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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2022年6月14日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、岡山県美作市の太陽光パネル税導入、円安と金融政策、物価上昇対策等について発言があった。

Q: 岡山県美作市が全国初の導入を目指す「太陽光パネル税」を巡り、課税対象となる運営事業者と税導入に関して再度協議をするよう、総務省が市側に通知した。再生可能エネルギーに対しての新たな増税は企業にとって負担になるが、2050年の脱炭素化に向けて、太陽光パネル税は企業側にどのような影響があるかを伺いたい。

櫻 田: 詳細を存じ上げないので、一般論として回答すると、各自治体が独自に再生可能エネルギーを積極的に導入しようとすることは悪いことではない。ただし、エネルギー基本計画との整合性は必要である。経済同友会では、神戸市と同等程度の面積に太陽光パネルを敷き詰めることができれば、2030年時点で(電源構成比における)太陽光発電のシェアを16~18%近くまで高められると試算している。自分の県の強みを活かしながら再生可能エネルギーを利用しようとする試み自体は決して悪いことではないが、他県との整合性や、国のエネルギー基本計画における再生可能エネルギー拡大との関連性がわからない。詳細を存じ上げないので是非は言えないが、(再生可能エネルギーについて独自の施策を講じることは)一般論としてはおかしくはないと思う。

Q: 昨日、1ドル135円台という歴史的な円安水準をつけた。欧米が金融引き締めに動く中、日本銀行は金融緩和を継続するという政策の方向性の違いが金利差の拡大に繋がるとともに、(為替相場を)大きく左右している。今の円安水準の受け止めと、日本の金融政策の方向性についてお考えを伺いたい。

櫻 田: 現行のドル円相場の水準について、私は早い時期から良くない円安であると発信してきた。マクロで見れば円安は日本経済にプラス(に働く)という(考え方が)過去の統計の延長としてあったが、既に経済構造が(かつてと)変わっていること、マクロで正しいとしてもセクターごとに経済への影響はかなり変わること、特に消費への影響が変わってくるはずだということを申し上げてきた。現在の円安水準について、一番(の要因)は日米の金利差だと思うが、それが今後縮まるかと言えば、そう簡単にはいかないだろう。米国のCPI(消費者物価指数)は既に8%を超えており、それに対して0.25ポイントずつ(金利を)上げていく観測があるものの、景気をオーバーキルしてはいけないということと、しかしながらインフレを抑え込まない限りは(金利を)上げていかなければならないということで、非常に逡巡しているというか、アンビバレントな状態で揺れている状況だと思う。したがって、今になって思えば、出遅れたとは言わないが、(米国は)もう少し早めのスピードで、スタティックに金利を上げていくべきだったと考える。8%を超えるCPIと、まだ3%に届かない金利と(の狭間で)、本当にインフレを抑えたいのであれば、もっと(金利は)上がっていく可能性があるとマーケットは見ている。日本について言えば、(金融政策の)スタンス、ポジションを変えない方向のため金利差はさらに広がるだろうとの見方から、今のような円安水準が続いていくというのが一つの(観測である)。もう一つ、私の考えでは、時間の問題で元(の水準)に戻るのではないかと思っている。理論的に考えれば、インフレが強く金利の高い国の通貨は弱くなっていくので、その方向に向かっていくとすれば、年末に向けてこの状態は落ち着き、一方的な円安の動きではなくなってくると思う。エネルギー(価格)も上げ止まっている状態で、少なくともファクトを見る限りでは、さらに上げ幅がどんどん上がる状況ではない。これらを考えると(今のような状況は)修正されていくだろうと思っている。だが、日本の国力に対する見方がこの円安を生んでいるとすれば、これは深刻である。経済安全保障の問題を含めて、日本は成長する力、稼ぐ力、あるいは生産性を含めて良い製品を作る力が弱いというような認識、印象を世界のマーケットに与えており、その結果として(今の)円安が加速しているとすれば、これはかなり深刻な事態である。そうかといって、打ち手があるかと言えば今のところはない。まだ落ち着いている、危機的な状況には至ってないと思われる現在の水準のうちに、足元の問題だけではなく、何としても日本の経済力を強くしていく、生産性を高めていく、競争力を上げていく、あるいは経済構造を立て直していくという、当たり前のことに真剣に取り組む姿勢を見せて行動に移すこと(が重要だ)。その意味で、予算や成長戦略がまとめられた新しい資本主義(のグランドデザイン及び実行計画)、骨太の方針について、本当に実現させるのだと内外にしっかり示していく必要がある。

Q: この為替水準が日本の経済や景気にどう影響すると思うか。

櫻 田: 経済同友会会員らにアンケートを取ったところ(2022年6月8日公表『2022年6月(第141回)景気定点観測アンケート調査結果』)、以前よりもさらに円安の影響は懸念(材料だ)という結果が出ており、消費への影響はますます深刻になっている。(円安の進行は)おそらく一方的にはいかないにしても、今の傾向はすぐには元に戻らないだろう。一方で、エネルギー、食料、あるいは物流の目詰まりによるコスト増によって、日本国内のインフレーションはさらに加速していく可能性があり、現在想定されているよりも長く続く可能性もある。消費者や企業のセンチメントは、結構ネガティブだと思っている。現場の声、経営者の声という観点で、前回のアンケートに比べて1割以上、円安をプラスとみる回答が減っていることは深刻に受け止めるべきである。

Q:日本銀行の黒田東彦総裁は「家計の値上げ許容度が高まっている」という発言の撤回と謝罪をされたが、そもそも政府も日本銀行も2%の物価上昇により賃上げと経済成長を目指してきた。国民の理解が進んでいないともいえるが、物価上昇に関する課題についてお考えを伺いたい。

櫻 田:日銀総裁に限らず、(経済については)マクロ統計に基づいて説明されることが多い。マクロとしてはもちろん間違ってはいないが、日本全体を均した所得や物価は(あくまで数値であり)現実に存在するものではない。政府は平均値をベースに判断することがあるため、いわゆる生活者の実感とは合わないことがある。マクロベースのみで物事を判断するのではなく、現場の実態をセクター別に把握して政策判断をすべきであり、今回もそのずれがあったものと思う。給付金や支援金が支給されたことで、家計では将来の不安に備えて貯蓄率を増やした。このため、家計の購買力自体が上がっており、以前よりもインフレーションに対する耐性が増えている。(これをとらえて)本来、日本銀行が目指してきたインフレーションに繋がっていく可能性があると黒田総裁は示唆されたのだと思う。ただ、実際問題としては、富裕層とそれ以外では貯蓄の状況が全く異なる。中間層などの感覚からすると(黒田総裁の発言は)ずいぶんとずれており、不快感を生んだのであろう。政府内における専門家同士での発言ではあれば構わないが、外部に発信する際には、現場の実態をもう少しきめ細かく丁寧に点検した上で発言することが必要であろう。これは私にも同じことがいえる。他山の石としたい。

Q : 円安が進み、エネルギー価格や食料価格も加速度的に上がる中で、政府の物価対策は果たしてこれでよいのか。充分かどうか。賃上げについて、大手企業は来春闘に向けて物価上昇分の協議を進めている。中小企業は現状(賃金交渉を)やっているところがある。物価や通貨の番人である日銀総裁が、慌てて(自身の「家計の値上げ許容度も高まってきている」という発言を)撤回しても、日銀にも打つ手はない。この状況の中で6月15日に通常国会が終わり、参議院選挙に向かっていくが、財政規律の問題も棚上げされ、政府の物価対策は見えにくく、言ってみれば「やっている感」だけで(国民は効果を)実感していない。代表幹事からこうした指摘をする必要があるのではないか。

櫻 田: 私から言うとすれば、マクロ、バラマキ的なイメージを早く払拭しなければならないという点だ。統計が足りていない。例えば、補正予算2兆7,000億円の内訳を見ると、一部に物価対策もあるが、ほとんどがエネルギー、石油・ガソリン価格上昇対策であった。一方で、物価そのものや、インフレ率を見ると、日本は先進国対比で高い方ではないというのも事実だ。ガソリン(の上昇率)は欧州と比べるとやはり高い方ではない。もちろん絶対値は米国のガソリン価格の方がずっと安いが、値上がり度合いから言うと、日本は決して高くない。他国対比で言えば、(エネルギー価格の上昇は)大騒ぎするほどではない。ではなぜこんなに国民が困っているかというと、(支援が)困っている人に届いていないことが一番(の要因)だと思っている。困っているのは誰なのか。例えば社会的弱者とは、世帯年収200万円から300万円ほどの、平均以下の方を指すと理解しているが、具体的には高齢者世帯や母子家庭であることが多い。高齢者世帯にとっての収入は、もちろん自身の労働から得たものもあるが、多くは年金や社会保障である。一方で、母子家庭は非正規雇用が多く、働いても300万円に届かない世帯が約8割だ。この二つの家計は、年収だけを見れば同じ300万円弱だが、生活の実態は全く違う。(母子家庭の方は)子どもが満足にご飯を食べられず、着るものにも困っていることがある。私が言いたいのは、同じ年収の二つの世帯を見ても、どちらが本当に困っているかは今の統計では分からない、ということだ。新型コロナウイルス感染症(経済対策)のときにはっきり出たが、(給付金)10万円を支給する際、本来であれば困窮世帯に対して支給すべきだったが、(困窮の実態が)分からないため結局(住民基本台帳に記載されている人)全員一律になってしまった。得をしたのは平均以上の所得がある人たちだった。本当に困っているのはどこか、一番支援しなければならないのは誰かということが分からないので、一律になってしまう。マイナンバーの活用が遅れたことも含めて、国民の生活や年収の実態をしっかり掴んでいないため、きめ細かい支援ができない。従って、一律となってしまう。これが一番の問題だと思っている。同じことが旅行業や飲食業(への支援)にも言えるのではないか。きめ細かい作業をするためにはきめ細かい統計が必要だ。個人情報の問題についても基準をはっきりさせた上で政府はしっかりと(データを)掴み、きめ細かいサービスを行える体制に早く(移行)していくことが必要だと思う。実態を把握できないと、司令塔が何をして良いか分からないという状況になりかねないことを危惧している。

Q : まさにこども家庭庁やデジタル庁などがそうだ。統計の整理を行なうために新設されたと思うが、今後に期待するしかない。5年以内に防衛費をGDP比2%に増額するなどは声高に言うものの、岸田首相は財源について何も国会答弁をしていない。政策によっては非常に元気が良いが、そうではないことについてはきめ細かくできていない。これこそ政治の責任ではないかと思うが、いかがか。

櫻 田: (調査)頻度も含めてより綿密にきめ細かい統計(データ)を集めないといけないことについて、一般論としてはみな賛成すると思うが、実際にマイナンバー一つ取っても政治的な抵抗に遭っていることを考えれば、やはり政治の強い意識が必要だと思う。ファクトを掴むということからまず始めないとならない。PDCAでいう戦略(Plan)を作り、実行(Do)に移すときに、どうしたら最も効果的なのか(を検討する)にはまず統計が必要である。うまくいったかを確認(Check)するにも、改善(Action)のサイクルで失敗や反省を踏まえて変えていこうというときにも(統計が)必要である。いずれにしてもPDCAが最も重要であり、一も二もなくとにかくPDCAだけはしっかりやってほしいとありとあらゆる場で申し上げている。官に最も必要なのは、統計をしっかりととりファクトをベースにして政策を打ち、またそれを統計、ファクトをベースにメディアや国民にきちんと説明するというスタンスだと思う。(新型コロナウイルス感染症対策)予備費の90%が、使用使途がはっきりしないということが起きている中で、依然として予備費を積み増している。未来志向というと言葉は綺麗だが、政府は過去の反省に基づく未来志向ではなく、とにかく国民や我々民間の目を未来に向けさせることで、何とか元気づけようとしているのではないかと勘ぐってしまうくらい、過去について反省しない姿勢だと感じることが多い。強い意志があるならば、野党も含めて、もっと統計をしっかりと作ろうではないか、国民的なコンセンサスを作ろうではないかという動きになってしかるべきであるが、それがあまり起こらない。各省庁で事業所の定義が異なった結果、一丁目一番地だった省庁横断のデータベース整備からデジタル庁が撤退する。システムを作れないので一旦停止という、これも根は同じ(問題)だと思う。民間で当たり前のことを当たり前にやること、これも新しい資本主義を作るためには必要ではないかと思う。

Q:昨日、債権市場において10年債の利回りが0.255%となった。これまで日本銀行は0.25%を超えた場合は無制限に購入する指値オペをするとしてきた中で、それを超える利回りを付けた。円安に関する黒田総裁の最近の発言から、マーケットでは日本銀行が金融緩和を修正するのではないかという憶測も流れている。改めて、現在の金融緩和を継続するべきか、代表幹事の考えを伺いたい。

櫻 田:日本銀行が世界の金融マーケットに抵抗することはないと思っている。10年債の利回りを0.25%(以下の水準)でイールドカーブ・コントロールしようという姿勢自体は変わっていないと思うが、結果として0.255%まで金利が上がったという点では、その時に強く「買い」には行けなかったということであろう。これに関してマーケットでは、日本銀行が長期のイールドカーブ・コントロールを緩めようとしている、金利が上がっても認めていく姿勢ではないかと解釈したように思う。少なくとも、長期金利が世界的に見ても非常に低い今の水準のまま何年も続いていくことは異常であり、修正しなければならないことから、マーケットが日本銀行の姿勢・スタンスを試しているのだと思う。経済全体の影響を考える際、各企業は資金調達に困っている状況ではなく、安定的に低い金利で債権を発行している。一般国民はこのまま低金利の状況が続くとは思ってはおらず、心の準備が徐々に始まっていく。そうしたインフレに対する期待、金利上昇への期待に合あわせ、日本銀行はマーケットを調整していくのではないかと思う。方向感としてはじわじわと上がっていくのが自然な状態であろう。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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