櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
日時 | : | 2020年2月5日(水) 13:30~ |
出席者 | : | 櫻田 謙悟 代表幹事 橋本 圭一郎 専務理事 |
パラスポーツ運動会に関する冒頭挨拶の後、記者の質問に答える形で、(1)新型肺炎、(2)ダボス会議、(3)サイバー攻撃、(4)地方のSDGsに対する取り組み、(5)春闘、(6)障がい者対応、(7)桜を見る会などについて発言があった。
冒頭挨拶:
経済同友会主催で開催した「パラスポーツ運動会」に関して、簡単にご報告と今後の活動について、ご説明させていただく。今回は、2017年11月と、昨年2月に続き、3回目で、武蔵野の森スポーツプラザで開催した。前回は18チーム、332名が参加され、当時、国内最大規模と報道していただいたが、今回はそれを超える21チーム、406名の参加があった。感謝申し上げる。競技は、企業対抗形式で、ボッチャ、シッティングバレーボール(ソフト)、車いすポートボール、車いすリレー、の4つを行った。私自身も、開会からボッチャの途中まで参加した。ボッチャを体験して、最初は正直地味なゲームと思ったが、戦略的かつ知的な面白いゲームと言うことが分かった。百聞は一見に如かず、体験に越したことはないということと、対戦チームに車いす身障者のプロ級の専門家(CAC Holdings所属のボッチャアスリート、佐藤駿選手)がいらっしゃった。その人から出るオーラ、集中力を見て感激した。もちろん負けたが、やっていて面白かった。ダイバーシティとインクルージョンは言葉ではなく、行動、ライフサイクルの中で障がいのある方と常に一緒にいることが大事である。最終的なダイバーシティは、これだと思った。ジェンダーは最低限で、国籍、年齢、身障者と健常者が問題なくわだかまりなくお付き合いできる社会を作ることが、ダイバーシティとインクルージョンの本質だと思う。経済同友会はもとより、SOMPOホールディングスとしてもやっていきたいと思う。さて、経済同友会としての今後の活動であるが、この夏の東京オリンピック・パラリンピックの成功に向け、本会を挙げて協力を継続していく。具体的には、3月には12回目となる「アスナビ」、トップアスリート就職支援説明会を実施する予定である。さらに、来年度も「アスナビ」や昨日開催した「パラスポーツ運動会」の開催を検討中である。特に、パラリンピック競技を含めた「パラスポーツ」は継続的に支援していく。いわゆる"ポスト2020問題"として、東京オリンピック・パラリンピック後に皆さまの関心が遠のくのではないかと懸念されているが、経済同友会は、東京オリンピック・パラリンピックの後こそがむしろ重要だというくらいのつもりで、力を入れていく。
Q : 新型肺炎の感染拡大が止まらない状況にある。中国現地では工場などの休業期間が延長されているが、現状をどう捉えているか、また今後、企業に与える影響をどう見通しているか伺いたい。
櫻田: メディア、あるいは中国を含む当局を通じて、発表されるたびに(感染が)拡大している状況を見ると不安にならざるを得ない。一方で真実がわからないことが最大の悩みである。先日も経済同友会の幹部で議論したが、実体経済への影響は、工場が止まる、インバウンドの人が減る、物流が滞るというような直接的な影響以上に懸念されるのがセンチメントへの影響である。すなわち、これがあるため何もしない、心配なためどこにも行かない、何も買わないというようにセンチメントが非常に悪くなってくることが心配である。すでにある各種の不確定要因に加え、これが得体のしれない形でもって伝播していくことが非常に心配されている。具体的にいくつかの企業にアンケートを取り、実態を聞いてみたが、すでに本社内に対策会議室や本部を設置しているところが多くある。そして現時点では、中国全土に対して不要不急の渡航は自粛するよう呼び掛けており、感染症危険情報がレベル3にあがることも考えられるため、その場合は出向社員全員の帰国も検討をしているというところもあった。損保ジャパン日本興亜の現地子会社においても、現時点では(渡航の)自粛、あるいは2月10日までは業務を再開しないように各当局、地方政府からの行政命令が出ており、当然この指示にしたがっている。再開日までは日本(人)に限らず、職員全員が在宅勤務しており、オペレーションが止まっている状況である。これもあり、実際に何が起きているのかわからないため、当局や特に中国政府に求めたいのは、可能な限り迅速に真実を正確に伝えていただきたいということに尽きる。
Q : 1月21日~24日に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)について伺いたい。国際的に環境問題、環境投資への関心が高まっている中でどのようなパネルに参加されたのか。また、経営者同士の交流の中で見えてきた世界的な潮流や実感されたことを伺いたい。
櫻田: 今冬のダボス会議のテーマは、日本語では「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」だった。持続可能な結束した世界というのは、環境問題だけではないはずだが、印象という観点で申し上げると、私の参加したプログラム、積極的にこちらから主張したもの、それに対する反応含め、圧倒的に環境問題が多かった。(テーマに)環境問題が多いこと自体は悪いことではないが、サステナビリティイコール環境と、物事が狭く捉えられるのは心配だ。また、私がお会いした人たちに限ってかもしれないが、ビジネスのインボルブメントが少ないと感じた。環境問題はもとより、サステナビリティはこれからの収益性と同義と考えている。サステナビリティのないところに収益性はない。逆に、利益のないところに持続可能性もない。持続可能性と利益を同義のものとして考えていく経営が重要であり、会議でもそのように主張してきた。多くの人は賛同してくれるが、実際にビジネスサイドがどのような形で巻き込まれるか、自ら取り込んでいくかの議論が少なかった。グレタ・トゥンベリ氏の影響力が非常に強かったこともあるだろう。トランプ米大統領の基調講演でも、根拠のない悲観主義に陥らないようにといった発言があったり、エコノミストでない方が経済問題を無視して環境問題だけを一方的に主張するのはいかがかという批判があったり。環境に対して賛成、反対と(二元論的で)どちらかというと議論が狭いように感じた。ステークホルダーは、これからの資本主義を引っ張る重要な概念で、ステークホルダーには地球も含むというのが今回の概念だ。クラウス・シュワブ世界経済フォーラム会長もそのように主張されており、資本主義に代わるもの、さらに補強するものとして、我々は何をしたらいいのかというのが最大のテーマで、キーワードはサステナビリティだと話されていた。また、会議期間中、SOMPOホールディングスが米TIME誌と共催したディナーディスカッションで、シュワブ会長はキャピタリズムに代えてタレンティズムだとも述べられた。我々が抱えている地球の問題は、一国や一経済、一企業で解決できるものではなく、世界中のタレントを集め、エコシステムをもってして解決しなければならないという議論で、大変高邁で重要な提案ではあったが、これに対し特定の才能を持つのではだめだとの意見もあった。(ラッパーで慈善活動家の)ウィル・アイ・アム氏は、タレンティズムという言葉に大賛成で、これからの地球の問題を解決するのに、世界中のすべての人のタレントを結集する必要があり、優秀な人やエリートの声を集めるのではなく、地球上のすべての人がタレントを持っていることを念頭に置いて、本格的なダイバーシティ&インクルージョンを進めていかなければならない、そのためのムーブメントをここからつくりたいと主張されていて、非常に感激した。ESGの新しい形がそこからくるかもしれない。ただ、エコノミックフォーラムのわりに、ビジネスサイドの意見が少なかったという印象だ。
Q : 新型肺炎に関して各社へのアンケート、聞き取りを行ったとのことであったが、対策会議室を設置している企業や、レベル3に上がった場合に出向社員全員の帰国を検討している企業の数について教えていただきたい。また、会社によって対応は様々であり、例えば社員全員をテレワークとするなど、業態によってもそれが出来るかには違いがあるとは思うが、一つ一つの企業として、感染拡大を防ぐという観点から、どのような対応を社員に対してすべきと考えているか伺いたい。
櫻田: 全体として何社中何社という形での統計は取れていないため申し上げることはできないが、私の聞いた大企業十数社の中では、少なくとも半数以上は何らかの形で本部を持っていた。それは今回に対しての対策本部というよりも、そもそも各社ともBCP(事業継続計画)を持っているため、BCPの中での危機管理対策が自動的に立ち上がったということで本部がある。もし後者を指すのであれば、少なくとも上場企業にはほとんど全てBCPがあるため、対策本部があると考えて大きく間違いはないと思う。また、これ以上感染が拡大した場合の話に関しては、たらればの仮定の話でもあり、基本的には先ほど申し上げた通り、渡航自粛から帰国というものを考えていらっしゃるようである。それよりも何より、いま彼らがしなくてはならないことは、事態が収束しない状態のまま、就業禁止や営業禁止が続いていくと、一体どうなっていくかというファクトが掴めていない、今後の見通しが掴めないということが最大の問題であり、危機管理対策室に情報がなければ指示もできない。したがって現時点では動きがとれないので、自宅待機にならざるを得ないというのが現状である。一旦待機とした企業が今後どうされるかということは、少なくとも今はレベル2であり、武漢はともかくとして、必要であれば日本人は戻るという指示をされているところもあるようだが、多くの企業は帯同している家族については日本に留まり、本人のみが行くという形になっている。また、マスクその他の当然の防備については、全て支給しているとのことである。
Q : BCP自体はある場合でも、感染症対策のBCPがどこまで企業の中で策定されているのか、疑問を呈する有識者もいる。先ほどのアンケートや聞き取りの中で、感染症対策のBCPを各社作っていたかについて教えていただきたい。また、BCPの整備にあたっては、災害の他に、感染症対策のBCPというものがない場合は、早急に整備すべきとお考えであるか。
櫻田: 本件に関して私の頭にあるのは、既にSARS(サーズ)の際にパンデミックがBCPリスクの中心となっており、ほとんど企業で(感染症対策のBCPは)出来上がっているであろうという前提で質問したため、感染症対策のBCPの有無という形では質問しておらず、分からないというのが正直なところ。ただ、少なくとも現状をみる限りでは、SARSに比べるといわゆる危険度は低いと言われており、統計を見ても、2月4日現在、日本での発症者が16名で死亡者が0名。世界では、圧倒的に多いのが中国であり、感染者が1万7千人強、死亡者が、昨日時点で361名。その次に多い国を見ていくと、タイの19名、シンガポールの18名となっており、その後は一桁に下がっていき、中国以外での死亡者はゼロとなっている。今早急に何かをすべきということではなく、ご質問に沿ってお話させていただくと、既に存在するであろうパンデミック対策で、十分機能するはずであると考えている。ただ、何度も申し上げているが、収束の目途が立たない点について専門家の間でも様々な見解が出ており、収束までは3か月くらいや、前回のSARSを参考に6か月程度という意見もあり、これに対する不安があるため明確な意思決定ができないという点が、経営者の一番の悩みではないだろうかと思っている。過度な心配をしないようにと言われているが、過度にというものがどの程度なのか分からない。こうなるとコンサバティブに見ていくということになり、出来るだけ感染を防ごうという行動を取らざるを得ない。こういったセンチメントの連鎖が経済への悪い影響を及ぼすことは間違いないと思っている。
Q : 防衛関連企業が相次いでサイバー攻撃を受けている。東京オリンピック・パラリンピックを前に企業として取とることができる対応を伺いたい。
櫻田: 防衛関連企業を問わずサイバーアタックは、まず先に弱いところが狙われ、穴が見つかればそこから侵入され、最終的に本丸にたどり着かれてしまうのが最近の傾向である。防衛省にアタックをしてすぐ穴が見つかるのは通常あり得ないが、東京オリンピック・パラリンピック2020やその後、新しい戦争としてサイバーアタックは大きな脅威となるだろう。いつ何時起こるか、またその影響も分からないが、我々にできるのは弱いところを探すことで、大企業も必死で対策を打っている。サイバー攻撃対策の診断をしたり、ワクチンを提供したりする企業も出てきている。とりわけ注意すべきは、大企業ではなく、大企業とネットワークでつながっている中小・中堅企業が狙われる可能性があり、実際いくつかの事例が出ている。中小・中堅企業の穴(セキュリティ・ホール)を通じて侵入され、部品やソフトウェアの提供先である親会社や元受け企業が攻撃されている。今企業がやるべきことは、グループと取引先のサイバーリスク分析を徹底的に見直すことだ。民間の力を結集し、全軍を上げて取り組まなければならないし、各社各様の得意分野があるため、無駄な競争をしないことが重要である。
Q : ダボス会議で環境の話が多かったが日本でもSDGsの未来都市や地方の取り組みが広がっている。先ほど、利益のないところに持続可能性はない、という指摘があったが、地方のSDGsに対する取り組みについてご意見を伺いたい。
櫻田: SDGsは大事だが、サステナビリティがベースにあることは誰も否定しない。持続可能の血液は経済で、経済を動かすのは利益に他ならず、利益を上げること自体は悪いことではない。問題は、利益の上げ方と配分である。地方において経済や活力、利益の優先順位を下げて、SDGsや環境を重視していくと、地方経済が縮小するだろう。地方こそ生産性を上げていくことを最上位のテーマに掲げつつ、稼ぎ方と配分についてはSDGs等に十分配慮するべきだ。企業の戦略の問い方と同様に、自分たちの県の課題と強みを再点検することが必要で、経済同友会でも各地との懇談を通じて議論している。北海道と沖縄と四国4県で同じ戦略であることはありえない。また、ESGsやサステナビリティ、CSRは大事だが、日本が持続的に成長することは、大前提に日本の競争力の向上があることを再確認して進めていかなくてはならない。ややトーンダウンするが、エネルギー問題については日本はもっと主張しなくてはならないということを、今回のダボス会議への参加を通じて改めて強く感じた。
Q : 先日、連合は格差是正などの春闘方針を発表した。昨年12月、連合との幹部懇談会を開催され、その時、連合と春闘の話はあまりしていないが、財政機関について一緒に行動できるところがあるとのことだった。その後、連合と春闘方針についてお話しされたか。また、ジョブ型雇用など通年採用について所見を伺いたい。
櫻田: 春闘方針については、神津さんのところとは一切話をしていない。そもそもこの点について議論しても、すれ違うだろうと思う。反対賛成ではなく、春闘というのは「今年どうしますか」の話である。私共の答えははっきりしていて、企業ごとに収益環境が大きく異なるので、その戦略と収益力に基づいて、各社の判断でやるべきということをずっと申し上げている。そもそも、春闘方針について団体が出す、出さない、団体で議論をするということ自体が、もはや時代遅れだろうと思う。意見の一致をみた一つは、このまま日本の企業が、メンバーシップ型(雇用)が圧倒的に多い雇用体系のままでは、やはりダメなのだということだ。この点について、神津さんのところも十分理解されていると思っている。メンバーシップ型に対するジョブ型がということになるが、私共としては、ジョブ型の割合がもっともっと多くならなければならないと思う。もっともっとというのが5割なのか、3割なのかはこれから議論する。少なくとも30%を切って、「ジョブ型がしっかり導入されています」というのは、違うかと思う。この割合についてはともかく、何らかの形のハイブリッド型雇用が必要だという点について、同意している。独立財政機関、財政についての危機感については、全く共有している。そのために、他の先進国がそうであるように、日本にも政権あるいは政府から独立した財政機関が必要だということを、連合も理解している。もし間違っていなければ、仕組み、置く場所、権能、人事まで含め、具体的に提言をしたのは、我々が初めてだと思っている。初めてではあるが、一緒にできるところは、ぜひ一緒にやっていきましょうという話をしている。本質のところは、独立財政機関をつくることもそうだが、それ以上に、連合との間で一致しているのは、主権者教育である。本来、独立財政機関を作っておしまいではない。主権者教育、特に若い人が自分たちの投票権というのを正しく理解し、正しく行使することによって、今の政治は変わる。政治が変わるというのは、結果としてのシルバーデモクラシーを是正するためには、なんといっても主権者教育が必要だ。主権者教育ができれば、独立財政機関は自動的に動き始める。独立財政機関を作っても、主権者教育がなければ、専門家の議論の場となり、やはり国民からは遠いものになってしまう。これではだめだ。この2点については、神津さんとは一致した。連合がずいぶん変わったのか、経済同友会がずいぶん変わったのか、もともとそうだったことに気が付いたのか。私は一番最後のところだと思う。話し合うべきことはもっと話し合って、一緒に行動できることは、一緒に行動していきたい。
Q : 冒頭「パラスポーツ運動会」の説明があったが、障がい者対応について経済同友会として考えていることがあれば伺いたい。
櫻田: 経済同友会として正式に議論をしたことはないため、私の感想になる。昨日障がい者の方と一緒にスポーツを体験して感じたことであるが、大事なことは障がい者と、健常者が一緒に仕事をする、一緒に場を共有することによって、何も違わないどころか、新しいアイデアが生まれてくる可能性があると感じた。私は前に、イノベーションはダイバーシティから(起きる)と、ダイバーシティはジェンダーイシューでは足りないと申し上げた。ジェンダーイシューすらできていないところはもっと足りていない。こういったところを突き詰め、個社でいうと、ダイバーシティを原動力にするような取り組みができないか、そのための専門の部門が作れないかを検討してみたい。全国にある多くの支店に関わっている障がい者の方と一緒にボッチャをするだけでなく、スポーツをはじめとして、その地域の社会の作り方について議論する場を作ることに繋がるような取り組みをしていきたいと思った。
Q : 国会が桜を見る会で紛糾している。ホテルとの契約は個々の参加者であるとか、募集はしていないけど募っているとか、やや苦しい安倍首相の答弁等について、全体をどのように見ているか伺いたい。
櫻田: 経済同友会代表幹事として、全体を見てどのように思うかというと、あれで説明なのかなという印象を持った。(質問に答えるときには)国民はこれで納得するだろうか、納得とは、「良く分かった」から始まって、「仕方ない」まで含まれるが、(今回の答弁は)どれにも当てはまらないだろう。質問する方も質問する方であるが、そういう(質問をする)あなた方は何を目的にそれを聞きたいのですか、私は分かっているが、それが国民から見ると、国民のために聞いてくれていると、思っているのかなということ。それからその質問に対して答えている方も、質問者の意図が見えるので、国民がよく分かるように、説明しようという雰囲気が作られていないという点において、時間の無駄であるというように思わざるを得ない。もっと大事な法案が山ほどあり、何をしているのかなという憤りを感じる。
Q : 先ほどダボス会議の説明の一番最後のところで、「日本はもっと主張していかないと」と発言されたが、これは利益のないところに持続性なしということで、SDGsにしてもエネルギーにしても、利益が出せるような取り組みでやっていかなくてはいけないという意味か。
櫻田: そうである。慈善活動ではないので、長続きするためには何らかの仕組みが必要。仕組みというのは利益しかないはずである。利益を生むときに生み方が、短期思考ではないか、それからステークホルダーを意識しているかと、つまり同じ商品を出すにあたっても、商品をつくるまでのあるいはサービスをつくるまでの間に、どれくらいステークホルダーの人たちと議論しているかということをきちんとアピールすることができているか。そうすると同じ100万円の利益でも、これはよく考えられた100万円だ、これは売った買っただけで儲けた100万円だと。この違いは大きくあり、私は実をいうとどうしてかたや100兆円の時価総額、かたや頑張っても数十兆円の時価総額なのかと。それは世の中に対するバリューを提供した結果、バリューの差が何十倍もあるから、アップル(Apple Inc.)100兆円と日本の一番大きいところでも数十兆円ということなのかというと、私はクエスチョンマークである。何が言いたいかというと、株主に対してはそうかもしれないが、世の中に対するバリューの測り方というのは違うはずで、それを株価と株価×発行数という、つまりそれが時価総額だとすればそれで測るのか、世の中に対する価値の提供をこういう基準で測るということであったら、日本の企業はもっと2倍、3倍というような評価、それを時価総額と呼ぶのか、企業価値と呼ぶのか分からないが、まあ企業価値であろう。このようなことは必要だと申し上げた。したがって稼ぐということは大事である。稼ぎ方が大事であるし、稼いだ結果の配分の仕方も大事である。全てを株主にというのは、やはり昔から日本はそうではなかったわけである。もう一点は、やや雑談に近くなるかもしれないが、私が一緒にこのダボス会議で行ったディナーディスカッションのテーブルに、英国中央銀行の方がいた。最初の話題は残念といえば残念であるが、半分冗談を含めて、楽器の箱に隠れて出国した人は今どうしているのかと、日本はそれに対してどういう感覚を持っているのかという質問があった。私は何を聞きたいのかと質問したが、もっと日本は説明責任を果たすべきだと、彼自身は日本が素晴らしい法治国家だと思っているし、分子分母の関係が全然違うのに、つまり検挙する、逮捕・基礎する対象というものの制度が他の米国や英国や仏国などの先進国と比べて、圧倒的に精密な検査、精密な捜査をした結果、ぎりぎりのところで逮捕・起訴に踏み切っている。それを分母にして分子と比べたら90何パーセント。そうではなくて、彼はとりあえずという言い方をしていたが、とりあえずやろうかって言ったら、半分になったということは全然違うのではないかと。自分はそれを知っているけれど、それを知っているヨーロッパ人はほとんどいない。何でもっとそれを言わないのかという。最近やっと言い始めたが一番最初に言うべきだということが一つ。もう一つは、財政の問題についてもそうかもしれないが、日本銀行の信認があるから、あれだけの財政赤字であの為替を維持できている。これについて奇跡的なことが起きているということを、なぜ日本はもっと言わないのかと。ことさらに彼が言っていたのは、日本の良さを知っている人たちはたくさんいるが、日本は自慢しないのだと。もっと正々堂々と日本の良いところを主張して、ビジネスも主張していくべきであるということを言われて、励まされたがすごく悔しい思いもしたということが正直なところあった。以上が感想である。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)