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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年1月31日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、令和臨調の緊急提言、産休・育休中のリスキリング、物価上昇、賃上げ、日産・ルノー出資比率見直し合意、トヨタ自動車社長交代などについて発言があった。

Q:1月30日、令和国民会議(令和臨調)が緊急提言「政府と日本銀行の新たな『共同声明』の作成・公表を」を発出した。早期実現を目指してきた消費者物価上昇率2%目標について、金融政策を硬直化してしまう懸念を示し、長期目標にすべきと提言した。日銀の金融政策を柔軟にしてほしいという意図である。この提言に関する受け止めと、この10年を振り返り金融緩和についてご所見を伺いたい。

櫻 田:結論から言えば、(令和臨調の緊急提言には)もちろん賛成である。金融市場は予見可能性の高い情報を織り込みながら収斂、収束する習性を持つため、あまり(達成)期限を設けない方がよい。今までも期限を設けていたわけではなく、できるだけ早期に、(と表現)していたものを、中長期的に(消費者物価上昇率2%を実現する)と変更するだけなので(金融市場に与える)影響は大きくないと思う。実際20年近くもの長い間、緩い状態が続いている低温な経済を一気に戻すことはできないし、日本経済の体力も回復していないことを考えれば、ゆっくり丁寧に(金融緩和を縮小すること)が現実路線と思うので、(消費者物価上昇率について)目標とする数値は、中長期的な(達成)でよいと思う。長期、中長期という言葉より、良いインフレ、あるいは持続可能な成長をどのように具体的に達成するかが注目すべき問題であり、いまだにその点について(解は出ていない)。政府が公表した中長期の経済財政に関する試算により、成長実現ケース、ベースラインケースというシナリオは存在するが、どうすれば成長実現ケースになるのか。ベースラインケースのシナリオ(の達成)も、決して楽観はできない。何よりもまず、国を挙げて、特に民間部門の力をどうすれば奮い立たせ、活用できるかに注力すべきだ。令和臨調の提言は至極合理的かつ真っ当で、賛成する。

Q:岸田首相は、通常国会の答弁で、産休・育休中のリスキリングを後押しすると発言し、それに対して様々な意見が挙がっている。岸田首相の発言に対する受け止めと、企業側から産休・育休中のリスキリングに対してどのように考えているかを伺いたい。また、産休・育休の取得による、昇給、昇進などのキャリア形成の停滞を最小限にするために企業として支援できること、国に対して求めることを伺いたい。

櫻 田:(経済財政政策の)全体像の中の一つとして、本人が希望した際の産休・育休中のリスキリングはあるべきである。働き方改革は、ワーク・ライフ・バランスという綺麗事ではなく、現在の日本においては、生産性を上げ、成長力を付け、日本全体を持ち上げる一丁目一番地の戦略である。(日本)全体の戦略の中の一つが働き方改革であり、さらにその中の一つ、その中の一つと(ブレイクダウンして出てくるのが)産休・育休の問題、子どもを生んだ女性に対する支援である。国会での議論としてはあまりにも細かすぎるのではないか。国会ではグランドデザインについて議論していただきたい。少子化問題は1990年頃より危機として捉えられ、1994年にはエンゼルプランが策定されている。少子化や子育て(支援策)は今に始まった話ではない。これまでも同じような政策が提案され、予算を割り当てられてきた。しかし、過去の政策について振り返ることはなく、今回は「異なる次元の子育て支援策」として打ち出された。今回はこれまでの支援策とはどのように違うのか、私たち国民、生活者が納得できるようなものを出していただきたい。つまり、グランドデザインの中でこの政策がなぜ必要なのか、なぜこれまでの政策は上手くいかなかったのか、どうすれば今回の政策は実現できるのかということに焦点を当てて、議論いただきたい。

Q:物価について伺いたい。2月に食品や飲料などの値上げラッシュが見込まれ、物価上昇率は4%台に入り、中長期で家計への負担が増えている状況にある。物価上昇がまだ続いている状況についてどう考えるか。また、日本経済が好循環していくためには一定程度の物価上昇は必要という考えも聞かれるが、代表幹事の見解を伺いたい。

櫻 田:先に結論を述べると、少し言い過ぎかもしれないが(物価上昇は)致し方ない。毎回申し上げているように、ファクトを考えると、現在日本が経験している物価上昇の原因は他律的であり、ある意味はっきりしている。原因について、日本が根本的な対策を打てる状況にない。エネルギー(価格の高騰)、サプライチェーンの停滞は外発的なところがある。そのような前提で日本が出来ることは、現実的にはそこまで多くはない。欧州は物価上昇率が2桁に届こうとしており、かつ経済も力強くない。米国は強力すぎた経済を押さえ込もうとして、ようやく2桁だった消費者物価指数(CPI)が6%後半から7%になっているが、まだ物価上昇は続いている。それらの国々に比べれば、日本(の物価上昇率)は決して高くない。そんな中、なぜ日本国民が困っているかというと、将来に対する見通しの悪さであり、(将来に)期待を持てない状態から抜け出せない(ことが理由である)。従って、日本人、日本に住む生活者にとって、「このように持続的成長を果たしていく」という政府の志やメッセージが最も重要であり、必要だと思う。経営者、民間企業、あらゆる生活者のマインドセットを変革していき、イノベーションを通じて変え、「もう一度素晴らしい国・日本をつくる」という思いがないといけない。(日本国民の)マインドセットが暗くなっていることが一番の問題だと思う。(物価上昇率)4%が問題なのではなく、インフレから来る閉塞感をどのように乗り越えていくべきか、希望が持てないことが一番大きな問題である。今回内閣府が公表した中長期の経済財政に関する試算を否定するつもりはない。なぜなら政策という手段を持つ政府が発表するものなので、ある種のメッセージ性がなければならない。あまり悲観的なものを出すわけにはいかないし、説明が出来ないような楽観的なものでもいけない。以下(中長期の経済財政に関する試算について)2つ申し上げたい。一つは、現実的にはベースラインケースのシナリオ(達成)が精一杯であると思う。そのため、ベースラインケースのシナリオでも、(日本の財政は)持続可能であることを政府は説明する必要がある。しかしそれでは(日本国民の)元気が出ないため、(政府は)メッセージとして成長実現ケースのシナリオを発表したわけなので、それを実現するための具体的内容を示す(必要がある)。何よりも大切なのは、国民の将来に対する希望を盛り上げることである。もう一つは、金利が上昇した場合に、財政赤字が基礎的財政収支にどのような負の影響を与えるかについても示していることに注目している。(今回発表された中長期の経済財政に関する試算は)可能な限り現実を直視しつつ、一方であまりに悲観的なもの、背伸びしても届かない楽観的なものについても(提示することは)止めるということになったと思う。非常に忸怩たる思いで出されたものだと思う。結論を述べると、成長実現ケースのシナリオよりもベースラインケースのシナリオを基本に置きながら、様々な施策を練っていくことが重要だと思う。物価上昇については、2月は(食品など)4000品目の値上げが予定されており、また、(生活の)基盤となるガソリンや電気は、財政(政策による)手当をすることになっている。それで一旦、名目的に(物価上昇が)落ち着いても、(インフレ支援策が)なくなったら、その後にまた(物価が)上がる可能性があり、足下の数ヶ月で楽観視しないようにしなくてはならない。賃上げについても、各方面で言われているように、当然ほとんどの経営者が物価上昇に負けない賃上げを考えている。問題は、賃上げが持続可能になるかどうかである。今年1年だけは(賃金の)ベースアップが可能でも、来年また元通りになってしまったのでは意味がないし、そのような事態を見越して消費者が織り込んでしまうと、期待するような(個人)消費に繋がらない。どこまでいっても予見可能性と持続可能性に対して説明出来ないのであれば、「何があってもやる」という(賃上げに対する)心意気が大事だと思う。

Q:櫻田代表幹事は以前から定例会見などで、経営者同士で議論した際、経営者の賃上げへの意欲は旺盛であると述べられてきた。経営者が賃上げをする目的として、何が最も大きいのか伺いたい。物価高に対応し従業員の生活を守るためなのか、人手不足の中で人材を確保するためなのか、企業の社会的責務としてやらざるを得ないのか。企業や経営者によって、賃上げの目的に関して濃淡はあると思うが、どの目的によって賃上げへの意欲が高いと捉えているか伺いたい。

櫻 田:個人的意見を含め、一経営者として言及すれば、よりミクロな観点から(賃上げを)考え始めている。社会や産業、日本という前に、自社の社員にどのように報いるか。自社の社員が困っている(際に)どうすれば少しでも手を差し出すことができるか。優秀な人材に可能な限り報いたい。社員の顔を浮かべながらと言えば大げさだが、(経営者は)そのようなミクロな観点から(賃上げを)考え始めると思う。従って、ほぼ全ての経営者は(社員に)可能な限り多くの給料を払いたいという気持ちは強いはずだ。(より多くの給料を)出せない悔しさを抱えながら、経営者は判断していると思う。特に、現在苦労している中堅・中小企業は、頑張っている社員に報いたい、物価上昇で苦労する社員を救いたい気持ちは山々であるが、ここまでしか出せないという悔しさを持ちながら決断されていると思う。社会的機運やESGという観点からベースアップを行うよりは、肌感覚により(賃上げを)決断する経営者が多いだろう。(賃上げに関して)最終的に集計された数値はあまり意味がないと思っている。全く異なる業態、思いの中で各経営者が決断した結果を数値で集計しても、勝ち負けや良し悪し(の判断に)はならない。日本全国、あらゆる生活者が感じている悔しさをばねに、今後日本をどのように素晴らしい国にするか。このようなモメンタムが(賃上げ率)3%、7%と(掲げる)経営者から出ることが大事だと思う。少なくとも、私は社会的要請の下で(賃上げをする)と、(自社の)労働組合に回答することはない。

Q:日産自動車とルノーが、資本関係を見直すことで合意した。日産自動車は、30年以上前には石原俊代表幹事を輩出した企業であるが、現在、このような状況に置かれていることについて、受け止めをお聞かせいただきたい。

櫻 田:過去30年間を振り返って、日本の産業、特にグローバルな製造業が今の状態になったことと、今回の日産とルノーの(資本)関係(の見直し)を結びつける必要はあまりないと思っている。ただ、製造業に限らず、日本の経営者は(競争力を失いつつあることに)多分気付いていた。「失われた30年」ではなくて、「失ってしまった30年」。この点については、本会が(昨年10月に発表した)提言『「生活者共創社会」で実現する多様な価値の持続的創造―生活者(SEIKATSUSHA)による選択と行動―』で述べた通りである。即ち、分かっていたけれども、不作為に近い部分があったと思う。しかし、まだ手遅れではないので、ラストチャンスとして闘っていかなければならない。これは大きな問題である。従って、日本の製造業がどこで勝つか。どこで勝つかだけではなく(どこで)世界一を取るか。今まで以上に地政学的なリスクも多くなってきており、半導体に関しても、一番安く製造できるところでそれを活用すればいいという発想では既になくなってきている。そのような点を踏まえて、多くの戦略を見直すべき時期に来ている意味では、まさに、「真の経営者の時代」が来たと申し上げたい。今回の(日産自動車とルノーの資本関係の見直しという)事例は、その一つである。世界全体が電気自動車に対して覇権争いをしており、電気自動車に対する中国勢(の躍進)、欧州勢の意地を含めて、それらの国とどう伍していくか、勝っていくかという中で、電気自動車あるいは自動運転については、明らかに日産自動車には一日の長があると思う。そういう意味では、(ルノーと)対等の関係を結ぶことで、より緊密にノウハウや技術の共有を図り、ともに勝っていこうという(考えの)現れではないか。極めて妥当で合理的(判断である)。交渉は大変だったと思う。電気自動車については様々な見方がある。私も様々な人に意見を聞いているが、あと5年、10年経過したら、直ちに世界中が電気自動車を採用するとは思っていない。それは明らかな話で、例えば、東南アジアでは、10年前に火力発電所を建設したばかりなのに、それを捨てろと言えるのか。火力発電のままでよいとなれば、(電気自動車の)バッテリーは、火力発電所(の電力)で充電することになる。アフリカについても同様に言える。つまり、インフラがまだ整っておらず、経済力が十分でないところは、無理やり何としても電気自動車にするよりは、日本が(技術力を)持っている内燃機関と、それを補完する形で電気を使う、要はハイブリッドの技術をさらに研ぎ澄ましていくことが、地球全体の環境対策になることを積極的に訴えていくべきではないか。話は戻るが、(日産とルノーの)提携(について出資比率を相互に)15%に戻したことは合理的であるし、上手くいくことを期待している。

Q:1月26日、トヨタ自動車が社長交代を発表した。豊田章男社長は、交代の理由をCASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)と呼ばれる自動車産業の転換が進む中、限界を感じ、次の世代に任せるためと説明した。大きな転換点にある時に、新しい世代に次の仕事を託す考え方もあれば、限界を認めながらも自ら乗り越えてもう一度やるという考え方もある。限界を理由に社長交代を説明されるのは潔いという感覚があるが、受け止めをお伺いしたい。

櫻 田:(真意は)豊田章男社長に聞いていただきたい、としか申し上げられない。私には豊田章男社長の心情を完全に理解することはできないし、コメントすること自体が失礼に当たるだろう。私自身の例を引いて申し上げれば、2021年12月、(SOMPOホールディングスの役員人事で)奥村幹夫執行役専務(当時)が社長兼最高執行責任者(COO)に就く(発表をした)記者会見で、記者から交代の一番大きな理由と、(新COOに)何を期待するかについて質問を受けたことを覚えている。今までと同じスタイルのまま、運営体制を含め(経営)するのであれば交代する必要はない。自分と違う経営を行わなければ、代わった意味がないと申し上げたし、今もそう思っている。そのため、奥村幹夫COOは、自分と全く違うやり方で(経営の)アクセルとブレーキを判断している。豊田章男社長の心情もそうなのではないかと思っている。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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