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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2019年2月1日(金) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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記者の質問に答える形で、(1)春闘、(2)エネルギー政策、(3)日EU EPA、(4)毎月勤労統計不正問題、などについて発言があった。

Q : 経団連の経営労働政策特別委員会報告が発表された。ベースアップだけでなく年収ベースでの賃上げに言及している。昨日の工藤泰三委員長のインタビューは、人手不足が非常に意識された内容だった。人材の獲得・育成に向けて企業へ投資を呼びかけるべきで、そういったテーマをベースに交渉を進めてほしいという話だった。この内容について、代表幹事の所感を伺いたい。

小林: 特に違和感はない。ベースアップという固定化した考え方は、前々から(疑問に思っていた)。非正規の社員はおそらくベースアップではなく、年間のトータル給与で自身の家計を考えるはずだ。そういうことも合わせながら、統計的に正しい比較を全体で行うためには、一時金・ベースアップ・定期昇給も含めて評価するのが当然であると常々主張してきた。ベースアップは、連合に所属する十数%の限られた人々の指標であり、働く人全体を代表した形ではないだろう。今後は、ますますフレキシブルな労働環境にならざるを得ない時代だ。労働力の流動性が重要であり、そこにAIやロボティクス、今度は外国人(労働者)も入ってくる。高齢者も75歳ぐらいまで働く時代はすぐそこであり、女性も活躍していく。やはり(賃金)全体で比較するのは当たり前のことで、年収ベースが一番わかりやすい。ベースアップ(という発想)は、明治・大正の匂いがするというか、せめて昭和の匂いであってほしかった。平成も終わりになるので、(賃上げ交渉は)新しい元号の匂いでやってほしい。

Q : 来月で東日本大震災から8年になる。福島第一原発事故が起き、東日本の原発は1基も稼働していない中で、中西宏明経団連会長から、設備を供給する企業側としてははがゆい、一般の工場ならば閉鎖もあり得るという趣旨の発言があった。代表幹事も福島第一原発を視察され、廃炉の知見も原発の一分野を担うものだと言われたが、エネルギー基本計画における原発の比率が22%であることを考えると、それだけ動かすというのはとても実現できる状況ではない。改めて原発再稼働に対する認識を伺いたい。

小林: 3.11から、8年近くが経った。大規模で突発的な(事故も)、ある意味では予測できたことに対応できていなかったという反省も含め、強力なテクノロジーだが使い方を誤ると人類に牙をむいてくる原子力というものに対して、経済同友会は「縮原発」という言葉をずっと使ってきた。(今冬の)ダボス会議で安倍首相が人工光合成、光触媒に言及したことには驚いた。従来は化石燃料、石油・石炭、天然ガスへのアンチテーゼとして太陽光、地熱や風力などが位置づけられ、そこで(議論が)止まっていたが、(安倍首相は)環境問題と絡めて CO2をカーボン源にするということまで踏み込まれた。(東京理科大学学長の)藤嶋昭先生の名前を挙げて、Photo catalysis(光触媒)、Artificial photosynthesis(人工光合成)という言葉を使った。イノベーションさえ起こればそれも可能であると、非常に先を見通した発言をされ、ダボスの聴衆は納得したと思う。原子力も大きな電力源の一つではあるが、太陽光は、FIT制度によって補助して展開を図ったにせよ、日本に限らずグローバルにみても8年前に比べて、(発電)コストが安くなった。風力も地熱も、思った以上にコストが下がってきた。あの事故が起こったことを教訓として、原子力発電の安全に対し、1プラントあたり数千億円の規模で大きな投資をした。すると、かつて(原発の発電コストは)5円/kwh などと言われていたものが、気が付いてみると10円を超えている(という状況になってきた)。その一方で、太陽光は10円以下という国もある。2011年3月11日のあの時点から、(発電の)テクノロジー、経済性という意味では相当変化をしてきた。そこをきちんと考慮していかなければいけない。「縮原発」という思想と併せて、石炭(火力発電)は世界の笑いものになってしまう(ことも意識すべきだ)。人によると、日産・ゴーン前会長の勾留、捕鯨、そしてこうした(石炭火力に係る政策の)ことによって、世界から(日本は)特殊な国だと思われている面もある。それも踏まえて、今後どうしていけばよいのか。原子力を使わないにしろ、(日本に)原子炉は40基以上ある。静脈産業として、廃炉産業は人類にとって重要なものであるし、次の産業として成り立つターゲットの一つだ。(運転年限)が40年か60年かは別として、今あるものは動かしつつ、徐々にフェードアウトしていく(べきではないか)。世界では(原発が)400基以上あり、中国、ロシアがどんどん増やしていく中で、廃炉は事故が起きていないもの(に対して)もそれなりのテクノロジーが必要だ。人類にとって重要なテクノロジーであり、そこに日本が貢献できることは十分にある。加圧水型(原子炉)など、原子核エネルギーを取り出す新しい(方式)、外に拡散しないための研究開発などは、日本でも続けていくべきだ。従来型の炉を(今から)やるというのは、もう現実的ではない。今ある原発を動かすことさえ自治体や国民が納得していない中で、性急に政府が言っている(2030年度におけるエネルギーミックスの)20%~22%を原子力が担うという計画はあまり現実的でないので、徐々に状況を見ながら変えていく。ただし、いきなりサドンデスで、原子力エネルギーを今(すぐ)ゼロにするというのも現実的ではないように思う。

Q : 本日、日EU EPAが発効した。米中貿易戦争の中で発効した意義を伺いたい。また、どのセクターでの成長率向上を期待しているか伺いたい。

小林: TPP11と絡んで、人類が経験したことのない先行き不透明な時代に、非常に明るく前向きなニュースと捉えている。私自身、10年以上前に経団連のヨーロッパ委員会共同委員長を7年ほど務めたが、その頃から議論のテーマはEUとのEPAのみであった。あの頃はとても考えられなかったことが、ついに実現したというのが実感だ。当時の米倉弘昌経団連会長が英国など主要国を中心に担当され、私はその他の諸国を担当した。非関税障壁として、政府調達、鉄道、自動車などの調達も含めて、英語のハンディキャップがあった。あるいは、政府調達では自国企業を優遇しているのではないか(とEU側から問われる)など、(交渉が難しい)農産品も含めて、関税以外のところで攻められて、説得が難しいことを実感していた。(第2次)安倍政権が誕生してすぐの2013年2月、安倍首相は米国を訪問し、TPP 12(交渉)に参加したいと申し出た。かつての民主党政権では意見が割れ、かなり消極的であったが、安倍首相は即座に決断し、遅ればせながらも議論に参加した。その意味では、(当時は)TPP12、日EU EPAも、緒についたばかりといった感覚はあった。しかしその後、トランプ米大統領が登場し、二国間交渉を追求し始めたせいか、EUが(非関税障壁に関する批判を)言わなくなった。米国の状況をみて、日本とのEPAを進めるべきと(いう流れに)なったのではないか。EUは韓国とはいち早くEPAを発効し、特に自動車や電機は10~14%の差で(日本に)ハンディキャップがあったが、今回(の日EU EPAの発効で)これがなくなる。農産品についても、国内向けには一定程度の対応ができた。GDP成長への寄与度については試算が出ており、10年ぐらい経てば1%くらいの寄与度になるかもしれないが、当座はワインやチーズが少々安くなる程度ではないか。自動車は8年経てば文字通り関税がなくなる。しかし何よりも、米国や英国をはじめ、世界が全体的に自国中心主義に傾き、二国間交渉を志向していく中で、多国間通商協定をスタートできたことは、安倍政権最大の収穫であり、本当に見事だ。よくここまで漕ぎ着けたと感じる。またダボス会議で安倍首相は、G20の話の中で「大阪トラック」と名付けていたが、単にモノだけでなくデータフロー(の重要性)について(語っていた)。中国が国家主導的にデータをブロックしていく一方で、欧州はGDPR(EU一般データ保護規則)により個人情報を重要視している。米国は国家安全保障の分野で厳しくブロックする一方で、GAFAは(比較的)自由にデータを扱っている。これら4(地域)ブロックの間で、データフローに関してどのようにまとめていくか。EU との EPA では、データ関係に関しても十分性認定が今回認められ、比較的自由に行き来できるような形になった。日本が世界でリーダーシップを握る上で非常に大きな意味がある。また、知的財産にしても、21世紀的な単なるモノではなく、もう少し一段上の知の世界、あるいはデータの世界のフローに対して、議論ができる状況を作り得る環境が出てきたことは、評価に値する。

Q : 厚生労働省の毎月勤労統計の不正問題に関して、実質賃金はこの1年ほとんどマイナスだったとの報道があった。経団連も賃上げを呼びかけ、中小企業も含め2%前後の上昇を実現し、賞与も過去最高と発表している。その一方で実質賃金はマイナスであったという。物価の上昇も加味しなければならないが、こうした乖離はなぜ生じると考えるか。問題の感想と併せ伺いたい。

小林: データが揃っていないのでなんとも分からない。そもそも、東京にある事業所の3分の1しかサンプリングしてなかったが、全体をサンプリングすれば大企業中心になり、もっと給与(水準)は高くなるだろうと言っている。それは、むしろ今までは実態よりも低く給与を見積もっていたということになる。一方で、見直してみたら実は実質賃金は下がっていたというのは、全くもって矛盾している。きちんとデータを基に見てみないとなんとも言えない。麻生財務大臣は本日の会見で、どちらかといえば実態の給与は上がっているはずだと言っている。データそのものをこのようなレベルで議論してきたのか(と思ってしまう)。この国は、データや定量性に対してアナログ(な感覚)の人々が多い。デジタル(な世界)ならば、例えば、「599兆円」は「600兆円」ではない。ところが、先日発表された内閣府の(中長期試算)レポートを読むと、「2020年度頃に名目GDPは概ね600兆円に達する」と記載されている。霞ヶ関文学というか、いい加減さを感じる。「2020年には600兆円にはなりません」でよいはずだ。この精神的なバックグラウンドによって、このようなことが起こっているのではないか。もっと数値には真摯に、正確に対応する文化を作らなければだめだ。加えて、やはりデジタル化が遅れすぎている。東京都に委託したとか、厚労省で人が足りないといったレベルではなく、政府も、民間も一部そうかもしれないが、ITに投資し(調査を)自動化して、企業から自動的にデータを送らせる仕組みを作るべきだ。そういったIT投資をしないので、人手ばかりがかかる。今時、人が(数値を)手で入力しているなどあり得ない。厚労省に限らず、文科省や財務省もそうだが、デジタル化していれば、個々の人間の間違いや恣意的なものはなくなる。それ(IT化)が遅れている事が一つのポイントではないか。精神論ではないが、日本の文化として「おおよそこのくらいだろう」というアナログな人たちが多すぎる。企業におけるボーナス(評価)のコミットメントとは、600は600であり、599はダメだ。こういったシビアさが全くもってない。もう一つは、デジタル化されていないということだ。そういったことに対する潔癖さや、定量的な数値に対する重みづけが低すぎるのではないか。政治的スローガンと事実とは、正確に区別するべきだ。こうありたいということと、事実はこうなっているということが、この国では入り混じっている。

Q : 昨日1月31日、東京ガスと九州電力、出光興産が、千葉県袖ケ浦市での石炭火力発電所新設計画を断念し、東京ガスと九州電力の2社が、同市で液化天然ガス(LNG)火力の新設を検討していることが発表された。石炭火力がベースロード電源と位置づけられている中で、企業がそうした判断をしていることについてどう考えるか。

小林: 石炭については、中国やインドはまだ大幅に使っているし、日本でもファシリティとしての石炭火力発電所(が依然多い)。超電導のような新しいテクノロジーがあるから必ずしも日本でやらなくてもいいとか、中国にそういう技術を二国間で取引すればいいという(声があることは承知している)。当座はそういったところで一定程度はしのげたとしても、やはり(政府で議論されているとおり)、2030年度までに2013年度比で温暖効果ガス排出量26%減、2050年までに排出実質ゼロといった目標を目指すのであれば、石炭から卒業をするために今から準備をしていかなければならない。そういう意味では、早めに天然ガスに変えていくというのは当然の流れだと思う。前述した目標は、そんなに生易しい数値ではない。日本に限らず世界は本気で考えていくべきである。欧州はそういう点は大分進んでいるが、日本の経済人はまだまだその辺りに関しては抵抗感がある(ようだ)。今後もう少し加速していくべきではないか。そうしないと間に合わないだろう。

Q : 春季労使交渉に関して、経団連は年収ベースで(考えていくべき)との見方をしている。一方、今回は「働きがい」にクローズアップしていて、「能力開発」や「キャリアアップ」などにも重点をおき始めているが、春闘のテーマとしてどう思うか。


小林: 働きがいや人手不足など、そういうところ(を考慮した上)で給与を上げなければいけないと(いう話と理解している)。(これらのテーマは)所与の条件ではあるが、やはり春闘で話し合うべきは数値ではなかろうか。(論点が)拡散してしまうと焦点が定まらなくなるのではないかという気がする。多様な働き方や労働生産性向上について議論を行うのは当然としても、最後はやはり数値だと思う。しかし、人手不足の中で外国人労働者の話も出てきているし、75歳まで年金をどうするかという話も出ており、全て関連している(話だ)。労使交渉においては、当然こうした話題をベースに議論をするべきだが、最終的にはやはり年収ベースで何%という方がわかりやすいし、多様な働き手との比較ができるのではないかと思う。ベースアップと縁がない働き手の比率が高くなってきている中、ベースアップと言うこと自体、エリート意識が強すぎるという感覚を覚える。

Q : 日EU EPAについて伺いたい。EPAが発効したことによる国内経済、消費者への影響をどう見ているか。

小林: 当座は、ワインやチーズが数百円安くなったというところから、消費者には実感が出てくるだろう。ただ、高価なワインはそれほど価格を下げないとも聞いたことがある。そこは各社の経営戦略にかかってくるところだ。(日本は)全品目の94%で関税を撤廃し、即時撤廃品目も多い。自動車はまだ8年かかるとなると、(即時撤廃となる)農産品の一部から効果が出るだろうから、消費者にとってはわかりやすいところではないか。衣料品なども一定程度安くなり、エレクトロニクス(製品)の一部の輸出は、韓国に対する競争力が相対的に上がるだろう。消費者サイドから見たら、一番(影響を)感じるのは食料品の一部だと思う。農畜水産業者は(補助等)それなりの対応をしてもらっているはずなので、大きなショックはなく、消費者にとっては明るい話題になるのではないか。消費税とどう絡んでくるかは別として、非常に良いタイミングで(日EU EPAが)出てきたのではないかと思う。

Q : 日EU EPAの発効に関して、一消費者として代表幹事が興味のある品目、期待したいものは何か。

小林: 美味しいワインが安く飲めるようになることを期待したい。チーズは(普段)それほど頻繁に食べないが、ワインは(価格が下がれば)ありがたい。あまり高級な鞄や時計を買わないので分からないが、そうした物品については(EPAの)恩恵に浴する方もいるだろう。

Q : 春闘は年収ベースで(考えるべき)との話についてもう少し伺いたい。賞与が含まれると、景気によってブレが出てくる。今年の冬のボーナスは、今の景気を見てどのような状況になりそうか。また、冬のボーナスが下がると、今年の春闘も年収ベースでかなり影響を受けると思うが、それでもやはり年収基準がよいと思うか。

小林: 世の中VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)というか、予測不能なことがどんどん増えている時代であり、いつまでも右肩上がりのベースアップとはいかない。時代は変わっていくので、良い時もあれば、悪い時もある。生活の基本保障と言われても、日本が潰れてしまったら終わりだ。例えば、昨年は(企業業績が)良かったので、(賞与の)計算式によって今夏のボーナスは自動的に上がるだろう。(ただ)3月に米中(貿易摩擦)がどうなるか、ブレグジットが本当に行われるか次第で、(経済の先行きは)全く予測不能だ。だからこそ年収ベースで見た方が良いのではないか。そんなに(見通せない)ところでベースアップして会社が潰れてしまったら終わりだ。もう少し頭をフレキシブルにした方がよい。この国は何でも固定化しすぎて、安定と言う名の下で何もしなくなってしまう。だからイノベーションが生まれない(のだと思う)。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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