櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
日時 | : | 2020年9月29日(火) 13:30~ |
出席者 | : | 櫻田 謙悟 代表幹事 橋本 圭一郎 専務理事 |
記者の質問に答える形で、菅新政権(新政権への期待、デジタル庁、概算要求)、NTTのドコモ完全子会社化、「未来選択会議」、消費増税、GoToトラベル事業、東京オリンピック・パラリンピック、携帯電話料金の値下げなどについて発言があった。
Q : 菅新政権に期待することを改めて伺いたい。
櫻田: 9月16日の発足以降の菅政権の仕事ぶりを見て、実務能力を重視し、仕事の進捗がよく見えるという点において大いに評価する。具体的には、デジタルガバメント推進のためのデジタル庁の新設、不妊治療への保険適用、携帯電話の通信料金引き下げなど、一つ一つ身近でわかりやすいものについて、スピードをもって、行動を指示され、担当大臣も行動されている。これから、10月に始まる国会で所信表明をされるだろう。新型コロナウイルスを経てさらに悪化した財政問題、社会保障のあり方、さらに長期化することが必至の米中関係を含めた地政学的な日本にとってのリスク等は、それぞれ持続可能性という観点で大きな影響を及ぼすものだ。これらをふまえて、目指すべき国家像を所信表明で示していただくことで、一方でしっかり仕事をしていただき、もう一方で大きなビジョンを語る姿を見せていただくことを期待する。
Q : 菅首相は、携帯電話の通信料金の引き下げ、不妊治療の保険適用、中小企業の再建などの個別の政策を示し、具体的な政策を進めることは国民にとってはわかりやすいが、全体像はあまり見えてこない。デジタル庁は2021年には関係法案を提出、改正し、2022年には発足すると言われているが、あまり拙速に進めるとできるものもできないと思う。行政に横串を刺すことを掲げている中、経済同友会の夏季セミナーでも、デジタル庁には非常に強いリーダーシップが求められると、参加者から発言があった。デジタル庁に絞って、代表幹事の政権に対する要望を伺いたい。
櫻田: 国民は、なぜデジタル庁が必要か、あまり腑に落ちていないと思う。新型コロナウイルスの影響でデジタル政府を標榜していた、あるいは以前から話があったが、いかに遅れているか、不便さがわかったためなのか。新しい普通に対応するためのITデジタルに不便さを感じたためなのか。そもそも経済同友会が主張しているように、日本は3周遅れと言われているデジタル化社会の構築に向けて、日本を新しい成長に向けていくのに必要なためなのか。これら全部が理由だと思う。この全体像を踏まえて、日本を前進させるためにデジタル庁が必須だが、明確な理由を説明しないまま、一つ一つの具体策だけを伝えていくとそれ自体が目的になってしまう。それらの政策が重なった結果、デジタルを使って日本をどのような国にしたいかがぼやけてしまうことが心配だ。今度こそ、デジタル庁で何を成し遂げたいか、しっかりと発信すべきだ。最終的にデジタル庁の取り組みが日本の競争力、成長力強化につながることが大前提だ。しかし、現在は、大変遅れている実態の中で、どこに追いつき、どの国のレベルを目標とするか明確にすべきだ。具体的な国の姿を示した上で、デジタル庁を設立していただきたい。そのためには、まず、目標とする国のデジタルの執行体制や司令塔がそうであるように、多くの機関では、ユーザーに対する知見が高く、失敗、成功の両方を経験されている実務家が据えられていることを確かめていただきたい。2点目、活力ある組織をつくるためには、そのトップに、重要な権限を大きく委ねていただきたい。そして、その権限の中には、当然のことながら府省を超えた指揮命令権を持たなければならない。府省横断(の指揮命令)をルール化する、可能なら法に謳うことが必要だ。何のためのデジタル庁か本質を国民に示して、人選、ルール、法制などを示していただきたい。われわれ民間も甘えているわけではない。環境を整えていただいた上で、日本が遅れているデジタルを使った新しいサービス、商品をつくって、競争を促していきたい。また、国民のマイナンバーカード普及率は、推進活動をしたにもかかわらず、2割に達するかどうかだ。マイナンバーカードに対するリテラシーを高めるために、まずはインセンティブを理解してもらい、関心を持ってもらうことが必要だ。デジタル庁が担う部分は非常に広い。なぜ必要かが重要だ。
Q :デジタル庁がどういった姿となるか、現時点では分からないが、マイナンバーカードの普及や行政のデジタル化のほか、AIやドローン、ロボットなどの、いわゆるデジタルアーキテクチャー等による産業界のデジタル化というものも、デジタル庁が一緒に担当した方がよいと考えていらっしゃるか。
櫻田: 結論的にはそのように考えている。それぞれは根の部分で繋がっており、今回の新型コロナウイルスの件で分かったように、B to BやB to Cという概念はあるが、やはり経済の根幹を担うのは消費者、そしてB to Cであることがはっきりした。社会はB to Cそのものであり、デジタル庁はその社会を変えようとしている訳である。従って、(デジタル庁が)全てのデジタル化を扱うべきと考えている。
Q : 先ほどの話にも出たが、NTTがドコモを完全子会社化するという件について、1992年に一度は分離させたものを、また今回、再び元に戻すということへの受け止めを伺いたい。
櫻田: 色々な推測は成り立つと思うが、公式にはNTT社が発表されている通りと受け止める。しかし、ご質問の中で大変良いポイントを指摘されたが、かつて一度分離させたものをまた一緒にするということについて、親子上場するという訳ではないため、ガバナンス上の問題はないと思っているが、私自身が経営者として感じていることは、持ち株会社の役割というものは(状況に即して)変わるということである。いわゆる子会社である事業会社に対して株主として機能するときもあれば、執行をグループ横断で行うときには、持ち株会社が(自ら)行った方がよいということもある。したがって、持ち株会社の機能からみたときには、NTTドコモをある時には事業会社として、そしてある時は、グループ横断のデジタル戦略を推進するためのファンクションとして機能させた方がよいという判断もありうると思っている。もちろん反対側には、これから携帯電話料金値下げの話が出る中、競争力をつけ、レジリエンスを高めないといけないという事情もあるかもしれないが、私自身はそうではなく、持ち株会社というものは時代や環境に応じて、その戦略や機能が変わってもいいと思っており、それがしっかりと株主に説明できるのであれば、判断としてありうると思っている。
Q : 概算要求に関して、新型コロナウイルス対策を理由に、金額が不透明なまま、なし崩し的に膨らんでいくという懸念があると思うが、新型コロナウイルスを隠れ蓑にしないといった指摘はどういったタイミングで必要となると考えているか。
櫻田: 先ほども、首相への期待と要望をお伝えするという件でご質問があり、その中で大変評価していると言ったことは、具体的な数値や目標、期限がはっきりしてきていると感じる点、そしてDX、デジタルに関しては先述の通りである。そして2つ目に申し上げないといけないと感じているのが、(財政)の持続可能性の話である。まさに今回の概算要求において、麻生太郎 財務大臣の話によると、基本的には前年度額の要求として、新型コロナウイルス対策については別途検討という話になっている。別途検討した結果でまた160兆円という話であれば、一体どこに工夫があったのかという話となるし、さらに今回は(補正予算で計上された)10兆円の予備費をどう使っていくかについては、まだこれからの検討となっている。したがって、そういった意味ではサステナビリティと新型コロナウイルス対策を、今度こそ両睨みをしながら、持続可能な財政構造と、新型コロナウイルス対策と予算の関係について、しっかりと説明できるような予算作りが必要である。なし崩しというのはありえず、そういったことを続けていくと、短期的には何とかなっても、長期的には国際社会からの信用を損ない、大変怖いことになるということを、機会があるごとにこれまでも言ってきたし、今後も言っていきたい。政府も、その点はよく分かっていらっしゃると思う。
Q : 先日、夏季セミナー(9月10日、11日開催)にて発足した「未来選択会議」について今後のスケジュールと、同会議を通じた菅政権への意見表明について伺いたい。
櫻田: 「未来選択会議」について、昨日の本会正副代表幹事会で報告し、これから今後の中身を議論していく段階。これからどうしていくのか、現時点で会として申し上げることはできない。事務局による報告内容を簡単に申し上げると、同会議がパネルディスカッションの集合体になってはいけないということだ。マルチステークホルダーによる予定調和的でない議論を行い、この国の中長期的なあり方やその論点と選択肢を工夫して提示することによって、国の政策決定プロセスに対する影響力や発信力を高めたい。例えば、若者の政治参画についても、経済同友会がどう考えるかではなく、対立軸をしっかりと示すことが重要。夏季セミナーにおける議論のように、インターネット投票について、参加した学生からは必ずしも賛成ではないという意見が出た。ただしそれは若者全ての意見とは一致せず、特別な関心の高い若者が持つ意見かもしれない。インターネット利用に伴うネガティブな面やリスクにはしっかりと対応したうえで、もっと多くの人に投票に参加してもらうためにはインターネット投票が有効という意見もあるだろう。また、東京一極集中については会議の中で興味深い話題提供があったが、対立軸は見えにくかった印象だ。デジタル化を進めれば、機能は東京に集中したまま、物理的な分散が起きるのかというと、そう(単純な話)ではないないだろう。国民やメディアにも参加してもらい、発信してもらうためには、どのような観点があり、どちらが国民からみて正しいと思われるかどうか、といった論点提示が必要である。正副代表幹事会の中でも、対立軸がどちらも経済同友会の意見と異なる場合はどうするのかという質問も出たが、(本会の考えと)異なる意見もまた論点として重要である。いずれにしても、経済界だけで社会の行く末やあり方を規定することはできず、マルチステークホルダーの皆さんにコミットしてもらい、菅政権には会議体の議論に注目してもらう必要があるということだ。
Q : 昨年10月に行われた消費税の10%への引き上げから約1年経つ。持続可能性の観点から必要であったという意見がある一方、日本経済に悪影響があったという指摘もある。経済同友会としては消費税を引き上げるべきという立場かと思うが、消費増税の評価と今後消費税を引き上げるタイミングとしてはいつがよいと考えるか。
櫻田: コロナ禍がなければ、経済は消費増税により一旦落ち込んでも、その後持ち直したのではないか。ただコロナ禍により、経済環境や消費者のマインドは一変してしまった。コロナ禍による国民生活への大きな爪痕が残るなかで、消費税率の引き下げも含めて検討すべきという意見があるが、私は仮に消費税を引き下げても、経済が元に戻り、成長過程に入るかどうかについて、自信をもって言うことはできない。今回、数十兆円規模で新型コロナウイルス対策費が計上されたが、(真に必要な人々の)救済に使われた一方で、DXや規制改革、eラーニング、(本会が提言する)再生可能エネルギーの推進といった、持続的成長に繋がるインフラ投資やワイズスペンディングの観点が欠けていると思う。2025年までのPB黒字化が現実的ではないなか、菅政権には消費税率をさらに引き上げる意思とその能力を内外に示すとともに、(財政の持続性について)議論を開始し、国民に現実を示し、持続性を確保する責任があると思うし、(実行していただけるものと)期待している。
Q : ファーウェイ関連の事業の先行きの見通しが立たず、キオクシアホールディングスが上場延期、ソニーがファーウェイ向け半導体の出荷停止をするなど、米国のファーウェイに対する締め付けが厳しくなっており、日本企業に影響が出ている中で、政府に求めたいことはあるか。国際情勢が動く中で、日本企業はどのように対応していくべきかお伺いしたい。
櫻田: 非常に難しい。何を大事にするかが重要と思っている。日本国内のみで活動する企業とグローバルに活動する企業がある。日本国に住む国民も多様な価値観を持つ。米中デカップリングと覇権争いは、10、20年という単位以上に長く続くことが想定される。(今後の対応を考えるうえで)1つ目の前提は、これまで以上に日本の立ち位置をどうするのかということが求められる(ということだ)。2つ目の前提は、日本企業が国内・国外展開にかかわらず、国民を含めて、民主主義という(普遍的)価値観を疑わないことだ。3つ目の前提は、武力による現状の変更は絶対に許さないということだ。これらを確認した上で、次に経済安全保障について議論していく。その後に、(個別企業の)純粋な利益の追求という流れがある。この流れを変えることは難しく、この中で各企業が企業戦略を作ることにならざるを得ないのではないか。ジオエコノミクスという言葉が聞かれて久しいが、(国家の)外交や政治から純粋に離れた企業活動はない。企業経営戦略もそれを踏まえて検討しなければならない。マーケットとしての中国なのか、製造拠点としての中国なのか。チャイナ・プラスワンの話があるが、中国との付き合い方を各企業は一生懸命考えているだろう。これまで以上に(中国に)傾倒していくのは難しいのが現状と考える。2点目は、米国と中国のどちらをとるのかということだ。日米安保を主軸におきながら、中国とどのように付き合うのが日本国、日本国民にとって良いのか考えながら、企業は活動していくのだと思う。業態や個社によって有り様は異なってくるだろうが、その姿が少しずつ見えてくるのではないか。ファーウェイの問題が直接(キオクシアHDの)上場延期に影響したかは、個社の話を聞いていないのでわからない。各企業が中国との取引でどれくらいのエクスポージャーを持つのか、政府に関心を持って情報を集めることをお願いしたい。
Q : 10月よりGoToトラベル事業の対象に東京発着が追加される。東京発着の除外解除による経済効果や、経済を回復基調に乗せるために必要な次の政策についてお考えを伺いしたい。
櫻田: GoToキャンペーン事業総額1兆6700億円のうち、大半がGoToトラベル事業に使われるのだと思う。実際にはまだほとんど執行されていないだろう。去年の8月の国内宿泊数が5300万、今年はその半分にも達していない状況から、(これまでのところ)経済効果は少ない。だが、東京が対象に入ることで、効果が一気に膨らむことは十分にあり得ると考え、大いに期待している。受け入れ側の地方は、観光客に来てほしいが、感染の拡大は困るといったように、悩ましいと思う。受け入れ側の地方の理解を得ることが必要である。安全かつ効果のある旅行の仕方や、効果的な宿泊施設の対策が、GoToキャンペーン開始後の2か月で判明したはずだ。そのようなベストプラクティスを共有していただきたい。効果的なことを共有し、みんなで真似することが、とても大事だと思う。お互いに安心につながる。データと事実を共有することが重要であり、掛け声だけではだめだと思う。経済効果はまだまだ伸びてくるものと期待している。
Q : 2021年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックについて、組織委員会は簡素化や、聖火リレーの実施概要を発表するなど準備を進めている。延期や新型コロナウイルス対策に伴う費用負担の増加と補填については、依然不透明な部分が多い。東京都は来年の法人税の減収が見込まれる中、東京オリンピック・パラリンピックの開催費用をスポンサー企業からの収入や国からの補填で補わなければならない。東京オリンピック・パラリンピック開催についてのお考えと組織委員会はどのように準備を進めるべきかを伺いたい。
櫻田: 東京オリンピック・パラリンピックは是非開催していただきたい。再延期はないと思う。23日のトーマス・バッハ 国際オリンピック委員会(IOC)会長と菅首相の電話会談の報道を見る限り、方向性は一致したようだ。一定の安全策を講じることで、開催可能とするバッハ会長の書簡を信じ、開催していただきたいと思う。重要な点は、コストである。どこが負担するのか、負担できないのであれば、コストを圧縮するほかない。現時点では、総額や負担のスキームが議論されていく段階であり、それを伺ったうえで何が合理的であるか判断していく。必要分を自動的に経済界が負担するという論調に、与するわけにはいかないと思う。
Q : 携帯電話料金の値下げについて、先ほどのお話の中では、デジタル社会構築の中の1つのピースというご認識かと思うが、携帯電話料金の値下げは、国民にとって非常に生活に密着した関心事でもある。安倍政権の時からこの話は出てきていて、先週は高橋誠 KDDI代表取締役社長が真摯に受け止めているというような説明をされた。ここまでの経緯について、お感じになることを伺いたい。
櫻田: 経緯は首相に聞かなければ分からないが、事実関係を見ると確かにご指摘のような点があることに間違いない。ただ、この課題は(関係者が)議論して解決できるということでは必ずしもない。何を言いたいかというと、携帯電話もそうであるが、類似した話として、例えばテレワークの定着がある。私どもの会社では、まだ6割以上は、テレワークを行っているが、何ら支障は生じていない。それがニューノーマルになるように、制度やインフラを含めて変えていこうと思っている。これも今まではできないと言っていた。しかし、無理やりでもやってみたらできた。やってみたら良いことが沢山見つかった。つまり、議論がし尽くされて、「これだ」となってから進めなければいけないことと、まずはやってみて、それが新しい普通なのだと理解して進めていくことは違うのだろうと思っている。携帯電話はどちらなのかというと、世界的に見て、やはり(日本の携帯電話料金が)高いことは間違いない。料金に見合うようなサービスに変えられないのか。(通話・通信が)ブチブチと切れてもいいということではなく、いざという時に繋がらなくてもいいということでもない。ただ、ヨーロッパの携帯電話の(通話・通信の品)質が、日本と比べて著しく低いとは聞いておらず、その水準に一旦目標を合わせてみて、思いっきりストレッチをして(価格を下げて)みて、問題があったら直そうではないかというたぐいに、この携帯電話料金(の話)は入るのだろうと思う。先ほどのテレワークも同じである。粒々のことばかりで全体像が見えないと申し上げたわけではなくて、やはり世界の常識と照らしておかしいと思うことを直していくことは、どんどんおやりになられるとよいと思う。そして、全体像としてそれがどこに向かおうとしているのかということを、分かるように説明していただくと、私は納得できる。(新政権の)新しい資本主義(が目指すの)はこのようなことであるということを、所信表明演説で述べられるのではないかと期待している。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)