櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
日時 | : | 2021年4月13日(火) 13:30~ |
出席者 | : | 櫻田 謙悟 代表幹事 |
記者の質問に答える形で、まん延防止等重点措置、福島第一原子力発電所処理水の海洋放出、日米首脳会談への期待、2030年の温室効果ガス削減目標、エネルギー政策と原発、東芝買収提案などについて発言があった。
Q : 東京、京都、沖縄でまん延防止等重点措置が開始された。大阪でも重症者が増えているとの指摘がある。今後、感染が拡大した場合、より強い規制が必要と考えるか。
櫻田: まん延防止等重点措置は、迅速に、必要なところを狙って、局所的にウイルスを叩くということ(だと思う)。局所的にという点で、現場を最も良く知る知事・首長に任せる点にも賛成だ。その結果、東京、大阪、京都などに発令されていることは妥当な判断だと思う。これまでも、コロナ禍によって被害を受けている飲食業、宿泊業にいろいろな支援策が打たれている。今回のまん延防止等重点措置によって、さらに(経済が)下がることは基本的にはないだろう。既に発表された支援策も、これまでより簡便で柔軟な対応が可能なようだ。政府系金融(機関)も、これまでは民間との協調融資が原則だったが、単独でも構わないという形になっている。妥当な判断、妥当な支援策と思う。
ただ、世界の主要国、その他の国々を含め(た比較でも)、日本のワクチン接種率は、下から数えた方が早い状況で、これは憂慮すべきだ。担当大臣を筆頭に、懸命に指揮をとっているところだろうが、できる限り正確に、リアルタイムで、今の状態を説明することを続けるのが何よりも重要だ。昨日たまたま、都道府県や市区町村のワクチン接種会場を検索できるウェブサイトを見たが、「該当施設がありません」という表示が出てくる自治体が多かった。サイトはあるが、情報がインプットされていないのだろう。(政府が)言うことがただちに実施されないとしても、「今はこういう状況だから待ってほしい」、あるいは「いつ頃に実施される」といった状況を丁寧に、何度も説明することが、国民を安心させるうえで必要である。
Q : 福島第一原子力発電所の処理水につき、政府が海洋放出を決定した。中国や韓国等、海外からも反対の声が出ており、漁業団体も風評被害の懸念から反対している。決定に至るプロセスは十分だったか、今後、海洋放出の前にすべきことは何か、お考えを伺いたい。
櫻田: 諸外国(が採用している)基準を含め、客観的な事実や国際基準に照らして考えれば、今回の判断はやむを得ないし妥当だと思う。2022年には(貯水)タンクが一杯になってしまうことははっきりしており、これをどうするか、政府は関係諸団体、特に漁業団体とも議論してきたと思う。どこまで行っても分かり合えない部分もある。どこまで努力すれば折り合えるのかということの連続だったのではと思う。
結果的に、2年後から30年間かけてゆっくりと(処理水を海中に)放出する、その間に(処理水中の放射線物質も)減衰していくということだろう。日本の基準は、諸外国や国際基準に比べ、確か1/40になっているはずで、安全性については十分考慮されているのではないか。韓国・中国からの発言詳細は承知していないが、国際基準に照らして問題がある、科学的な根拠が示されていないということではなく、(日本)国内の反対が強いのに、強行したのは良くないと言っているようだ。事実として、他の国々が、日本が決めた基準よりも高い(数値の)トリチウムを含む排水を放出していることを考えれば、おのずから答えに説明がつく。
Q : 来週は日米首脳会談が予定されている。どういった点に期待しているか。
櫻田: 大いに期待している。言うまでもなく、経済成長と安全保障は切っても切り離せない表裏一体の関係だ。残念ながら、米中然り、ミャンマー然り、ロシア然り、北朝鮮然り、事態は解決(に向かう)よりも激しくなる方向に向かっている。そうした中で、バイデン大統領が初めてリアルで会う外国首脳が菅総理大臣であることは、大変なチャンスである。良い機会なので、有効に使っていただきたい。具体的には三つある。特に大事なのが安全保障だ。東シナ海の問題、自由で開かれた(インド太平洋)という考えを具体的にどこまで示せるか。価値観、特に民主主義の価値観を共有する"like-minded"な国として結束を固め、目指すべき目的地を確認してくることが必要だ。ただ、日本の立場はあくまでも主権国家としてのものである。欧米に追随するのではなく、日本ならではの立場がある。目指すべき場所は共通でも、道の通り方や頂上への登り方は違うということを理解した上で、役割分担をしながら外交、地政学的な対応を進めていくことが大事だと思う。
二つ目に、4月22日に開催予定の気候変動サミットに関する議論もあるだろう。日本は、2030年以降、2050年のネットゼロに至るまで、どのようなロードマップを描くのか。この部分はまだ描けていないし、そう簡単に描けるものでもないが、突然2050年がやってくる訳ではない。その間、例えば化石燃料を極力減らし、最終的に廃止ということもあるだろうが、同時に原発に依拠せざるを得ないことも、率直に議論をする必要がある。(2050年に向けた)具体的なロードマップが描けるような環境を作ることがポイントだ。
三つ目は、経済安全保障の問題である。特定の国を意図して、と言うつもりはないが、言ってみれば、中国の一帯一路戦略に対応するとともに、極端に依存しすぎない形(を作る必要がある)。半導体、ゲノム、気候変動に係る技術など、戦略的に重要な技術について、(日米が)お互いに組めるところはどこかを話し合うことだ。経済、環境、特に経済安全保障についてしっかりと話し合っていただき、お互いの目指す道は同じであること、役割分担や行動の仕方には敢えて違いがあることを確認しあえると良い。
Q : 2030年の(温室効果ガス)削減目標につき、政府内で、2013年度比-26%という削減目標を引き上げる方向で調整しているという話がある。これについて所見を伺いたい。
櫻田: 本会では、今具体的にそうした議論を行っていない。日米(首脳会談)でそうした話が出る可能性は高いし、ケリー気候変動特使の訪中も何らかの道筋をつけようとしてのことかもしれない。ただ、各国に割り当てられている目標を引き上げることは、日本だけではなく、さまざまな国に対して要求されるのだろう。経済界としては、目標にどれだけの強制力があるかを見ながら対応していかなくてはならない。
現実に経済を運営する立場としては、背伸びすれば届く目標か、背伸びしても届かない目標かによって、大分(対応が)違ってくる。それ次第でコメントの仕方も変わる。特に、2030年はまだしも、2050年の目標は現在の技術だけでは到底間に合わないことははっきりしている。ムーンショット型の技術革新が出てこなければ間に合わない。それに向けてさまざまな戦略を練っているのだと思う。全体の話の中で、考えていかざるを得ない。
Q : 福島第一原子力発電所の処理水については、海洋放出しか選択肢はないと思うのだが、漁業問題もさることながら、風評被害は払しょくできないのではないか。2年後に向けて、補償等の課題も出てくると思う。さらに数十年も続く廃炉処理に係る問題もさまざまだが、やはり住民には相当深い思いがあると思う。この地域間の差を解消するにはどうすれば良いか。震災後10年間、言われ続けてきたが、改めて経済界として風評被害対策についてどう考えるか。
櫻田: おっしゃる通り、経済的・合理的に説明できれば全てOKではない。納得感があるかどうかは別の話だ。漁業関係者だけでなく、近隣の方々など、原発(事故)で被害を受けた方々は、生涯、場合によっては子や孫の時代まで忘れないだろう。それに対する責任、思いを日本国民として忘れてはいけない。経済界もそうだし、政府も広い意味での風評被害をなくし、差別につながらないための努力をまだまだ続けなければならない。5年で済むのか、10年かかるのかは分からない(が)、その覚悟を持たなくてはいけない。
本会も、東北の経済同友会と連携することに加え、風評被害を乗り越えて、新しい地域、新しい経済が生まれるためにどうするか、取り組んでいく。目をそらすということではなく、視点や視野を変え、未来志向の努力を続けることが大事だ。
Q : 先日、経済同友会の環境・資源エネルギー委員会が意見発表をした際、今後提言を取りまとめる方向と伺った。(核燃料の)最終処分の話も含め、経済同友会としてエネルギー政策、原発の問題について、どういう議論を展開していくのか。代表幹事として3年目に入る中、お考えがあれば伺いたい。
櫻田: 今回の意見(経済同友会 環境・資源エネルギー委員会『「エネルギー基本計画」見直しに関する意見』2021年3月26日)は、エネルギーのポートフォリオや構成を示すものであり、現在目標としている原子力発電のシェア、すなわち2030年20~22%というのは正直危ぶまれる、という意見だった。その際に申し上げたが、この先2030年まで、さらに2050年までに、具体的にどのような方法を取れば目標を達成できるか、特に原発について、現存する36基のうち、許可済み/申請中の27基全てを稼働させてもシェア15%程にしかならない中で不足分をどうするか等、ロードマップを示していければ(と考えている)。
また、経済同友会は以前から「縮原発」を唱えている。原発抜きで経済を回していくことはできないし、まして2050年ネットゼロはあり得ないというスタンスだが、では原発をどのように管理し、稼働させていくかはこれからの論点だ。老朽化した原発をどう置き換えていくかも含め、議論しなければならない。化石燃料は極力早く減らしていくべきだが、いつ減らすかもこれから議論する。日本はエネルギー輸入国で、自然災害が多い国であるため、いきなりゼロにして経済が回らず、国民生活が危ぶまれることになってはいけない。したがって原発もゼロにはできない。「縮」と言うためには具体的に、(原発を)何基まで落とし、どれくらいのシェアにしていくかをこれから(議論)できれば(と考えている)。政治判断も入ってくるだろうし、経済団体としては扱いにくいテーマだが、未来選択会議でも取り上げる予定だ。さまざまなステークホルダー、国民の皆さんが原発についてどう考えているのか、どうすれば安全なのか、止められないならどうするか、止めたらどうなるかという点も含めて、議論を続けていきたい。もう少し時間はかかるが、できれば夏頃までに(次の提言を)まとめたい。
Q : 本日、大阪府では1000人超の新規感染者数という報道があった。この事態に対して、緊急事態宣言が必要と考えるか。あるいは、まん延防止等重点措置で十分か。
櫻田: まん延防止等重点措置と緊急事態宣言には、あまり差がないのではないか(と思っている)。細かくは承知していないが、(対象地域が都道府)県単位か市区町村単位か、過料の金額、(飲食店等への)業務停止命令ができるかどうかといったものであり、まん延防止等重点措置の方が、ピンポイントで(対象地域を)狙えるということだろう。むしろ、まん延防止等重点措置を強めに出していけばよいのではないか。
山梨県では、県から委託された機関が(飲食店等を)検査して、感染防止策を十分に行っているところを認証している。このようなプラスの評価は有効だろう。法律や宣言よりも、こうした個別具体的な取り組みをする方が有効ではないか。海外のようなロックダウンや刑事罰のようなことを、今さらやる必要があるのか。まん延防止等重点措置と現場の工夫、ワクチン(接種)で(対応)できるのではないかと期待している。
Q : 東芝の買収提案が出ているが、経済同友会は「モノ言う株主」に対しても、きちんと説明するべき、株主への責任を果たすという議論をしていた。今回は、どちらかと言うと「モノ言う株主」との対立回避という言われ方もしているが、この間の東芝の対応をどう見ているか。
櫻田: 報道以上のことは存じ上げないが、報道内容が事実であるとの前提で申し上げると、三つの原則があると思っている。一つは株式会社、上場企業である以上、株主のために経済的に合理的な判断をしているかどうか。そのために委員会型のガバナンスを敷いているわけだが、社外取締役を中心とする取締役会がどのような判断をするか、それが一番の打開策だ。二つ目は、車谷暢昭 東芝取締役代表執行役社長CEOが以前、CVCの日本代表に就いていたことから利益相反の懸念があるという問題。これについても、社外取締役を中心とした検討チームにて(議論を)行い、車谷暢昭 東芝取締役代表執行役社長CEO自身は関与しないとのことなので、利益相反はないだろう。最後に、これが一番大事だと思うのだが、経済と安全保障、いわゆる経済安保の観点である。日本最高峰、世界最高峰の技術を持つ東芝という企業の買収を、外為法の規制の下でどうクリアしていくか。反対に言うと、(そうした技術が)安易に(海)外に漏れることがないよう、しっかりと検討してほしい。「モノ言う株主」と言う言い方はよくわからないし、ルールに則ったことを「敵対的」とは言えない。経済的な合理的に則って対応することに尽きる。
Q : 東芝が買収提案を受けることを是とするか。
櫻田: 経済合理性があり、外為法の規制がクリアできて、関係者との合意が取れているなら、是とせざるを得ない。
Q : CVCの提案に同調する形で、産業革新投資機構や日本政策投資銀行も提案に加わるのではないかという報道がある。政府系金融機関や官民ファンドがこうした提案に乗ることをどう見るか。
櫻田: 「仮定に基づく質問にはお答えできない」というつもりはないが、(報道されているのは)観測記事だと思うので、事実かどうかわからない。それぞれの機関に取締役会があり、ガバナンスがある。そこが良しとしたのであれば、それを経済合理性に基づいて判断せざるを得ない。永山治 東芝取締役会議長が「かなり複雑なものになると思う」と発言されている以上、簡単にはいかないと思う。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)