代表幹事の発言

経済3団体長 新年合同記者会見 経済同友会 櫻田謙悟代表幹事 発言要旨

三村 明夫 日本・東京商工会議所 会頭(幹事)
中西 宏明 日本経済団体連合会 会長
櫻田 謙悟 経済同友会 代表幹事

画像:新年合同記者会見で発言する櫻田代表幹事

新年合同記者会見で発言する櫻田代表幹事(右)

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記者の質問に答える形で、(1)世界経済見通しと経済外交、(2)株価と為替見通し、(3)東京2020大会後の景気認識、(4)デジタル時代における経済界の役割、(5)中東情勢、(6)カルロス・ゴーン被告の国外逃亡、(7)米国との付き合い方、(8)財政健全化などについて発言があった。

Q : 昨年に引き続き、今年も米中貿易摩擦やブレグジットなど、世界経済の動向に日本は対応を迫られることになる。こうした中で、世界経済の見通しと、日本の経済団体として経済外交をどのように展開していくべきとお考えか、抱負などを伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 中西会長、三村会頭がおっしゃったことについて全く異論はない。重ならないところであえて申し上げると、いわゆる経済とあるいはその上にある政治がいわゆる下部構造、上部構造という表現をすると、下部構造が上部構造を規定するようなパラダイムが歴史的にあった。ここ数年起きていること、特に地政学で表せることでいうと経済と政治あるいは地政学は密接不可分な状況が起きてきていて、世界経済の予測は、経済の動きだけで見ていても何も分からなくなってきている。例えば年始に起きた米国とイランとの問題についても、あの瞬間でもってまた新しい均衡にたって中東を動かすかもしれない、新しい均衡は我々にどのような影響を与えるか分からない。その結果金融がどうなるか分からない。下部構造が先にあって上部構造がということではなく、最近では上部構造の方が経済を揺るがしているということに対して、我々経営者はまさに常々申し上げている通り「VUCA」の時代がきたというところで心構えをしておくべきだと思っている。そういった意味では、私は専門家ではないが少なくともIMFやOECDや日本の各企業が予測しているところをみると、世界経済に関して成長はするが成長の勢いは減るというのが一般的なところである。もう一つ、日本の成長率について、日本の政府の見通しと、民間の見通しの間に倍の乖離がある。これについてどうしてかが当然ある。言いたいのは各社各様各経済団体、自分たちの立ち位置をしっかり持ちながら強みを生かし、コアコンピタンスを追及していくという原理原則をもって立ち返ってみていく必要がある。経済だけをもって世の中を予測することはほとんどできなくなったということが一つ、もう一つは世界経済のGDPなど、その中に占めるサービス業の割合が非常に高くなってきているということが先進国の特徴である。75%のサービスセクターの成長というのは仮に5%伸びたとしても、イコール全体が5%伸びたとはならない。そのサービスセクターのある産業は10%伸びている、ある産業はマイナスということもあるので、まだら模様がおきているので平均値でもって経済を予測する、あるいは金融を予測するということは極めて物事の見方(の問題である)と思っている。もう一回足元をみながら「VUCA」の時代が「新しい普通」であるという気持ちをもってあたっていく姿勢が必要である。

Q : 年初からイラン情勢で揺れているが、今年の日経平均株価と為替の見通しを伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 経済同友会のメンバーにアンケートをとった結果を報告する。為替が105円~110円、株が22,000円~25,000円。理由については様々であるが以上ということにしたいと思う。

Q : 前回の東京五輪後には景気が落ち込み昭和40年不況となった。低成長が続く日本で開催される2020大会だが、五輪後の景気認識について伺いたい。また、もし景気減速が起こった場合、経済界や政府はどう対処すべきか、お考えを伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 結論的には三村会頭と全く同じで、全然心配していないということはないが、少なくとも大きな反動減は心配しなくていいと思っている。理由は先ほど話した通りで、前回のオリンピックの時と日本の経済構造は全く変わっている。今まさに設備投資は製造業も若干厳しくなってきてはいるが続けており、非製造業はまだまだ元気である。この元気の中には、例えば5Gに対するものやあるいはサイバーテロに対するビジネスリスクに対応するための投資もある。それらのインフラ、それらの技術を活用して、新しいサービスや新しい体験をつくりだすという動きが必ず起きるはずで、それがオリンピックを契機に必ずでてくると思っている。それがないと何のためのオリンピックか分からない。したがってそういった準備を既に経済界は始めている。経済構造は変わり、その変わっている中で特に新しいサービスを提供しようと一生懸命経済界は考えている。先ほどの説明にあった非常に大規模の真水で救済をするような政府の経済政策もあり、私は結論からいって反動減ということは心配しなくていい、むしろ景気はきているから気持ちを盛り上げるような発信力、発言が経済界には強まるだろうと思っている。

Q : 経済のデジタル化に対応した産業構造の変化が急速に進んでいる。まずは大企業が変革を求められる時代になっているという指摘がある中で、例えば就活や賃金交渉等の経済政策に対する経済界の役割にも変化が生じてくると思う。時代に沿った経済界、また経済団体の活動はどのようにあるべきか、お考えを伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: (経済団体の活動が)何のためにと考えた際には、個々人の幸せが当然ながらあり、その上で第一に雇用制度、採用のあり方について、経済の競争力に資するということが欠けてはいけない。全体最適という言葉は賛成であるが、過去30年間の平成の時代に起きてきたファクトだけを見た時、科学的に正しいかどうか別として、労働生産性という物差しで測った時に、OECD加盟国の中で、現在の位置に落ちてしまった。その背景には、既に賞味期限が切れた、戦後の当時は非常に有効であった、日本型の雇用制度、人事制度があり、ここに手を入れないで生産性を上げる、世界に勝っていくということは不可能だと思っている。ただ、全部やめる、オールオアナッシングではなく、世界には、メンバーシップ型の雇用形態と、ジョブ型の雇用形態のポートフォリオ・ミックスを持っており、日本においてもそのような仕組みがあるべきである。私は新卒一括採用ではなく、既卒者・経験者を採用するキャリア採用ということを以前から言ってきた。キャリア採用によって、良いダイバーシティを起こすべきだという考えである。政府は以前からキャリア採用という言葉を使ってくれそうな雰囲気ではあったが、皆様方メディアの紙面から中途採用という言葉が消えないため、政府はやっと経験者採用という言葉を使われ、経験者採用と新卒一括採用という言葉が出てきている。

過去の30年間を振り返り、反省すべきことは、イノベーションの欠如であり、そこには行き過ぎた同調性があり、ダイバーシティ&インクルージョンの欠如があった。これらの欠如は、人事制度や雇用制度そのものに跳ね返ってくるものであり、ここを良い意味で混ぜ返していけるかが、これからの日本のイノベーションを生み出す最大の要因になると思っている。これらの言行一致の姿を最初に見せるべきが、自戒の念を込めて言えば、私共経営者である。勇気を持って、ダイバーシティ&インクルージョン、そしてキャリア採用を進め、その状態を対外的に説明できるように努力したい。

Q : 米国とイランの緊張が非常に高まっており、原油高や円高に向かいかねない懸念も強まっている。中東情勢が日本経済に与える影響について伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 前のお二方がおっしゃったことと全くその通りである。加えることは、今回の問題に限らずブレグジットもそうであるが、国境とは何なのかが問われる事件が起きていることである。国境は民族とどう関わってくるのか、人為的に作られた国境と、これから起きてくる事件は、どう関わってくるのか。今回のことは、起きてはいけないことであるが、ますますこれから起きてくることは、(イスラム教シーア派の)三日月地帯を含めて国境の意味合いが問われていることを、私は経済人として見ていかないといけないと思っている。
2つめは、意外だったのは、ユーラシア・グループがこの問題について、10大リスクの内の8番目にあげており、予想よりも低かったことである。上位は米中である。これは予想通りであるが、このグループは経済リスクを予想しているのではなく、政治リスクや、地政学的リスクを分析しており、その中において、米中が上位を占め、中東の問題は8位である。お二方がおっしゃられたように、おそらく抑止的な力が(イランと米国の)両者に働くであろうと思う。もし、時の勢いと、感情でもって、判断してしまうことが起きてしまうと、まさにアクシデンタルな悲劇につながるので、これを止めるために、日本はあらゆる外交的な努力をすべきである。最後に日本経済の当面の石油価格への影響は、備蓄もあり、危機的なものになるとは思っていないが、今回のことや、米中の問題を契機に、中東の問題に世界が目を奪われている間に、別のところで起きている、別の考え方を持つ国の、別の考え方の行動に対して、視野が狭くなる、あるいは意識が遠のくことは、危険なことである。日本は、地理的なポジションを認識した上で、それぞれの国との距離感を測っていく必要がある。中東に目を奪われていると、間隙を縫って思わぬことになりかねない。

Q : 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が国外へ逃亡した。この件は、グローバル化の時代、コンプライアンス、遵法精神、司法制度といった多角的な問題があると思うが、どう受け止めるか。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 報道されている以上のことは分からないのでコメントはない。メディアの皆様も英語で海外に発信いただきたい。国内だけで「けしからん」と言っても届かない。日本が一番この事実を知っているとすれば、それをしっかり海外に発信することを、財界としてもそうであるが、メディアの皆様にお願いしたい。事実なら、法違反者であり、容疑者である。コメントするまでもない。

Q : 今年、大統領選を迎える米国と、日本はどう付き合うべきか。お考えを伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 米国は(日本にとって)最も重要なパートナーであるということに変わりはないが、どう付き合うかについては、その時の関係によって変わってくる。「相対的に」最も重要であり、「絶対的に」最も重要な訳ではない。米国大統領選挙を一つの不確実性として捉えた時に、現在報道されていることが事実とすれば、絶対的に、どちらが勝っても負けても納得することはなく、場合によってはどちらが米国を2つに割ってしまうような事態にもなりかねないということも頭に入れて、「米国と付き合うことはどちらと付き合うことなのか」と問われたら「両方」となる。前々から申し上げているが、不透明、不確実、あいまいで何が起きるか分からない時代にこそ、日本にとってどのような立ち位置でどのように話すかを常に自問自答しながら進めていくしかない。大見得を切って予測することの方が危ないと思う。勝っても負けても両方とおつき合いする覚悟で、自分たちの立ち位置を確認しながら一歩一歩進めていくしかない。

Q : 本日の会見の中で、財政出動に関する話はあったが、財政健全化は言及されていない。日本の財政健全度ランキングは世界最下位、その中で102兆円の予算を組んだり、13兆円の真水の経済対策をしたり、ポイント還元制度を行う余裕があるのか、ご関心をお持ちの方にご意見を伺いたい。

三村会頭: (略)
中西会長: (略)
櫻田: 失礼な言い方かもしれないが、経済同友会が発信している文章をよく読んでいただきたい。昨年11月に発表した提言『将来世代のために独立財政機関の設置を』は、社会保障のみならず将来世代のために、「このままでいいのか」という危機感のもと、政府ではない独立した機関が財政の50年先を含む中長期を見るべきだ(と主張している)。そしてメディアを通じて、もしくは直接、国民的な議論を醸成しようという趣旨であり、参照いただきたい。少なくとも、(財政健全化に対する)問題意識は非常に強い。補正予算についても触れたい。年初の予算が国会で侃々諤々議論されるのに対し、補正予算についてはあれよあれよと決まってしまった感がある。「そんなことはない」という説明もあろうかと思うが、どのような経緯で新たな経済対策が13.2兆円と決まったのかということについて詳しい説明はない。民間企業であれば費用対効果、投資対効果はROI、ROEで厳しくみられるが、そのようなこともあまりない。政治は民間とは違うと思うが、経済原理は同じようにある。強い長期政権であるからこそ、説明責任を堂々と果たせるはずである。それについてはしっかりと求めていきたいと思うし、そのようにコメントを出していることを申し上げたい。

以上
(文責: 経済同友会 事務局)

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