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櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

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日時 2022年3月1日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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記者の質問に答える形で、ウクライナ情勢、サイバーセキュリティ対策、春闘、賃上げ税制、新型コロナウイルス感染症対策、令和臨調などについて発言があった。

Q:ロシアのウクライナ侵攻に対し、SWIFTからのロシアの一部銀行の排除や、ロシア中央銀行との取引制限が進む。世界的な原油価格上昇も懸念される。こうした事態が日本経済にもたらす影響をどう見ているか。

櫻 田 : 

ロシア中央銀行の取引制限の判断は妥当だった。SWIFTからの排除は、前回はイランだったが、今回のように迅速かつ大規模に、日本を含む西側諸国が一致団結して行うのは初めてだろう。経済制裁の中では効果的なものの一つと思う。すでにロシア通貨安が起こっている。制裁はロシア国民の思いを動かすことにつながるのではないか。ロシア国民には、これだけ苦しみながら、何のためにプーチン大統領の目的を遂げねばならないのかという思いが募っていく可能性が高い。日本はロシア、ウクライナとの貿易が他の国に比べると少ないので、即座に日本経済への悪影響はあるまい。だが金融市場への影響、つまり金利や、原油・ガス価格の高止まりという点では既に影響が出ている。これが長く続けば双方にとってつらい。いわば我慢比べである。その中でも、あってはいけない、許してはいけないことを許さないためには、民間企業も耐えていく必要がある。日本企業のロシアとの付き合い方をこれからどうするか。地政学が企業経営に影響するのは明白である。安倍政権が価値観外交という言葉を使っていたが、民間企業も、価値観経営が必要になってくるのではないか。民主主義の価値観を共有する相手を重視し、そうでない相手は用心深く、注意しながら経営する必要がある。経済合理性一本やりではよくない。

Q:トヨタ自動車の取引会社がサイバー攻撃を受け、トヨタの全工場が一時停止した。日本企業がこうした攻撃を受ける危険性が高まっているが、これに関する懸念と、企業がとるべき備えについて伺いたい。

櫻 田 : 今回のケースは、サイバーセキュリティ対策に対するレッスン(教訓)である。SOMPOホールディングスでは、ビジネスとしてサイバーセキュリティ対策も行っている。その調査によると、大企業では予算もあり、サイバーセキュリティ対策がかなり進んでいるところが多い。一方、サプライチェーンが複雑な製造業では、下請け・孫請け会社を含め、広い範囲でのサイバーセキュリティ対策にまで目が行き届いておらず、手が及んでいない。また、下請け・孫請け会社はサイバーセキュリティ対策をできるだけの資金を持っていないケースが見られる。今回のサイバー攻撃の対象は(部品の調達先で)グループ企業ではないこともあり、その間隙を突かれた可能性はある。また、今回はたまたまトヨタ自動車であったが、他のメーカーや金融機関でも(危機にさらされているのは)同様の状況である。いわゆるSME(中堅・中小企業)向けのサイバーセキュリティ対策をもっと注意深く、しっかりやっていかなければいけない。また、国もその対策にリーダーシップを発揮していただきたい。

Q:労使交渉が大詰めを迎えている。岸田政権は賃上げを要請しており、賃上げ税制の拡充等も図った。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大や昨今のロシアによるウクライナ侵攻による経済影響もある中で、今春の賃上げはどのようになると見込んでいるか。

櫻 田 : 労使交渉の状況に関してはつぶさには入ってきておらず、最終的にわかるのは今月中旬以降になると思うが、既に回答方針を表明しているトヨタ自動車では、コロナ禍で苦労している社員に対して精一杯報いていこうという気持ちが表れている。単純に支払い余力だけで判断したとは思えない。重要なステークホルダーである社員に対してできる限り応えることで、ともにステークホルダーであることを確認したい気持ちが表れた内容である。ただ、もともと企業業績はK字回復してきている中で、今回のまん延防止等重点措置の影響でさらにK字の度合いが広がっている。今後、回答を示す企業では、必ずしも楽観はできない、予断を許さない数字がでてくることは十分にありうる。それはそれで経営判断として受け入れなければいけないと思っている。

Q:今回、岸田政権は税制を見直し、賃上げした企業への優遇を拡充したが、実際に今回の賃上げ税制が企業に与える影響に関して、どのように見ているのか。

櫻 田 : 賃上げ税制があるからといって、ベースアップや一時金を含めた(賃金)積み上げの判断には至らない。賃上げをするのであれば税制メリットを受けたいとは思うが、賃上げ税制自体が大きなインセンティブになるとは考えられない。特にベースアップの場合は、一時的な税制措置の効果が翌年には元に戻ってしまう。賃上げ税制と一時金の積み上げがリンクしているわけでもないので、あまり強いインセンティブにはならないのではないかと思っている。税制改正をするのであれば、イノベーションを促す税制改正をしたほうがよい。

Q:英国の石油大手シェルが「サハリン2」のプロジェクトから撤退を発表した。今後のロシアビジネスや投資がどうなるかは注目点だと思うが、日本企業はどのような対応をとると予想されるか。また、今回のシェルの迅速な判断について、受け止めを伺いたい。

櫻 田 : 経済安全保障推進法案が閣議決定したところだが、経済安全保障や安全保障は、企業経営において常に頭に入れておかねばならない(分野だ)。経済安全保障の対象になる技術や、(それらを)注意深く扱わねばならない対象国については、今まで以上に慎重にならざるを得ない。それは西側ではない国となるが、(その中でも)日本と経済的結びつきが強い国と弱い国に分かれる。ロシアは後者に当たるが、価値観が異なる国との取引継続の意味やリスクを、これまで以上に真剣に考えていかねばならない。つまりリスクプレミアムをより多く取る投資になってくる。同じ投資でも、そうした国向けの場合は、よりリターンが大きいことが必要になる。また、取引停止に備えたバッファを積んでおくことが必要だ。ロシアとの取引はエネルギーや食品が多いと思うが、日本はエネルギーの純輸入国である。既に進めているはずだが、リスク分散のために、もっと輸入相手国を増やしていくべきだと思う。2050年のネットゼロよりも、もっと直近の課題である。今後の5年、10年、さらに20年、30年(の期間)で、石油やガスが(全く)不要になるということはない。輸入元の分散は官民一体で進めるべきだ。民間だけに投資を頼るのでなく、燃料のような必需品の輸入については、国と民間の協働や支援が必要である。BPやシェルの撤退判断が早かったのは、英国の地の利もあろう。英国は北海油田・ガス田を持つ。油田は産出量が減ってきているとはいえ、内需はまかなえている。ロシア制裁の結果、ロシアからの供給が減っても、それ自体で英国経済が深刻なダメージを受けることはない。ならばグローバル企業である両社は、ロシアと取引を続けるデメリットの方が大きいと判断したのだろう。英国の政治もそのようなメッセージを送り続けていた。

Q:(新型コロナウイルス感染症の水際対策では)今日から入国制限が緩和される。緩和に向けた動きについて受け止めと、政府に求めることを伺いたい。

櫻 田 : 良かった、安心したという思いと、遅かったという思い、その2つがある。もちろん、(緩和を)しないよりした方がよいので歓迎はしているが、まだ(1日当たりの外国人の新規入国者上限が)5,000人というバーがある。なぜ1万人ではないのか、(5,000人とした理由については)明確な説明を受けたとは思っていない。一般的に言われていることは、受け入れ側の検査キャパシティの問題ということである。もしそうだとすれば、それを早く広げて欲しい。以前にも申し上げたが、すでにオミクロン株に置き換わり、次の新しい株が出てきている中で、日本だけが入国制限を行うことに意味があるのかをそろそろ議論しなければならない。(対応が)遅いだけではなく、どうして続けるのかについて、(政府は)説明責任を果たしていない。入国制限を緩和したら、どういった見込みの上で病床使用率(の上昇)、医療体制の逼迫あるいは崩壊につながる可能性が高いかということが、統計的にも科学的にもはっきりしているようには思えない。多くの経営者は、海外の取引先や子会社からこうした質問を受けているが、(それに明確に)答えられない。どうして日本だけなのか。困っているのが実態である。緩和はよかったが、さらに(緩和)できるということを申し上げておきたい。

Q:まん延防止等重点措置を3月下旬まで延長しようとする動きがあるが、受け止めを伺いたい。

櫻 田 : 

私の理解する限りでは、(延長の)理由は病床使用率(の高さ)、医療体制の逼迫が抑えられないということなのだろうが、医療体制の逼迫については、供給を増やすことがまず必要だ。すでにいろいろなところで言われているが、発熱外来に関しての透明性は依然としてクリアではない。東京都は少し広げたようだ。また、後藤茂之 厚生労働大臣と中川俊男 日本医師会会長の会談もあったが、発熱外来を実施していることをもっとオープンにする必要がある。精一杯やっているけれども、やはり医療体制が(逼迫している)ということであれば、その説明をすべきである。心配なので慎重に、という定性的な理由で(まん延防止等重点措置を)延長するのであれば、青息吐息の状態にある飲食、旅行、旅館業においては、なんとも(気持ちの)行き場がないというか、いつ終わるとも知れないトンネル、闇の中をずっと走っている状態にある(のではないか)。本質的にはこの問題はクリアにはならない。(なぜなら)アフターコロナの時代は来ない、今のような状態が常に続いていくと思うからだ。米国がそうであるように、一気に感染率が上昇し、そしてあっという間に減少(下降)していくという繰り返しが、もしかしたら新型コロナウイルスの特性、DNAに組み込まれているかもしれない。感染の波をうまくコントロールすることが大事で、科学的知見、統計的な検証を踏まえて、どのような医療体制に移行すればよいのか、医療制度改革そのものに早く取り組んでいかなければならない。残念ながら、今回の診療報酬改定においては、その辺りへの踏み込みはほとんどなかった。そうすると、また波が来た時に同じことが起きる。アフターコロナの時代が来る、あるいは、コロナ危機がいつか終わる前提で物事を考えているとしか思えないが、その考えは、大変危険だと思う。

Q:昨日、(日本生産性本部による)令和臨調の発足が発表された。経済同友会の小林喜光 前代表幹事や現副代表幹事も参画している。「統治構造改革」「財政・社会保障」「人口減少下での国土構想」を3本柱としており、櫻田代表幹事が掲げる財政健全化や社会保障改革などと通じるところもある。今後、連携を図る構想などはあるのかを伺いたい。

櫻 田 :大いに連携していきたい。志も素晴らしいと思っている。小林前代表幹事だけでなく、副代表幹事も日本生産性本部でいろいろな活躍をされている。一昨年、経済同友会が立ち上げた未来選択会議でも、(令和臨調共同代表である)茂木友三郎氏が最初の会合にお見えになり、リソースパーソンを派遣してくださった。互いに同じ志をもって協力しあいたい。ただし、同じことをしても仕方がなく、やり方は違うということはあってもよい。目的は同じなので、それぞれの得意なところや「らしさ」を生かして活動していくことである。今回の発足に我々も大いに賛同したい。

Q:「サハリン2」からシェルが撤退する中、日本企業は参画を続けるべきだろうか。先ほどリスク戦略の観点から話があったが、軍事侵攻や戦争に対し、経済界はノーと言わなくてよいのか。

櫻 田 :もちろん、戦争はあってはいけないことだ。ノーと言うべきである。では企業は行動にどう表すか。仮に今後、ジェノサイドに近いような殺戮や違法行為が繰り返されるならば、国の重要プロジェクトであっても、関与している日本企業はしかるべき判断をするだろう。既に検討されていると思うが、直ちにノーと言うかどうか。経済安全保障に関わる話であり、現時点ではガス輸入を止めてはいない。まだ判断していないというだけの話であり、このままロシアが国際法違反を繰り返すなかで、何事もなかったように取引を続けるとは思えない。具体的に聞いてはいないが、深刻に検討されているだろう。政府とも密接に連絡を取り合っているのではないか。

Q:ウクライナ侵攻に対する国連安保理非難決議の投票を中国は棄権した。こうした中国のスタンスをどう見るか。ロシアに比べ中国と日本の経済的な結びつきは強い。一方、いわば紛争地域がある。その中で中国との付き合い方をどうすべきか。

櫻 田 : ロシアと異なるのは、中国は日本の最大の貿易相手国である点だ。地理的な近さは同等である。国連安保理での中国の棄権は、さもありなんとの印象だ。両国は専制的な政治体制で一党独裁型であり、似ている。ウクライナのように、隣国が別の価値観を持ち民主主義国に変わろうとする場合の危機感を共有している。両国の価値観は近い。よって(中国は)安保理の非難決議に賛成はしなかった。北京五輪で両国首脳が会談した際にも何か話したのかもしれない。(この棄権に)驚きはない。今回のロシアの侵攻や(それに対する)世界の反応を見て、中国はどう感じただろうか。先進国や新興国が急速に一致団結し、反ロシアの動きが広がった。SWIFT排除などの経済制裁も異例の早さで進んでいる。これは中国にしても驚きなのではないか。岸田首相の発言からみても、東アジアで同様のことが起きないとは言えない中で、日本としてこうした事態に積極的に対応することが重要だ。中国を意識した首相のコメントだと思う。企業としての対応も同様である。既に米中が経済戦争下にある。米中に比べると、ウクライナ問題での日本企業のスタンスは明確にしやすい。価値観外交の延長線上に、価値観経営があるはずだ。これを無視した経営戦略は成り立たない、それがニューノーマルだという前提で、今の経営戦略の調整が必要である。

Q:ルーブルが制裁によって下がっている状況だが、これが世界の経済にどう影響するのか。

櫻 田 : (取引高)全体に占めるルーブルの流通量は極めて少ない。ルーブル/ドルの互換性が断たれているので、ルーブルでの決済は、SWIFTから外されたところ(は難しい)。外されていないところとして中小の金融機関がまだあると聞いている。そこで工夫しながらやっていくということだと思う。経済全体への影響というのは、今、IMFなどが(経済見通しの)見直しをしているところだと思うが、直接的には甚大なものになるとは思っていない。むしろ、ロシア国内において、約30%も下がってしまった(ルーブルの)価値に対して、当然インフレーションが起きてくる。経済制裁によって物が入ってこない、入ってくるものは今よりずっと高くなってしまう、インフレーションが起こる。これは困るということで、ロシア中央銀行が、主要政策金利を20%に引き上げることにしたが、これは、ロシア国民にしてみると大変な痛みになってくる。何のために私たちは苦しまなければならないのか、ということになる。その点について非常に悩むというか、疑問が解けないというか、おそらく政権に対する憤りにつながってくると思う。(世界)経済としてはそこまで大きな影響はないと思うが、ルーブルの問題とは別に、この危機が燃料価格の上昇につながり、それがどのくらい続いていくか、また、他の産油国がどのように対応しようとしているのか、こちらの方がむしろ重要である。

Q:現在のロシアとウクライナの状況が経済にプラスに働くことはないと思うが、制裁を強めることで回り回って先進国経済に影響を及ぼすことも考えられる。もう少しはっきりと制裁をした方がよいとの指摘もでている。侵略行為が許せないので、生活が若干厳しくなったとしてもきっちり制裁をかけていくべきなのか、そうでないのか。制裁と経済のバランスについて考えを伺いたい。

櫻 田 :私は総理大臣でも外交官でもないが、第一に、我慢比べになると思う。したがって時間がかかる。時間がかからない制裁措置だとすると、それは、制裁をしたふりをするということである。それで元通りになればベストだが、少なくともウクライナとロシアに関して言えば、解が見えない。今回の大規模な制裁は、停止まで時間がかかるのではないか。時間がかかるとなると、どういうところに影響が出てくるかという話になるが、両国が、特にロシアが世界経済にどのような貢献をしているか、ということに尽きる。その点について言えば、何と言っても食糧と燃料、資源ということになる。ここを補完できるまで、世界経済は調整に時間がかかるのではないか。金融その他の面においては、ロシアが(世界経済に)貢献しているという話はあまり聞いていないので、(影響は)ない。ロシアと深い取引関係にある海産物を扱う商社などは、大変厳しい状態になると思う。これについては、(経済制裁が)長期的になるならば、政府がしっかりと支援する必要がある。バランスをとるというのは、どのくらいどちらが我慢できなくなるかということだと思っている。イラン(核合意)について言えば、明らかに(欧米よりも)イラン側がつらいという状況が続いてきた。ウクライナ危機で影が薄くなっているが、イランの核開発合意交渉は続いており、一歩前に進む可能性はある。イランについては何年もかかっているので、(ロシアへの経済制裁についても)その覚悟は必要だ。そうこうしているうちに、ロシアの国内で、もう我慢できないという状況が起きるかもしれない。要は、負けるわけにはいかない我慢比べということではないか。

以 上

 (文責: 経済同友会 事務局)


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