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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2022年3月15日

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日時 2022年3月15日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、ウクライナ情勢、為替、物価、春闘、Go Toトラベルなどについて発言があった。

Q:ウクライナ情勢に関して伺いたい。西側諸国が経済制裁を課しており、金融市場やエネルギー市場が大きく反応している。日本企業が現地事業を一部停止したり、欧米企業も撤退したりと、企業活動にも大きな影響が出ている。ロシアに対する経済制裁が日本経済、世界経済、企業活動に与える影響をどう見るか。

櫻 田:西側諸国の経済制裁の内容と実行の速度は想定を大きく上回り、成果が上がっていると言える。その影響として、制裁の反動が原油価格、エネルギー価格、食料価格に対して生じた。どちらかと言えば先物(価格)先導であり、実需においてインデックスに現れている状態かは定かではないと思う。確かに価格は乱高下しながら高止まりしているが、需給は若干緩みつつあるとの見方もあるようだ。特にエネルギーについてはそう言える。これから影響が出てくる可能性があるのは食料、特に小麦やトウモロコシである。日本は、ウクライナやロシアからの小麦、トウモロコシの輸入はほとんどなく、カナダや米国が中心である。当然、世界全体の需給がタイトになれば、カナダ産や米国産の価格も影響を受け、上がっていくだろう。せっかく持ち直してきた経済が、オミクロン株の拡大、まん延防止等重点措置の延長により、足踏み状態から下り始めていた。加えてこの問題が重なったことにより、今まで以上に、世界経済、特に日本経済についてはスタグフレーションに入るリスクが高まったと考えなければならない。これに対する打ち手は多数あるわけではない。短期的な財政出動は好ましくないが、いわゆる新型コロナウイルス感染症対策型の財政出動ではなく、中長期的に効果の出てくる投資、例えばインフラを含めた公共投資、成長戦略の一環として検討されている5G網等で需要喚起すべきだ。短期的に民間企業や家計の自然回復を待つのは少し厳しいのではないか。(私は)この危機が6か月間、ないしはそれを超えて続く前提で捉えている。

為替相場が1ドル118円台まで進み、5年2か月ぶりの円安水準である。円安は良い面と悪い面の両方があるが、物価上昇を招くとの指摘もある。原油価格も上がっているが、今の日本経済に与える影響についてどのように見ているか。

櫻 田:極端な言い方かもしれないが、私はマイナスの影響の方が大きいと思う。既に1ドル115円を大きく超えている。私自身は為替相場(の専門家ではなく、これ)について語る資格はない。しかし、円安になると日本経済が潤い、株式相場が上がるという構造でよいのかとの問題意識を持ってきた。為替の水準は中長期的には国のファンダメンタルズ、国力の表れだと思う。円安に進むと国力が相対的に弱くなっていると考えざるを得ない。これまでは、何か危機が起こると円に投資されてきたが、今回は円に投資されておらず、この状況が定着しつつあるのではないか。世界のマーケットで、危機に弱い日本円との印象を持たれてしまう。円安で輸出が伸びて、円換算された財務諸表の評価が高まり、結果オーライという時代は終わりにしないといけない。(これについては)強い問題意識を持っている。足元を見ると、企業物価指数は前年同月比で10%近く上がっているが、エネルギーと生鮮食品を除いたいわゆるコアコアCPIでは依然としてマイナスである。米国の6~7%程度のCPIの上昇率に比べると、(日本は)圧倒的にファンダメンタルズは弱い。この状況で、金利を上げられるだろうか。当局も相当悩んでいるだろう。世界の中央銀行が金利を上げていく中で、日銀がそれに付いていけないとなると、為替にはさらにマイナスの影響、すなわち円安の影響が出てくる。これに対して今のところ(金融政策では)具体的な打ち手はないだろう。企業、家計もできる限りの準備をするしかない。円安が続くと日本経済がプラスに向かっていくとは考えない方がよい。

Q:ウクライナ危機に関して、ロシアのプーチン大統領は同国での事業を停止した外国企業の資産を差し押さえる可能性があると発言したが、これに対する受け止めを伺いたい。

櫻 田 :(差し押さえを行うか)決めるのはプーチン大統領である。我々民間企業としては、その場合の損失を最小化することについて、あるいは中長期的にこの国とどう付き合うかについて、具体的な相談を社内で始める必要がある。今回のケースで明らかとなったが、安全保障と経済は完全に表裏一体である。経済安全保障推進法案が国会で審議入りする見込みだが、この法案の背景として想定された事象が、法律ができる前に現実化してしまった。これを試金石として、政府と民間がどのような場で、何について相談を開始するのか、その話し合いを始めるべきだ。具体的に接収が始まった際には、当然反対と唱えることになるが、だからといって返ってくるわけではない。情報を持つ政府と、現地の状況をよく知る民間企業が、損失を最小化する策を議論し始めるべきだ。ただ、日本経済全体から見たロシアのエクスポージャーは大きくないため、深刻な打撃を与えるとは考えていない。本会会員所属企業の方々からは、それほど深刻ではないと聞いている。

Q:明日、春闘が集中回答日を迎える。トヨタ自動車は満額回答で早期決着し、その他の大手自動車会社からも満額回答が出ている。今春闘をどのように評価するか。

櫻 田 :自動車業界については、決算自体が非常に良いだけではなく、ステークホルダーである従業員に対してどのように報いるかを大手自動車会社の経営者が判断した結果だ。他の業界にトリクルダウンし、プラスの方向に自動的に進むとは(一概には)考えられないが、岸田首相が要請した3%の賃上げ水準は意識して回答されたのではないか。一方、経済全体を見ると、K字回復は変わらないどころか、より激しくなっている。オミクロン株の拡大やまん延防止等重点措置の影響によって、(業績が)良い企業と悪い企業の差がより激しく生じている。明日の集中回答日に集計された賃上げの平均が3%を上回ったか否かで、日本経済が良くなっているかという議論はすべきではない。個社の中身を見るしかない。岸田首相が3%という数字でインディケーションを示した影響は間違いなくあったと思う。

Q:前回の定例記者会見において、サハリンプロジェクトへの参画を続けるか否かに対する発言をされた。その後の政府内の議論では、エネルギー安全保障の観点から当面(参画を)維持すべきとの考えが強まっていると感じている。政府内の議論を踏まえて、このプロジェクトのあり方についての考えを伺いたい。

櫻 田 :ファクトとして、世界のエネルギー市場に占めるロシアのシェアは、原油で12%、天然ガスで25%と、決して小さくない。日本では石油で4%、天然ガスで9%であり、世界のエネルギー市場に占める(ロシアの)シェアと比べれば小さい。では、その4%、9%がカットされた場合、日本にどの程度影響があるかと言えば、少なくはないと思うが、それによって跳ねすぎるようなことが日本経済に起こるとは言えないと思う。その観点では、秤にかけるべきことは2つある。片方には、あってはならない、こうした非道なことを、国際法に違反して続けている国に対して、西側諸国と一緒になって日本も足並みをそろえるべきだという議論。もう片方は、安全保障の議論である。経済安全保障の観点で言えば、様々な議論があるが、(経済制裁は)どの国もコスト面において一定程度の負担、犠牲を覚悟した上での決断だと思っている。特にドイツやEUはそうだと思う。日本はどうかと言えば、経済安全保障上の問題は、他国と比べて日本だけが(高い)ということではない。確かに、ロシアからのエネルギーの輸入を抑えると、スポットでコストの高い資源を手当しなければならない。計算によると3兆円のコスト増ということだが、これは他国もおそらく同じ状況である。何が違うかと言えば、中長期的な影響をどう見るかということである。つまり、日本がこの(サハリンでの油田・天然ガスの)権益を手放し二度と手を出せないとなると、たちまち中国がそれを手に入れると言われている。たぶんそうなるだろう。足元のコスト増よりも、そちらが心配なのだと思う。これは、すでに米中(摩擦)のときにも起きていた問題である。足元の問題以上に、ロシア、中国といった我々と価値観を共有しない専制的な国々との付き合いをどうしていくのかということについて、政府は民間に対して胸襟を開き、腰を据えて議論していくことが大切だ。したがって、(事業の撤退・停止を表明した)EUや米国、英国のようには、日本は簡単にはいかないという考えに対しては、率直に申し上げると、それほど日本だけ違うのだろうかという気持ちを抱いている。そこまで変わらないのではないか。だとすれば、どうして日本だけが同じ判断をできないのか、という気もする。そうかといって、政府の議論に異を唱えるほど十分な情報を持ち合わせていないのも正直なところである。煮え切らない部分もあるが、どうして逡巡しているのか、日本が他国とどう違うのかについては、納得しきれていない。

Q:サハリンプロジェクトは、パイプラインで(日本とロシアを)結ぶことができることが利点だと思う。そのようなプラス面や、このプロジェクトを続けるメリットよりも、価値観をきちんと重視するビジネスのあり方を考える議論のきっかけにすべきだということか。

櫻 田 :ご指摘のとおりである。価値観外交という言葉があるが、このような事態が起き、ロシアや中国、それに近い価値観を持つ国との経営(ビジネス)のあり方(を考えた時に)、価値観経営とでも言うのか、価値観と経営を完全に分離することはおそらく不可能である。したがって、仮に(ウクライナ危機が)6か月経って解決し、サハリンからパイプラインを通じて天然ガスが供給されるようになったとしても、(来た道を)またいつか行く道と考えるならば、時間をかけながらでも、少しずつ、そうした国々への依存度を下げていく、というような議論のきっかけにすべきである。喉元過ぎれば熱さ忘れるということを繰り返してはいけない。

Q:景気がそれほど良くない中で、小麦など食料品をはじめ物価上昇が顕著になってきた。スタグフレーション下において、政府としてあまり打つ手はないという発言が先ほどあった。コロナ危機対応で財政的には厳しいが、7月に参院選も控え、岸田政権が何もしないことはないと思うが、発言の趣旨を伺いたい。また、春闘で賃上げができた業界はいいが、そうではない業界も多い中、ウクライナ危機の状況を踏まえ政府にどのような打ち手があるのか、考えをお聞かせいただきたい。

櫻 田 :打つ手がないと申し上げたのは、金融(政策)面で打つ手は限られているだろうということである。既に100兆円近くの財政支出をしている中、ここで躊躇してスタグフレーションに突っ込んでいくことを止めるのではなく、逆に、浮揚させる手を打つべきである。金融政策以外では財政政策しかないため、財政出動はあり得べきと考えている。その際、コロナ危機で傷み苦労をしている業界、具体的には、飲食(業界)と旅行(業界)に対して、どのような打ち手が一番よいのかしっかり検討すべきである。日本全体をスタグフレーションからすくい、持ち上げ、かつ、中長期的に効果があるものとなると、日本のインフラ(が考えられる)。国土強靭化の観点から財政を出動させ、そこで需要を巻き起こし、それがトリクルダウンし飲食業界、旅行業界の方々に(恩恵が)回っていくような仕組みを考えた方がよい。打ち手は財政しかないと思っている。しかしながら、(これまでの例を見ると)財政出動、予備費、いや足りないから補正(予算の編成を)、といく(経過を辿る)わけであるが、何度も申し上げてきたように、使うのは使い切ったが、どうやって成長させるかということについては、寝ても覚めても考えていただきたい。どうやって成長のためのイノベーションを起こすのかということについて、具体的に行動に移れるような議論を、民間とも開始しなければならない。スローガンや省庁を作れば急にイノベーションが生まれる、あるいは、税制を変えると直ちにイノベーションが生まれるとは考えていない。イノベーションは人が起こすことであり、どうやってそのような人材をつくりあげるか、社会をつくっていくかという点も含め、足元の景気対策、スタグフレーション防止対策、そして中長期の国土強靭化と、一番重要な成長のためのイノベーション。これらをパッケージで実行しようとする宣言と心意気を政府には示してもらいたい。それに呼応して行動を起こす民間企業はたくさん存在すると思っている。

Q:まん延防止等重点措置が解除される見通しもあるが、Go Toトラベルの再開についてどう考えるか。

櫻 田 :まん延防止等重点措置と新型コロナウイルス感染症の感染率の関係が科学的、統計的に立証できているのだろうか。私は、必ずしも立証できているわけではないと思う。確かにワクチンについては科学的にも統計的にも効果があると思う。感染者数の増減やその速さとワクチンの接種率は関係しており、専門家もそう指摘している。しかし、まん延防止等重点措置をさらに延長することや、人流を抑制する一環としてGo Toトラベルの再開時期を先送りすることは、感染抑制に対してほとんど意味がないと思う。経済も命に関わる。旅行業や飲食業では廃業を考える人もいる。まん延防止等重点措置を終わらせ、活性化のためのGo Toトラベルを直ちに行ってもおかしくないのではないか。逡巡しても(状況は)変わらない。そうであれば、経済を活性化して、そこに関わる命を救うことが大事だ。なお、医療崩壊(の状況)について調べたところ、入院している方々ならびに重症化している方々の7割以上が60歳以上である。これを踏まえれば、どこに注力して、どの層に対してワクチンを打つべきかははっきりしており、迅速に進めることが重要である。しかし、残念ながらブースターショットの接種率は先週金曜日時点では3割を切っており、決してよくない。東京都では入院患者のうち60代以上が74%、重症者のうち60代以上が75%である。おそらく全国的にも大きくは変わらないだろう。すなわち、入院者や重症者は高齢者である。高齢者に旅行するなとは言わないが、こうした方々に早くワクチン接種を行い、安全な状態にすることが大事だ。

Q:ロシア国債の利払い期限が3月16日に迫っている。支払いが行われない、あるいは、ルーブルでの支払いとなればデフォルトと認定される可能性もあると指摘されているが、そうなった場合、世界経済、日本経済に与える影響をどう考えるか。

櫻 田 :世界経済に占めるロシア経済の影響、ロシアの債務の世界シェアを考えると、深刻な事態にはならないと考えている。ただ、自国通貨で国債を発行している限りにおいてデフォルトは起きないという理論(MMT:現代貨幣理論)があるが、今回は、(自国通貨で発行した国債において)おそらくデフォルトは起こる。いくらでも(紙幣を)印刷すればよいという理屈は、少なくとも対外債務を抱えている国においてはあり得ない。日本について言えば、対外債務はほとんどないが、日本国債を保有している国はゼロではない。日本もそういうこと(デフォルトと認定されかねないような事態に陥ること)をするのかという印象を持たれた瞬間に円は売られ、金利は跳ね上がるだろう。今回の事態について、金融市場の動きを見れば、そういった理論が現実的ではないことが分かるのではないか。

Q:現在、ロシア上空を飛行できない影響で物流に遅れが生じている。これから時間をかけて国民生活への影響が出てくると思うが、見通しを伺いたい。

櫻 田 :(ウクライナ危機について)先ほど6か月、場合によってはそれを超える可能性があると申し上げたが、一言で言うと、がまん競争になってくると思う。(専制国家の)価値観と生活必需品(の供給)との間のがまん競争になる中で、今回のようなことが起こると、(ただでさえ)コロナ危機で遅れている物流がさらに遅れるため、影響はある。ただ、一般的に指摘されていることは、この制裁によってロシア国内、ロシア国民の方がはるかに大きな影響を受けるということである。この危機は、ロシア国民によるものではなく、プーチン大統領の戦争と言われている。絶対に負けないという強い意志を持って、Like-Mindedな(志を同じくする)西側諸国は結束し、このがまん競争に必ず勝つことが非常に重要だ。

以 上

 (文責: 経済同友会 事務局)


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