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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2022年3月29日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、経済対策、円安、中国における新型コロナウイルス感染症の再拡大、日本の水際対策、ウクライナ情勢、電力需給逼迫などについて発言があった。

Q: 本日岸田首相は、物価高への緊急経済対策の策定を閣僚に指示した。原油価格の高騰対策、エネルギーの安定供給、中小企業支援や生活困窮者への支援などが柱であるが、経済界として期待することを伺いたい。

櫻 田 : 経済に腰折れ懸念が出てきたことについては、残念ながら賛同せざるを得ない。原油高に伴うコストプッシュに加えて、ウクライナ危機によってさらに(腰折れの懸念が)加速された。また、オミクロ株については一旦落ち着いたとはいえ、第七波(への備え)という意味で、将来に対する不確実性が高まった。そうすると、消費活動や投資活動には影響が出てくると思うので、一気に腰折れするかどうかは別として、景気動向については、今まで以上に慎重に見た方がよい。したがって、政策当局として何らかの手を打つことは当然だと思うが、問題は、そのやり方である。今回の対策は、コロナ危機で傷み苦しんできた業界や層に対する支援というよりは、コロナ危機とは関係のないところで発生した経済的なダメージ、あるいは不利益に対する補償と思えるようなふしがある。例えば年金(受給者)については、5,000円(の給付)という話が出ている。現役世代に負担が偏り過ぎないよう、賃金や物価の変動率によって年金額を改定するルールを精緻化し、(実質賃金の伸びがマイナスの場合に、賃金上昇率に合わせて年金額を改定するルールを)施行したばかりにもかかわらず、突然、5,000円(の給付案)が出てきた。既に決めたルールとは異なる形で対応しようする動機が、本当に経済対策なのかと心配になる。燃料(原油価格の高騰対策)については、トリガー条項の凍結が東日本大震災(の発災)から始まっていることを考えれば、いつかはきちんとした形に直していかなければならない。すなわち、揮発油から(税を)取るのではなく、消費税やそれに近い形の税を(徴収して)復興財源に充てていかなければならない。地政学リスクを含む、今回の石油価格高騰への対応を契機として、トリガー条項の凍結撤廃について議論をしていくことは、意味がある。ただ、(トリガー条項の凍結撤廃は)補助金とは異なり法改正を伴うため、実務的にどのような段取りで対応していくのか、また、逆に、何らかの事情で再度凍結するようなことがないよう、中長期的な税構造のあり方を踏まえながら、しっかりと議論しなければならない。(補正予算について)既に、金額までいろいろと聞こえてくるが、10兆円規模の経済対策を、といわれている。予備費では足りなくなる可能性があり、補正予算(の編成)という話になるだろう。補正予算は、ほとんど年中行事になっている。海外の例を見ても分かるように、追加予算を組む際には、(財政規律の観点から)必ずその財源と(償還の)スケジュールについて議論を行う。しかしながら日本では、補正予算を組み、その財源が赤字国債である場合、どう回収するかという議論がないまま進んでいくが、(その度合いが)年々悪化していると思う。サステナブルな財政構造という点が、年々曖昧になっている。既に2025年プライマリーバランス(の黒字化目標達成)という問題も、(具体的な道筋については)議論されていない。このような国は、先進国の中では珍しいと思う。こうした財政構造が、悪い意味での円安に繋がっていくとなれば、為替の問題を超えて、経済安全保障の問題に波及する可能性もゼロではない。(財政規律について)しっかり議論をしてもらいたい。

Q: 足元で急速に円が売られ、昨日は一時1ドル125円台を付けた。日米の金融政策の違いが背景にあるとされているが、日本銀行の黒田東彦総裁は、円安は経済全体にとってプラスだと述べており、事実上、円安を容認していると市場では見られている。足元の動きも踏まえ、円安が日本経済に与える影響について伺いたい。

櫻 田 : コロナ禍以前は、円安は輸出企業にとってプラス、従って株高になるとされていた。その時代は、原油を含めエネルギー価格は比較的安定しており、リスクにはなっていなかった。そのため、私はネットでプラスということもあり得ると考えていた。ただ、為替の水準はファンダメンタルズ、すなわち国力を総合的に反映すると考えれば、円安で喜ぶ国でよいのだろうかとも思っていた。一時、ジャレット・イエレン前FRB議長が、世界中の中央銀行や金融機関が金利の底を探りにいくような不健全な状況であると言ったように、為替についても(自国通貨を)切り下げて輸出競争力をつけるという、必ずしも健全ではない(ことが起こっている)。こういった議論が常にあることを考えれば、為替は適切な水準で安定するのが一番良いが、現在の水準が適正な水準だとはとても思えない。本来、円がもう少し強ければ、燃料や食料品など企業物価を必要以上に押し上げる効果を抑制する力はあったと思うが、残念ながらそうなっていない。しかも価格転嫁できないという状況になっている。私は日本銀行の政策を論じる立場にはないが、現在の水準が今後も続いていくことがよいのだろうか、どのような打ち手があるのだろうか(と思う)。現状の金利水準を据え置く、あるいは(新発10年物国債の)利回りが0.25%以上にならないように、徹底的に国債を買い上げる方法を採っていること自体は理解できる。そうした方法を採らないとすると金利を上げることになるが、それはできない。金利を上げることの最大のリスクは、経済が持ち直そうとしているところ(への影響だ)。特に、新型コロナウイルス感染症対策で(貸し付けた)飲食業あるいは宿泊業等への支援策は、無利子のものばかりではない。この機に金利が上がっていく可能性があるだけではなく、最大のリスクは国債である。国債の利払い負担が増えていくと財政が悪化する。財政が悪化すると悪い円安、円売りが始まってしまう。以前であればフライト・トゥ・クオリティ(flight to quality)、クオリティの高い通貨に逃げると言われ円が強くなったが、その神話はもう失われた可能性がある。つまり地政学リスクの方が強くなってきている。そう考えると、今の日本銀行の立場としては、しばらくこの状態で堪え、ウクライナ情勢、原油価格が落ち着きいたところでゆっくりと金融政策を普通の状態に持っていきたいと考えているのではないかと思う。いずれにしても、打ち手としてはもうこれしかない。ただ、(日本銀行が)これでよいと言っても、私個人としてはずっとこのままでよいとは思わない。やはりしかるべきところで(円安から)戻して欲しい。これが日本の国力だとすると残念なことだと思わざるを得ない。

Q: 日本銀行が金利上昇の抑制にかなり力を入れている。本日、初めて連続指し値オペを実施し、午前中には金融機関から2,426億円の国債を買い入れた。一方で日本銀行は、円安については容認しているという見方もある。現在の円安容認の傾向が続いた場合の、今後の展望について考えを伺いたい。

櫻 田 : 為替が1ドル125円にタッチした、場合によっては125円の線を越えていく可能性がある。この背景に日本の国力の弱さや地政学的な危機におけるレジリエンスの低さがあるとすれば、慢性的に悪い影響を及ぼす可能性がある。しかるべき立場の方から今の為替水準について説明した方がよい。125円という円安の状態では、ただでさえ高騰している食料品や原油の価格がさらにかさ上げされることになり、コロナ禍で苦しんでいる企業に、より負担をかけることになる。しかも自由に価格転嫁ができないことから、苦しんでいる企業をより苦しませることになる。輸出企業だけが日本経済を引っ張っているわけではない。サービス産業がGDPの7割を占めているが、サービス産業は必ずしも円安を歓迎する構造にはない。日本全体の経済構造を踏まえ、現在の為替の推移について、しかるべき立場の方から見解を述べていただく必要があると思う。(円安に関しては)経済界の反応は分かれているが、経済同友会の幹部からは、全体としてやはり行き過ぎているという声が強い。

Q: 中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、上海では外出制限を行っている。企業活動への影響という点で懸念されていることはあるか。

櫻 田 : 年初から、(中国の)ゼロコロナ政策はうまくいかないのではないか(という見方があり、ユーラシアグループからは2022年における)世界の大きなリスクの一つとして、中国のゼロコロナ政策の失敗が挙げられていた。それが起きつつあると考えている。上海という都市の大きさ、中国の経済力の大きさを考えると、いろいろな意味で悪い影響が出てくるだろう。中国国内の消費が落ち込むことは間違いない。その意味で、中国をマーケットにしている、日本を含む世界各国の企業には決して良い影響はない。どれくらい甚大な影響が出るかという点について定量的な試算はしていないが、十分注視していく必要がある。日本経済だけではないかもしれないが、世界経済全体に将来の腰折れリスクが高まる中で、この上海のロックダウンがリスクを上乗せする要因になると思う。

Q: 3月に水際対策が緩和されてまもなく1か月となるが、緩和の効果として何か実感していることがあればお尋ねしたい。一方で、この1か月でビジネス往来が活発になったという話は聞かないが、肌感覚としてその効果は感じているか。また、懸念していること、課題として残っていることなどがあれば伺いたい。

櫻 田 : 水際でシャットダウンされている状態が長く続いた。(ビジネス往来は)観光と違うため、門が開いたらただちに雪崩を打って(日本に)来るということはない。いつ開くかわからない状況の中で、各事業体では、ウェブでできること、あるいは第三国でできること、他の方法でできることを工夫してきた。特殊な事例で、何月何日までに仕上げなければならないといったことがない限りは、一気に海外から日本へ、あるいは日本から海外への人流が増えるとは考えていない。経済への影響も同じであり、人流のストップが甚大な影響を生まないように努力をしてきたので、直ちに良くなるということもない。いずれにしても、水際対策を強化したことが、実際に新型コロナウイルス感染症、オミクロン株の収束にどの程度の効果があったのか、科学的な説明がないまま過ぎていくのはとても不安だ。オミクロン株の次、第七波が予想されている中で、説明のないまま再びシャットダウン、水際対策の強化を行うとなると、安定してビジネスの交流をできなくなる。それこそが予見可能性を低くすることになり、日本経済を全体的に弱くしてしまう。先ほどの為替の話と同じだが、「レジリエンスのない国、日本」という印象を持たれるのが、日本の対外的な評判という意味で非常によくないと思う。

Q: 現状のウクライナ情勢をどのように見ているか。また、先般、国会で行われたゼレンスキー大統領による演説をどのようにご覧になったか。

櫻 田 : (私自身)不勉強なことではあるが、ウクライナの歴史、強みや課題、中国やロシアとの関係は、今回の侵攻が起きるまでは詳しく知らなかった。今回調べてみていろいろなことがわかった。ウクライナも他の国と同じように固有の課題を抱えていること、政治の課題や、中国に対して軍事技術を供与していたこともわかった。例えば、台湾から見ると、ウクライナは中国を支援しているという意味で必ずしも親しい関係ではなかった。(しかし)、このウクライナに対する侵攻、国際法違反が起きた結果、世の中の見方が一気にウクライナ寄りになった。あまりに酷い事態が起きたことで、ウクライナが元々抱えていた課題などがすべて覆われてしまっている。ウクライナには、ぜひ勝ち抜いて再生してほしい。また、日本でこうした事態が起きないとも限らないことを、常に念頭におかなければならない。経営と地政学は切っても切り離せないこともはっきりした。これまでは政治や外交で問題が起きても、経済で繋がっていれば関係を改善できるという見方をしてきたが、本当にそうであるのか、もう一度、各社で経営戦略を見直していかなければならない。今回、(撤退か否かを)大変苦労しているサハリンプロジェクトと権益の問題は、まさにその例である。ウクライナの問題はウクライナだけ(に生じているの)ではない。プーチン大統領という、専制的な国家における一人の人間の誤った判断が、あってはならない、これだけ大変な事態を引き起こしてしまったことを、私たち人類は忘れてはいけない。同様のことが、同じような専制的な国家で起きるかもしれないと考え、日々の行動や判断をしていくことが必要である。この問題は数週間では終わらない。停戦したとしても、場合によっては5年、10年、20年と、孫子の代まで続くことを忘れずに、日本人も世界の人たちもこの問題を捉えていかなければならない。ゼレンスキー大統領の国会でのスピーチは、よく日本を研究されている(と感じた)。(日本が)アジアで初めてロシアに対する圧力をかけたことを評価されていた。ゼレンスキー大統領自身もそうだが、スピーチを起案されたスタッフが、非常によく日本を研究されていたのだろう。私自身あのスピーチを聞いて、率直に、何とかしてあげなければならないという気持ちが強まった。良いスピーチであり、(日本への訴えかけは)成功されたと思う。

Q: ウクライナへの支援について、すぐにできることと、中長期でできることがあると思う。ウクライナからの避難民に対して日本企業は何ができるか。また、ゼレンスキー大統領が日本の国会演説において言及していた復興について、日本企業や日本政府が貢献できることがあるのではないかと思うが、考えを伺いたい。

櫻 田 : (ウクライナ支援については)国がやるべきこと、企業ができることについて、日本中で(さまざまな動きが)起きている。(支援については)第一に、金銭、物資の支援、第二には、避難してこられた方々が(日本で)安心して暮らせるよう一定の期間、ケアをすることである。ウクライナの優秀な方々の才能を積極的に活かすことで、ウクライナと日本の長期的な関係をより太くしていくことはあり得るし、日本企業がそうした受け入れをすることもできるのではないか。(復興支援のあり方については)広大なウクライナの国土において、どの程度インフラや建物が破壊されているかということと、停戦後にどのような形で国が統治されていくのかによって変わると思う。シナリオ(の一つ)は、傀儡政権ができて、ロシアの領土の一部として統治されるというものである。その際、日本や西側諸国が復興支援をするかと言えば、ネガティブであろう。逆に、NATOには入らないが完全中立で、それを西側諸国とロシアが保証するということになれば、(ウクライナが)民主主義、資本主義の国であり続けるために、経済的な支援、あるいは、統治機構に対する支援やアドバイスなど、日本ができることはたくさんあると思う。今の状況では、どちら(のシナリオ)もあまり望めないということなので、相当な期間、混沌とした状態が続くであろう。また、傀儡政権との間にゲリラ戦が何年も続くとなれば、ウクライナという国自体が無くなってしまう可能性もあると思う。ロシアは一体何をしたのだろうかと、プーチン大統領自身が思うような状況がくるかもしれない。

Q: 先日、電力需給がかなり逼迫し危うい状況に陥った。これに対する評価と、今後のあり方について考えを伺いたい。

櫻 田 : またかという感じだ。東日本大震災の時も、土砂災害の時もそうだ。今回のように(福島沖地震の影響で)6基も火力発電所が止まってしまうようなことはそう起きないと思うが、こうした事態は想定できたはずなので、日本全体のエネルギー政策、発電と送配電について弱いところがたくさんあることはわかっていたはずだ。平時におけるBCPが大いに不足していることは、そろそろ認めるべきだと思う。電力業界はもとより、国もどこが課題かをはっきり宣言すべきだ。新しい資本主義をつくる前に、新しいインフラが必要である。先端技術に政策資源を投入することも大事だが、そのベースになっている脆弱なインフラに対して政策資源をしっかりと回していくべきだ。それこそ新しい資本主義のベースになるものとして発信すべきではないか。具体的に言えば、火力発電に頼らない、あるいは天候が悪く太陽光発電を使えない場合、残りの手段はもう水力発電と原子力発電しかない。原子力発電を使うことを早く議論し、国民の了解を得られるよう進めていかないと、次に同様の事態が生じた時に、同じことを繰り返すことになりかねない。(発生は)時間の問題と言われている首都直下型地震、南海トラフ地震が起きてしまった時には、今回のような事態では済まないと思う。もう一つ、(明治時代に)米国とドイツの発電機を入れた結果、(東日本と西日本で)50ヘルツと60ヘルツという電源周波数の違いが生じている。この問題も以前から指摘されているが、依然としてボトルネック、指摘されてきた課題が解消されていない。成長戦略ももちろん大事だが、成長戦略のベースとなる成長を生むための風土、成長のためのインフラについて、もう一度足元を見直し、しっかりと政策資源を投入することで、次の成長を目指していくことが必要だ。科学や技術(の革新)にはもちろん資金も必要だが、それよりも大事なことは、イノベーションを生もうという民間企業のチャレンジ精神、あるいは失敗を恐れない胆力のようなものだ。それを促していく仕組みや制度、税制を含めて、政府が早くそこに力を入れないといけない。(成長戦略の)項目を挙げて、「やるべきである」「投入すべきである」と言ったところで、結局同じことを繰り返す。今回の電力問題の根は同じところにあり、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうようなことが繰り返されているのではないか。あるいは、羹に懲りて膾を吹くというような状況が起きているのではないか。根はいつも同じところにあるような気がしてならない。そこを直視し変えていくのだというリーダーシップを、我々経営者はもとより、特に政府にはお願いしたい。このままでは同様のことが必ずまた起きると思う。

以上

 (文責: 経済同友会 事務局)


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