代表幹事の発言

櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

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記者の質問に答える形で、(1)消費増税、(2)インボイス、(3)日銀短観、(4)就活ルール、(5)関西電力の金品授受問題、(6)かんぽ生命の不適切販売問題、(7)台風15号などについて発言があった。

Q : 消費増税について伺いたい。今のところドトールの一部店舗でレジに不具合が発生したなど、一部で混乱はあるようだが、(消費)増税スタートをどのように受け止めているか。今後の経済への影響が懸念される中、政府にどのような対応を求めていくのか、経済同友会として今後どのような行動をしていくのか伺いたい。

櫻田: 経済同友会の会員の中で、特にB to Cの企業から実務的・事務的な混乱が起きているという報告は入っていない。若干の不具合はあったものの、スムーズに(消費増税が)スタートしたと思っている。また、これまで政府が取ってきた対応の中で、可能な限り需要を平準化する手当てもしており、大きな影響は出ていない。また、駆け込み需要も山高ければ谷深しということは起こっていない。むしろ重要なのは今後であり、先日公表された政府税制調査会の答申を見るにつけ、今後(財政健全化に向けて)どうしていくのか真剣に議論を始めていただきたい。経済同友会としても政府に言うべきことは言っていきたい。とりわけ、いろいろな思いの発言があったにしても、(消費税率が)10%で未来永劫大丈夫ということを言い続けるのは危険である。

Q : インボイスについて議論があるが、これについて経済同友会はどう考えているか伺いたい。

櫻田: 今回、軽減税率が導入されることによって、(制度が)非常に分かりにくくなった。その意味で、(軽減税率が)消費税制度そのものを複雑にしているという課題が一つある。また、(消費税率)10%のままで済む(日本の財政が持続可能)と思っていない。仮に今後、消費税率が10%半ばまで上がってきた時に、インボイス方式を導入しなければ、軽減税率の対象になっているものがいくらで、その税率や税額がいくらなのか(把握しにくい)。あるいは流通過程で溜まっている消費税が益税として残ることがないことを確認するためにもインボイス方式は可及的速やかに導入しなければならない。今回は、ひとまずこのような形でインボイス方式なしでスタートしたが、インボイス方式が世界的に見ても標準ということを念頭に置きながら、導入ありきで今後の議論を進めるべきである。

Q : 本日、9月の日銀短観が発表され、(大企業製造業・非製造業の業況判断は)前回から2ポイント低下し、3期連続の悪化となった。2013年6月以来の低水準で、海外経済の減速などが響いたかたちである。今後の先行き含めてどのように見ているかお聞きしたい。

櫻田: 経済同友会の景気定点観測アンケートを見る限り、直近の過去、現在の設備投資、売り上げ等々において昨年対比で明らかに低下している状況は見られない。製造業には若干(低下が)見られるが、当初予定していた設備投資を取りやめるということではなく今後の中で調整されると聞いている。非製造業はむしろ伸びているが、来期以降に対しては非常にネガティブに出ているのが実態だ。これは日銀短観でも重なった。(経済同友会会員と)議論した中では、将来に対する視界不良の程度がより濃くなったことによるものが多く、これが原因になっているので、来期以降の景気の下落が見込まれるということではない。色々な原因が考えられるが、一言でいうと視界不良が増したことに尽きる。霧が晴れたときに思ったほどではなかったということであれば、立ち直る可能性はある。

Q : 本日、SOMPOホールディングスはじめ各社、新卒採用者の内定式が行われている。経団連も就活ルールの廃止を発表しており、あらためて今後の採用活動のあり方についてお伺いしたい。

櫻田: ブームのときは一生懸命取り組んで、ブームが去ると元に戻ることのないようにする必要があると思っており、その意味でこの質問は有難い。このスタンス(通年採用やキャリア採用)はまったく変わらないし、働き方改革は日本の産業の生産性向上に向けた最大に近い重要なドライビングフォースだと考えている。戦後70年間機能してきた、正確に言えば30年前までは機能していたような制度は改められるべきで、その柱が新卒一括採用だ。この機会を捉えてキャリア採用を推進することで、ダイバーシティが進み、年齢によって労働価値が決まるという仕組みをできるだけ早期に変えることが、日本経済や(企業の)組織力、競争力を高めるのに必須だと思っている。積極的に取り組んでいきたいし、経済同友会でも働きかけていきたい。(新卒の)学生や転職希望者がこうした制度(通年採用など)を導入しない企業から離れていく状態を作り出すことが大事だ。キャリア採用が当たり前の会社がスタンダードとなり、新卒一括採用の割合が100%という企業はいかがか、という雰囲気になっていくのがいいことだと思っている。

Q : 消費税について改めてお伺いしたい。今後どうしていくか真剣に議論すべきだという話だったが、具体的に何を議論すべきとお考えか。「10%で済むと思っていない」という発言について、以前、経済同友会は消費税17%にすべきとの提言をしているが、代表幹事として今後どの程度まで引上げが必要だと考えているか。

櫻田: 何について議論するかという話は、先日発表された政府税制調査会の中期答申を読むと、2013年6月に安倍首相より、あるべき税のあり方に関する議論を求めるといった内容が諮問されている。あるべき税が何なのかということを議論するだけでなく、あるべき税がどのようであるべきかという哲学的な問いであったように思う。経済同友会が期待していたのは、直接税と間接税のあり方をどう考えているのか、法人税を含む所得税が他のOECD加盟国と比較してどのくらい規模なのかをふまえた上で、財政問題を解決するため、かつ一方で成長の原動力となる元気や意欲を落とさないために何をするかという議論であった。しかし、実際はそうした議論ではなかった。個人的には税体系の方向性は直接税ではなく、間接税中心にすべきだと考える。間接税の代表は消費税になるだろうし、前々から申し上げている通り10%では足りない。では何%にすべきかというと、経済同友会がこれまでのデータとモデルから分析したところ、2024年には14%になっているのが望ましい。また、2024年から2045年までプライマリーバランス(PB)の黒字を継続させていくためには、2024年から2027年にかけて1%ずつ引き上げ、2027年には17%に達している(という)計算になる。ただ、この計算は全要素生産性(TFP)が毎年1.1%伸びるという前提を置いており、現実的ではないかもしれない。仮にTFPの伸びが0.8%やそれ以下になると14%や17%では足らないだろう。具体的には計算上は消費税を1%ずつ引き上げないとPBを維持できない、といったシミュレーションを繰り返していくことによって、どのような仕組みでどうやって消費税を引き上げていくか議論していかなければならない。もう一つは消費税だけで解決できる訳はなく、根底にある社会保障について全世代型社会保障検討会議が始まったが、給付と負担のバランスについて真剣に具体的な数値を出して議論することが必要だ。最後に今回の台風15号で痛感したように日本のインフラはかなり弱っている可能性があり、国費を投入していく(必要性)を考えれば、財政が社会保障に多くつぎ込まれているのは心配になる。こうした点も踏まえて議論していくべきで、根底では繋がっていると思う。

Q : 日銀短観で、非製造業(の業況判断)がマイナスに出ている。先ほど、消費税は視界不良だとおっしゃられたが、消費税に関する影響について非製造業のほうでも、先行きのほうで見ているのではないかという見方も出ている。先行きについて、例えばポイント還元にも期限があり、逆に(需要)平準化してはいるが、その分GDPの押し下げ効果が長く続くのではないかという議論がある中で、先行きの見通しについて、日銀短観での非製造業の企業の方の見方なども踏まえ、消費税の影響がどう長引くか。さらに報道ベースでは、昨日の経済財政諮問会議でも、(悪)影響の兆しがあれば、機動的な財政対策、経済対策に動くという、かなり「兆し」という表現があり、かなり若干前のめり、フォワードという姿勢も感じられるが、対策も含め、改めてどのようなことを考えていらっしゃるか。

櫻田: 「兆し」というのを、私自身が定義するつもりはない。経済同友会の議論でも、エビデンスがあるかというと、まだ出ていない。そうなる気がするかといわれると、大いにそういう気がする。その「気」を10段階で表すと、どれくらい強いか弱いかというと、4ですね、3ですねという。結果として出てきたものは、数字ということで集計されるが、ベースにあるのは、経営者であったり、現場に近い人たちの、企業人の気持ちであり、科学的根拠が必ずしもある訳ではない。外れるといっているわけではなく、当たる可能性もある。同じことが消費者に言えると思う。有効求人倍率はかつてないほど高い、給与も下がっているわけではない。しかしながら、財布の紐が(緩まない)というのは、これは消費税(が原因)だというが、私は前から申し上げているが、そうではない。よしんば、それが数か月続いたとしても、2年、3年と、1年を超えて消費税があるがゆえに、財布の紐を緩めませんという人はいないと思う。根底にあるのは、不確実性である。消費者にとっての不確実性というのは、明らかに社会保障制度である。したがって、ここについてつまびらかにし、わかりやすく説明していく。そして、心配ない、なぜならば、こうすれば大丈夫だという処方箋を、政府が自信をもって、事実とともに示していくことが大事である。(消費税は)10%で心配ないといわれてしまうと、余計心配になるというのが、国民の心情だと思う。企業人にとってみると、この不透明さがどこから来るかというと、もちろん消費者の態度もあるが、加えてグローバルに経営している企業の経営者からすると、当然のことながら、米中の問題は影を投げかけている。日韓(問題)もプラスには働くはずがない。そこに追ってきて、今起きているような中東の問題があり、そしてその結果としてのホルムズ海峡のリスクがあり、結果としての(原)油の値段と、さらにトランプ大統領をめぐる弾劾、ブレグジットと、どこを見ても楽しい話があまりない。こういった「気」が全部集まったときに、将来に向かって元気になれるかというと、やはり不安だ。足元はそんなに悪くないのは自分でわかっているので、どうしてこんなに不安なのかしっかり考えると、不安の原因が分かってくるのではないか。私はこういうことを発信したいと思う。ちなみに先日の(ラグビーワールドカップ)日本対アイルランドのゲームは、私自身は恥ずかしながら、勝てると思っていなかった。しかし、私は見ながら泣いてしまったが、あれを見て泣いた国民は少なくはないと思う。あれが私は「気」だと思う。ああいった「気」、元気を日本人はまだまだ必要としていると思う。消費税問題、将来に対する視界不良も、まずはファクトを見て、しっかりと元気をつける。そして、そのためのエネルギーを私たちも発信することからスタートするべきだと思う。

Q : 日本のコーポレートガバナンスに対する視点から、関西電力の金品受領問題について代表幹事の所見を伺いたい。

櫻田: 私自身は、メディアの皆様方が発信されている以上の情報を持っていません。事実として知ってるということではなく、メディアからの報道によると、20人の役員が関与していたと言われているが、20人というのは相当な規模である。その記事を見たときに、これは組織として知っていたと思わざるを得ないと思った。組織としてこれだけの規模を知っていたとすれば、それなりの手を打っていたはずであるが、どうして取締役会に報告しなかったのか、という疑問と違和感を持っている。報道が事実であれば、ガバナンスが緩かったと言われても致し方なく、相当真剣に点検をされるべきだと思う。

Q : 9月30日のかんぽ生命の中間報告では、現場からまったく情報が上がってこなかったと発言があった。2008年に内部統制報告制度ができ、2015年にコーポレートガバナンス・コードができているのに、それらが全く機能してなかったのかと思う。これについて代表幹事の所見を伺いたい。

櫻田: 2006年に株式会社損害保険ジャパンは、金融庁より業務の一部停止命令および業務改善命令を受けた。そして国民に対してしっかり謝罪し、再発防止に徹底的に取り組んできた。そのように取り組んだ結果、今100%健全なガバナンスを敷いていますと言いたいが、それでもまだまだ小さい問題は起きている。しかし組織的に起きてることはまずない。それは、内部告発制度が機能しており、内部告発者による内部告発の数が、私のところに上がってきていることを考えると、今回のような事態がトップに上がっていなかったというのは、まだ改善の余地が十分にあると思わざるを得ない。このように申し上げた私が、直後にSOMPOホールディングスグループで、似たような事態が起きたら、厳しいご指摘をいただくかもしれないが、少なくともコーポレートガバナンスの強化と、現場からいかにスムーズに、真実の情報が上がってくるかということには、不断の努力が必要であり、ここまで対応したから、それで対応は終了ということではない。ここにかけるエネルギーを、もう一度点検されるべきと考える。

Q : 過去の経済同友会についても、まさに幹部が未公開株を受けたということで辞任したケースもあった。コーポレートガバナンスは、会社のトップの意識によって違うと思う。倫理観と透明性の確保が、特に原子力を扱う企業の経営者にとって重要だ。今回、関西電力の経営者の意識が欠けていた。倫理観も透明性もない。行政の重役からもらった金品を確保しておいて、税務申告でつまびらかになったため、慌てて報告した。明日2日に調査報告書が出るが、実際このようなことには個社の問題もあると思う。翻って見ると、今回あまり触れたくなかったが、リクルート関連会社の件も結構根が深いと思う。リクルートのトップが経済同友会の副代表幹事になられている。経済同友会は特にコーポレートガバナンスについて強く主張しておられる。改めて会員、幹部に対しどのような意見をお持ちか、または開陳されるか。

櫻田: 大変重要なテーマであり、くどいようだが、経営者が常に肝に銘じて、不断の努力を続けなければならないと思う。経営者の不断の努力というのは、経営者自身の責任感と危機感と哲学にかかっているので、これ自体で全てを担保することはできないと思う。したがって、制度として何が必要かということついては、一言でいえば、透明性に尽きると思う。トップの行動や経営者、経営陣の行動、組織の意思決定のプロセス、そこにどれぐらい透明性があるかということに尽きると思う。今回の件について、わざわざケーススタディをするつもりはないが、機会があれば、機会をとらえて、我々もまさに他山の石として、しっかりと脇を締めていかなければならない。そのためにはトップの責任感、そして哲学、そしてそれをトップだけに委ねない透明性ということを、もう一回申し上げておきたい。社外役員がいれば大丈夫ですという話では多分ないと思う。透明性というのは社外役員が見る、監督するということだけでなく、先ほど申し上げた内部告発(がある)。内部告発制度の重要性をもう一度(確認すべきだ)。内部告発制度はある意味経営者を守る仕組みである。しっかりと訴えていきたいと思う。

Q : 代表幹事から「日本のインフラが弱っている」という発言があった。どのような仮定をしてどれほどの規模の国費を投入すべきか。また(前回の会見で)「台風15号での損害額は、(自社で)1,100億円を超える」という代表幹事の発言があったが、その後、損害額の情報について更新はあるか。

櫻田: 損害額について大きな変化はないが、詳細は日本損害保険協会に問い合わせしていただきたい。日本のインフラは様々なものが挙げられるが、鉄塔を例にとる。千葉県で発生した台風15号は最大風速57.5メートルを記録した。倒れた鉄塔は、耐風40メートル(の設計で)科学的に倒れるべくして倒れた。リスクが大きいところを見直していき、リスクベースで(日本のインフラに投入する費用を)試算していくべきだ。いずれにしてもコストはかかるので、他の部分を削って回すのか(税収を)増やすのかという議論になるが、その前に、「日本のインフラが弱っている」という議論を事実に基づいて開始すべきである。メディアにも協力いただきたい。一番怖いのは地震である。準備できる、また避難する余裕がある状態で出てくる災害が台風、火災であるが、地震はそれすらない状況で起きる。インフラの弱さと対応する時間のなさが重なると大変なことになる。リスクベースで日本のインフラを再点検して、補強するのにどれくらい(コストが)かかるのかを一度政府が発表するべきだ。そういったものが始まらないとどこから手を付けてよいかが分からず危機感すら生まれてこない。(政府には)まず議論を始めてもらいたいと思っている。

Q : 消費増税で現状大きな混乱はないということだが、今回は軽減税率を含め煩雑なシステムになっている。(消費税の)現状についてどのように考えるか。また、駆け込み需要の影響で、トイレットペーパーや洗剤が店頭から売り切れたり、駅の券売機に行列が出来た。代表幹事は駆け込みで商品を購入したのか。

櫻田: (価格が)1000円以内だと気にならないが、1万円だと考える。電気掃除機、ドライヤー等の家電を購入した。混乱が生じた原因は、8%から10%に消費税が増税となったからではなく、8%と10%の商品が混在するからである。(税率が)混在する店が、実際に店内が混んでいるようであった。玩具屋、菓子屋で「景品付きだと10%、そうでなければ8%」と言われても消費者には分からない。軽減税率を導入すると煩雑さが欠点となるので、逆進性を修正するためには従来から経済同友会が主張している給付付き税額控除の導入が最適解になると思う。14%、15%、と今後消費税率が引き上げられると、(ますます煩雑化して)混在し、事務は破綻し、(税率を計算する)レジやコンピューターシステムを導入するだけで手いっぱいとなる。速やかに軽減税率制度を廃止し、給付付き税額控除にすべきである。

Q : 駆け込み需要が前回ほどではなかったと言われている。原因は消費が弱いからか、もしくは消費者が賢明になり駆け込みで買わなくなったからか。

櫻田: 後者と考える。今回は、5%から8%になった前回の消費増税に学んだのではないか。テレビ番組の(街頭インタビューで)苦笑いしながら「今買っても一週間経ったら(価格が)戻ってしまうのは分かっているけど、それでも買ってしまう」と発言した人がいた。そういった心理は非常に理解できる。「消費増税を前に買わないと損する」という心理が働いても実際に10%になって消費を絞り込むつもりで買う人はおらず、「なんとなく」という(心理的要因が強い)と思う。トイレットペーパー(等の日用品)は(価格に関係なく)不足分を購入する商品であり、今回はゲームのような心理が働いたのではないか。もともと消費が弱かったのが、今回増税で大きくダメージを受けることはなく、消費が弱い原因は消費者の将来不安である。将来がはっきりと見えず、将来不安の解決策が分からないことに(対して政府には)責任がある。企業側も同様で、将来に対する視界不良、不確実性がある。不都合な真実でも事実は変わらないため、(政府は国民に)事実を見せることが重要である。日本国民は非常に賢明なので、事実を説明すれば必ず理解する。シルバーデモクラシーは悪いように取られるが、高齢者層も財政問題について次の世代に借金を先送りにしてはいけないことは十分に理解している。孫世代に負わせる借金の大きさ、深刻さについて、借金額や(償却にかかる)期間を(実感を持って)分からないことが一番大きな問題である。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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