成が可能)。100%を実現するためには、120%を目指し取り組まなければならない。このような目標に向けた取り組みは、残念ながら政府が実行していかないとなかなか実現しない。先ほどの女性版骨太の方針も然りだ。他方、中小企業に関しては、これは(実現可能性が)相当厳しい。私自身大企業出身であり、まだ現状把握ができているわけではないが、中小企業の方々に対する実態把握はしっかりと行い、(男性の育児休業取得を)実現するようにしていくべきだと(思う)。その際に重要なことは、(中小企業においては)人件費増に対応する価格転嫁がまだできていないため、その点をきちんと行うことが大事だと(思う)。(初めは)低い目標でもよいので目標の設定をしながら、中小企業へのヒアリングに努める。大企業は、「スピアヘッド」(つまり、行動を進める)モデルとしてこれを実現していく。ちなみに、サントリーは(男性の育児休業取得率が)85%である。残りの15%(を達成すること)は非常に厳しい。目標を設定することによって、実現に向けたいくつかの方法論が出てくると思う。その方法論を横(展開)でユースケース(つまり)上手くいったケースとして共有する(ことが重要だ)。このようなことを、田代副代表幹事が中心となり、社会のDEI推進委員会において取り組んでいきたい。中小(企業)においても、中堅・中小企業活性化委員会の中で具体的な成功事例やナレッジを横展開することが大切だと思っている。(選択的週休)3日制に関しては、各企業の問題であり、それぞれの企業で考えていくことだと思う。ちなみに、本会会員企業に(選択的週休)3日制にしようということを、私自身はあまり提案できないかもしれない。むしろ重要なことは、前者(男性の育児休業取得率の向上)を(ファースト)プライオリティにしておくことである。育休をきちんと取れる体制を作ることの方が、私は重要ではないかと思う。政府はあれもこれも書き過ぎの感がある。しかし、プライオリティを置いて我々が選択してやっていくべきではないか。それは(男性の)育児休業(取得の向上)だと思う。

Q:骨太の方針原案の労働市場改革、雇用の流動性に関して伺いたい。自己都合退職の際に退職金を減額するモデル就業規則の見直しや、勤続21年目から退職金への課税が大幅に軽減される退職所得課税の見直しが盛り込まれた。これは確かに流動性を高める効果があるだろうが、企業経営者としてはせっかく採用した従業員には長く働いてもらいたいと思うのが当然のことではないか。このバランスが非常に重要になると思うが、所見を伺いたい。

新 浪:一生懸命育てた人材が辞めてしまうことについて、当会会員所属企業でも、様々な意見があるだろう。年齢バイアスは別にして、(ビジネスパーソンの)教育スクールのようになってしまい、(育てても)転職してしまう(人が多い企業もある)。若い世代の人材はリテインしたい、そうでない世代には動いてもらいたいという企業もあれば、若い人たちを受け入れたいという企業もある。(企業の)関心は交錯しているというのが実態だろう。しかし重要なのは、若い人に残ってもらいのならば魅力ある企業に変わらなければならないという点だ。年功序列で閉鎖的、封建的な会社には(人は)残らない。その意味で、これは良いことだと思っている。企業自らが良くなればいい、良い人は残る。若い人たちから(流動化)が起こり始めており、実は年齢の高い人たちも動き始めている。政策というのは、実態が動き始めたときに効果が上がるため、これは時宜を得ていると思う。我々企業が襟を正してよい企業になる。そうでなければ(人材に)残ってもらえない。ましてや人手不足(の状況下)だ。だから私は、企業が自らを見直す良いタイミングだと思っている。どうしても若い人に残ってもらいたいという企業もあると思うが、そのために自社をどうするのか(を問うべきだ)。何十年も待たせて役員にする。しかしその何十年を待てるだろうか。そういう若い人たちの気持ちをどうとらまえて、企業自身が変革していくか。そういうことだと思う。一方で、年齢が高くても、例えば65歳以上でも意欲があれば仕事ができる体制をつくる。そういう変革が起こっていかないと、よい人材、有意な人材はいなくなってしまう。これは非常に良いことだと私は思う。

Q:「こども未来戦略方針」の策定にあたり、経済三団体長が揃って所得制限の撤廃に懸念を表明するとともに、財源は税も含めて議論すべきと足並みを揃えて意見を述べたにもかかわらず、所得制限を撤廃し、3年間は増税を行わないという結果になった。経済三団体長の一人として、この結果をどのように捉えているか。

新 浪:事実を申し上げると、(こども未来戦略会議の席上で私は)今(の段階で)税を含めて(少子化対策の追加財源を)考えるべきと言っていない。(経団連十倉会長、日商小林会頭の)お二人のご発言については差し控えるが、将来的には当然、消費税など(の財源を)色々と考える(必要がある)としても、今の私の考えは、賃上げに(官民)皆で一緒に取り組み、(賃上げの成果を)喜んでいる段階で、増税によって(機運に)水を差すことは控えようというものだ。先ほどから(申し上げている通り)、歳出改革としてやるべきことを行い、その上でどうしても(財源に不足が生じる)となれば、(子育て支援は)重要政策であるため、(増税による財源確保を)行うべきである。ただ、子育て支援として7.5兆円を投じている(現在の)政策が成果をあげているかが分からない中で、税を使うといった(国民から財源を)集める議論ではなく、今現在行っている政策の効果をきちんと検証するべきである。(現在の政策効果の検証を)行っていないのに、税の議論を行うことは時期尚早だと考えている。経済界として、(所得)制限撤廃は行うべきではないと意見しながらも、(所得制限撤廃の見直しを)成し得なかったことは、やはり経済界の(発信)力が低下しており、間違いない事実だ(と受け止めている)。政治と経済界の大きな違いとして、政治は当然(選挙で有権者の)投票を獲得できるかどうかが重要だが、短期的に(有権者の支持を)集める政策で日本が良くなるのか(を考えるべきだ)。今回、大変良かったのは三団体が一つの意見を表明できたことだ。(意見が採用されなかったことは)大変悔しいが、経団連十倉会長、日商小林会頭と一緒になって、真に日本の将来に必要な課題には、(三団体が)ワンボイスで発信していくべきだと感じた。

Q:(昨日6月13日の総理会見において)最低賃金について公式に1,000円の目標を掲げたが、(最低賃金の)決め方のルールがある中で、政権が言うことによって相場感を作ってしまう。その在り様はどういうふうにお考えか。

新 浪:私はずっとそれ(最低賃金上昇)を言ってきた。とりわけ中小(企業)の方々を対象として、政府が大きな声で言えるのはここ(最低賃金)だ。1,000円という金額については、安いと思う。また、ニワトリと卵のどちら(が先)かの議論になるが、生産性が上がってから(最低賃金を)1,000円にする、あるいは1,000円にするために生産性を上げる(ということがある)。おそらく現状のような人手不足においては、まず1,000円にしてから生産性を上げようというのが正しいのだと(思う)。多くのところは、時給1,000円を支払っても人が集まらないという状況だろう。人が集まらないと、(企業は)デジタルの活用など様々な工夫をし始め、(それによる生産性の向上でより高い賃金を)支払えるようになる。以前はこのような議論は無かった。人手不足によって議論の根底が変わったため、。1,000円が納得感を持つのだ。さらに重要なのは、その後は1,500円(と上げていく議論)にすべきである。それを目標として(達成時期を)例えば5年後にすれば、政府は予見性を出す責任がある。予見性がある中で、生産性向上させるために、1台のコンピュータだったところを2台、3台にしよう、そういう投資をしようと(企業が取り組む)。しかし、(予見性が無く)わからなければ(生産設備を)そのままにする。(だから、)予見性を示すことが必要だと思う。このように、先々の最低賃金の上昇の議論についても行うべきだと思う。中小企業の方々は、以上のことに取り組み、自らをより良くしていくとともに、人件費、例えば(最低賃金を)1,000円分はきちんと(負担)くださいと大企業に言えるようにしていかなければならない。

Q:(最低賃金を)決める方法は別として、政府としてここを目指していくという目標を示すところまでは構わないという考え方か。

新 浪:その通りだ。あとは議論しないと(いけない)。

Q:経済財政諮問会議の中でも、その議論を踏まえた昨日6月13日の総理会見でも、今年は最低賃金1,000円達成を目指し、そのあとの目標については改めて議論するという発言があった。政府目標の決め方において、中小企業団体は労使もその場に入れてほしいと意見表明をしている。労使が介入する意味や意義があるのか、また政府目標の決め方についてのあるべき姿などを伺いたい。

新 浪:目標設定のプロセスとして、私は労使でコミュニケーションするべきだと思う。プロセスにおいて、労使できちんと話をする場を持つことは大いに結構で、これまでも随分実施してきたと思う。現在、日本労働組合総連合会の芳野友子会長も入られて、例えば少子化対策、新しい資本主義など、様々な(分野に)労働組合の意見をいただけるような場があり、大いに議論もされている。また、日本商工会議所においても、地域の声を聞いて、その上でとりわけ三村明夫前会頭は相当反駁をしながらやってこられた。そのプロセスは踏むべきで、その結果としての目標設定だと思う。だから、(労使のコミュニケーションを)無視せず目標設定をするプロセスは重要だと(思う)。厚生労働省の中央最低賃金審議会で(議論を)やるのだから、そのようなプロセスを大切にすべきで決して無視してはいけないと思う。

Q:日経平均株価が上昇している。前回(会見で)、新浪代表幹事は期待値(によるもの)とおっしゃっていた。(株価が)上がれば上がるほど、大企業と上場企業の時価総額は上がっていくが、諸手を挙げて前向きな気持ちになっていいのかと非常に気になるところだ。改めて、現状をどうご覧になっているかお聞かせいただきたい。

新 浪:私は、まだ期待値(による株高)の域を出てないとは思う。以前にも申し上げた通り、人材の流動化が日本の一番の問題点だったが、(人材の流動化は)起きてきており、これを後押しする政策も出てきた。このようなことから、それ(人材の流動化)が実現することに対する期待値があると思う。株をリパーチェスしてリタイアするというやり方でPBR(の1倍割れ)を解決するのはあまり良いことではないと思う。外国を始めとした投資家にとっては良いかもしれないが、実態としてその会社の価値が上がったわけでは決してない。(そのようなやり方で株価が)上昇したところで、それ以上(の上昇が見込め)ないのであれば、最終的には売却することになる。サステナブルに(株価が)上昇していくためには、資金はあるわけだから、新しい分野に投資を行い、その結果として何かを(新たな事業を)生むという将来の絵を描いていかないと駄目だと思う。将来を描くために、優位な人材を(企業に)入れて、そして(目指す将来像を)実現していくと示すことが、企業がサステナブルに、期待を裏切らずに成長していく大きなポイントだと思う。それにはもう少し時間かかるだろう。投資ということでは、中国はこれまで様々なところから資金が集まったという事実がある。国内投資に関しては、規制緩和や規制改革(を進め)、とりわけ健康長寿、グリーンイノベーションといった分野に投資をしやすい環境を作っていくことで、更なる株(高を招く)、もしくは今の期待値に応えることになっていくだろう。もう一つは、株(価)が上昇したことで、トリクルダウンが起こるか(という点については)、起こらないと思う。NISAなど(投資支援を)を一層進めるといったことはあるとは思うが、トリクルダウンが起こるか起こらないか(というと)、今のところ起こるような兆候はないだろう。ただ、株が上昇すると世の中(の人々が)心地良くなる。その際、(世の中が)一生懸命ビールを飲んでくれる、(コロナ禍において自粛していた)2次会を実施してくれる等、トリクルダウンの一部でも起こらなければいけない。景気は「気」である。消費が回っていくということ(が大事だ)。そのためには、循環して人材不足をどのように解決するかということになる。よって、トリクルダウンを起こして「良かった」と思う国民が増えることを、今から考えていかなければいけない。つまり、「分配」のことであり、非常に重要だと思う。

Q:昨日、LGBT法案(「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」)が衆議院で可決され、今通常国会で成立する見通しとなった。先行するグローバル企業にしてみれば遅いとの評価になるのかもしれないが、取り組みが進んでいない企業、特に中小・零細企業には負担感も生じてくると思う。こうした状況をどう考えているか。また、昨日の岸田首相の会見でも質問のあった次のステップとしての同性婚の法制化について、どのように考えているか。

新 浪:DEI(ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性))の大きな部分を占めるLGBTQ+について、(本会は)促進していくべきとの方向性であり、(企業・経営者による宣言への)署名を募っている。現在も(署名)数が増えており、官邸に(報告に)行くことを考えている。(法案成立後はLGBTQ+への理解を)促進していかなければならないため、本会として、その覚悟である。今回、法律(案)が(衆議院を)通過したことについては、様々な解釈があるとしても、一歩前進したと評価している。一方、中小(零細企業)の方々は(負担感があるとの指摘は)その通りだと思うが、だからこそ促進していかなければならない。世の中に存在する多様な価値観を認めながら、経済社会を運営し、(理解を)促進していくかについて、経済団体として、大企業だけでなく(中小も含めた)会員所属企業に伝えていく(必要がある)。そのために、(今年度は新たに)社会のDEI推進委員会を設置した。(DEIの推進を)行うことにどういった価値があるのか(を訴えていく)。その一番の根底は、人権(の尊重)である。日本として人権を考えるにあたっては、これだけ世界と繋がりがある以上、G7の中で遅れており、一歩進めなければならないと言われている(ことは課題である)。(DEI宣言への署名を)行うことにより、日本企業が世界で事業活動や貿易を行う中で、(人権を尊重する国として)認められることが必要であり、大前提となる。こういった観点で、中小(企業経営者)の方々にも(DEI推進の意義を)理解いただけるような委員会活動を行っていきたい。もう一つの質問である同性婚(の法制化)には賛成である。多様性として認めていくべきであり、できれば早く税制なども含めて制度的にも不利がないように(法制化を)行っていただくのが重要だ。国政も含めて反対されている方々の存在は承知しているが、こういった(LGBTQ+の)方々にも不利が生じないように制度設計を行うべきと考えている。

Q:本日、(新浪代表幹事が)日本国際博覧会協会(万博)の副会長に就任したと聞いている。万博の入場料が非常に高く、7,500円という設定だ。これは当初想定の5,000円という数字よりかなり上昇しているため、入場者数に影響が当然あるだろう。所見を伺いたい

新 浪:それだけの価値あるものを提供できるのだと思っている。資材等が高騰していることから、開催実現には来場者に一部ご負担をお願いするのは必然的かと(思う)。その代わり、(入場料に見合う)価値を認めていただくような立派なものにすべく、汗をかいて取り組んでいる。参加企業も一緒になって盛り上がっている。7,500円を超える価値を提供し、ご理解いただきたいと思う。本会としても、しっかりと応援してきたい。

Q:「女性版骨太の方針2023」に関し、経済界としては自ら取り組むべきだという発言があったが、「隗より始めよ」で当然、官庁にも目標が必要という考えはないのか。

新 浪:その通りだと思う。しかしながら振り返ってみると、相当努力もされているとは思う。女性が高位に就くようになってきており、意図的に取り組んでいるのだろう。私はこども未来戦略会議に出席し、官庁の働き方改革も必要だと発言したところ、裏で公務員の方々が喜んでいた。女性(の登用)は官庁も始めており、政治主導でやられていると思う。我々企業も、その点は大いに競争して(外部に情報を)出していったらどうかと思う。それが相まって大きな力になっていく。海外の企業をいくつか経営してきた中で(思うのは)、正直、DEIはコストが掛かる。しかし結果として非常に良い状況になる。ただ、しばらく時間をかけて頑張り続けないと(ならず)、その効果は目の前にすぐ現れるものではない。だが、(必ず)現れる。男女だけでなくLGBTQ+も含め、(多様な人材から)面白い話が上がってきて「なるほどな!」と思う。女性の方が(男性よりも目線が)もっと細かい。以前経営したローソンでは新入社員採用、キャリア採用の半数を女性にし、それが良かった。色々な点に気付いていただいた。私の経験則として、これ(女性従業員比率の向上)をやることは非常に会社の発展に繋がる。その代わり、1、2年ですぐ(効果が)出る話ではない。だから社長、もしくは会長という経営のトップがコミットしていく話だと思う。時間軸が長い話で、それをしっかりとやり続けることが、必ず企業の発展に繋がる。公務員ももっとやってもらいましょう。

Q:少子化対策に用いられてきた7.5兆円の効果検証が行われていないとの発言があった。海外では、現金給付に出生率を高める効果がないとの知見が得られている。それにもかかわらず、今回のこども未来戦略方針で所得制限が撤廃される背景には、選挙での集票が目的にあるのか。

新 浪:7.5兆円(の子育て政策)によって、いわゆる希望出生率がどれだけ増えたのか。増額されたのは最近であり、長期的な効果をきちんと検証しなければならないが、1年で即(効果が)出ることはない。検証していないことが問題であり、検証を行うことでまだ(政策が)進展している最中だとの結論になるのかもしれない。しかし、学術的には、現金給付によって希望出生率が高まるという論拠はなく、(6月9日に開催した未来選択会議第9回オープン・フォーラムで)、山口慎太郎 東京大学経済学部教授が指摘された点には耳を傾けるべきだと思う。ただ、今回の「こども未来戦略方針」は、(現金)給付だけではなく、様々な(政策をまとめた)パッケージである。そのため、(政府は)パッケージとして見てもらいたいのだと理解している。(現金)給付だけを取り上げて希望出生率が高まるかと聞かれると、なかなか難しいとは思う。選挙との関係については、私は申し上げる立場にないが、全体の考え方として(希望出生率の向上に向けた政策を)実施しなければならないため、行うからには絶対に成功させる必要があり、そのためには毎年(の状況を)見ながら正しい政策は何かを検証し、何としても実現して欲しい。日本政府は支出の検証が苦手であり、あまり実施していない。(その理由は)誰が失敗し、誰の責任かが問われるためだ。こうした風潮を是正し、実施した政策が効果を挙げなかったときに修正を図ろうというスタンスに変えなければ、少子化対策はうまくいかないだろう。様々な政策を行う中で、(効果の挙がらない)駄目な政策は中止し、より良い政策をもっと伸ばしていくことで、ワイズスペンディングとなるように(本会として)支援していくべきだと考えている。

Q:ネガティブな行為のロビー活動以外に、ヤフーやメルカリは、官庁の出身者をロビイストとして雇い、ルールメイキングのためのロビー活動をしている。また、倫理規定に触れない範囲だと思うが、官庁の出身者を関連業界に採用するということもあり、これらの是非について伺いたい。

新 浪:私は、良いのではないかと思う。ただ、ルールメイキングの内容次第だとは思う。官庁の方を招聘すれば、どのように進めていけば良いのか当然よくわかる。ルールメイキングの内容は規制緩和や(規制)改革の問題だと思うが、それが自社にだけ良いものであるのであれば、これは絶対駄目だ。(日本はそもそも)ルールメイキングが苦手な国で、おそらくヤフーとメルカリはデータの扱いなどについて取り組んでいるのだろう。国際標準の中で日本は遅れており、政治ならびに官庁の世界に対して自身がこういうルールにしていきたいと言っていくことは間違いではないと思う。その際、糸口を作るということで官庁の方々を窓口にして話をしていくことは、私は生産性が上がることであると(思う)。我々が出向いても簡単にはどの部署が適切なのかもわからないため、そのような点では良いことだと思う。ただし、先程来申し上げているが、個別の企業だけに資する話はNGだと思う。

Q:代表幹事は就任時にも婚姻を前提にした社会で良いのかという問題意識をもって今後議論をしていきたいとおっしゃっていたが、社会のDEI推進委員会の中で同性婚の扱いなどについて、経済同友会として議論されるのか。

新 浪:その通りだ。議論はする。また、前提として「これ(同性婚)は是」という考え方をお持ちの方が委員長に就いている。ただ、それに対して反対を唱えるメンバーの方もいらっしゃるかもしれない。その際は理由を伺い、きちんと議論をすべきだと思う。本会及び委員会のスタンスとしては「是」。各企業においては、「是」としてそれぞれ制度設計をされることだと思う。ただ、国の制度設計はまだそうなってない。

Q:婚姻に基づかない前提でも社会を回していけるようにする、すなわち今ある現実に合わせる仕組みづくりと、今までとは違う形の婚姻を認めるべきとする考え方、双方が同時並行で走る感じということか。

新 浪:パートナーという仕組みをどのような制度にしていくかという細かい議論をこの委員会でやるべきだと考えている。フランス的な制度が良いのか、そうではなく日本はこういう形が良いなど、議論をしていただきたいと思う。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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