新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
記者の質問に答える形で、G7広島サミット、家庭の電気代値上げ、LGBT理解増進法、生成AI、ロビー活動、少子化対策財源、3歳までの子を持つ社員が在宅勤務できる仕組み導入を企業の努力義務へ、PBR1倍割れ企業などについて発言があった。
Q:今週末の5月19日から21日まで開催されるG7広島サミットが近づき、オンライン出席の可能性に言及していた米国のバイデン大統領は予定通り来日できる見込みだ。既に開催を終えたG7閣僚会合の成果、G7広島サミットに対する期待について伺いたい。
新 浪:G7サミットの継続はとても重要だと思っている。とりわけ日本は安倍元首相の(在任)期間が非常に長く、(各国首脳との)信頼(関係)を構築された。G7のリーダーが集まることで(互いに)信頼関係を構築することは、非常に重要であると思う。過去には、G7サミットを終了しようという議論もあったが、ウクライナで戦争が起こり、米中関係が厳しい(現状の)タイミングでのサミット開催は非常に重要である。バイデン大統領も来日予定となり安堵した。その中で(G7広島サミットに)期待するものはいくつかあるが、(第一に)広島で開催する意味がとても大きいと思っている。ウクライナ戦争が続く背景には、ロシアの保有する核(兵器)があり、大変な脅威となっている。中東も核が拡散している可能性があり、日本周辺では、北朝鮮にも同様の可能性がある。いつまでも核の脅威が続く中で、広島で開催することに意味がある。(原子爆弾で)大変悲惨な経験をした広島という街で、各国首脳には歴史、(原爆の)悲惨さを感じてほしい。そして、絶対に核(兵器)を使用しない世界を作らなければならないと、思いを一つにしてほしい。人間は、歴史上何度となく戦争を繰り返しているが、インドをはじめとするグローバルサウスも参加する(G7広島サミットでは)、戦争や核(兵器)の悲惨さを理解し、それらをなくし、そのような危機がない世界をどう作っていくかを真剣に議論いただきたい。(G7広島サミットへの)期待は多くあるが、その点が一番重要だと思う。
Q:G7広島サミットについて、経済面では経済安全保障がテーマになると思うが、どのように考えるか。
新 浪:経済安全保障は直近二、三年で大きな課題になっており、様々な取り組みがされている。経済安全保障のみならず、経済そのものについて、あまりに米国や欧州は(内向き志向であり)、地政学、地経学的な話し合いは進んでいるが、経済の繋がりをもっと重視した議論をしていただきたい。IRA(インフレ抑制法)やCHIPS法のように、米国の国内投資を中心とした(法案が成立し)、欧州は欧州で(保護主義に走る)となれば、グローバルサウスは一体どこに行くのかという話になる。自国だけの投資を考えるのではなく、もっと世界が繋がる意味で、特に経済(の観点)で日本は(G7と世界を繋ぐ)橋渡しをする機能がある。欧州、米国が自国の経済だけを考えると、世界はどうなるか。グローバルサウスが(G7広島サミットに)参加し、それらの国々(とG7)を繋ぐことができる日本の位置づけは非常に重要ではないかと思う。G7以外に韓国や関係する国々が参加することで、経済が繋がりやすくなる。岸田首相のリーダーシップに期待している。今回の枠組みは大変評価すべきであり、期待すべきものであると思う。
Q:本日5月16日、家庭向けの電気料金について、政府は来月から値上げする方針を決めたが、受け止めと影響について伺いたい。消費者庁は、「電力会社は高コスト体質だ」と批判し、さまざまな議論がされてきたが、代表幹事の考えを伺いたい。
新 浪:これにより、可処分所得が減少してしまう点が大きな課題であるが、電力会社も大変努力して「最低限これだけは」というところに(値上げ幅を)収めたことを評価をしなければならないと思う。私も消費者だが(経営者でもあり)、エネルギー価格がこれほど上昇し、インフレが続く中で、改めて賃金を継続的に上昇させていかなければならない。経済合理性から言えば、上げなければならないものは上げなければならない。しかし、それを妨げる力は、「継続的な賃金引上げは起こらないのではないか」と社会的に思われた、いわゆるノルムである。これを崩していくこと(が肝要である)。やはり、これ(電気代値上げ)も、賃金が継続的に上がっていくことに関わる問題ではないかと思う。今後、政策的に官と民がやらねばならないことは、賃金を持続的にもっと上げる(ことである)。それがノルムになれば、あるべき価格転嫁の姿(ができる)。これは電気料金だけではなく、さまざまなことに関係する。価格転嫁の一方で、それを受け止める消費者や国民の賃金が上がっていく、これらの合わせ技であることが重要である。
Q:LGBT理解増進法案の修正案が自民党内で了承され、今週中にも国会に提出される見通しだ。受け止めや、これまでの議論についてのご所感をお聞かせいただきたい。また、経済同友会の会員から、署名を集めていると伺っているが、進捗状況や政府への提出予定なども合わせて教えていただきたい。
新 浪:まずはどんな方々でもきちんと保護され、活躍できる社会を作ることは当たり前だと思っている。そうしたことができない国に、(海外から)高度人材を受け入れることは到底不可能であり、今回議論が行われ、自民党の部会で了承され、公明党も了承したことは、一歩前進ではある。しかし、常に考えていかなければならないのは、マイノリティの皆さんが本当に大手を振って社会とともに歩むことができるかどうかであり、まだまだ完全ではない。包摂は重要であり、今回改めて、経済人や政治家において、包摂なくして日本におけるイノベーションも起こらず、(包摂は)絶対的に不可欠であると考える必要がある。今後国会で熟議してもらいたい。本当にこれで包摂(の実現は)大丈夫か。完全ではない法案だと思うが、一歩前進と評価しながらも、修正した内容等を(踏まえ)、当事者はこれで本当に安心して社会で過ごすことができるかどうか(議論したうえで)、是非(法案が)通過してほしい。そうした中で、(本会のDEI宣言には)500名以上が署名してくれた。今後、国会審議を闊達に(行い)、誰もが包摂される社会をつくることに向けて法律がしっかり完成するためにも、集めた署名を官邸に届けることを予定している。
Q:LGBTの理解増進法案に関連して、署名を集める段階でどのようなことを求めるという文言で署名を集めたのか、また、政府・与党の動き、野党の動きもあるが、中身とも関連するが、どのタイミングで官邸・政府に持っていくのか。さらに、国会ではなく官邸に持っていく意味はどこにあるか教えていただきたい。
新 浪:本会会員有志に対し(訴えたのは)、LGBTQが大きな課題であり、G7(サミット)を主催する国として意識をもっと持たなければならない、社会的包摂という意味で、マイノリティの方々も活躍できる場を作っていき、皆が一緒であるという(共同宣言)をやろうといった(内容だ)。多様性の大切さと、その大前提となる人権を大切にする社会にしていきたいので賛同する会員はぜひ署名をして欲しい(と依頼した)。(経営者の)意思が重要だと考え、政府に届けることを前提とした。当然、国会審議において官邸は重要な役割を持っている。また、日本を含めたG7(各国)の在日商工会議所にも協力を依頼した。
Q:G7閣僚級会合で様々な成果文書が公表され、それらを全体的に総合する形で取りまとめた共同文書が今週末に公表される予定である。目下のグローバル情勢を踏まえると、共同文書はサプライチェーン、経済安全保障が中心になると思うが、明文化されるかは別として、中国を意識し、ブロック化、いわゆる中国外しが起きるか、新たなグループを形成することで逆に世界の分断が強まる恐れはあるか、伺いたい。
新 浪:今回(G7広島サミット)参加国を見ても、G7そのものが分断に与するものではないと思う。(理由は)二つあり、一つは、分断するのであればグローバルサウスは招待しない。もう一つは、デカップリングは本当にできるのか(という点)。できないことが明確になっているタイミングだと思う。確かに線引きは大変難しいものの、高度先端技術で、戦略的、国防的に必要なものは(貿易品目から)外すことはあるだろうと思う。しかしそうではないものは実際には(貿易は)止まっておらず、データを見るとむしろ増えている。米中間も切っても切れない関係にある。日本も中国との関係は切っても切れない。ブロック化を意識しないことが日本の立ち位置であり、議長国がその立ち位置である限りは、ブロック化ではなく、貿易、経済はもっと繋がっていこう(という考えであり)、中国を排除しようというものではないと思う。一方で、半導体周辺の技術は同盟国間でしっかりとコンセンサスを作っていこうと、G7(広島サミット)以前から行っているわけで、それは(そのままで)よいと思う。グローバルサウスも一緒に(経済面で)繋がることが重要であり、非常に意味がある。ブロック化ではなく、全く違う方向と認識している。
Q:先日、期間限定ではあるものの、一部の省庁で生成AIを利用する方向が示された。ChatGPTを含む生成AIの可能性や、経済界への影響、課題について、代表幹事の現在のお考えをお聞かせいただきたい。
新 浪:(生成AIの活用には)正直、難しさも相当あると思っている。ただこれを使わずに産業として、競争に勝ち抜けるか。まず大前提として、生成AIそのものの活用はしっかり考えていかなければならない。(生成AIを)使用しつつ、課題も考えると、とりわけIP(知的財産権)周り、技術周りに注意しなければならない。しかし議事録をまとめるといった日常業務や、秘匿性のない分野では大いに使っていくべきだと思う。正直、「これで上手くいく」という解を持っている企業や国はなく、その中で生成AIをどう使うかは、トライアンドエラーだと思う。そのとき間違ってはならないのは、難しい技術分野は(生成AIの使用から)除外していかなければならないという与件を持つことだ。そのため、私は(生成AIを)大いに活用すべきと思っているが、自分たちの(企業の)技術陣に対しては「ここは気をつけなさい」「ここはやるべきではない」と話をしている。議事録をまとめるといった一番手っ取り早く取り組めるところ、英語で「Quick Win」と呼ばれるが、すぐ効果が出るところから使用し、その中で生成AIとは何か(を考え)、これをあまねく広く(社会で)使用していくべきだと思う。
Q:生成AIは経済界や産業界を変える潜在能力があると思うか。
新 浪:相当変える力になると思う。逡巡するのではなく、まず向き合ってみようとしないと、逆に競争戦略上負けてしまう。(デジタル化が)二周、三周遅れの日本で、これを上手く活用すると、もう一度世界に冠たる強い産業競争力になる可能性もある。日本には今、リープフロッグが必要だが、ここ(デジタル分野)で非常に苦労し、デジタルにおいては完全に遅れてしまった。しかし、これ(生成AI)を活用することで、ひょっとしてまた(産業)競争力を担保できる可能性、潜在性があるのではないかと期待している。
Q:ロビー活動について伺いたい。良いロビー活動もあれば、レントシーキングのような悪いロビー活動もあると思う。例えば、古くからある酒税引き下げのようなロビー活動は否定しないが、米国に比べ日本はロビー活動の透明化が全く進んでおらず、ロビー活動の良し悪しが判然としない。もう少し透明化すべきではないかという議論については、どう考えるか。
新 浪:日本におけるロビー活動の定義がバラバラなのではないか。まず思うのは「業界」。業界団体によるロビー活動は存在するだろう。これは、業界にとって利益があると思って動いているわけであり、その業界(が直面する共通)の課題が存在する可能性もある。それにも関わらず、(各企業が個別に)ロビー活動をやるのは、あまり良いことではない。日本における業界団体のロビー活動であれば、かなり透明化されているのではないかと思う。どこかの企業だけが(業界の中で特別な)利益を受けるロビー活動は課題がある。米国のロビー活動は良いかというと、これは疑問である。(幅広い層の)ウェルビーイングに役立つロビイングであればよいが、そうではないロビイングは(よくない)。本会であれば、ある会社、ある産業を良くするため(にロビー活動を行い)、その産業(・企業)だけが良くなったことにより社会善が失われるとしたら、良いことではないと思う。ロビー活動は、どちら(側)から見るかによって良くも悪くもなるわけで、一概には言えないのではないか。また、日本が透明化されておらず、米国が透明化されている(とのご質問だが)、米国の透明化されたロビー(活動)が本当に良いかというと、これも疑問である。比較論においては、日本の業界団体の動きは実に透明化されており、米国に比べ透明化されてないとも言えない。もっと具体的に、何をもって透明化されているというか、ロビー活動そのものはどうなのか、という議論をしないとならないが、私自身は、(日本のロビー活動は)かなり透明化されていると思う。ただ、透明化された中で、本当にこれ(ロビー活動)がウェルビーイングに繋がるかどうかは議論しなければいけない。そのことは(透明化よりも)重要だと思う。
Q:例えば、米国はどの官僚、政治家が、どの団体といつどこで会って、その団体は年間どの程度のロビー活動費を使っているなど、議会事務局で詳細が分かる。そのため、良いロビー活動かを判断する方法があるが、日本はそのようなことが全くない。
新 浪:(米国で行われているロビイングの)内容が正しいかどうか、(個別企業や特定の業界に止まらない社会全体の)ウェルビーイングに繋がっているかどうか、私は非常に疑問がある。(一例として)今のような(米国の)銃規制は、あれで本当に良いのか。(ロビー活動の内容は)分かっているものの、結果的に現状の銃規制になっていることに対して、何か違うと感じる。(活動内容が)透明化されているかよりも、(ロビー活動後の)結果がそれで良いのか、そちらの方が重要だと思う。米国は、プロセスがどうあれ、結果に対しては相当課題があるロビー活動だと思う。だから、(米国社会で)分断が起こっている。日本と米国、どちらが住みやすい国か。(米国)経済の強みは、ある意味で非常に良いダイナミズムがある。しかし、ウェルビーイング上、(日本と米国の)どちらが良いかは、本当に皆で議論しなければいけないことだと思う。
Q:今回のG7広島サミットで、生成AIの活用や規制のあり方がテーマになると想定されるが、どのような議論を期待するか、議長国の日本にどのようなリーダーシップを発揮してほしいか、期待を伺いたい。
新 浪:得体がよく分かっていない(部分があり)、どのような規制がかけられるかは、様々な国からの意見を集約しながら、日本がまとめていかなければならない。この部分を規制しようと(具体的に)言えるほど、まだ実態(が不明である)。(生成AI)全体として大きな問題がある、(言い換えれば)G7各国が共通して「この部分は問題である」と(指摘できる)箇所はまだ検出されていないと思う。ただ、例えば国家機密に関して利用はしないといったことはできると思う。予見可能性があるものについての議論は大いにやるべきだ。技術開発に関することは(生成AIの)使用をやめる、また著作権の問題等、それをどのようにして対応するかという議論は大いに期待したい。
Q:LGBT法案は完全ではないと発言されたが、具体的にはどの点が完全ではないか。
新 浪:性自認についてだ。性自認と性同一性については、解釈が非常に分かりづらいところがある。岸田首相は会見で、性自認と話された。すごくしっかりとした認識を持っていると驚いた。また、ありがたいと思った。(言葉の)解釈によって排除されてしまう(人が出る)ことがないようにしないといけない。(性自認と性同一性では)言葉(の対象範囲)が違う。従って、LGBTQ+の人が包摂される意味ではまだ完全ではない。ただ、第一歩になるよう、(法の)精神としては皆さんが包摂される解釈になるようにしてもらいたい。法案を見る限りは、解釈によって違うと思う人が多く存在する可能性があり、完全ではないと思っている。(その点で)岸田首相は非常にしっかり理解したコメントをされた。
Q:先日の総会後の会見で「少子化対策自体は非常に乗数効果が高く、これは今やらなくてはいけない」とお話をされたが。少子化対策の財源がどうあるべきかについて、改めてご認識を伺いたい。
新 浪:まず基本的に、少子化対策は一般会計上、非常に重要な位置づけであるべきだと思う。全体の中で位置づけたら、当初からの一般会計に入れるべきである。全体の歳出改革をやらずに、なぜ(財源が)保険料や、消費税という話になるのか全く理解できない。社会保障において、高齢者と今後産まれてくる人(数)がアンバランスであり、このバランスをしっかり改革いただかないといけない。そういう議論なくして、どの財源か(とすること)は違和感がある。重要(課題)であれば、最初から大きく(財源を)確保すべきである。(少子化対策の)優先度が高いため、他の支出を削ることもでてくる。例えば社会保障において、AI等のデータ活用によってより効果的に、低コストで(政策目的を)実現可能なのに、なぜやらないのか。(様々な政策課題の中から)一つだけ取り上げて「Aという財源が必要だから、Bという財源から同額を持ってくる」という議論のあり方に、そろそろ終止符を打たなければいけないのではないか。これだけのお金を使っても、一度もEBPMを実施していない。EBPMをやって効果がある(政策だから)という前提だが、実は誰もやっていない。EBPMをやれば、間違いなく効果がない(と判明する)政策は、多くある。どうしてそれをやらずに、大切な税金がどこへ行くのかという議論に向かってしまうのか。それは間違っている。EBPMをやっても、無駄は少々あるかもしれないが、それでも必要であれば、国民に対して子どもの大切さをしっかり伝え、色々な形で(財源を)出そうというコンセンサスができる。プロセスの問題をしっかりやるべきだ。技術革新を活用すれば、社会保障費も低廉なコストでもっと効果が上げられるものがある。だからこそ、スタートアップ、イノベーションの必要性を指摘している。そういうものが医療・福祉の中に本当に取り入れられているのか。(技術革新が)取り入れられると、もっと安い金額でできる。また、どのような補助金が何のために使われているのか。そういったものをきちんと見ていく。少子化対策は本当に重要な1丁目1番地であり、財政出動すべきである。(他の)不必要なものは止め、(それでも)本当に足りなかったら国民に問う(べきであり)、(現状は)議論のプロセスが違うのではないかと思う。消費税や保険の話をしているが、せっかくこれだけ賃上げのモメンタムを作っているのだから、企業は徹底して賃上げをしっかりやっていき、そういった経済を作っていく。経済が浮揚していけば税収は上がるが、それをこの議論に入れているか。単年度ベースではなく複数年度であれば、いくつのポケット(財源)から子どもにお金が出せるのか、消費経済にどれだけプラスになるかを計算していない。間違いなくプラスになるし、プラスになるようにしなければならない、という意思をもつ必要がある。決して、将来的に消費税を否定するわけではなく、社会保険料も(然りである)。ただ、現在の議論の中でどうして(すぐにそれが)出てくるかが不思議であり、やはり、予算は単年度ベースではなく複数年度ベースで考えなければならない。ワイズスペンディングが重要である。8兆円と言われる(予算規模)が、どこから出てきたのかもよく分からない。また、高所得者にまで(少子化対策の支援を)渡す必要はない。例えば(年収が)2,000万円ある方に(手当を)支払う必要があるのか。(政府の)財政の使い方もきちんと見ていくべきで、予算の中身が重要ではないかと思う。すぐに財源に(議論が)飛ぶのではなく、家庭が本当に子どもを産みたいと思う仕組みを議論する方が(重要だ)。日本において、子どもを産みたいと思う方を増やすにはどうしたらよいかが重要ではないかと思う。
Q:LGBT法案については一歩前進であり進めて欲しいとの発言があったが、(経済同友会会員有志から集めた署名を)持っていくタイミングは、G7広島サミット後になるか。
新 浪:G7(広島サミット終了)以降になる。(LGBT法案が)国会へ提出されるのは、恐らくG7広島サミット終了後早々になり、審議はG7広島サミット以降になるため、それにプラスになる形にしたい。
Q:少子化対策に関連して、厚労省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」で、3歳までの子どもがいる社員の在宅テレワークを認める制度を導入するよう、企業に努力義務を課す案が上がったが、中小企業にはなかなか厳しく、医療、介護の現場で働く人、サービス業の従業員には難しいところもある。経営者の視点から見て、今回の案をどのように受け止めるか。
新 浪:努力義務がどれだけの義務かは計りかねるが、中小企業は大企業と異なるため、同じような対策では大変難しいことは間違いない。大きな観点で言えば、賃金を上げる際(中小企業は)労務費に対して値上げが認められないケースが多い。中小企業も労務費が上がった分はきちんと(価格)転嫁できるようにしなければならない。二点目は、予算面で中小企業に対して配慮しなければならない。ただ、8兆円規模と言われる(少子化対策の)内訳があまり詳しく議論されておらず、そこをきちんとする必要がある。(日本の)7割の労働力を持つ中小企業のあり方は、大企業とは恐らく異なるため、予算配分は少しここ(中小企業)に厚くしていかなければならない。企業に出すより、7割の労働者の中で、特に子どもを持ちたい層に対し少し厚くすることを考えるべきだ。決して(中小)企業を支援せよとは言わない。働いている人に、直接支援がわたる形がよいと思う。その(方法)は、お金か、サービスを無償(化する)なり何かしらサポートする(ことか)、さまざまなやり方があると思うが、まだこの点は議論されていない。従って、一律にこうせよとはいかない。ただ、(厚労省が)意図するところは決して悪いことではなく、悪意を持ってやっているわけでもない。このような考え方もあると思うし、決して否定するものではない。
Q:PBR(株価純資産倍率)1倍を下回る日本企業が多い。経済界トップの1人として日本企業の経営者は何をすべきだと考えるか。
新 浪:難しい質問である。PBR1倍を下回る日本企業が多いことは、裏返せばそれを理由として、(日本企業に)投資したい海外企業がとても増えているわけであり、もっと日本企業は門戸を開いていかなければならない。日本企業が生産性を上げるためには、自分たちの生きる方向性をより明確にして、とりわけよい人材に投資していくことを考えなければならない。(PBR)1倍以上になるために、急に何か(行動)するということではない。バブル崩壊後30年が経つが、その間に最もやらなかったことは人材投資である。どこ(の分野)にどのように投資をするかは各社の課題だと思うが、人材投資なくして(PBRが)1倍を超えることはない。人材投資をするからイノベーションが起こり、面白い商品、サービス、技術が生まれる。そこに対する投資や、中途(採用)で入社する人(も含め)、DEIはまさに(人材投資の)中心を占めるものである。DEIを進めることは非常にコストがかかるが、企業が人材投資をして(いけば)、最終的には(PBRが)1倍を超えるようになると思う。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)