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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2022年5月30日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、日米首脳会談、新型コロナウイルス感染症水際対策の緩和、原発再稼働、骨太の方針・新しい資本主義・成長戦略、上海の企業活動再開、新卒採用、物価上昇などについて発言があった。

Q:先週、日米首脳会談が開催された。安全保障から経済分野まで様々な点で日米の連携を深めていくことが話し合われたが、とりわけ経済分野では米国が提唱した「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)に日本が参加することも表明された。会談全体を通しての受け止めと、IPEFについての評価を伺いたい。

櫻 田: 会談については、経済人として、また日本国民の一人としても大いに評価したい。米中の経済戦争に始まり、とりわけ昨今のウクライナ侵攻により一気に安全保障に関する国民の不安が高まっている中で、一番重要な日米安全保障条約を再確認し強固なものにしていくだけでなく、太平洋諸国、特に民主主義を標榜し価値観を共有する国々との間でより密接な関係を作ると、日本の地において宣言したことは大いに評価したい。IPEFは経済協定ではなく、関税について議論されるわけではないが、米国がこの地域にコミットすることを示す一つのフレームワークとして、大いに評価すべきだと思っている。当然、中国を念頭に置いていることは明言をしなくても世界中が理解している。今後、日本が国民のためにIPEFというフレームワークをどのように活用していくかはこれからの議論次第だが、舞台が整ったという点では大きな成果である。

Q:政府は、610日から外国人観光客の受け入れを再開することを決めた。これまで2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人という目標を掲げてきたが、コロナ禍で環境が大きく変わった。この目標を変更する必要があると思うか。

櫻 田: 現時点では6,000万人にははるかに及ばない。この目標はコロナ禍以前に作られたものなので今後見直していく必要はあるが、その前に、入国者数の上限を1日1万人から2万人へ引き上げ、さらに増やしていかなければいけない。インバウンドにより5兆円近いキャッシュフローがもたらされること、さらに円安という状況も踏まえれば、上方に向けて修正する気運があってもよい。論理的に数値目標を設定するより、目指すべき姿を目標値として設定し、その上でさらに上方修正することは決して悪いことではないと思っている。

Q:ウクライナ情勢の悪化を受けて、燃料価格高騰や電力需給の逼迫が生じており、それを背景に経済団体や各企業で、原子力発電をより活用していくべきという声が強まっている。一方で国民の間には再稼働への反対意見が一定程度あり、核のゴミの処分場がまだ決まっていない問題もある。今後、原子力発電所の再稼働を進めていくべきか、考えを伺いたい。

櫻 田: これはどこから(議論を)スタートするかということなのだが、日本も(2020年10月に)宣言した「2050年カーボンニュートラル」を目指すのであれば、それに向けたエネルギー政策が必要である。本当に実現するとなれば、現実的な視点から原子力を活用しないと不可能だと思っている。逆に、原子力を使わず、(日本の電力)全てを再生可能エネルギーのみで賄おうとすると、経済へのダメージは説明するまでもなく、国民生活にも深刻な事態を生じさせることは明らかである。したがって、原子力をどう使うか、どのように安全に使うかという議論があるべきで、原発を使うか使わないかという議論はもはや現実的ではないと思っている。そういった意味において、使用済燃料を地下に埋めるという(処理方法について)、場所をめぐって議論している最中である。やるべきは、早く議論をして決めることだ。一番やってはならないことは、決めないまま、決められないままズルズルと時間が経って、世界各国に比べて、原子力に関する技術水準も遅れていき、結果として、全てが後手に回っていく事態であり、それは絶対に避けなければならない。以前より本会が主張してきたように、原子力を利用しつつ、(電源構成における)再生可能エネルギー(の比率)をさらに高めていくという両にらみでしっかりとやっていく(べきだ)。再度申し上げるが、原発を使わないという選択肢はないと思っている。

Q:決めるべきとは、使用済みの高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のゴミの処分場を早く決めるべきということか。

櫻 田: そう思っている。世界各国を見ても処分地の調査や選定が進んでいるし、地下300m(より深い岩盤)にガラス固化体として固定するという、技術的にも安全な方法が確立されつつあり、日本だけ独特のやり方をする必要はない。世界で認められた方法で早く実現していくべきと思っている。

Q: 政府が6月に策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の議論が佳境に入っている。櫻田代表幹事が構成員を務める新しい資本主義実現会議でも、実行計画が策定されるようである。イデコ(iDeCo)の対象年齢引き上げなど、内容が少しずつ出てきたが、「新しい資本主義」というものがよく見えてこない中で、櫻田代表幹事が重視しているのはどのような点か。

櫻 田: (新しい資本主義で策定するものには)グランドデザインと実行計画があるが、私自身が最も重視しているのはグランドデザインの方である。なぜかと言えば、実行計画は個別の施策で、非常に重要なものがたくさん含まれているが、それ自体全く新しいもの、これまで一度も考えられてこなかったものではなく、これまでもさまざまな議論の俎上に上がり、これでいこうと(過去に)決めたものが多い。量子コンピューター、ゲノム、AIにしても、こうした新しい技術は重要だとこれまでも議論はされてきた。このことを政府として(改めて)確認した、ということである。何度も申し上げてきたが、問題は、過去30年間、日本は、成長戦略を策定して真剣に取り組んできたにもかかわらず、世界各国と比較すると、残念ながら相対的に成長していない(ことにある)。もっと言うと、相対的に貧しくなっているという厳然とした事実である。そのことを確認した上で、日本にはまだまだ成長するポテンシャルがある(と認識すべきだ)。そのポテンシャル(の背景)には、高い教育水準、国民のリテラシー(があり)、それから私の信念であるが、武士道や『論語と算盤』に象徴される思想をもって国民全体の体に染みついている精神性がある。技術においても精神性においても、そして社会においても、世界に誇るべきものを日本は持っている。過去30年間は、確かに相対的に遅れたが、いよいよ今度こそ本気で成長を目指すということを世界に示していく心意気が最も重要だ。全国民の心に響き、いわば国民運動のように、これで頑張っていこうと若い世代も含めて(皆が)実行していけるかどうか、これにかかっている。技術(力)や法律(をつくる)だけでは、この国を、また昔のように世界に冠たる経済力を持つ国にすることは難しいだろう。ましてや、これだけ安全保障上の課題が山積している中で、国民の納得感、ワクワク感、元気を呼び起こさないと(いけない)。それは取りも直さず、政治の、とりわけ首相の最重要ミッションであり、岸田首相はそれができる方だと信じている。残念ながら、今回のグランドデザインの中では、過去(に打ち出された)さまざまな施策がなぜうまく機能せず、(世界と比較して日本が)相対的に残念なポジションに徐々に下がっていったのかということについて、真因を突き詰める分析はなされていないと思う。しかし、これを民間企業、あるいは、民間企業を含む国民も一緒になって真剣に考えていかなければ(ならない)。過去を忘れて将来だけ、過去を忘れて未来志向だけでは、新しい日本は築けない。

Q:昨日、新型コロナウイルスの影響が続く中国上海の市当局が、企業活動の全面再開を認める方針を示した。まだ多くの地域で外出制限が続く中で、実際に企業活動が本格再開するかまだ見通せないものの、この動きをどのように受け止めているか。

櫻 田: ユーラシアグループが(2022年の)10大リスクとして、1番目に「(中国の)ゼロコロナ政策の失敗」を挙げていた。あれは見事(な指摘だった)と思うが、まさにそれが起きてきた。(中国は)これまではスタンスを変えずにきたが、ここにきてさすがに経済とパンデミックを比較したときに経済もやはり命を奪うということを理解した結果だと思っている。世界から見ても、ロックダウンによるサプライチェーンへの影響や、輸出入に対するマイナスの影響を含めて、(中国の)方向転換は好ましいことだと思っている。これが中国国内の政局にどのような影響を与えるのかについはコメントする立場にないが、党内あるいは中国国内でさまざまな議論があった結果での判断だろう。方向としては、好ましいと思ってよいのではないか。

Q: 経済同友会は、4月に『実効性ある成長戦略の策定と着実な実行に向けた問題提起(中間提言)』(成長戦略評価・実行委員会、2022422日発表)をまとめたが、そこでは毎年総花的なラインナップとなる成長戦略について、中身よりもまずは策定と実行方法が重要であると指摘された。各省から集まり(策定に)取り組んだ官僚が(所属官庁に)戻った際に、それが自組織の成果につながることを念頭につくるというのもあると思う。毎年、首相が発するキーワードに関連付けた成長戦略や予算要求がなされるが、単年度の目標や政策が提案されることで、官僚も単年度の成果が個人に返ってくる。そのため中長期的に日本の経済成長に繋がることに取り組みづらい。その仕組みを変えなければならないという主張だと理解しているが、実現に向けて、経済同友会はDo Tankとしてどのように働きかけていくのか。

櫻 田: グランドデザインをどこが実行するかと言えば、それは首相官邸であり、岸田首相はじめ担当大臣あるいは(内閣官房)副長官ということになると思う。個別の実行計画を構成するさまざまな施策については所管官庁があるので、それを所掌する部局があり局長、課長がいてとなるのだろうが、そこにつなげられた実行計画について、PDCAサイクルをきちんと回せるかどうか(が重要)である。最も懸念するのは、成長戦略がうまくいったのか、いかなかったのかについて、こと(施策の実行)が済んでから、そのKPI、KPGが達成されたかを見ることである。プロジェクトが進んでいる期中に進捗を見ながら、方向転換をするなり、場合によってはやめる、あるいは追加の投資をするというような判断がなされているケースはほとんどないと思う。今回のグランドデザインにしても、あるいは各省庁から上がってきた実行計画にしても、それを誰が、どのようなタイミングでチェックし、さらにアクセルを踏むのか、あるいはブレーキを踏むのか、全体でPDCAを回す主体となるのは誰なのか、ということが非常に重要である。政府の施策は、過去を問うよりも常に将来を見る傾向が強い。過去を問わずに将来を見ることは、民間では普通できないことであり、新しい投資や出資をする際には、必ず過去の成功事例、失敗事例をよく調べた上で行う。あるいは、ここに注意をして(進めて)いくと(いった学びが)自然に出てくるような仕組みを作っておかなければ、同じ失敗が起きてしまう可能性がある。今回は、新しい資本主義を必ず実現していく。実現こそがキーワードであり、それに向けて、期中にうまくいっているかいないかを誰がチェックするのかをはっきりさせることと、それを、メディアを通じて国民がよく知ること(が重要)だ。いつの間にか始まり、いつの間にか終わってしまったということだけは絶対に避けなければならない。この点は、実行計画そのものよりも重要である。また、官僚のマインドセットについても変わってほしいと思うし、元々そういう(実現にこだわる)マインドを持って各省庁に入られた方々が多いはずなので、逆説的に聞こえるかもしれないが、官僚が元気になるような実行計画、実現計画、さらには、PDCAサイクル(を機能させる)仕組みを作ればよい。

Q: 新卒採用について伺いたい。就職活動において政府が企業に要請しているスケジュールでは、61日から面接などの選考が解禁されることになっているが、民間調査会社のデータではすでに内定率60%を超えている状況でもある。かつては経団連が行っていた就職活動のルール作りを政府に移管したのち、ますます形骸化が進んでいるのではないか。政府が要請する日程に差し掛かる頃には多くの学生がすでに就職活動を終えており、まだ就職活動をしている学生に焦りが生じるというギャップも起きている。停滞しているこのスキームと就職活動のあり方について見解を伺いたい。

櫻 田: 就職活動のあり方について、総論は賛成でも各論で反対となることが形骸化をもたらしたのだと思う。新しい資本主義において、人材の流動化やパーパスを重視した経営が形だけで終わらないようにするためには、私たち経済界がキャリア採用・通年採用の数値目標も決めることが必要である。例えば、自社でキャリア採用の割合は3分の1を目標にする、などと宣言させる。これを最初にやるべきだと思う。結果として、新卒の内定率が下がるだろうが、むしろ好ましいことである。卒業後すぐに就職するのが当たり前という働き方から、卒業後の1年間は別の世界を見る、別の仕事をする、あるいは仕事をしながら転職を意識するといったように、いろいろな働き方を奨励していくことが日本経済に活力をもたらす大きな源泉になる。就職活動の選考解禁の前にすでに6割超が内定している事実については、むしろあるべき姿から考えるべきだ。企業は積極的に通年採用やキャリア採用を(行い、それを)歓迎しているというメッセージを流し続けることが大事である。いまだに新卒一括採用を行っている国として、日本は世界で唯一に近い。そして、ゆっくりと坂を下り、貧しくなっているのがこの国のあり様である。まさにここは正念場である。

Q:消費者物価指数は上昇、企業物価指数の伸び率も高いという状況であるが、実質賃金は上がっていない。これを悪い物価上昇だという指摘もあるが、認識を伺いたい。また、この状況で今、企業に求められることは価格転嫁なのか、賃上げなのか。

櫻 田:好ましくない物価上昇、インフレだと思っている。教科書的にも典型的なスタグフレーションである。問題は、その原因と対策だ。原因については、必ずしも日本発のものが多いとは言えない。むしろ日本発以外の原因が多いので、日本の中央銀行をはじめ、財政当局が何か手を打てるかというと、あまりないのではないか。(日本銀行が)無力だという意味ではなく、スタグフレーション下で実質賃金が低下しつつあり、ここで金利を上げるという選択肢はおそらく採り得ない。それが分かり切っているので、為替はさらに円安に振れていき、物価上昇によって悪い循環が始まっている。では価格転嫁ということになるが、当然、価格転嫁すると物価が上がる。賃金が上がらないまま価格転嫁を進めていくと、さらに悪い物価上昇が続いていくことになる。これまで貯めてきた日本企業の力、利益剰余金もあるわけなので、その余力を活用しながら今こそ生産性を高めていくべきだ。新しい働き方を積極的に導入する、採用方法も思い切って変えていくということをしながら、企業も国も、これを機に何とか変わる努力をするしか方法はないだろうと思う。政府に求めることは、やはり最大の要因であるエネルギー価格や、食料価格の抑制である。外交手段を使いながらプレッシャーを和らげてもらいたい。具体的に言えば、ガスや石油については、米国、豪州などからの輸入を増やしていく。同時に、インフレ期待によって実際の需給以上に先物指数が動き、現物も上がる傾向は大いにあるため、将来の不安を和らげる見通しが出てくれば、今の物価上昇も収まってくるだろう。現に、食料品、家電はまだ上がる可能性はあるが、エネルギーは一応上げ止まっている。絶対的な水準はまだまだ高いが、年末に向けてさらに上がっていくという状況にはないだろう。こうした事実を見ながら、(この状況に)耐えるというよりはチャンスと捉え、企業、そして日本経済が変わっていく機会と捉えるのがベストだろう。金融、財政で打つ手はないと思う。

Q: 先程の質問で、櫻田代表幹事はグランドデザインという言葉を使われている。過去の日本において、これは素晴らしいというグランドデザインはあったか。また、今回のグランドデザインに対して期待されていることを伺いたい。

櫻 田: 過去のグランドデザインで言えば、明治維新がそうだったのではないか。昭和以降で言えば、(第二次世界大戦で)敗戦後、日本経済を世界第二位まで持っていく間にさまざまな経済成長政策があり、時々の首相が打ち出した政策があった。是非はあると思うが、日本経済を大きく変えたものとして、所得倍増計画や日本列島改造論があった。そこには負の部分も相当あるので、全面的に素晴らしいというつもりはない。ただ、日本経済に大きなインパクトを与えたと(認識している)。何よりも、日本国民が自分ごととして捉え、それに向かって国民も企業も、地方公共団体も大学も、一所懸命に行動したという点で、グランドデザインの持つ大きな意味がある。今回も、新しい資本主義という非常に大きなタイトルの中で、(資本主義の)バージョンアップという言葉が使われていたと思う。それはよいことだが、どこがバージョンアップなのかを国民、企業、大学や諸団体が感じられて、皆がそれに向かって変えていこうとする機運を作ること、これがグランドデザインの最大の目的である。そういった機運が生まれない限りは、おそらく過去30年、いろいろ工夫をしてやってきた経済成長戦略がそうであったように、日本全体を大きく変えていくような勢いには繋がっていかない。これが私の問題意識である。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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