代表幹事の発言

経済3団体長 新年合同記者会見 経済同友会 櫻田謙悟代表幹事 発言要旨

三村 明夫 日本・東京商工会議所 会頭
十倉 雅和 日本経済団体連合会 会長
櫻田 謙悟 経済同友会 代表幹事(幹事)

DSC00654 (2).jpg新年合同記者会見における櫻田代表幹事(中央)

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記者の質問に答える形で、(1)2022年の経済社会、景気展望、(2)国際情勢の見通しと日本の立ち位置、(3)脱炭素への取り組み、(4)2022年日本経済にとっての課題、(5)イノベーションと成長、(6)人口減少への対応 などについて発言した。

Q : 昨年は、新型コロナウイルスとの闘いが展開される一方、世界経済の回復が進むなど一部で明るさも見られた。ただし、足元では再び感染者数が増え始めているほか、米国を中心にインフレーションの懸念も高まっている。先ほどの櫻田代表幹事と岸田総理の挨拶では、(今年の干支である)壬寅の説明もあったが、証券業界では、寅年は波乱が起きやすいとの言い伝えもあり不透明な昨今を象徴している印象も受ける。今年の経済社会、あるいは景気の展望について考えを聞かせていただきたい。

櫻 田 :ここ数年も、これからも、VUCAの時代と申し上げているように、いろいろな意味で見通しの立たない要素がたくさん出てくると思う。特に地政学や外交に関わる要素は予見できず、突然発生することもある。その前提の下でどういう年にしたいのかという心意気や志が最も重要だと思っている。足元で現実に起きていることとしては、オミクロン株(の感染拡大)、昨年からのサプライチェーンの混乱、資源価格の高止まり、テーパリングなどリスクが存在するが、私としては、これまでの危機を脱出・卒業して、徐々に回復に向かっていく年であってほしい。世界はもちろん(そうした方向に向かっているし)、日本も若干遅れてはいるが、世界に十分についていける地力はあるので期待している。経済界としても、イノベーションをしっかり引き起こせるような努力をしていきたい。

三村会頭 :(略)

十倉会長 :(略)

Q : 今年は北京オリンピック・パラリンピックが開催されるが、人権問題を背景に、米国発の外交的ボイコットが相次いだ。米中対立を含む国際情勢の現状認識や見通し、日本や日本経済界の立ち位置がどうあるべきか考えを聞かせていただきたい。

十倉会長 :(略)
三村会頭 :(略)
櫻 田 :ファクトとして、今年は米国の中間選挙、中国の共産党大会があり、フランスと韓国では大統領選挙がある。各国ともおそらく内向き、自国優先のスタンスが中心になるのではないか。日本も参議院議員選挙を迎えているが、安定した統治能力を発揮できる可能性が高いことの意義は大きい。(日本は)GDPでは世界第3位だが、民主主義国家では世界第二の大国であることに間違いはない。各国が内向きになる中で、日本がこの立場を利用して、どのようにリーダーシップを発揮していけるかが重要である。先ほど岸田総理がご挨拶の中で、リアリズム外交という言葉を使われたが、共感の持てる言葉である。リアリズムを「現実的」と訳してしまうと、意図するところが伝わらないと思う。何かを直視しつつ、したたかに、日本にとって有利な状態を巧みにつくっていく。岸田総理としては、外務大臣経験もある中で、そういう非常に難しい舵取りをやりたいということだと理解している。この(リアリズムという)言葉は、特に日本においてあらゆるところで必要なことだと思う。例えば、2050年カーボンニュートラルについて、そのビジョンには賛成していくがしたたかに対応することも必要だ。日本にとってどのようなエネルギー政策が望ましいか、そしてどのような技術に政策資源を配分していくのがよいかなどを考えなくてはならない。こういったことを全部含めて「現実的」というのだと思う。現実的外交、現実的カーボンニュートラル等、リアリズムという言葉が一つのキーワードである。経済界はリアリティの中で生きているため、リアリズムというものをもっと追求していかなくてはならない。そのような観点で中国との向き合い方を考えたときに、かねて申し上げている通り、交渉すべきことと交渉してはいけない分野があると思う。交渉すべきこととは、主として経済にまつわる、合理性で解決できるもの、何らかの形で答えに近いものが見いだせるものである。一方で、人権や民主主義のあり方といった分野は価値観の問題なので交渉してはならない。この二つをしっかりと分けていくことが、日本の立ち位置として非常に重要である。典型的な例は、今回の北京オリンピック・パラリンピック(への対応)である。スポーツの祭典としての価値を認めて選手団は送るものの、他方で、人権問題や言論の自由など民主主義のあり方に関わる問題について、中国に対して説明責任や透明性を求め続けていくべきである。交渉すべきことと交渉してはならないことをしっかり分けていくことがリアリズムであり、したたかな外交ということにつながる。我々経済人も、したたかな経営というものをリアリズムの中でやっていかなければならない。そう考えると、キーワードはリアリズムである。

Q : 2030年まであと8年しかない中、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、脱炭素化の取り組みについての現状認識は。民間との協力のあり方を含め、今後どのように政策を打ち出していくべきか。

櫻 田 :現実を直視したときに、CO2の排出量を2013年度対比46%削減するという目標を2030年に達成することは簡単ではない。一つ目の理由は、原子力の問題が解決できていないことである。この問題に真正面から、リアリズムをもって、現実を直視しながら取り組んでいかなければならない。二つ目の理由は、再生可能エネルギーの開発・投資を楽観視できないことである。(日本には)技術はあるが、国民の総意や意思決定の不足がネックになっている。マスメディアの皆様にもお願いしたいのだが、現実を直視して、このまま状況が推移した場合に2030年がどうなるかというシナリオをいくつか書けるはずである。例えば、原発や風力、太陽光などの再生可能エネルギーをどうしていくのか。そのために、誰がどのような決断をすればいいのか。こういったことすべてを含めた決断が繰り返されない限り、2030年目標は達成できない。2050年目標はその先であり、2030年(目標の達成)が見通せない中、ムーンショットのようなものだと考えており、深刻に考える余裕もない。まずは、2030年目標に向けてスタートしなければならない。

十倉会長 :(略)
三村会頭 :(略) 

Q : 円安の進行、カーボンニュートラル、デジタル化など、さまざまな課題がある中で、2022年の日本経済にとって最も大きな課題、懸念材料、リスクは何か、また、それを克服するために企業、政府が何をすべきか。

三村会頭 :(略)
十倉会長 :(略)

櫻 田 :2022年に限定すると答えにくいが、(あえて)限定するならば、やはり新型コロナウイルスのオミクロン株だと思う。先ほどの挨拶で申し上げた、2022年を新しい資本主義に向けたイノベーション元年にしたい、ということについて言えば、最大の課題は日本人にチャレンジ精神を呼び戻せるかどうかだと思う。私は、日本人について「生活者」という言い方をしている。生活者とは、政府、企業、個人、すべてのステークホルダーのことを指すが、この人たちが既得権を捨てて、チャレンジ精神を取り戻せるかどうかにかかっている。これが欠けていては、いくら政策を打ち出し、制度を変えたところで何も変わらない。過去30年間がそのことをはっきりと示している。欲しいのは、チャレンジ精神である。

Q : 櫻田代表幹事は、祝賀会挨拶で、平成の30年間、52~3歳以下の方は成長を体感したことがないと言及した。この間、ハイブリッド車、携帯電話や液晶ディスプレイなど、イノベーションは存在したと思う。それらを成長につなげられなかった平成30年を教訓に、令和時代のイノベーションを考えたときに、成長へとつなげるために何が必要なのか。

櫻 田 :(平成時代のイノベーションが)国全体を引き上げるムーブメントにつながらなかった理由を考えると、社会、生活者全体の受け入れ態度が足りていなかったように思う。また、国際競争に対するしたたかさ、リアリズムが欠けていた。先ほど、ハイブリッド車や携帯電話、宅急便を例示したが、これから社会全体に受け入れられていくのは、今まで以上に難しいイノベーションになってくると思う。イノベーションは科学技術だけではない。ビジネスモデルのイノベーション、あるいは祖業を捨てて新しい事業に出ていく(ような)イノベーションもあるだろう。そういったものを社会が受け入れていくのかどうか。当該企業の社員や経営者も含めて、社会が受け入れていくことが重要である。この姿勢が不足するようなら、これまでのようなイノベーションを繰り返したとしても、(それが)社会に浸透して日本経済を引っ張って行くのは難しい。守旧派とは言わないが、変わるのは嫌だ、変わりたくない、変われないというところにどうやって切り込んでいくかという覚悟が、生活者全般に求められていると思う。

Q : 十倉会長に伺いたい。岸田総理挨拶の中で、改めて賃上げに対する要請があった。政府がどのようなことをすれば、企業が賃上げできるようになるのか。

十倉会長 :(略)

Q三村会頭に伺いたい。コロナ危機で海外から日本に外国人が入国できなくなった。会議などオンラインが便利に使われる環境がある一方で、技能実習生などの働き手や、留学生が入国できなくなっている。このことは、日本企業、ひいては日本経済に影響があると感じるが、考えを聞かせていただきたい。

三村会頭 :(略)

Qこの10年間、マクロで見ると人口が減少する中でも、日本企業は働き方改革等を通じて労働者人口の増加に貢献し、一定の成功をおさめてきた。今後、日本の人口減少は急角度で加速すると言われるが、別の見方をすれば、課題先進国としての日本の対応が世界中から大きく注目を集めると思う。こうした環境に対して、政策面だけではなく、民間企業にできることは何か、また(民間企業は)どうあるべきか。

櫻 田 :日本の経済活動に従事する人が、(すべて)日本国籍である必要はない。重要なことは、日本に籍を置く企業が日本以外の国籍を有する人、タレントを集められるような魅力ある企業になること、そのような人事制度や処遇体系を持っていること、あるいは(そうした)採用慣行を続けることが求められる。それを踏まえれば、日本の人口が減ること=経済力としての国力が下がるということには必ずしもならない。ただ、今申し上げた前提条件のうち、(現状で)満たされているものはほとんどないように思う。例えば、ボードメンバーにおけるダイバーシティを見れば(それが)分かる。ジェンダーのみならず、実際にはナショナリティのダイバーシティも必要だし、ジェンダーと言ってもLGBTQを含めれば、(取り組みは)まだまだである。日本の人口が減っていくことはファクトであり、その現実を直視した上で、それをどうやってチャンスに変えていくかということに、今からすぐ取り掛からなければならない。ダイバーシティがイノベーションの大きな原動力になることははっきりしており、その意味ではむしろチャンスだと思ってがんばるしかない。

三村会頭 :(略)
十倉会長 :(略) 

以 上

 (文責: 経済同友会 事務局)

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