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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2023年3月14日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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冒頭、中央公論新社より刊行した『失った30年を越えて、挑戦の時 - 生活者(SEIKATSUSHA)共創社会』の紹介後、記者の質問に答える形で、米シリコンバレーバンクの経営破綻、賃上げ、ユン韓国大統領来日などについて発言があった。

冒頭発言

櫻 田:『失った30年を越えて、挑戦の時 - 生活者(SEIKATSUSHA)共創社会』を上梓した。是非ご一読いただき、批判を含めてご意見をいただければ幸いだ。(記事に)取り上げてもらえるとなおありがたい。本会は、新しい資本主義を大いに積極的に捉え、私自身が(新しい資本主義実現会議の)委員の一人ということもあり、本会で1年近く議論した結果、これからの日本のありようはこういうことではないか、と書いたつもりだ。タイトルにあるように、巷で言われている「失われた30年」は語感としては誤りで、(為すべきことは)分かっていたのに不作為に近い状態で行動をとらなかった、イノベーションを起こさなかったことで「失ってしまった30年」(という表現)が正しいという認識から始まっている。特に、イノベーションにおいて最も重要な役割を担う民間、経営者の責任は重いと(いう観点から)三つの柱で新しい生活者共創社会を作っていこうと(提案している)。一つめの柱は、成長、すなわちイノベーションでありダイバーシティだ。二つめの柱は、新しい分配とはどうあるべきか(についてだ)。三つめの柱が一番重要だと思っているが、価値とは何かという点。単純な時価総額ではなく、社会課題に挑戦していく企業が社会に提供する価値とは何なのか、それはどのように評価されるべきかについて、未だ答えは出ていないが問題提起したつもりだ。私の卒論という意味もあり、(本日お集まりの記者のみなさんに)お配りしたので、批判も含めて(ご感想を)お願いしたい。

Q:米国銀行の連鎖破綻についてお伺いしたい。FRBの急速な利上げが響き、(米シリコンバレーバンクが)経営破綻に至った経緯はご承知の通りだが、米国金融当局による異例の対応が続いた。システミックリスク、信用不安を抑えるため、預金の全額保護措置を講じたことはやむを得ないかもしれないが、金融機関のモラルハザードを防ぐために導入された従来のペイオフ等の破綻処理と比較してどう考えるか。またSNSによって急速に信用不安が拡大した新しい事象でもあったが、その点について見解を伺いたい。最後に日本への影響をお伺いしたい。当面は日本への影響は少ないという声が強いが、リーマンショックの際も当初「蜂に刺された程度」と言われながら、結果的にかなり大きな混乱が生じた。

櫻 田:私も驚いたが、端的に言うと、(今回の米国銀行の連鎖破綻は)リーマンショックとは異なる。当時、おっしゃる通り「蜂に刺された程度」や「パーティーに呼ばれなかったので二日酔いにはならなかった」というコメントがあったと思うが、今回、直接の原因は特殊なビジネス形態をとっていた三つの銀行、特にシリコンバレー銀行が、信用不安というより取り付け(騒ぎ)によって資金繰り難を起こしたためと思う。間接の原因は、FRBの急速な利上げに起因するデュレーション・マッチング(の問題である)。多額の長期債券を購入したものの、金利上昇によって価格が下がり、資金繰り難や(資本)欠損を埋めるため、(保有する)債券を売却せざるを得なくなり、結果、含み損から現実に損失として(確定した)。その噂が流れ、SNSを通じて凄まじい勢いで広がったこともあり、500億円規模の預金を一気に引き出した人もいると聞く。いずれにせよ、ファクトをよく見ると、(経営破綻した)米国銀行のビジネスモデルは、新興企業に資金を低利で貸し、貸した新興企業から預金も預かり、その預金を長期債券に投資することであった。資金が回転する中でリスクが偏在する点において、やはり特殊と言える。また(経営破綻した)シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行の2行も、リスクが偏在する形のビジネスモデルと聞いており、一般の米国大手商業銀行とはやはり異なる。ただ、米国の金融機関は全体としてFRBによる急激な利上げの結果、債券の含み損を抱えている状況にあるのは間違いなく、規模、資本余力が大きいだけに、資金繰り難も発生しにくく、リスクは少ないが、慎重なモニタリングが求められる点は、(規模の)大小の差はあまりない。従って、特殊な銀行だった上に、政府、中央銀行、預金保険機構が、急速に預金全額保護というアナウンスを行ったため、いわゆる金融パニックのような取り付け騒ぎは起きていないと理解している。(取り付け騒ぎが)今後(各地で)多発し、広がることにはならないと思う。日本への影響については、リスクが偏在する形のビジネスモデルを抱える銀行は、メガバンク、地方銀行ともにないと思うので、今回のような取り付け騒ぎが直ちに日本でも波及することはない。ただ、一般論として、金利上昇、債券価格下落、含み損という状態は、金融(機関)の当然の原理であるため、体力の少ない銀行は今回の金利上昇が含み損を増大させるのは間違いなく、(日本の金融)当局も丁寧かつ細かく各行をモニターしていく、あるいはヒアリングをすることになると推測する。従って、結論として、直ちに日本へ飛び火することはないが、一般論としては注意しなければならない。FRBを批判するつもりはもちろんないが、パウエル議長は(3月7日の議会証言で)インフレはまだ収まらず、足元の経済指標を見ても米国の労働需給はひっ迫していると強気の発言(をして)、金融市場に(利上げ幅が)0.5%へと拡大する可能性もあると理解させた。裏を返せば、この発言がさらなる金利上昇による含み損、資金繰り難を想定させ、事態を悪化させた可能性がゼロとはいえない点において、FRBは利上げの速度について少し考慮や斟酌をして慎重になる可能性がある。立場上、私が米国の金融行政を予測することはできないので、個人的意見として申し上げる。そうなるという保証もなく、(利上げが減速するという)データや意見があるわけではない点をご了承いただきたい。

Q: 賃上げと政労使会議について伺いたい。3月10日に経済同友会が発表した景気定点観測アンケート調査で、7割の経営者が賃上げ予定と回答した一方、賃上げ率の上げ幅について、物価上昇率を概ね上回る4%以上と回答したのは3割にとどまった。この点に関して受け止めを伺いたい。また、明日3月15日に政労使会議が開催予定だが、このタイミングについてどう思われるか。加えて、大手企業では賃上げの表明が続いているが、今後中小企業や地方企業への賃上げ波及に向け、政府に期待したいことがあれば伺いたい。

櫻 田:本会の景気定点観測アンケートにおいて、これまでになく、賃上げに一歩踏み込みたいという経営者の回答があったことはご指摘の通りである。CPI(消費者物価指数)上昇率は4%と見込まれているが、それを超える(賃上げをすると回答した)企業が3割あったことも事実である。ただ、それ以外(の企業)は、未定を含めその水準に届いておらず、やはりまだら模様だと思っているが、昨年に比べると明らかに賃上げに向けた勢いや機運が高まっているのは間違いない。とても良いことであるが、今年限り(の賃上げ)では駄目だ。おそらく昨年より高水準で(労使交渉は)妥結すると思うが、インフレ率4%を上回るかは予断を許さず、簡単にはいかないと思う。注目すべき点は二つである。一つめは、企業の大小を問わず(労働組合に)回答する際に、経営者がどのようなメッセージを発信するかであり、「本当に頑張って今回(要求に対する回答を)出したので、しっかり頑張っていい会社にしよう。しかし、来年(の賃上げ)は(実現できるか)分からない」というメッセージでは勢いは出ないし、期待している分厚い中間層には届かない。つまり、賃上げを持続的なものにしなければならない。二つめは、体力のある企業は出す、そうではない企業は厳しいというのが現状なので、結果として、より高い賃金、価値ある労働に対して見合った賃金を払える企業に労働者が動き、人材の流動化が進み始めるのであれば、日本全体としては良い傾向だと思う。人手不足に苦労している企業が多数存在するのは知っているし、そのような企業こそ実は賃金を払いたいが払えない状況にあるかもしれない。例えば、旅行業や飲食業はインバウンド需要で大きく伸びる可能性があるが、圧倒的な人手不足で困っている。しかも新型コロナウイルス感染症で(経営が)痛んでおり、高い賃金を払えない。このような企業には、公的支援があっていいのではないか。そうではない企業は、人材の流動化によって企業再編、産業の構造改革が起きていくことがむしろ望ましい。結論としては、経営者から将来にむけたメッセージ(が出るか)、人材の流動化が始まるかどうかに注目したい。(この時期に開催する)政労使会議は、(春闘の)ピークを迎えることから、もうひと息(賃上げへの)勢いをつけたいということだと思うが、会議自体が中長期で継続的な賃金の引き上げにつながるとは思わない。まさに今、最後の(賃上げへの)勢いをつけようという心意気の表れではないか。

Q:政労使会議の議論に期待すること、政府側に要望することがあれば伺いたい。

櫻 田:日本経済にとって重要かつ雇用も多い産業、例えば、飲食業、旅行業、運輸業など、いわば準エッセンシャルワーカーに属する方が報われる賃上げを是非主張いただきたい。そのためには、全般的な賃上げではなく、(賃金を)しっかり支払える企業、負担能力のある企業は払い、そうではない企業は、経営者が将来に向けたメッセージを述べるか、(人材の)流動化を認めていく議論があるべきと思う。従って、政府は全般的な賃上げだけではなく、どのような産業が重要で、どのような経営をしている企業が高い賃金を払うべきか(示す必要がある)。また、(賃金を十分に)払えない企業が中小企業であれば、(製品への)価格転嫁を進めていけるような施策、もしくは(賃上げの)障害となることは何かを再確認しながら、中小企業・大企業に賃上げを促していくことが重要だと思っている。

 今回(の春闘)を含め、賃上げは「定期昇給とベースアップ」や「定期昇給込み」で何%という議論をしているが、定期昇給とベースアップを明らかに制度で分けて賃上げ交渉する国は、先進国ではおそらく日本だけだろう。SOMPOホールディングスの海外グループ会社は、定期昇給やベースアップという考え方がない。総賃金をいくら上げるか(という考え方)であり、ほとんど(の社員)がジョブ型であるため、1年経てば必ず給料が上がる仕組みはない。(日本は)非常に特異な形態をとっており、定期昇給は、1年経ったら制度として(賃金が)増えるものであり、闘争や交渉するものではない。そのため、「定期昇給+ベースアップ」のような形で今後も賃上げ交渉を実施するのかという点に問題意識を持っている。早くジョブ型、年俸型に移行しなければならない。ただし、20代のように非常に若い層は、入社してしばらくの間は1年経てば(自ずと)スキルが上がる。この年代は、定期昇給があっていいと思うが、その後もずっと定期昇給があり、定期昇給+ベースアップで交渉する仕組みはそろそろ見直していいのではないか。日本の仕組みは少し特異すぎる。

Q:徴用工問題をはじめ、これまで日韓関係は冷え込んでいた。今回のユン大統領の訪日をきっかけとした今後の日韓関係への期待と、日米韓の経済安全保障の連携加速について、見解を伺いたい。

櫻 田:以前は日韓関係について政冷経熱といわれたが、韓国の大統領が交代し、政治のスタンスが一変した。これまでの外交の慣例・ルールに則った形式に戻ったことはユン大統領の英断であり、大いに歓迎したい。一方で、まだ徴用工問題について原告団が納得しているわけではない。今後、何らかの形で経済的な補償を求めているという点では、韓国の国内問題として予断を許さない状況である。もちろん、日本は韓国の内政に関与することはないが、経済面では相互にメリットのある仕組みを作ることで応援することができる。特に経済安全保障の分野では、韓国は中国との関係も深く、日本以上に難しい判断を求められる。日本と韓国とは同じ民主主義を標榜する国として、経済安全保障分野においても信頼できる国、ライク・マインデッド・カントリーとしてしっかりと連携を組んでいくことが重要であろう。今回の日韓問題について、一言でいえば、政治の役割がいかに重要であるかが分かった。日本がこれ以上、何かを譲歩する必要はないことは前提ではあるが、これから更に日韓関係を深めていく上で、外交を通じた政治の役割はますます重要になってくる。今後の日韓関係に期待している。私たち民間企業もしっかりとやっていきたい。

Q:日韓関係において、経済安全保障の面で、具体的にどのような産業あるいは分野で メリットが期待できるか。

櫻 田:機微な情報や、あるいは最先端技術を使った製品がまず考えられる。半導体やデジタルの面で日本と韓国は、補完する、あるいは場合によっては競争するものも多い。また、かつての日韓貿易で、日本からの輸出が意図的に止められ韓国の国内経済に大きな影響を及ぼすトラブルがあったが、そのような問題がなくなっていくことは非常に良いことだと思う。もう一つは、対米関係において、米国が対中国、あるいはその他のいわゆる権威主義的な国家に対する制裁を課す際に、日本と韓国は同じ立場に立つことがある。その点についてはしっかりと情報交換をしながら、不当な要求には互いに協力し合うことができるだろう。今まで以上に情報交換を密にしながら、ともに歩み寄れるところは歩み寄る。また、安全保障に近い(期待)かもしれないが、環太平洋の民主主義国という点において、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドは非常に重要な同盟を組むことができる。(日本と韓国は)ファイブ・アイズ(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5か国で構成する機密情報共有体)には入っていないが、今後、日韓関係がさらに進化して、良いかたちになっていけば、日本だけではなく韓国も含めて、専制的な体制をとる国に対する抑止力に十分なり得るという点において極めて重要である。韓国という国は、これまでもそうだったように、大統領が変わると(対日関係が)急変するという歴史があるので、その点に注意しながらも、しっかりと関係強化していくことが大事である。

Q:米国金融機関の破綻に関連して、今後、日本も金融引き締めの局面がいずれ来ると思うが、こうしたことが起きる可能性が排除できないため、細心の注意が必要というお考えをお持ちか。

櫻 田:すべての(中央)銀行は注意していると思うが、今回対象となった米国の三つの銀行に関しては、必ずしもリスク管理上良くないことはおそらく分かっていたはずである。その意味では、他の銀行とは異なるし、ましてや日本の銀行は海外の銀行に比べると、資本は潤沢で、金融庁とのコミュニケーションもしっかりと取れていると思う。突然(の金融引き締め)ということはないだろうし、金利が(いずれ)上がっていくことははっきりしているので、それに向けて先物を使う等(日本の金融機関は)対策している。既にかなりの含み損が溜まっている点も十分な対応をしようとしているので、突然破綻し取り付け(騒ぎ)が起きることはないと信じている。

Q:明日3月15日、大企業を中心とした春闘の集中回答日を迎える。今年の経済3団体共催新年祝賀会で、岸田首相は「インフレ率を上回る賃上げを」と挨拶で述べていたが、インフレ率、物価上昇率を何%と捉えるか。足元のインフレ率は4%という代表幹事のご発言があったが、年度で捉えるか、足元で捉えるかでも数値は変わってくると思う。賃上げ率が何%を超えると(賃上げが)物価高を上回ると考えるか。

櫻 田:直近で(総務省は)東京都区部の2月消費者物価指数を発表した。おおよそ(インフレ率は)東京都(の数値)に収斂する傾向があるので、コアCPIを確認すると、エネルギー価格(高騰に対する)政府支援があったため、2月は(前年同月比)3.3%(上昇)となった。1月の(前年同月比)4.3%(上昇)と比べると縮小しているが、政府支援策(による効果)を考慮すると、本来は(1月の)4.3%(上昇)が正しいだろう。一方、コアコアCPIでは、(2月の前年同月比が)3.2%(上昇)になっているため、3%から3.3%の間が、(インフレ率の)実態になる。つまり、(賃上げと物価高を)数字で比較すると、(インフレ率が)3.3%とすれば、従来の日本の春闘の方式を踏襲すると、定期昇給に加えてベースアップで賃上げ率3.3%を上回れば要請に応えた、下回れば応えられなかったとなるが、それが意味のある数字だとは思わないし、平均で賃上げ率3.3%を超えたからといって、日本経済、日本国民が一気に元気になるとは思わない。むしろ、(今年の春闘は)これからどうなりたいかに向けた第一歩であり、今後も少しずつ(賃金が)増えていき、この(春闘)を契機に人材の流動化が本当に始まると予感できれば、将来に向けた非常に重要かつ歴史に残る(ものになる)。(賃上げ率とインフレ率の)勝ち負け(を考えても)歴史に残る春闘にはおそらくならないと思う。

Q:足元の単月で捉えた消費者物価指数を上回る賃上げが必要か、それとも春闘は年一回行われることもあり、年度の消費者物価指数を上回る賃上げが必要か。代表幹事のご発言は、単月の消費者物価指数を受けた、賃上げ判断になると理解した。

櫻 田:単月の繰り返し、積み重ねが年(度の結果)になる。おそらく(一般)消費者の立場に立った際と、マクロ経済としてGDP内の個人消費の勢いをみる際は、どちらが重要かという話になる。私はミクロの合計がマクロと思っており、消費者の立場に立った際に、例えば、肉、ガソリン、電気、トイレットペーパーのような品目(の値上がり)に対し、どの程度の賃上げがあったかが大事ではないかと思う。消費者の立場から考えると、(年度の消費者物価指数の上昇率が)3.3%で、ベースアップ(を含む賃上げ率が)3.4%だったからと言って、希望を持てるとは思わない。現実的には、日銀はまもなく経済・物価情勢の展望(展望レポート)を発表すると思うが、その中で2024年度、2025年度の消費者物価指数の見通しが出ると思う。その数値は、日銀が期待するインフレ率になるわけで、もし理論通りに実際のインフレ率が期待インフレ率に近づいていくのだとすれば、日銀が指し示す数値は非常に大事になる。日銀は過去10年間にわたって、2%(の物価上昇率)を言い続けてきたが実現しなかった。今回(物価高)に対し、日銀が過去の経験を踏まえてどのような対策を打つかに注目している。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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