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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2022年10月19日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、物価上昇と賃上げ、円安、中小企業競争力強化などについて発言があった。

Q:来年の春闘に関して、連合は賃上げの目標を5%程度とする方向であるが、経団連の十倉会長は、1018日、「連合の賃上げ目標について驚きは無く、賃金を考える際は物価上昇を強く意識する」と発言した。これだけの物価上昇が続くなかで春闘を迎えることとなるが、改めて春闘に対する代表幹事の所見を伺いたい。

櫻 田:本会は春闘のあり方や賃金水準、ベースアップの決定方式について、一律で行うべきものではないと以前から申し上げてきた。日本の産業構造は、日本だけで決まるわけではなく、当然貿易や海外との取引の影響を受ける。同様に、企業も日本国内のみで取引をしているところだけではないため、世界の影響を受ける。各企業の体力、収益性、戦略に基づいて賃金を決定すべきであるという基本方針は外してはいけないと思っている。とはいえ、世界各国に比べればまだ良いものの、昨今急激に物価上昇が進んでいることは間違いない。特に日本の場合、物価上昇が進むなか、それを賄うに足る賃上げも行われておらず、平均賃金は先進国で相当見劣りする水準になってしまっている。従って、当然賃上げが必要となるが、賃金を上げると経済が活性化して、最終的に企業の生産性も上がり、持続的成長に繋がるという考え方と、従来経済界等が主張するように、企業の収益力、生産性を向上することによって、賃金も上昇し、持続的成長に繋がるという考え方があり、鶏か卵かの議論になる。少なくとも足下では、内的要因ではなく、どちらかといえば外的要因によるコストプッシュ型のインフレが(国民に)影響しており、それを一定程度補填する意味を含めて賃上げは必要だと思う。賃上げ水準が(例えば)3%か、5%かは(一律に)相場を決めるものではなく、重要なステークホルダーである社員に対し、どのようにその価値に報いていくかを企業経営者が真剣に経営判断し決めるべきものだと思っている。

Q政府から物価上昇を上回る水準の賃上げを企業に求めたいという話が出ている。物価上昇を基準として企業が賃上げを考えたことは近年ほとんどないと思う。現状、賃上げはどの程度まで可能なのか。経営者あるいは被雇用者に何が求められるのか、所見を伺いたい

櫻 田:ご指摘の通り、過去デフレーションが続いたため、賃上げの重要な要素として物価上昇を考える経営者は結果的にほとんどいなかった。今回数十年ぶりに(そのような事態が)起きたということだと思う。(物価上昇が)短期間に収束する見込みもないなか、実質賃金を上げていくことが重要であることは、多くの経営者が考えている。従って、物価上昇と賃上げは、今回は大いに関係してくると考えて良い。中堅・中小企業の生産性を上げるというテーマで議論したとき「生産性を上げるためには、従業員のやる気やモラールは非常に大事であり、良い人材を集めるためにはそれに見合うだけの賃上げが必要である」と申し上げた。例えば、3%の賃上げをするためには、中堅・中小企業、大企業は全体としてどの程度利益率を上げる必要があるかという議論もあって良いのではないかと思う。現在、日本経済がV字回復していけるかどうかの分水嶺に来ている。生産性向上に見合った賃上げという発想ではなく、一定程度、例えば3%賃上げするには、生産性をどの程度上げなければならず、具体的にどのように(生産性向上を)行うのかという発想により、賃金を交渉し、決定することが少なくともここ1、2年はあって良いのではないかと思う。

Q:円安で好調な企業について、賃上げをどう考えるかお聞かせいただきたい。

櫻 田:(各企業の)支払能力と収益力に応じて、重要なステークホルダーである社員の価値にどう報いていくかという観点でベストを尽くし、還元できるところは還元すべきである。円安そのものは経営努力によって生まれたものではない。(収益の中身を)分解し、ここまでは経営努力、ここからは円安という(区分けを行う)のは、なかなか対外的に公表しにくいと思うが、ほとんどの企業は、内部でさまざまなシミュレーションを行っているはずである。外的要因によって生まれた収益や利益予測に基づいて、従業員により厚めに配分する考え方は十分あり得る。簡単に言えば、出せるところは出す、ということである。

Q1018日、1ドル149円台まで円安が進んだ。国会では、日本銀行の黒田総裁が野党から辞任を求められている状況であるが、現状の為替水準の受け止めについて、お聞かせいただきたい

櫻 田:日本銀行や責任ある立場の当局の方々が、具体的な水準について云々(コメント)することはないと思うが、最近では、急激で予想できない投機的な(動き)という言葉を使って(過度な)変動について強いコメントを出して(牽制して)いる。その点は、全くその通りだと思う。数ヶ月前に、1ドル130円台から135円台程度(の水準)であったときに、本会の会員と話をした限りでは、円安のメリットとデメリットを総合すると、やはりデメリットの方が多いと感じた。マクロでは円安が良いという(考え方)は実感とは合わないと(以前も)申し上げた。加えて、円安(の進行)が、単に日米金利差、あるいは、根本にある米国のインフレーションに基づくものだけではなく、日本の経済力と国力に起因する要素が少しでもあるとすれば、大変心配である。直近1か月の間に起きた英国のポンドの上下動、それに伴う国債金利の急変動は、財政あるいは政府施策に対する信任を問われた結果である。日本で同じことが絶対に起きない保証はないことを意識しつつ、為替を見ていかなければならない。望ましい(為替)水準は、(海外から)買うものは安く、輸出のバランスも取れることを考えると、(1ドル)100円から110円の間ではないかと思っており、(その為替水準に収まるよう)中長期的になっていけば良いと考えている。

Q:岸田首相が物価上昇をカバーする賃上げを経済界に要請している。先ほどの「物価上昇の一定程度を補填する賃上げが必要」というご発言は、経済同友会として、岸田首相の呼び掛けに前向きに応じていくという認識で合っているか。

櫻 田:そうではない。本会は、政府が(民間の)賃金相場を設定するプロセスを従来から好ましいと思っていない。(賃上げは)あくまで(各企業の)支払能力次第である。ただ、各企業の経営者は、現在の異常な状況で賃金決定をするにあたり、物価上昇を当然念頭に置いているはずであると申し上げたかった。政府が(賃上げ)水準について、3%や5%といった(数値目標を)示唆すること自体は良いか悪いかという話ではないが、結果的にその数値に収斂するかというと、昨年の例から分かる通りそうなっていない。経営者は自社のステークホルダーをしっかり考えながら(賃上げを)判断していく。本会全体として、政府の(賃上げ)要望を真摯に受け止めるが、会員に対し(政府の数値目標を)踏まえて(賃上げを)検討していこうと発信する予定はない。

Q:一昔前は、円安は日本経済にプラスであるという論調だった。足元は逆で、円安はデメリットが多いと言う企業経営者が多い。いつ頃から産業構造が転換し、円安のメリットとデメリットの逆転現象を感じられるようになったのか。ターニングポイントとして思い当たるところがあればご教示いただきたい。

櫻 田:今回の円安が始まった2022年初頭に企業経営者と話した際、「円安のメリットを大いに受けているが、外貨(換算)で円の量が増えただけで企業の実力が高まったとは感じていない」と謙虚な見方、偶然のような受け止め方をされていた。(1ドル)110円から115円に再び収斂する前提で中期経営計画を立てた(会社が)製造業に多かったと思う。2022年初頭に円安が始まった頃、輸出(中心の)製造業は、円高水準でも十分に利益が出て成長できる戦略や資源配分を考えて準備しており、(既に)4、5年前から各企業はそのような状態であったと思う。日本のGDPの7割近くを占めるサービス業は、原材料の輸入や電気などサービスを提供するために必要なコストは円高の方が明らかに安い。一方、インバウンド(需要)を考えると円安の方が良い。(水際対策緩和は)まだ始まったばかりだが、コロナ(禍)で溜まった日本に行きたいという需要が円安でどれほど増えるのか。一時的ではなく持続的に(インバウンド需要が)増えるかは(推移を)見ていかなければならない。(2022年年初と比較して)3割近い歴史的な円安が進んだ結果、(インバウンドが)増えたとしても、(今後)5年、6年と増え続けると考えるのは甘いと思う。日本は現在の水準より円高になっても、日本に行きたいと(思われる)多くの魅力を持っている国だと考えており、(ますますそう思われる)工夫をする時間的余裕ができたと考えるべきである。一時的に円安でインバウンドが増え、これで勢いをつけて頑張ろうというのは、楽観的すぎるし、本来の戦略ではないと思う。

Q45年前から、経営者は、自社の経営体力や投資資源配分をより現実的かつ客観的に、コア(企業の中核能力)で捉えるという考え方に変化しているのか。

櫻 田:そう思う。可能な限り為替に影響を受けない形で、サプライチェーンの構築や(現地)工場設立を進める、外貨同士で取引を行い外貨で再投資する等、さまざまな意味で為替変動に適応することは、かなり前から実行されているはずであり、4、5年前からはさらにしっかりと(取り組まれている)。為替の問題だけではなく、サプライチェーン(全体の)問題として、経済安全保障を意識しつつ、(各社が)取り組んでいる。日本の経営者はその点を非常にしっかりと考えていると思う。

Q1018日、連合が来年の春闘について、ベースアップ分3%、定期昇給分2%、合計5%程度の賃上げを要求すると報道があった。過去安倍政権以降の官製春闘において、春季賃上げ率は定期昇給分込みで約2%台であり、1994年以降3%を超えていない。消費者物価指数が前年同月比2%超上昇するなか、定期昇給は日本全体の賃金上昇に影響しにくい。今年経団連が発表した、大手企業の定期昇給分とベースアップ分を合わせた賃上げ率は2.27%であり、その内ベースアップ分は0.4%から0.5%程度と言われている。連合が目指す、ベースアップ分3%、定期昇給分2%、合計5%程度という水準は実現可能か、お考えをお聞かせいただきたい。

櫻 田:日本のGDP成長率を実質的な利益(率)とすると(日本全体では)5%には届かず、算術上は実現可能でない。(一方)5%以上の利益率があり、成長している企業はある。産業別に見ても明らかであり、企業別に見ればより(明らかである)。従って、平均5%(の賃上げ)はマクロでは相当厳しいと思うが、個別(企業)はできるはずである。具体的には(個社の話となるが)グループCEOを務めるSOMPOホールディングス内のSOMPOケア株式会社は、2019年、2021年の2度にわたり賃上げを実施し、処遇改善の対象となった職員の給与は5%を大きく上回る水準の賃上げとなった。コストをかけてでもやる価値があると思えば、利益率はそこまで増えていなくても投資として(賃上げを)実施する経営判断はありうる。それは経営者の判断であって、政府に従って戦略的判断を超えて(賃上げを)やるということはなく、反対に、政府が何も言わなくても、必要と考えれば、5%を超える賃上げを実施する企業、経営者は存在する。実を言えば、ジョブ型雇用を推進するなかで、なぜベースアップや定期昇給(にこだわる)かはよく分からない。ジョブ型雇用は、そのような概念を取り去ったものである。その点は中長期的に考えるか、足元で考えるかの違いであると整理している。

Q1011日に、櫻田代表幹事の総括提言である「『生活者共創社会』で実現する多様な価値の持続的創造 ―生活者(SEIKATSUSHA)による選択と行動―」を発表された。この提言のなかで、政府に対して「中小企業競争力強化会議(仮称)」を新設するよう提案すると記載されている。既に政府に提案されたのか、まだであれば、どのような形で提案していくのか、加えて、中小企業の生産性をどのように考えるか、お教えいただきたい。

櫻 田:前回(10月4日開催)の「新しい資本主義実現会議」において、分厚い中間層をつくりたいのであれば、(雇用の)70%、(企業数の)99%超を占める分厚い中間層の塊である中小企業の生産性を上げること、生産性という言い方は、コストを圧縮して縮小均衡型のイメージを持たれるので、そうではなく、競争力を高める(ことが不可欠と申し上げた)。例えば、ドイツのように、世界に打って出る中小企業がたくさん生まれるような国にするためにはどうすれば良いのか、(そのためにも)中小企業だけに注力した会議体を作るべきと申し上げた。(中小企業競争力強化会議の設置については)「生活者共創社会」の提言のなかに明確に謳っているので、これから政府、あるいは関係各方面にしっかりと訴えていきたい。また、全国の経済同友会の代表幹事に直接提案、意見をいただき、できるところは一緒に取り組んでいきたい。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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