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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年4月18日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、G7外相会合、岸田首相演説先での爆発事件、内閣支持率上昇、代表幹事任期4年間の振り返り、任期中にやり残したこと、本会副代表幹事の女性比率、金融緩和の出口戦略、産休•育休制度などについて発言があった。

Q:本日4月18日、G7長野県軽井沢外務大臣会合が閉幕し、共同声明は中国の核戦力拡大、ロシアによる核威嚇に対し強い懸念を表明する内容となった。これについて所感を伺いたい。

櫻 田:共同声明は評価しており、(議長国を務める)日本のイニシアティブが発揮されたと思う。特に、グローバルサウス(と呼ばれる新興国や途上国)諸国を、価値観という共通項ではなく、現実的な観点で仲間に取り込みたいという思いが実践的に現れたのが(共同声明の)最後の箇所だと思っている。経済安全保障や法に則った国交や自由な貿易を進めようという思いが表れている。今までは人権や民主主義(に対する)Like-Mindedな価値観をベースに共闘していこうとしていたが、(今回のG7外相会合では)あまり強く目指さなかった。この点を、むしろ現実的で実効性のある外交政策が実ったと評価したい。

Q:4月15日、岸田首相の遊説会場で爆発が起こり、容疑者が逮捕された。昨年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件に続き、選挙期間中の政治家を狙った事件となった。しかも今回は現役首相を狙った事件である。受け止めと、今後の日本の民主主義に与える影響を伺いたい。

櫻 田:現役であるか否かを問わず、一国の宰相を務める人間を狙ったことは、日本の民主主義の重要性を軽んじる(行為で)、(民主主義への)挑戦という言葉では表せられない(暴挙である)。どこかが狂ってしまっている。言論に対し言論で主張するのは大いに結構だが、暴力に訴えて何とかしようとすることが平然と起きてしまうこと自体、国民として極めて深刻に受け取るべきだと思う。応援演説のような選挙活動は、政治家や立候補者が聴衆に近づき、自らの言葉で話したり、握手したりして触れ合うことに大きな意味がある。このような事件が起きると、警護する側も(運営が)完全に安全とは言えず、(安全を)保証しろと言われてもできない事態になることを非常に懸念している。かといって、防弾ガラスの後ろで選挙演説をするわけにいかない。米国のように(拳銃の所持が)認められた国でも選挙演説は行われているため、どのような要人警護が(他国で)されているかを徹底的に調べ、さまざまな国を参考にしつつ要人の警護にあたり、今後も選挙において政治家が国民の前に出て、自らの想いを熱く語ることは続けてほしい。今後、警護体制に危機感を持てるかが非常に気になるところだ。

Q:一部の世論調査で内閣支持率が大幅に上昇しているが、要因は何であると思うか。

櫻 田:あくまで想像の域を出ないものの、今まで起きたことと内閣支持率の相関関係を見ていくと、G20やG7(広島サミット2023)に向けて、(岸田内閣が)外交政策で一定の成果を上げてきたこと(が挙げられる)。特に、ウクライナのキーウ電撃訪問では、ゼレンスキー大統領と会談して日本の立場を説明し、今後も心配しなくてよいと伝え、高い評価を得た。これらを含めて、G7に向け国民は間違いなく外交面の成果を感じていると思う。また、画期的なことだと思っているが、安全保障分野でこれだけ危機が迫っている中、防衛力(強化)の重要性を訴え、(防衛費についてGDP比)2%という数値を掲げ、必要な予算額を提示した。意見が分かれると思うが、現実的には増税で(防衛費の)手当をしなければならないと初めて主張した。個人的には(岸田首相は)現実的な決断を行ったと思う。ただ、財源をどこに置くかについて、法人税のみ(というの)は少し勘弁してほしい。また、ここにきて原子力(発電)への回帰、原子力の安全性を確保しながら使うことをもう一度明言したことも重要だと思う。さらに、(遊説会場で起きた)直近の暴挙、襲撃についても、(岸田首相は)その直後にまた(街頭演説に)戻ったと聞いている。一国のトップとして胆力の強さを示し、選挙の重要性について身をもって示した点も、国民は好感を持って受け止めたのだろう。現在、このような有事が迫っている中で(岸田首相は)最終判断を任せるトップ足りえるという思いが(国民の間で)高まったのではないか。

Q:最後の定例会見にあたり、この4年間の振り返りとして実績、やり残したこと、後輩の財界人へのメッセージ、新浪次期代表幹事推薦候補者への思いなどを伺いたい。

櫻 田:臨時会見やぶら下がり会見などを含めると、100回超の記者会見を行った。勉強もしてこなければならなかったし、今でも緊張感をもって記者会見に臨んでいる。この場を借りて、鍛えていただいた記者の皆さんに感謝を申し上げたい。正直この点(最後の定例会見を迎えられたこと)については少しほっとしている。代表幹事の任期を終えても、皆さんと交わした対話を思い出しながら、これからも実業に精進したい。振り返ると、2019年に代表幹事を拝命した際、世界は今まさにVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代に突入したと申し上げた。まさかあの時、新型コロナウイルス感染症(のパンデミック)が起こるとは思っていなかったし、まさかあの時、ウクライナ戦争が起こるとも思っていなかった。「まさか」が続く、しかも1年先すら読めないという点においては、あの時申し上げたVUCAの時代(という認識)が事実であっただけでなく、振り返ればこの4年間は世界にとって時代の転換点だったのではないかと思う。そのような大変稀有な難しい時代に(代表幹事という)重責を担わせていただいたことで、成果もそうだが、大変自分自身のためになった。任期2期目は、この国の勢いの無さと将来を憂い、特に成長という分野においてイノベーションが足りていないことから「Disrupt or Be Disrupted」、日本語では「変革せよ、さもなくば変革される」と訴えた。今私が使っている生活者という定義に内包されるが、国や企業、(我われ一人一人を含むすべての)生活者自らが変革を選択しなければ、変革されてしまう、壊されてしまうと申し上げた。これは今もそう思っている。例えば新型コロナウイルス感染症、安全保障あるいは経済安全保障にしても、経済団体だけで解決できること、経済人だけで議論すれば解決できるテーマはどんどん少なくなってきた。だからこそ、経済同友会はマルチステークホルダーとの議論に積極的に乗り出していかなければならないという思いを強くし、2020年9月に未来選択会議を立ち上げた。同時に、Do Tankを目指すと掲げてきた。提言しそれを伝えていくことは非常に大きな(経済団体の)役割だが、それ以上にもっと重要なのは、提言したことについて結果を出していくことだ。結果を出すための行動をとる、Do Tankを目指すと宣言し、経済同友会を率いてきた。具体的には、先ほど申し上げた未来選択会議の設立、あるいは新型コロナウイルスワクチン職域接種などだ。未来選択会議は計8回開催し、のべ2,300名の参加者を得て様ざまな議論をしてきた。ワクチン職域接種は、当会が主体的に動くことによって(会員所属企業の従業員や家族など)5万人の接種に協力できた。そして最後は総括提言(『「生活者共創社会」で実現する多様な価値の持続的創造―生活者(SEIKATSUSHA)による選択と行動―』)である。幹事、各委員会委員長、そして副代表幹事と約1年かけて徹底的に議論しつくり上げた。ただ、これ(を提起する)だけではDoとは言えない。Do Tankの定義を、結果へのこだわり、結果を出すための具体的な行動をとることだとすると、まだ足りていないと思う。今私が改めて思うのは、経済同友会は経営者個人の集まりであるということだ。それは企業という枠にとらわれない、自分自身の発言をしてよいということであるが、かといって言いたい放題に何でもよいということではない。キーワードは、一つは経営者としての現役性を大事にすること、もう一つは経営者である以上、言行一致であることだ。提言や意見が自分の(経営する)企業を通じて実現できているかどうか。現役(の経営者)であればなおさらだ。現役経営者の集団である経済同友会の真骨頂は、言行一致、そして自らの事業を通じて社会にプラスのインパクトを与え変えていくことにある。それが少しでも生活共創社会の実現に繋がっていくのだと私は期待したいし、きっとそうなっていくだろうと思っている。そして、総括提言で述べた通り、日本に今一番必要なのはイノベーションである。そのために必要なことは何と言ってもダイバーシティ&インクルージョンだ。企業経営や団体の運営において、ジェンダーバランス問題の解決、年齢を超えたダイバーシティの実現、国籍のダイバーシティを進めること、これらが起こらなければならない。いろいろと逡巡したが、そのためにはパーパス経営が非常に大事であると思う。かつて、(敗戦によって)焦土と化した日本がGDP世界第2位までのし上がっていった背景にあるのは、やはりパーパスではないか。良いか悪いかは別として、当時、日本をもう一度強い国にしたい、経済的に発展した国にしたいと国家が唱えた。企業はそれを(単純に)受け入れたわけではなく、それにシンクロナイズした独自のパーパスを立てながら、GDPを増大させていった。そして、従業員は従業員で、自身のパーパスを企業のパーパスと一致させた。このように、国家、企業、個人のパーパスが見事にシンクロしたことが、戦後のミラクルを生んだのだと思う。では、これをこのまま続けるのか。そうはいかない。もはや日本は欧米に追いつけ追い越せ、ロールモデルを見てそれに倣え(というフェーズ)はとっくに終わっている。日本独自の価値観と素晴らしさを世界に示し、世界から見て「いてほしい国」というだけでなく、「いなくては困る国、日本」という姿を示さなければならない。そのために必要なのは、戦後のような国、企業、個人で完全にシンクロしたパーパスではない。なぜならば、個人の価値観は(多様化し)戦後70年ほどで大きく変わったからだ。例えば新卒一括採用のような、既に賞味期限を迎えている制度もたくさんある。今、「オワハラ(就活終われハラスメント)」徹底防止などと言われているが、世界から見れば異常な状態をこの機に一気に直していかなければならない。そのためにもパーパスが重要だ。国家、企業、個人のパーパスが(かつてのようには)必ずしも一致していない中で、どうしたら生活者全員が、「よし、これでいこう」と思えるパーパスになるか。私はそれは極めて単純なものだと思っている。すなわち、日本にいる生活者の幸福度、あるいはもう少しわかりやすく言えば満足度が、世界一高い国を目指す。これが日本のパーパスであるべきだ。そのように総括提言にも書き込んだ。新浪次期代表推薦候補者も一緒に議論してきたこの生活者共創社会の実現に向けて、新しい仲間と一緒に取り組んでいっていただければと思っている。

Q:櫻田代表幹事はこれまで、財政健全化を常に強調され、独立財政機関の設置も提言された。最近は(少子化対策財源として)消費税との発言もあった。改めてこの問題に対する危機感を伺いたい。

櫻 田:もう危機感を超えている。ラストチャンスというのは通常1回なわけだが、ラストチャンスとあちこちで何度も言われているのを聞くにつけ、それこそが危機だと思う。おそらく日本はG7の中でも新型コロナウイルス感染症の対策に相当多くの国費を使った。多額の支出をこれからどうやって回収するのか、あるいは発行した赤字国債をどうやって償還するのか。財源問題を議論していない国はもうほとんどない。だが、最も財政状況が悪い日本で、税の「ぜ」の字も(議論が)ない。防衛費では出てきたが、コロナ対策費については出てこない。消費税とは、少子化も含めた社会保障関係の目的税として法制化され、国民もそう理解している。それにも関わらず依然として(財源案に)出てこないというのは、何か理由があるとしか思えない。ポリティカル・コレクトネスということなのか、今のタイミングでは(議論し)ないだけだと思いたい。そうではなく、消費税は議論する必要がなく、今回の少子化対策8兆円についても何とか社会保険料の引き上げで対応しようと本当に思っているのだとしたら、それこそが危機である。消費税を上げない理由を国民に説明しないまま、国会での議論が比較的軽く済んでしまう社会保険料の引き上げで財源を確保しようとしているのであれば、将来に対して責任ある政治的判断とは言えない。ポリティカリー・コレクトであるために仕方がないとされているのだと、私は理解している。個人的には消費税の議論はしっかりと、今すぐにでも始めるべきだと思う。

Q:今まで経済同友会の代表幹事職に費やしてきた時間は、今後、何に使われる予定か。

櫻 田:新型コロナウイルス感染症(の拡大)とウクライナ戦争を機に(経済同友会に使う)時間が増えてきた。任期4年目が最も多く、平均して5割ほどの時間を使っている印象だ。多い時は8、9割の時間を割いてきた。SOMPOホールディングスには指名委員会、報酬委員会があり、私の仕事ぶり、時間の配分と(生み出す)価値については説明責任を負っている。年に2、3回、経済同友会にどう時間を使っていて、その成果はSOMPOホールディングスにとってどのような意味があるのかということを説明しなければならない。それゆえ、任期最終年度は厳しい面もあった。もちろん、SOMPOの仲間もおり、役員たちにも相当頑張ってもらった。経済同友会では、副代表幹事や幹事、事務局が協力してくれた。これからについては、まだやりたいことがあるので実業の面白さをもう一度堪能したいと思う。こういうと良く言い過ぎかもしれないが、問題もたくさんあり、何とか(実業に)もう一度力を入れていきたい。自分を律するという意味でも、実業に戻る以上は、自分が経済同友会で説き続けてきたDo Tankとして企業の立場で社会課題にチャレンジし、少しでも解決に導くようなサービス、商品をどんどん出していくことによって、言行一致を果たしていければと思う。

Q:櫻田代表幹事は就任当初から財政規律の維持を掲げ、会見のたびになぜ消費税を財源にしないのかと訴えてきたが、政策は実現されなかった。「櫻田同友会」の中で感じた、政治との距離について伺いたい。例えば、この4年間でもう少し政治との距離を詰めたほうがよかったのか。もしくは、企業経営者の団体であるからこそ「隗より始めよ」のスタンスを崩さない方がよいのか。政治との距離感についてどのように総括されるか。その上で、政府会議の民間議員を務めている新浪次期代表幹事推薦候補者に対してのアドバイス、サジェスチョンを伺いたい。

櫻 田:日本の経済三団体と表現させていただくならば、本会は他の二つの(経済団体)と違い、会員(の対象)が企業単位ではなく(個人である)点が、やはり特徴である。1946年当時の設立趣意書では、政治的立場は無色であるだけではなく、(「何れの政党からも自由」であり)是々非々でいずれ(の政党)とも付き合う旨が述べられている。つまりこれは、ロビー活動はしないということを意味すると思う。例えば、米国や英国、欧州においても業界団体はあるし、経営者個人の団体もあり、良し悪しではなく、中にはロビー活動そのものを主目的にする団体もある。これは当該業界にとってプラスになる税制、措置、法律の制定を目指し、ロビイングするが、これをいけないことだとは思わない。ただ、少なくとも本会は、設立趣意書を読む限りはロビー団体ではない。その時々に、国が抱えている課題(に関して)、現状が厳しくてもやらなければならない政策を(訴え)、将来を見据え、未来志向で、経営者が個人として責任を持って提言せよということである。政治との距離感は、「アームズ・レングス」でなければならないと思う。(政治と)離れすぎてもいけないし、近すぎてもいけない。本会の提言を聞くのも嫌で、名前を聞いただけで虫唾が走ると言われては駄目だが、本会なら何でも分かってくれるから相談に乗ってもらい、可能であれば会員を説得してもらおう(というのも)あり得ない。やはり、緊張感を持ち、「あの政策は賛成したが今度は駄目だ」と言える状態を常に持ち続けなければならない。そのためには中立性、設立趣意書の言葉を借りれば政治的立場は無色という矜持を持つ必要がある。次期代表幹事推薦候補者である新浪剛史副代表幹事は、長年、経済財政諮問会議やその他政府(会議)の民間議員を務めてきた。そうだとしても、代表幹事就任後は、設立趣意書に則った立場で、政府とは是々非々の、アームズ・レングスの距離をとると思っている。近すぎても遠すぎてもいけない、難しい距離感である。理想的(な姿)は、「(経済同友会は)すごく親しくしたいわけではないが、何を考えているか聞いておかないといけない団体」(というポジションである)。テーマや案件毎に、本会であれば何を言うか、政府や(関連)機関に強い関心を持ち続けてもらうことが必要である。そのために、やはりよい提言が必要であり、さらに大事なのは、本会が発言したことは、少なくとも会員所属企業では、少しずつ実現しようとしているのだと示すことであると思う。

Q:この4年間はそのスタンスで務められたと自己評価されるか。

櫻 田:自分の評価は自分でするものではないが、少々炎上したこともあったし、苦言を呈されたこともあった。政府から見たらありがたくない、嬉しくない発言が(私から)あったのだろう。私自身、第二次安倍政権の時代から政府会議の民間議員を務め、その場で指摘を受けたこともあったが、それはそれで自分の言うべきことを言った結果であるため、やるべきことだったと思う。ただ、消費税率は変わっていないし、(投票率向上について)何度も訴えたが、結局、今回の統一地方選挙では若年層などで投票率がさらに低下し、無投票当選も増加した。これらは、本会が危機感を持って継続して(訴えてきた)ことだが、何も変わってない点において非常に無力感を感じる。実現することにこだわるのは非常に難しい。しかし、その旗を降ろしてしまえば、本会の意義や、本会らしさが無くなってしまう。歯を食いしばってでもやり続けなければならないと思う。

Q:人材の多様性について伺いたい。現在、経済同友会には4名の副代表幹事がおり、他の経済団体と比べ女性比率がとても高い。(理事の構成は)代表幹事の意思だけで決まるものではないが、相当程度、代表幹事の意図・意思があったのか。今後、次期体制になってもさらに女性比率を高めてほしいなど、思いを伺いたい。

櫻 田:役員等候補選考委員会は、前代表幹事が委員長であり、現職の代表幹事は一委員である。それぞれいくら叫んだところで一票(である)。ほかの委員は、本会の幹事による自薦及び他薦で選任される。(役員等候補選考委員会で)行われている議論の内容は公表できないが、選考プロセスは非常に透明性が高い。同時に、代表幹事の意向が全てではなく、一票にすぎない。一方で、幹部への登用についての考え方を代表幹事が何も意見できないかというと、そんなことは全く無い。幹事会あるいは正副代表幹事会の中で、ダイバーシティの重要性についての考えを述べ、具体的にまずジェンダーダイバーシティを進めるべく、副代表幹事における女性の割合を、全会員の男女比率よりも多く(したい)と申し上げてきた。つまり、女性副代表幹事の割合を、全体における女性の割合よりも高くすることにより、象徴的な存在として、ステアリングコミッティである正副代表幹事会(の構成)で示そうと、意識して各方面で主張してきた。そのことが、結果として、現在(の副代表幹事の女性比率)につながっていると思う。(いずれも)立派な方が選ばれたと思っている。今後、(人材の多様性については)二つの課題がある。まず、副代表幹事の女性比率を高めるだけではなく、幹事の中における女性比率、そして母集団である会員全体における女性比率を高めなければならない。ただ、規約上、本会会員は現役の経営者である必要があるため、極端な話、規約を変更しない限り、(極端な例だが)女子学生が入会することはない。ジェンダーダイバーシティをさらに進めるために、もしかしたら会員資格についても今後議論するかもしれないが、現在は全くの白紙である。次期代表幹事には、全体感を持って、さらなるダイバーシティを進めていただきたいと思っている。例えば、外国人が(もっと多く)居てもよいと思う。

Q:就任直後、金融緩和の出口戦略の必要性について言及されていたと記憶している。4年間が経過し、日銀総裁も交代したが、現時点ではほぼ現状維持の状態が続いていることについて所感を伺いたい。また、出口戦略はどのようなタイミングで行うべきか考えを伺いたい。

櫻 田:当局ではないため、無責任な発言になりうる前提で、個人的意見として聞いていただきたい。まず、出口戦略は、戦略というかはともかく、もう準備にかからないといけないと思っている。マーケットも、報道関係者もそのように感じたかもしれないが、植田新日銀総裁は就任演説でハト派的な、慎重な発言をされた。私もそう思ったのだが、(中でも)注目しているコメントが一つある。それは、黒田前日銀総裁の10年間に関わらず、もう少し長い期間の金融政策、具体的に言うと、非常にルーズマネーの中でやってきた金融政策が低金利に導いたことを振り返り、総括する必要があると発言された。出口(戦略)のことを研究、検討する旨の発言と受け止めた。新型コロナウイルス感染症がなければ、インフレも起きず、世界各国の金融当局がこぞって金利引き上げに向かうことはなかっただろうが、それはともかく、マイナス金利が長く続くのは、日本経済、日本企業、日本の生活者にとって、ぬるま湯にずっと浸かっている状態であり、体力をつけるための筋トレを怠った状態である。もし、世界各国の金利が現在より上昇し、日本は依然としてぬるま湯の状態で低金利が続くのであれば、ますます(日本経済の)体力を削いでいき、戦闘力が落ちていく。国民の選択、企業の選択にとって良くないと思うため、(振り返りや総括は)やるべきだ。いつやるかはわからないが、4月後半に日銀の観測等が公表され、2024年だけでなく、2025年の経済予測も出ると思う。インフレーションやCPIの予測も出るはずであり、(インフレ率)2%あるいはそれに近い数字が出るならば、単なる統計的な計算結果ではなく、日銀としてそのような意図を持つことを示すメッセージと思って受け止める。私はそこに非常に注目しており、もしそうだとすると、2025年には(物価上昇率)2%が、現在のようなコストプッシュではなく、ディマンドプル型でインフレが起きると期待し、それに向けて日銀は金融政策を打っていく。さらに言えば、10年国債から、イールドカーブ・コントロールをやめていく、もしくは緩めていくメッセージを伝えたいのではないか。従って、4月末は、もしかしたら植田日銀総裁のスタンスを伺える最初の機会ではないかと思う。

Q:先ほど「無力感」という非常に重い発言をされた。具体例として、消費税の議論がなされなかったことや、民主主義の再活性化が起こらなかったことを挙げたが、もう一つ挙げるとすれば何か。また、経済同友会が気になる存在となるためには何が必要と考えるか。財界、経済団体の存在感低下は、さまざまな団体で言われているが、一般論としてもしくは経済同友会として、何が必要とお考えか。

櫻 田:無力感という言葉に重きを置かないでいただければと思う。やり残した感覚があるという意味で申し上げた。それは「Do Tank」として発足したわりに、動いているものの空回りしているのではないか(という懸念である)。例えば消費税、独立財政機関、投票率(向上)、さまざまな意味で(現状が)大きく変わった感じはしない。もう一つ大きいのは、4年間ずっと、何らかの形で携わってきた国の成長戦略についてである。小泉内閣以降、継続して(成長戦略を打ち立て)政策は数百件あるはずだが、結論として日本は相対的には貧しくなった。これに対してこの4年間、本会は何ができたかというと、できていない。どうしていくべきか。本会会員、正副代表幹事の我々は経営者であり、経営をあずかる企業を持つ。(事業を通じた)行動の結果として、世の中を少しでも良い方向に導き、プラスの影響を与えたい。これは経営者しかできないことだと思っている。例えばSOMPOホールディングスは、保険事業、介護事業、デジタル事業があるが、さまざまな意味で社会課題に直面している。例えば、猛威をふるう自然災害に対し、保険料を支払うだけではなく、(被害を)予防、予測できるようになるにはどうすればよいのか。国難といわれている介護問題について、日本の介護はこうあるべきだと事業を通じて示していけるか。それはまだ実現できていない(部分が多い)ものの、スモールサクセスで良いので、少しずつ解決策を出すことで、日本は変わる。SOMPOホールディングスのイニシアティブによって日本の介護事業が変わっていくならば、それが結果を出すDo、行動だと思う。本会会員が(経営を)あずかる企業において、(自ら)行動する。それを通じて世の中に変化をもたらす。これが本会の真骨頂だと思っており、言行一致だと申し上げた。(代表幹事として)やり残した感はあるが、実業に戻るので、(事業を)しっかりやっていきたいと思う。

Q:代表幹事は、コンタクトレンズを最近お付けになっていない。やはり眼鏡が良いか。

櫻 田:コンタクトレンズの顔があまり好きではなくなった(笑)。恐らく、年齢を重ねて、眉毛が薄くなったからだ。眼鏡のフレームがないとぼやけて迫力が出ない。眼鏡をかけているほうがシャキッとする気がする。周囲の意見を聞きながら、(コンタクトレンズは)ゴルフをするとき、運転時程度になった。大変重要な質問をありがとうございます(笑)。

Q:任期中にやり残した感覚があるとのご発言についてお伺いしたい。経済同友会は、いわゆる財界のロビー活動とは一線を画し、さまざまなしがらみはなく、やりようによっては自由度がある。独立財政機関は、G7のほとんどの国が持っているし、何年も前から提唱されてきた。なぜ実現できないのかを突き止める必要があったのではないか。やり残したことがあるとのご発言は、本気度、工夫、時間、マンパワーのいずれかが足りなかったのか。

櫻 田:どれでもない。独立財政機関、選挙制度、消費税にしても、最後は誰が決めるかというと、政治である。ここが大きいと思っている。では、政治(と本会の距離が)近ければ(現実が)変わるかと(いうと)違うと思う。政治家、あるいは政治の実権を握っているサークルに対して、(政治が)実現したい(範囲)で、(本会が)やりたいことを提案したら多分実現するだろう。しかし、今は必要ない、あるいは(政治が)やりたくないことを(本会が)提案しても、ゴミ箱に行くだけである。この冷徹な事実を感じた。だから、どの団体が提言してもそれは同じであろう。どのようにして実現するのか(というと)、政治は民主主義であるため、国民、生活者が本当に思っていることを伝えられるかどうか、生活者が投票行動につながるような動きができるかが一番大きいと思う。(そのことに)気付いたのは2020年だった。それで未来選択会議を立ち上げ、いきなり有権者へとするのではなく、これからの日本を決める若者も含め、さまざまな人が議論(する場をつくった)。必ずしも一つの答えが出るわけではなく、場合によっては三つ程度の選択肢がある中で、どれを取るかを正々堂々と議論する。「経済同友会の未来選択会議という場を使えば、原発や、消費税の問題について、論点が分かる」(となることを目指した)。その中で「私ならA(の選択肢)を選ぶ」「私ならB(の選択肢)を選ぶ」(となればよい)。現在はまだ(各回の参加者が)300名程度、8回しか実施できていないため、のべ2,300名の参加者である。これが3千、3万、30万と広がっていけば、間違いなく政治の意思決定につながると思っている。その力がない限りは、経済界がどんなに頑張っても(難しい)。少しハードルが高いがやらなければならないことなのでやってみようということは、もしかしたら実現するかもしれない。しかし、政治の観点から時宜を得ていないものを、どんなに口角泡を飛ばして主張しても、おそらく実現しないだろう。逆に言えば、それが民主主義である。民主主義にはたくさんの課題がある。(現状を)突破するには、本会という経済人だけの集まりではなく、生活者を味方につけないと変わらないと思った。時間が足りなかった(とすればその点だ)。全国44経済同友会が一緒にやろうと思い始めているので、未来選択会議をもっと大きく、広げ、千、万単位でメンバーを増やす。そうすると必ず(政治の側も意見を)聞かなければならないとなっていくのではないかと思う。

Q:選挙制度の改革は難しいと思うし、できないこともあると思うが、例えば独立財政機関に関しては、反対勢力をあぶり出してプレッシャーかける等、もう少し抵抗の仕方があったのではないか。提言し続けるだけでは、動かない部分もある。

櫻 田:おっしゃることはよく分かる。例えば、反対勢力として、MMT(現代貨幣理論)派があるとして、MMT派の論客を呼び、私も参加して、未来選択会議でオープンにパネルディスカッションをする(のも一案である)。(MMT派の論客が)参加してくれるかは分からないが、参加いただける努力をする(必要)はあると思う。ただ本会の提言だけで変わるとか、どこかの会議体が提言したら(世の中が)変わるということはないと思う。民主主義である以上、国民、生活者がそう思わなければならない。それを議論する場をつくる。幸い、動画を含めてさまざまなチャネルで国民、生活者の目に触れるシーンはある。一番気になるのは、似たような意見の人が集まってパネルディスカッションを行っても、これはあまり意味がない。(賛同の)いいねが増えるだけ、もしくは、反対が増えるだけである。違う意見が集まって、そこで正々堂々とぶつかることがどんどん増えて(いって欲しいし)、本会はもっと活用していきたい。実は(任期の)後半だが、私自身が出演した本会の動画が(前後編あわせ)100万回超再生されたこともあり、驚いている。視聴者のコメントは最初は惨憺たるもので、「(経営学者の成田悠輔氏に)経済同友会解散と言われ、それに抵抗している」とか、「櫻田みたいな年取った経営者は早く引退せよ、と言われたことに反対している」など書かれた。だが、だんだんとそうではないことが分かっていただけたようで、コメント(の内容)も変わってきた。こうした(情報発信)活動をやりながら、狭い世界だけでなく、生活者全体に何らかの形で影響力を与えていく努力をすることがとても大事だと思っている。次期代表幹事も、副代表幹事の皆さんもそのつもりでいると思う。

Q:少子化対策について伺いたい。金銭面も重要だが、夫婦共働きが当たり前になる中、ソフト面の観点から働き方改革も不可欠だと思う。女性が産休・育休を取得しても、マミートラックに陥らずキャリアを積める、男性が長期育休や時短勤務を取得できる社会になる必要がある。これは国が支援するより、実際には企業が対応すべき課題と感じる。日本社会や、日本の経営者は、今後現状を変革できると思うか。

櫻 田:先ほど「Disrupt or Be Disrupted(変革せよ、さもなくば変革される)」と申し上げた通り、変革をしなければ置いてかれ、捨てられる。人口減少以上に、労働人口が減ることは明らかであり、女性の能力をフル活用し、できるだけ仕事に携わってほしいというのが当たり前の話になる。鍵は、出社しないと仕事ができない状態(の改善を行うことだ)。新型コロナウイルス感染症(による行動変容)が折角起きたのだから、いい加減に気付かなければならない。ITネットワーク、個人情報保護の仕組みを(整備し)、評価もインプットではなくアウトプットに対して行う。これができれば、女性が出産して、肉体的にきつい産前産後の1ヶ月を除けば、自宅で仕事をすることもできるはずである。もちろんフルタイムである必要はなく、9時から17時まで出社、勤務することはない。アウトプット型の評価であれば、3時間で終わればそれで良いのである。そういった仕組みを何としても入れることが必要だ。私の周りでも、テレワークのおかげで産休期間を短縮し、そのおかげでスキルが劣化せず済んだ(という人もいる)。産前産後休暇の14週間以外もフルタイムで給料が出て、収入が減らない仕組みにするという提案があったが、どうせ異次元(の少子化対策)というのであれば、産休そのものが不要な仕組みにする。(産前産後の)休暇はもちろん必要だが、そういったことに挑戦する企業をもっと国は宣伝していくべきだと思う。ただこの議論で気を付けなければならないのは、エッセンシャルワーカーである。自宅で仕事ができない方々であり、どのような方法があるか(考えなければならない)。例えばSOMPOホールディングスの介護事業には介護福祉士、看護師がおり、第一には、(業務の)予見可能性を高める必要がある。夜勤にしても予定が立つようにして、その(周りで)確実に休めるようにする。当然人間なので、病気になることもある。その時は、必ずサポートが入るように仕組みをつくる。そのように産休期間を短縮することは工夫次第で可能だと思う。企業が率先してやった方がよいか、ではなく、やらない企業は消えていく可能性があると申し上げたい。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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