代表幹事の発言

櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

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記者の質問に答える形で、(1)中西経団連会長の入院、(2)米国の対メキシコ関税、(3)金融庁報告書「高齢社会における資産形成・管理」、(4)男性の育休取得、(5)為替、(6)G20への期待、(7)最低賃金引き上げ、(8)シーサイドライン事故、(9)川崎・登戸殺傷事件、(10)プラスチックレジ袋の有料化、などについて発言があった。

Q : 経団連の中西会長が検査入院され、復帰が1カ月後との発表があった。代表幹事へご連絡などはあったか。

櫻田: 連絡はいただいていない。中西会長は以前より存じ上げており、尊敬し、これまでの活動にも敬意をもっている。(報道を受けて)心配している。早く戻ってきていただいて、色々な意見交換をし、できることは一緒にやっていきたいと思っている。復帰を願っているところである。

Q : 米国の対メキシコ関税に関して伺いたい。移民問題を巡る協議が合意しなかった場合、(米国が関税を課すことでの)世界経済やメキシコの日系企業などへの影響について所見を伺いたい。

櫻田: (米国は)関税を武器として交渉に臨む手法をずっと続けているが、関税は、最終的には関税をかけた国の民間のお金が官に吸い上げられて終わりである。輸出する側からすると、量的な問題は別として、(企業への)痛みはそれほど大きくない。米メキシコ、米中の問題も、(交渉の駆け引きだと)わかっているがどこで下りるかを模索しているというのが本音だろう。死活問題になるところまでこの問題が発展することはないだろうし、落としどころを探っているのだと思う。ただし、米中は様相が変わってきたと個人的には感じている。

Q : 昨日、金融庁金融審議会が報告書「高齢社会における資産形成・管理」を発表した。人生100年時代で、今後、公的年金だけでは不足するため、自力で資産寿命を延ばすよう示しており、具体的な試算として、95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要など、シビアな現実を政府が公式に試算として提示したかたちだ。簡単に言えば、資産運用をして備えよと忠告のような報告書が初めて発表された。備えあれば憂いなしではあるが、このような現実を改めて突きつけられたことで不安もさらに広がっている部分もある。どのように受け止めているか。

櫻田: 意図として、まず貯金一辺倒の国民の資産への考え方に対して一つの警鐘を鳴らしたということ(が考えられる)。もう一つは、政府も「預金から投資へ」ということを長く進めているが(なかなか)進まず、あの手この手で工夫をしている。社会保障の中で大きな課題になっている年金について触れることによって、注意喚起というよりは国民の背中を押そうとしているものだと思う。(現状については報告書で)分かったが、どうすればいいのかについて親切な説明があってもよかった。突然出てきた気がしないでもない。社会保障改革と表裏一体になって出てくるならわかるが、(資産管理に関する報告書だけというのは)やや驚いた。

Q : 定年退職者の退職給付額は、ピーク時に比べ3割~4割減少している。経営者側からすると仕方のないことなのか。

櫻田: 退職金を確定拠出年金に移行している企業も多いだろう。確定拠出年金の中で、フルマッチングではないにせよ、自身の考え方で運用し、退職金として備えるという動きの中では、ピーク時の金額をもって(現状は)減少したと考えるのは、必ずしも正しい比較の仕方ではない。若いうちから退職に備えて退職金の運用をしたり、副業や兼業で自分のスキルを上げたり、企業側もインプットからアウトプットに成果(指標)を変え処遇するなど、様々な部分が関連してくるので、退職金問題だけを取り上げて増減の議論をしていては、全体は見えてこない。もっと大きく、複雑な問題が絡んでいる。本会としても積極的に紐解き、提言していきたい。

Q : 先の質問と関連して、(今回の報告書は)老後の貯えについて退職金と年金ではだめだと政府が認めたことになるのではないか。100年安心と呼ばれた社会保障制度をどう見るか。

櫻田: 退職金と年金だけではだめと政府が認めたとは思わない。自己責任について注意喚起したという意味合いがあるだろう。今の社会保障制度に様々な課題があることは間違いなく、全世代型、人生100年型の社会保障制度について議論されているが、中身はまだまだ出てきていない。これからの議論と決断、実行に期待したい。特に、年金と介護には大きな課題があると思っている。

Q : 今週末くらいから、某企業の男性従業員の育児休業取得に関してツイッターで炎上している。男性従業員が育児休業を取得した後に部署を異動させられ、結果として退職してしまった。そのことを男性の妻がツイッターに投稿し、炎上した。男性の育児休業に関する認識を伺いたい。また、(男性が勤めていた会社は)厚労省から育休推進について奨励されていたにも関わらず、こうした事態を招いているが、どのように考えるか。

櫻田: 当該企業の実態を知らないのでコメントできない。復帰後に意図的に異動させたということではなく、人事異動の時期に、育休復帰の時期が偶然重なった可能性もある。必要以上に結び付けている気もしている。本質的な問題は、男性が外で稼ぎ、女性は家事をするという考え方が何十年も変わっていないことだ。私をサポートしてくれているとある女性スタッフは、彼女が(家計の)主たる稼ぎ手として働き、夫はスキルを活かした仕事をしながら、主に家を守っている。つまり、役割は夫婦間で話し合って決めるべきことだ。夫婦二人で働いてもよいし、夫が働く、妻が働くなど、(家庭も)社会と同じで、スキルに最も適した役割を担えばよい。本件についても、そうした考え方が普及していけば育児休業の取得や、職場復帰後の異動などは大きな問題ではなくなるだろう。(今回炎上しているようなことが起きるのは)残念だ。

Q : 為替が5カ月ぶりに1ドル107円台を切っているが、金融政策の手数が限られている日本にとっては厳しい状況といえる。日本が採れる道の狭さと、円高についてどのように考えているか。また、今週末にG20の財務相・中銀総裁会合、今月末には首脳会合が控えている。米中の貿易問題の風向きを踏まえて、G20に何を期待しているか。

櫻田: 一つめの質問については、(円高傾向が)日本の金融政策のオプションが狭まっていることが要因とは考えていない。世界の金融マーケットがややリスクオフの傾向にある。米国でも明らかに債権に流れており、長短の金利が逆転している。為替が円高に振れることは、これまでのルール通りの現象であり、日本の何かがまずいということではない。これに対して意図的に為替を誘導することはないし、(1ドル)107円台という数字はびっくりする水準ではない。しばらくはしっかり静観していくことが必要だ。いずれにせよ、日本発の問題ではない。
もう一つのG20の質問については、前回開催がアルゼンチン、(日本の)次がサウジアラビアであること考えれば、今回、経済大国の(一つである)日本が開催するのは極めて重要な意味を持つ。日米、米中の(貿易)問題がある中で、グローバルな自由貿易体制について各国リーダーの考え方が議論され、まとまっていくことが重要である。DFFT(Data Free Flow with Trust:自由なデータ流通)についても、今、3案あり、議論されているが、日本が最も合理的と思われる案に、今後の方向性をまとめていくべきだ。特に、デジタル課税は経済同友会としても強い関心を持っている。データに課税するには、今後のマネーやオイルとも呼ばれるデータの価値を正しく理解していなければならない。データに課税する際、その所得は何に起因するのか、どう計算するかさえ定まっていない中で、今回いきなり課税が決まることはないだろうが、方向感として、価値や無形資産に課税する案にまとまる可能性は高い。無形資産の計算方法が確立されれば、データのバリューが分かる。すると、日本企業が得意とするリアルデータを使い、どれほどの価値を生むことができるのかを考えることができる。また、安全保障は、(議長国の)安倍首相が中心となり日本がリーダーシップを発揮してほしい。最終的に(G20)に何を期待するかといえば、首脳宣言を採択してほしいということだ。明快でなくても今述べたようなことを包括し、将来の方向性を照らすようなステイトメントをぜひ首脳間でまとめてほしい。米中の(貿易摩擦)問題はますます長期化の様相を呈してきた。先ほど、米メキシコの質問で触れたように、経済学的には非合理的だが、今やジオポリティクスやジオエコノミクスと呼ばれる時代では、政治経済学的に見た合理性は、純粋経済学における合理性とは意味が異なっている。米国では、民主党でも中国に対する強硬路線派が増えており、米国のファーウェイをめぐる制裁に対しては、中国も対抗する構えを見せている。どちらかが臆して退いたらやられてしまう、まさにチキンレースだ。日本は(米中対立の)長期化を前提にして冷静に見つつ、今までのやり方を少し見直していく時期である。マーケティング、生産拠点など、海外戦略の見直しがますます必要になってきた。

Q : 骨太方針の策定に向けて、生産性を向上させ、3年後を目標に最低賃金を1,000円に引き上げようという動きがある。(その方針に対し)日本商工会議所は、最低賃金の賃上げを法律により強制的に誘導することはやめてほしいと主張している。生産性向上に努力しているが、賃上げにつながるには時間がかかること、(最低賃金の引き上げは)企業経営に打撃を与え、地方経済の衰退につながるなど、かなり強く反対されている。大企業・中小企業で状況は異なると思うが、経済同友会として、最低賃金を1,000円に引き上げるまでのタイムスケジュールや、企業への呼びかけをどのように考えるか。

櫻田: (最低賃金を)国際的に比較すると、フランス、ドイツが11ドル、米国が8.50ドル程度という状況のなかで、日本は6.50ドル程度であることから、日本が低いことは間違いない。国際競争力、人材確保という観点から言うと、(最低賃金を)国際的に同等な格の国と同じレベルに上げていくという方向感覚は必要なのではないだろうか。時間軸について3年がいいのか、2年がいいのか(など議論はあるが)、一律に何年にすべきとするのは問題が生じると思う。国際的なレベルに(引き上げる)、例えば10ドルに上げるなどの方向感をもって各企業が努力することを政府が促すのは重要であり、本会としても反対しない。政府は「3年」「3%」など数値目標を入れたくなるのだと思うが、(数値を)一律に決めるのはやや困難であると思う。(最低賃金を)上げなければならないとは思っている。

Q : 横浜市の新交通システム「シーサイドライン」の事故は、交通インフラへの不安だけでなく、コンピューターに任せる無人走行への警鐘など、様々な問題を提起したのではないのだろうか。怪我された方もおり、保険業界としても無縁ではないと思うが、どのようにお考えか。

櫻田: 保険というのは、事故や火災など困ったことが起きた場合の最後の手段である。保険業界の1人としては、困ったことが起きる前提で話したくはない。SOMPOホールディングスの代表としては(事故等に対して)最善を尽くし、保険会社としてできることに取り組みたいと思う。(オートパイロット中に死亡事故が起きた)テスラの件を含め、新しい技術が新しい課題を生むという面はもちろんある。(完全自動運転であるシーサイドラインの人身事故は)初めてに近いのだと思う。そういう意味で(事故を)真摯に受け止めるべきであるし、今まさに技術的な解明をしているのであろう。突き詰めて話せば、(完全自動運転となる)レベル5が(実用化)できたら、母親は授乳しながら車を運転していいのか、父親は新聞を見ながら(運転して)いいのかという点については、私自身はノーだと思う。新しい技術というのは、常に技術が正しいかどうかだけでなく、社会の受容性、ソーシャル・アクセプタンス・レベルが非常に大事である。(新しい技術に運転を完全に)任せてよいと日本社会が受容するとは思わない。今回の事故はしっかり原因を把握して、(自動運転という)利便性の持つ効用に疑いはない訳であるから、社会が納得して受け入れられるかたちにすべく、積極的でありつつ慎重に進めるべきだ。まかり間違っても、今回の事故によって自動運転技術の導入にブレーキがかかることがあってはならない。

Q : (元農林水産事務次官が)自宅で長男を殺害した事件や、川崎・登戸殺傷事件について、背景の分析が進められているが、家庭の問題として消化され、解決するものなのか。代表幹事の率直な感想を伺いたい。

櫻田: 率直に申し上げると、どうしてこういう事件が起きたのだろうと思う。個人的な感想として、特殊な人たち、特殊な家庭環境が惹起したことだと思えればよいが、事実がそうではなく、社会に問題があるのだろう。言葉ではダイバーシティ&インクルージョンと言いながらも、インクルージョンという部分において社会が他人ごとになっていることで、このような事件につながっているとすれば、反省しなければならない。こうした事件が社会に蔓延していく時、どこに問題があるのか考えていくことは一つのきっかけになる。例えば、兼業・副業も就職(の一形態)だとすれば、企業が従業員の持っているスキルを買って価値を産む(という面)で、本来は兼業・副業という(区別する)考え方はなくてもよいと考える。そのスキルを企業はいくらで買うか、そのスキルに企業はいくら支払うかだ。これは、異質なものを包含していくという意味で、ダイバーシティ&インクルージョンの話である。この問題と、社会が抱えている(問題、今回のような)事件を無縁のものとするのではなく、日本はもう少し同調性からダイバーシティ、すなわち異なること、違うこと、別の考えをもつ人を包含して、社会として成長していくことが求められる。今回の問題も他人事として捉えてはいけない。

Q : 昨日、原田義昭環境大臣から、プラスチック製レジ袋の無償配布禁止、有料化の法制化を目指すという発言があった。一律と言っても、魚屋のような(規模が)かなり限定的な個人商店も全て実施するのはなかなか難しい。それを含めて今後検討していくということだが、有料化について見解を伺いたい。

櫻田: 経済同友会として議論したことはないので、個人的な意見という前提で申し上げる。私もよくスーパーに行くが、(レジ袋は)0円袋から3円袋まである。3円袋だと問題だ(高い)という人はあまりいない。30円くらいにしないと(レジ)袋が要らないとはならないだろう。プラスチックごみ問題に関しては、世界が今から真剣に取り組んだとしても、海洋に浮かぶプラスチックごみは(すぐには)なくならない。早く、真剣に取り組むのであれば、(プラスチック製レジ袋の有料化だけが)突然出てくる話ではない。本来であれば、紙袋かマイバックに変えてほしい(という話であり)、有料化ではなく使わないようにしよう(という)運動の中で、一つの象徴的なものとして有料化があっていいのだろうと思う。有料化も1円、2円、3円では効かないのではないか。私も(つい)使ってしまう。(プラスチックごみ問題に関する)取り組みは、(プラスチック製レジ袋の)有料化ではなく、プラスチックごみをいかに無くすかというところをもっと強く訴え続けることが必要であるし、本会としても検討していきたいと思っている。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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