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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2019年4月16日(火) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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冒頭、小林代表幹事・横尾専務理事より任期の振り返りを述べた後、記者からの質問に答えるかたちで(1)4年間で印象に残った仕事、(2)政府への注文、(3)渋沢栄一氏と新紙幣、(4)企業・行政組織の課題、(5)財政再建、(6)経団連との比較、などについて発言があった。

小林: 初めに、(代表幹事在任の)4年間を振り返って申しあげたい。この4年間、世界が非常に大きく変化する時代を迎えたことを実感しながら、経済同友会の代表幹事を務めてきた。1989年、平成元年は、ベルリンの壁が崩壊し、マーケット至上主義、資本主義が共産主義を凌駕する時代の幕開けだった。文字通り経済がグローバル化して南北の差が縮小し、中国が開放政策をとって10年経つあたりから、世の中がグローバリズムとデモクラシーの方向にだいぶ進んだと思っていた。2015年は日本の戦後70年ということで安倍首相が談話を発表された。これまでは延長線上で(日本も)やってきたのだが、(世界に目を転じれば、英国では)2016年6月23日に国民投票でブレグジットが支持され、(米国では)同年11月にトランプ氏が大統領戦に勝ち、2017年1月から大統領に就いた。今までのグローバリズムではなく、アンチグローバリズム、アメリカファーストへ(舵を切り)、イギリスもEUに別れを告げた。政治的な流れが急激に変わっていった。その間、日本にとって大きな実績は、日EU EPAとTPP11が発効まで漕ぎつけたことだ。アンチグローバリズムの中で、日本が通商交渉に対しリーダーシップをとれた。その成果を今後実感できるだろう。未だ(グローバリズムとアンチグローバリズムの)せめぎ合いの中にあるので、ブレグジットもどうなるのかわからない。米中のせめぎ合いも、そう簡単には無くならない。そうした中で日米通商交渉も始まったばかりだ。地政学的に非常に大きな変化もあるが、むしろ地経学、それを支えている地技学(が重要になる)。中国は5Gなどの新しいテクノロジー(で先行し)、半導体、バイオ(も進んでいる)。バイオ系でもクリスパーキャス9、10という新しい技術は、いとも簡単に、人間内部のDNAさえ変換できる。今後は量子コンピューティングを含め、従来、脳だけは外部化できないと思っていたものが、シリコンあるいは量子をベースにして、人間の脳以上の、外部化した脳というものが人間とどう対峙していくか(の時代になる)。政治的にも大変な激動があり、テクノロジーとしても、これまで人間が手に入れたことのない大きな変革の時代(がくる)。人間でさえデータの塊でしかない。人間もモノではない、むしろコト、サービス(との複合系になる)。ビジネスも、今までは自動車をつくったらディーラーを通じてカスタマーに卸すという(生産者から利用者への)方向だったが、今後はMaaS(Mobility as a Service)に象徴されるように、シェアリングエコノミー、ウーバーなど(ライドシェア)のコンセプトによってそれが逆になる。グーグルが自動運転(にのり出している)中で、カスタマーがスマートフォンを使ってモビリティをサービスとして選択し使うという、全く逆の方向になっている。そういうビジネスモデル、社会のアーキテクチャーの変換(が起きている)。ヘルスケアも、(今までは)病院と医者が患者に治療を提供していたが、いまは治療というよりヘルスケア、つまりCUREよりCARE(になりつつある)。人生が100年というなら、それに対応して(健康を)設計をしていかなければならない。カスタマー、つまり患者、医療を利用する側が、(提供側を)選択するビジネスになっている。マテリアル(素材産業)も単純にモノを作る時代から、それをどうサービスと結び付けていくか、あるいはマテリアルそのものの設計においても、量子をはじめとして、新しい(技術が用いられるようになる)。今までの演繹的な設計ではなく、帰納法的に、機械学習的に新しいモノを生みだす可能性も出てきた。地政学、地経学、地技学すべて(の観点)において人類が経験をしたことがない大変革の中で、この4年間を過ごしたという気がしている。経済同友会の代表幹事に就かなければゴルフなどももっと楽しめたのかもしれないが、そうしたことを犠牲にしてでも(代表幹事としての活動に)時間を割けたというのはよかった。この4年間、言い過ぎた面もあったかもしれないが、皆さんの温かいサポートをいただいて、何とかここまで来られたと思う。感謝を申しあげたい。

横尾: あっという間の4年間で、長いようで短かった。皆さんのサポートと代表幹事を始めとした事務局のサポートがあったおかげで、何とか4年間の務めを終わらせることができたと大変感謝している。この場を借りて御礼申しあげる。(4年間の)大きな話は小林代表幹事とそれほど(認識に)違いはないので、個人的な話をしたい。経済同友会の専務理事に就くことは、私自身にとっても意外だった。私は上司にも物を申してきた歴史があり、そのように育ってきたので、就任が決まって以降、私を知る諸先輩方からは、「お前で務まるのか」というようなことを色々と言われた。小林代表幹事は発想力、先進力(に秀で)、経営者として非常に色々な事を考えているということが身近にいてよく分かった。非常に人間的な魅力にも溢れていて、喜怒哀楽を正直に出され、分かりやすいといえば分かりやすい方だった。突然の(専務理事への)誘いであったが、小林代表幹事とともに4年間歩み、経済同友会の仕事をさせていただいたのは、大変に幸せなことだった。皆さんに感謝したい。就任当時は、ぼんやりとだが次世代を見据え、専務理事の立場で活動ができればと思っていた。そのような時、小林代表幹事が就任挨拶でサステナビリティの話をされ、「過去の延長線上に未来はない」という強い危機感を示された。将来へのサステナビリティ、持続可能性について言及された(ことが印象的だった)。私自身がなんとなく考えていた経済同友会の進め方について、小林代表幹事がそのように表現されたことで、私の理念と一致していると思い、安心したことを強く記憶している。どこまでやれたか分からないが、財政問題や教育問題など色々ある中で、遅々として進まない面もあるが、そういったものを引き続き経済同友会として、自由な立場で展開していくことが大事だと思う。また、代表幹事ミッション等でショックを受けたことは、米国や中国がこのような展開になり、技術面だけではなく意識の問題もあって良し悪しはあるが、あまりに日本との格差、その開き方が予想以上のスピード(だということだ)。あるいはその開きが思っていたよりも大きかったことが、非常にショックであり、よい勉強をさせていただいた。今後どのようなことができるか分からないが、そういう面を強く意識し、色々な方と接していきたい。そして、経済同友会の会員、事務局、記者の皆さん、今まで私の世界にはいなかった色々な方と知り合えたことは、私のこれからの財産でもある。本当にありがとうございました。

Q : 大変革の中で過ごした代表幹事としての4年間だったとのことだが、仕事の中で最も印象に残っていることを伺いたい。また、大変革の時代に、日本が茹でガエル状態にあることに警鐘を鳴らし、経営者はヘビにならなければならないとおっしゃった。今後、小林代表幹事はどのような形でヘビになっていこうとお考えか。

小林: 印象に残っていることはたくさんあるが、ふと心に浮かんだのは、2016年5月の連休にイスラエルへ第1回目の代表幹事ミッションを派遣したことである。(その際、同国の)外務大臣などを歴任し、ノーベル平和賞も受賞した93歳のシモン・ペレス元大統領(にお会いした)。彼はお会いしてから約4カ月後にお亡くなりになった。ペレス元大統領は「我々は過去から学ぶのではなく、未来から学ぶのだ」(とおっしゃっていた)。2000年来のディアスポラ、世界に散らばったユダヤ民族が、世界中から集まって1948年にイスラエルをつくった。確かにアラブ人、パレスチナ人に大変な被害をもたらした側面もあるが、国をもたない民だったものが国をつくり、まずは農業をやり、今やサイバーセキュリティーのトップを走り、バイオサイエンスをリードする国になった。このような彼ら(ユダヤ人)のエネルギーは、過去から学んでいるからこその側面もあるだろうが、将来から学ぶ(意義がそれ以上に大きいと感じた)。あの当時、93歳(のペレス元大統領)から出てくる言葉が、ウーバーやシェアリングエコノミーなどの話ばかりだった。それについては非常に印象に残っている。時代のリーダーであると同時に、国の優秀なリーダーを擁していると感じた。我々も経営者として(見習わなければならない)。グローバルに見てここ20~30年、平成の時代は「平和」に成なったが、残念ながら経済的に「平ら」に成ってしまった。これをどうやってもう一度(再興していくのか考えなければならない)。中国にしても、200年前は世界一のGDPを誇る国だったものが、いつの間にか眠れる獅子(となっていた)。それが40年程前から鄧小平 最高指導者を中心にした新しい運動で眠りから覚め、この5~10年でここまで成長した。(それに比べると)日本はまだまだだ。今、(日本は)少し休んでいて、なんとなく幸せに酔っていた部分もあるかもしれないが、今後どうやってもう一度頭をもたげていくのか。そのために茹でガエルを飛び上がらせるヘビ(が必要)という意味では、経営者の責任は重いと思う。(私は)日々のオペレーションをしている経営者ではないが、それなりに様々なものを見て経験してきた人間として、愛すべき日本をまたより良い方向に(導きたい)。問題意識を(もって)自分でものを考える人々の国にするために、辻説法に近い形でいろいろな人と会話をしていくことだと思う。サイエンティストというとおこがましいが、私はもともと理系の人間であるから、どちらかというとアカデミアを含め、活躍できるところで活躍していきたい。

Q : 新興国の方がテクノロジーが進んでいる部分もあるが、規制緩和などに対して具体的な提案をするならば、何が必要とお考えか。また、日米貿易協定交渉の協議が始まった。為替条項など幅広い議論になると日本は押される部分もあると思うが、政府に注文するところがあればお聞きしたい。

小林: 日米関係について、オバマ前米大統領時代はTPP12だったものが、結果としてTPP11になってしまった。すでにTPP11が動き出しており、(日米貿易協議に関して)これ以上の妥協はあり得ない。日EU EPAも米国とのそういう関係により加速しており、これを砦にして、茂木敏充 経済財政・再生大臣は交渉するだろう。為替条項含めるかはなんとも言い難いが、頑張ってもらえるのではないか。農産品だけを個別に議論するのではなく包括的に議論し、最後の砦はTPP11並み、それ以上を要求されても対応できないという方向で交渉に臨んでもらいたいし、できるのではないかと期待している。日中関係もかつてより軟化しつつあるが、米中の関係は、とりわけファーウェイを含めた半導体メーカーや、テクノロジー、サイバーセキュリティーの問題で、今後極めて長い冷戦が続くとみている。すると、日本は米国との関係がファーストプライオリティとはいえ、13億人以上の民を要する中国との経済効果は大きいため、どういう立ち位置につくかというのは(重要である)。欧州におけるスイスや北欧と同じように、日中双方によい顔をするのはあり得ないだろうが、いかに政治経済を上手くコントロールしながら、相対的に小さい日本が両方と仲良くやっていくか(をよく考えるべきだ)。安全保障は、イチゼロに近いかもしれないが、その辺を睨みながら日米交渉を進めることも必要ではないか。(テクノロジーについて)フロッピーディスクやハードディスク、光ディスクが普及した国はネット(整備)が遅れ、立派な紙幣があり詐欺もなく治安の良い国はキャッシュレス化が遅れた。「蛙飛び」というのは文明において常に起こる。日本は印鑑文化をいまだに払拭できないが、それだけ信用度の高い国となると、逆にデジタル化が遅れてしまった。日本人の感性は、四季に恵まれ、いい風土の中で、「水に流す」という言葉が好きなように、自然に委ねるような(ところがある)。イチゼロ(の戦い)で勝ち抜く、ある仕掛けを作って勝ち負けを明確にする狩猟民族とは、(性質の)異なる農耕民族だ。たとえば震災のときには絆をベースにし、飢饉のときはみんなで助け合う。良い面と悪い面の両面があるが、デジタル社会に日本文化が合っていない部分もあると思う。あまり悠長なことは言っていられないため、そこは自己批判して、文明としてよい部分は残すにせよ、デジタル社会にいかに早く(追いつくかが重要である)。アフリカも中国もアジアもみな、同胞に後れを取るようでは話にならない。政府を含め、国民一人ひとりが甘えずにデジタル化に対して努力することが(必要だと)ようやく感じ始めている。デジタルベース、データセントリックな社会という認識をもっと一人ひとりが持つべきだ。

Q : さきほど大変革の時代と仰られたが、資本主義や民主主義が今まさに変わろうとしているところである。最近の話題で、新紙幣に資本主義の父といわれる渋沢栄一が一万円の顔になるという話が出ているが、時代が変わることと絡めて、どう評価するか。

小林: (紙幣のデザインは)だいたい20年ごとに変えていくという、その一環としてとらえればよい。紙幣がなくなるわけではないので、それは結構なことだと思う。例えば令和という元号については、「令月」など良い、美しい(という意味と)、(和は)ハーモニー、平和というとらえ方もあるだろう。先週、新潟で行った全国経済同友会セミナーで、メディアアーティストで31歳の落合陽一氏に講演をしてもらった。落合氏は令和を「命令」の令、「律令」の令、コンピューターでいうところの「コード」だと理解していた。コード、レギュレーション、規則、ルールを、いかにハーモナイズするか(が令和だととらえていた)。今、欧州がGDPR、日本が、DFFT(Data Free Flow with Trust)(に向けて動き)、米国はサイバーに関して国家管理はするが(企業活動としては比較的)自由なGAFAを(擁している)。中国はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)を国家管理していく。データひとつとっても、この世界は極めてコード、レギュレーションが国によって違う。それをハーモナイズするというのが日本の存在理由であり、今後のリーダーシップ(の要諦で)、G20(のテーマ)だ。そういう意味で理解すれば、令和というのは意味が非常に強いと思う。新しい紙幣もそうだが、どう使うかを考える。全面的に(解釈は)それだけ、(元号の意味も)万葉集の令月だけというよりは、幅広くものを考えるべきだと思う。紙幣もその一つだ。一種のノスタルジーも必要なのだが、一方では、21世紀の半ば頃を見ながら対応していく。両面が必要である。

Q : 渋沢栄一氏の日本経済に対する影響・功績についてはどう思うか。

小林: 渋沢栄一氏の玄孫である渋澤健氏は、経済同友会の幹事に就いている。彼からは毎月レポートを送っていただいており、渋沢栄一氏の偉大さは、十分に承知している。ありとあらゆる産業を興された方だ。さらに言えば、渋沢栄一氏は確かに偉人であるが、ああした方を生んだ明治という時代背景を考えるべきである。今は、個人として立派な人がいない時代だ。偉大な人物を生み出せる時代と、教育も平均的でそういう人物を必要としない時代があるという気がする。渋沢栄一氏の歴史を振り返れば、まさに算盤と哲学とを一緒に合わせもって、郵便、鉄などあらゆる産業、事業を興した。今とは社会が全く違うので、そのこと自体を崇めてもそれほど意味はない(ように思う)。今のデジタル社会は、全体を見るより、個(々人)が強くならないといけない時代である。一人だけが偉く、それが(集団を)引っ張っていく(だけではだめだろう)。皆が同じバッジを付けて、同じ方向に行くという全体主義国家(では個は強くならない)。戦後の日本がものづくりなどの産業を興すためには、余計なこと考えずに皆同じ方向を向いて、(ある意味では)思考停止に陥った方が、やりやすかった(という面もある)。そういう時代はエリートが生まれ、一人のリーダーが象徴的に崇められるが、今のこのデジタル時代は、まさに個(々人)がしっかりしなければならない時代だ。皆が(揃いの)バッジをつけない時代である。SNSなど(のメディアで)怖いのは、自分の心地よい情報だけを取ってしまうことだ。だからデモクラシーも、かつてのデモクラシーと違うのであって、そういう中で、リーダーとは何なのかを考えるべきだ。明治の偉人へのノスタルジーを否定はしないが、今は時代が違うので、個々の人間がどう対応したらいいかを考えるべきだと思っている。

Q : (代表幹事の)4年間を見ると、企業は長年にわたる様々な不祥事が出てきた。神戸製鋼、東芝など、形は整っているが実態がダメというパターンだった。最後は日産という大きな問題もあった。霞ヶ関では、森友学園、加計学園の問題があり、政府統計の不正問題もあった。企業と行政の組織のひずみが現れた4年間だったと思う。それぞれの課題と処方箋は何か。

小林: 民間は、臭い物に蓋をし続けて10年、20年が経った。コーポレートガバナンスコード、コンプライアンス、スチュワードシップコードを含め、すべての情報を開示し、説明責任が重要という風土に世の中がなってきた。かつては許されていたものが、(今は)オープンにしなければならないという部分で、(不祥事として)出てきたものもある。歴史的にみると、5年前、10年前から続いていた不祥事が比較的多い。(悪しき)企業文化を引き継いでしまった。ところが、ここにきて、内部通報も含めた仕掛けによって変革されて(表に)出てきたもの(がある)。保安、安全にしても、例えば工場での事故件数はとても増えている。なぜかというと、クライテリアが厳しくなっているからである。昔であれば消防に通報しないようなことも、(今は)全部通報しなければならない。よって、件数は多い。ところが、ものすごく大きな事故は、直近5年、10年で減ってきているのも事実である。一面的に急に悪くなったというよりは、クライテリアが変わってきていて、説明責任、コンプライアンスの意識が高まっているから(表に)出やすくなっている部分もある。加えて、企業の場合、(コンプライアンス)意識が高まるのはよいが、反対にスピード感がなくなったという面もある。官は、民と近い部分もあるが、組織に対する忠誠心が日本はまだまだ強いと感じる。(日産)ゴーン元会長に関しては、(ガバナンスの)形式も実態も、よく見るとプリミティブな世界だった。東芝は2002年から指名委員会等設置会社である。指名、報酬、監査委員会もある、欧米的で一番進んだ組織の形を取っていながら、実態はああいう(結果)であった。形式から実態へどう実質化していくかが課題になっている。一つの言葉、ロジックだけでは表現できない複合的な変化が起こっている。説明責任、法令順守という意味だけではないコンプライアンス意識が、日本人、組織内で高まってきたことは事実である。政治については何とも言い難い。

Q : 政治、官は変わっている様子がないのではないか。

小林: 官は、かつては比較的優秀な人が(いた。)。大学でも問題意識が強い人が(官庁へ)行ったが、最近は財務省に優秀な人材が少ない(という)。少なくとも、東大法学部卒は(あまり)行かなくなった。政治家が劣化しているのは(一側面では)事実かもしれないが、かつて、(官僚が)設計し、政治家を動かしていた状況から(比べると)、官の組織自体も一部(劣化している)。民主党政権下には、政治家で政治をやる、官は使わないという時もあった。今は過渡期ではないか。

Q : 代表幹事はこの4年間、財政再建を唱えてきた。現実的には(2019年度一般会計予算が)100兆円を超える等、あまり政府に響いたかどうかはわからない。どのように総括するか。

小林: 正直に言って空しい。3年程前、(GDP)600兆円(の実現を目指す、と発表された際)、私はすぐ「ありえない」と言った。これからどうなるかは分からないが、非常にチャレンジングな状況にある。今、足元では549兆円(となったが)、もし600兆円にするとした場合、(GDP成長率が)4%でも達成しない。これは(GDPの計算方法が変更され、すでに)約32兆円という下駄を履いているからである。そういう数値に対して、「550兆円は四捨五入で(600兆円だから)よいではないか」という見方もあるかもしれないが、私は厳しく(数字を見たい)。事業を行っていれば、例えば600億円儲けるのだと言って、599億円しか儲けられなかったら、(達成分に相当する)ボーナスはもらえない。政治の世界は(企業とは)違うだろうし、600兆円というスローガンは皆を元気づける意味ではよく理解できる。(しかし)数値に対してどういう思いで臨むかということで、だいぶ違ってくるのではないか。もっと言えば、(政府は)「2020年にプライマリーバランス黒字化」と言い続けたが、ここ1年前から2025年に(達成時期を後ろに)持っていった。この算数は、(GDP)名目成長率3%、実質2%ベースでいけば2020年にぎりぎり達成できるかもしれないが、(私は)4~5年前に、そもそもそういうアサンプションや、金利も含め、明らかにチャレンジングだなと(感じた)。2020年は難しいのではないかと皆が思っただろう。これもスローガンでやる分にはよいが、本当にスローガンでいいのか。(GDPに対し)220%程度も政府債務が溜まっていく中で、本当にチャレンジングな数値なのか、ものすごく確度の高い数値なのかも含め、シミュレーションを行ってきた。後は国民の判断だ。そういう意味で、算数として見ると、非常に空しい作業を続けている気がする。

Q : 財政再建について、「あとは国民の判断だろう」とのことだが、国民に対して今後経済同友会がヘビの役割を果たし、警鐘を鳴らし続けるために、代表幹事のお考えを伺いたい。

小林: 結局、国民の政治リテラシーというか、イデオロギーとまでいかなくとも政策に対してどういう問題意識を持っているかだ。それ以前に、どれだけ自分から情報を取りに行こうとする国民であるか(が重要だ)。北欧の人々は皆、税率20%以上の消費税を平気で納め、文句は言わない。その代わり福祉・社会保障はしっかり(と国がカバーする)高負担・高福祉(が実現している)。そういった認識(を持っていないこと)が、(税金を)出すのは嫌だが、(社会保障は)しっかりもらいたい(というマインドを生んでいるのではないか)。(財源が)これだけ足りないなら財政出動し、金利を下げる、あるいは金融緩和をするということでは、国民一人ひとりは誰も痛みを伴わない。それで消費税も上げないという(のはいかがなものか)。(今の世代が)痛まないということは、次の世代やさらにその次の世代に大きな負担をかけているということだ。この時間に対する感性を、国民はもっと持たなければいけないと思う。今、消費税が上がると自分の生活が苦しいと言う(人がいる)が、国民の「今さえよければ、自分さえよければ」(という考え)が国をダメにする。しっかりとした数値も含め、(課題を)認識するようにメディアも経済同友会も(働きかけ、)今後は櫻田次期代表幹事を中心に、ますますヘビの役割を果たしてくれることを期待している。

Q : 4年間を振り返って、経済同友会のミッションは果たせたと思うか。ご自身として、経団連との違いをどのように出してきたか、あらためて伺いたい。

小林: 経済同友会の一つの大きなテーマは、政府に意味ある提言を出し、政治を少しでも動かすこと、あるいは国民のリテラシーを上げるための情報をどう伝達するか(である)。もう一つは経営者の中でお互い切磋琢磨し、研鑽を積む場(であることだ)。こういったことを考えると、どこまで提言が的確であったかは別として、それなりに是々非々でできたのではないか。必ずしも現政権におもねたり、現政権を否定するわけでもなく、また、べったりと政権をサポートしているわけでもない。経営者としての矜持を持ち、きちんとしたロジックを構築して、存在をしっかりと自分なりに認識することが経済同友会の基本だ。これは設立趣意書にあるように、政治的に無色であるということを守ってきた(からだ)。親睦・研鑽の場である(ことについて)は、会員数が(2019年3月に)1,500人を超えたことは、一つのエポックである。(1998年3月以来初めて)1,500人超を達成した(ことは)、非常にアクティビティも上がってきている(証拠だ)。経済同友会2.0(という)、Japan 2.0と並行して(取り組んだ組織改革活動では)、時代の変革とともに(様々なステークホルダーと議論、対話、連携する)「テラス」(を設け)、必ずしも経営者の中だけに閉じこもらずに、アカデミア、若者、政治家とももっとディスカッションしていく場を作った。(社会の)大きな変革期において、自己変革ができたのではないか。経団連と経済同友会(の違いについて)は、何度も質問を受けているが、本会は基本的に、個人で自由に発言し活動するところに存在理由がある。例えば当社(三菱ケミカルホールディングス)は、社長が(2019年5月に)経団連副会長に就任する予定である。当然、当社も経団連の会員である。私も経団連ヨーロッパ委員長を7年ほど務めた。経団連はそれぞれの業種(を代表する)団体であり、自ずと(本会とは)異なっている。私は、経済同友会は個人が基本的な筋を曲げないで語るべきをしっかりと語り、右から左まで(さまざまな考えを持った方が)いるが、最終的にはどこかでまとめるという、非常に難しい作業をやる場所である(と思う)。同時に、自分の頭で考えることを捨てないというのが重要なことだと思っている。

以 上

(文責: 経済同友会 事務局)


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