代表幹事の発言

櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2021年12月14日
出席者 公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

全編ノーカット版

動画を拡大する

本日のホットトピック

動画を拡大する

PDFはこちら

記者の質問に答える形で、10万円の現金給付、雇用調整助成金、北京オリンピック・パラリンピック、景気、社外取締役、今年の漢字、TPPなどについて発言があった。

Q: 10万円相当の給付に関して、本日の国会でも岸田首相の答弁において、現金給付を容認する一方、クーポンを活用する自治体については支援するとの話が出た。また、山際大志郎 経済再生担当大臣が、自治体によっては、年収960万円の所得制限には拘らないと述べた。どちらを向いているのだろうかとの印象を受けたが、この点についてどう考えるか。

櫻 田 : どちらを向いて何をしようとしているのかわからなくなってきた。1年半前に、10万円の給付について電子マネーも手段として含めるべきと述べた。その背景には、消費(拡大を目的)に使いたいのであればとの考えがあった。今回、(10万円の給付のうち)5万円は支援・貯蓄を含めた使途自由なもの、残りの5万円は子育てに関連する消費喚起である。事前の調査が足りなかったのか、クーポン券にすると1千億円近い費用がかかるといった課題や目的に照らして迅速に必要な人に届くのかといった複雑な問題が生じている。結論として、私は10万円の給付に積極的な意味合いを感じていないが、実施すると決まったのであれば、可能な限り条件を付けないことが良いだろう。推測に過ぎないが、前回と同様に、多くが貯蓄に回るのではないかと思う。購買力を貯めることにはなるが、ただちに経済の刺激につながるものと楽観的に考えてはいけないと思う。ややダッチロールだと思う。

Q: 雇用調整助成金が(2020年からの累計で)約5兆円まで(支出が)伸びている。財政規律については、矢野康治 財務事務次官の論文で、ばらまきではないかとの意見が示された。非常に厳しい状況で雇用調整助成金により企業は助かったという面があると思うが、財政の状況を踏まえるとコロナ後、あるいはウィズコロナにおいて、いつまでも雇用調整助成金に頼ってよいわけではない。業容転換についても出来る企業と出来ない企業がある。出来なければ、(市場から)退場しなければならない。厳しい状況に置かれている企業についてどう考えるか。財政との兼ね合いでいつまでも雇用調整助成金に頼るなと言い切れるのか。

櫻 田 : (コロナ禍は)危機であり、緊急避難的に救済しなければならない。雇用調整助成金を積極的に活用したことは間違いではなかったと思う。日本らしい雇用慣行であった。では、いつまで対応すべきか。新型コロナウイルスをコントロール(することが)可能になってきた。私は「脱」や「卒」がそろそろ必要な時期だと思う。「脱コロナ」、「卒コロナ」として、ニューノーマルへの適応をすべきだ。世界各国が、新型コロナウイルスを経験し、オミクロン株を迎撃し、新しい成長に向かって伸びている。この問題についても、そろそろノーマルに戻ってよいのではないか。特に、今回の補正予算を見ると、約36兆円のうち22兆円が赤字国債を財源としている。2020年度から累積で150兆円以上の赤字国債が発行されている。他の国とは異なり、日本では、依然としてどのようにイグジットするか、財源をノーマルに戻すのかについて議論すら始まっていない。「脱」「卒」ということを本気で考えていかないといけない。国民自身も(判断したのは)政府、国であるとするのは簡単だが、最終的に選択をしたのは国民である。前回の衆議院選挙でも国民は非常に高い見識を示した。持続可能性や政権担当能力について厳しい目をもって投票したことで、あのような選挙結果になったと思う。雇用調整助成金についても、財政も異常な事態を早く卒業する、脱する、ノーマルの状態に戻っていくための議論を開始すべきだと思っている。2点目は、雇用調整助成金のプラス面はたくさんあるが、マイナス面として、業態転換や労働者の流動化、他の企業へ移っていくというのを阻害する面もある。「脱」・「卒」の観点から言えば、労働者の流動化を促していくことは重要であり、その意味でも雇用調整助成金への依存をそろそろ卒業していかないといけない。

Q: 来年2月に北京オリンピック・パラリンピックが開催される。米国や英国が外交的ボイコットをする中、岸田首相は国益を重視するということで判断された。閣僚の派遣を見送る一方で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長や室伏広治スポーツ庁長官などアスリート出身の役職者を派遣することに関して、率直な感想を伺いたい。

櫻 田 : 岸田首相も相当悩んでおられると思う。ここは旗幟鮮明にすればよいということではない。国益は経済や安全保障など全てにおける(要素を考慮した上での)国益であり、外交は中・長期的な影響を及ぼすことから、短兵急に決めるべきことではない。ただ、これまでも、中国に限らず、外交については、交渉すべきことと交渉してはいけないこととがあることを伝えてきた。今回の外交的ボイコットの背景がジェノサイトといった人権問題にあるとすれば、これは交渉すべきことではない。これについては何らかのメッセージを発信するべきである。ただし、メッセージを発信することと閣僚の派遣、誰を送るかということを機械的に結び付ける必要はない。アスリート出身の国会議員を派遣することは、それはそれとして、日本がオリンピック・パラリンピックの意義を認めているということになる。一方で、日本は民主主義や人権を蹂躙する問題には看過しないというメッセージをしっかりと発信していくべきである。この二つを両方ともやっていくべきである。あまり今すぐに旗幟鮮明にせよということが、国益に叶うとは思っていない。

Q: 昨日日銀短観が発表されたが、大企業の非製造業はDIが改善している一方で、製造業は、ほぼ横ばいである。供給制約や原材料高といった背景がネックになっていると思うが、先行きについてのお考えをお聞かせいただきたい。

櫻 田 : 消費者物価がさほど上昇しない一方で、企業物価指数は8ポイント程度上昇しており、コストプッシュが相当進んでいる。その分を価格に転嫁できないという日本企業の傾向があり、企業は苦しんでいると思う。ただ、原因は割とはっきりしており、サプライチェーンの問題と資源高だと思っている。前者については、日本よりもむしろ海外のサプライチェーンの問題が、結果として輸入物価に跳ね返っていると考えている。これは時間の問題で、ただ原油(高の問題)よりは時間がかかるかもしれないが、いずれ解決する問題であると思っている。原因が割とはっきりしている。後者の資源高については、本会においても(関係者と)意見交換を行ったが、現状は、明らかに供給不足である。しかし、来年の第一四半期には、供給が需要を上回ってくるものと見込んでおり、今のプレッシャーは減っていくだろう。したがって、これらの問題に起因する企業物価高は、(長くは)続かないものと考えている。一方で、日本経済そのものは、以前から申し上げているように、底を打っている。ただ、諸外国と比べると相対的に勢いが弱いことが問題である。政府の新たな経済対策も借りながら、積極的に投資をしていくことが求められる。やや大仰な言い方かもしれないが、今回がラストチャンスというつもりで、人材に対する投資を含む積極的な投資をしていかないと、新しい資本主義どころではなく、普通(現行)の資本主義も達成できなくなるというくらいの危機感を持っている。

Q: みずほ銀行のシステム障害を受けて、社外取締役によるガバナンス、その責任に注目が集まっている。社外取締役による経営の監督に限界が指摘されていると思う。現状、どのような課題があると認識しているか。

櫻 田 : 委員会設置会社の取締役会の最大のミッションは、CEOの解任、重任、あるいはCEOの報酬、評価だと思う。執行のトップであるCEOを監督し、評価し、あるいは背中を押すことになるので、ここが機能しているかが非常に重要だ。これは指名委員会も報酬委員会も同じミッションを持っている。そうであれば、CEOを評価や解任、重任を判断するための情報が、その取締役会に集まっているかが非常に重要であり、まずこの点がどうだったのかが問われる。もし、情報が入ってこないのであれば、あるいは通常の執行ルートからしか社外取締役に情報が入ってこないのであれば、真実が伝わらない場合に間違った判断をする可能性がある。執行ルート以外、特に内部監査部等を通じて、監査委員から情報が入り、実際に行われたか確かめた上で、毅然とした判断するか否かだろう。今回の件に限らず、形式的に委員会型を採り、社外取締役が入っていれば、必ず監督が上手くいき、ガバナンスもしっかりしたものになるということは間違った判断である。結論としては、社外取締役と執行のトップであるCEOがどの程度信頼関係と透明性を持ち、率直に意見交換できるかに尽きる。

Q: 代表幹事にとっての今年の漢字について伺いたい。

櫻 田 : もうそろそろ既得権や(新型コロナウイルスの)緊急事態から脱出しよう、卒業しようということで「脱」か「卒」、どちらかといえば「卒」がよいと思っている。コロナの危機から早く卒業する、ニューノーマルに向けて早くノーマルを卒業する。一番大きい課題は既得権益である。これは企業の内部にもあり、例えば人事部と経営企画部との間にも既得権益があって、これが折り合わずに前に進まないこともある中で、社長が捌いていく。社会保障の面でも既得権益がある。このような既得権益から卒業したい。「脱」か「卒」で、あえて言えば「卒」を取りたいと思っている。

Q: 韓国のTPPへの加盟申請に関する受け止めをお聞かせいただきたい。

櫻 田 : 事務局の役割を担うニュージーランドに対して、韓国から正式な申請がなされたか否かは承知していないが、(加盟の)意向があるということは歓迎すべきことである。韓国ほどの国なので、非常に高いレベルでのルールを全面的に受け入れる前提での申請だと思っているし、そうだとすれば、RCEPとは異なる重みのある経済連携協定だと思うので歓迎したい。また、すでに申請を行った中国にも、同じような高いレベルでのルール適用を促すことにもつながると思う。

Q: 韓国との関係では、水産物の輸入禁止措置の問題も関係してくると思うが、お考えをお聞かせいただきたい。

櫻 田 : 水産物(の輸入禁止措置)の問題は、純粋な貿易問題、経済(連携)問題ではないと思っている。原発の関連や言われなき風評に伴うものなので、その問題と韓国のTPPへの加盟申請とは、切り離して考えるべきだと思う。


以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

PAGETOPへ