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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2017年11月28日(火) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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記者の質問に答える形で、一連の企業不祥事について発言があった。

Q : 先週から連日のように、企業の製品検査データの改ざんが起きている。各社の社長が(記者)会見を開いているが、あらためて(このような事態が)続いていることについて、代表幹事の見解を伺いたい。

小林: 1ヵ月ほど前(10月18日代表幹事定例記者会見)に、日本の製造業そのものの、今までの信頼と世界での高い名声、レピュテーションが音を立てて崩れつつあり、それを他山の石として、各社はもう一度ガバナンスやコンプライアンスを見直し、うみを出すきっかけとすべきではないかと申し上げた。それぞれの事象でそれぞれの事情はあるだろうが、子会社であろうが孫会社であろうが、グループのトップの責任として、ガバナンスをしっかり効かせられるような仕掛けが欠落しているのではないか。コーポレートガバナンスは形だけ作ればよいわけではなく、どんな形を作っても魂が入らない場合もある。(一連の件で)世の中を見ていると、トップのコンプライアンスなり安全・安心に対する思いが、毛細血管まで伝わっていないのではないか。そういうところを反省材料にして、もう一度コーポレートガバナンスを見直す時である。(コーポレートガバナンスの)構造や社外取締役(の設置など)、形はここ数年でだいぶ前に進んできている。(各企業経営者の)皆さんも、自分のところはどうだろうかと調査プロセスの会社もあるだろうし、(私は)逆にポジティブに(見直す契機と)捉えて、もう一度ガバナンスを再考する機会にすべきだと思っている。

Q : 現場力が落ちているというか、ものづくりで厳しい環境に置かれた日本企業が(これまで)耐えてつくり上げてきた伝統というものが、熟練工がいなくなってきたことにより落ちているのではないか。各社の事情があるとのことだが、そのあたりはどう考えるか。

小林: 大きな災害や事故にならなくても、「ヒヤリ・ハット」のような事象を告知して、なるべく大きな災害にならないようにする運動は、長い間、現場では行われている。あるスペックはしっかりと管理され、トータル・クオリティー・コントロール(TQC)が根付いており、デジタル化しているので嘘がつけない。データがオープンで、オンラインで公開されるものは良いが、(今回の東レの件では)最終品質検査の部長級の人が鉛筆を舐め(、データ等を改ざんし)てしまうということが行われていたようだ。(たとえば)災害報告はここ10年、数は増えているが大きな事故は比較的減っている。(これは、)どれだけ小さいこともすぐピックアップし、リストアップしてやってきた努力の結果で(あり)、そのため逆に数は増えてはいる。以前は(事故の)もみ消しや、ちょっとした怪我であれば届け出ないという時代もあった。しかし、最近ではほんのちょっとした切り傷でも、「こういう災害があった」と報告する文化が根付いてきている。統計の数値と実態(の関係)は結構変化してきている。クオリティについて(不祥事を公表した)各社はほんの僅差であって、安全上は問題ないと(の見解を示しているが)、本当はこれこそが問題である。クライテリア(基準)は決まっており、スペシフィケーション(仕様)(を満たさずに)落ちたものなので、オフにするべきものを、「特別採用(トクサイ)」としている。経済がグローバル化してコモディティ化している中で、とりわけ中国などと戦うためには、当然コストダウンしなければならないし、操業も止めるわけにはいかないという事情も一つのファクターかもしれない。こういうことがいかに会社の存続そのものに関わるかということをもっと肝に銘じて、やるべきことをやっていき、コンプライアントであるということについてもう一度見直すところにきているのではないか。人手不足にはそれなりの手を打って、愚直にやっていくしかないのではないか。ものを作るというのは、いい加減なことをやると必ず裏切られる。愚直にしっかりとやることをやり、日々徹底していくのがトップマネジメントだ。

Q : 素材の会社で問題が起きると、川上(産業)から川下(産業)に波及したり、分からない部分もある。場合によっては消費に直結する問題もある。素材産業でこの問題が起きていることについて、どのように捉えればいいのか、どう反省すればいいのかを伺いたい。

小林: 素材が3社続いていて、組み立てが2社だが、おそらくスペックというのは、普通はかなりマージンをとっている。よほどのことが無い限り安全性に影響がないくらいとっている(のが通常である)。たとえば(本来は)最低5割(のマージンを)とればいいが、8割、10割ということを組み立てメーカーが要求してくる。お客様と議論しながらスペックを決める場合と、言われた通りにやる場合があるが、そういう中で、このくらいであれば安全性に問題はないという甘えがあった(のだろう)。しかし、企業同士で、これ以下のものは出さないと(スペックを)決めているのだから、法律違反かどうかは別として、企業間の契約違反であることには違いない。特に素材の場合は、大もとだからすぐに表面化しない。スペックが少々ずれていても、お客様のところで行う受入検査でOKなら使われる。最終製品の場合は欠陥がすぐに分かるが、素材の一部だとどれだけ寿命がもつのか、10年後腐食するのか、大きな問題が起こるのかなどの検証が難しく、誤魔化す人もいるということではないか。

Q : 本日になって、東レで問題が起きたことが公表された。経団連会長の出身会社で問題が起きるのは前代未聞だと思うが、財界トップの企業の足元でこうしたことが起きることに対して、どう考えるべきか。また、責任の取り方について思うことがあれば伺いたい。

小林: 素材メーカーも、子会社や孫会社へそれぞれガバナンスを効かせている場合が殆どだと思うが、榊原定征 経団連会長の出身会社(で起こった)ということは非常に残念だ。ただ、こう言っている私が、明日自分の会社で何が起こるかは分らない。メーカーというのは、いつ火事などの事故が起こるかわからない。100%というのはない。全てのことに対応しても、人間の作業が入っている部分、特に素材、石油化学や鉄など(工場が)大きな所は人身事故が起きやすい。パーフェクトはないにせよ、極力、朝に夕にコンプライアンス、安全というのは会社の存続に関わるということを言い続ける以外に解はない。たまたま東レ、たまたま経団連会長であって、そうであろうがなかろうが、日本の製造業・サービス業も含めて、これを機会として、もう一度ねじを巻き直すべきだと捉えている。

Q : 日覺昭廣 東レ取締役社長が、本日(不祥事を)公表した理由について、インターネットで噂が拡散しそうだったからだと述べた。かつ、社会的には安全上の問題がなく、法令違反ではないので、そうした(ネットで拡散する)ことがなければ公表しなかった、顧客との取り決めの問題だという言い方をされた。代表幹事からは異なる見解が述べられたが、法令違反を起こしているということと、一方で、相手企業の信頼を裏切っているということの乖離についてどうあるべきか。

小林: 会社間の契約の場合は、会社間で解決できるものは解決すればよい。お客様が安全性を確認して、(会社間で決めた)スペックなり、基準より外れていたものでもトータルの製品としてOKという判断であれば(そういう対応もあるだろう)。これは会社の姿勢(次第)だろう。法令違反ではないし、社会に対して迷惑をかけていないのであれば、わざわざ発表する必要はなかろうと思う。(いずれにせよ対応は)一定程度のスピード感をもってやるべきだと思う。

Q : 製造業の不祥事について2点伺いたい。一つは問題が起こった後の経営陣の対応、もう一つは今回、東レで発覚したということで財界トップとしての対応についてである。たとえば三菱マテリアルの件では、問題が発覚した後も9ヵ月間出荷を続けていた。これは現場で問題が起こったということだけではなく、会社全体としてその後にどう対応するのかという点で甘さがあったように思われる。今回の東レも、問題が発覚してから1年以上公表していなかったわけだが、これについて代表幹事の所見を伺いたい。もう一つは、(こうした不祥事)問題の広がりがあり、財界トップとしての対応についてである。榊原経団連会長は、昨日も記者会見で「日本企業、特に製造業に対する信頼に影響を及ぼしかねない深刻な事態だ」と発言されている。その翌日の午前中に、ご自身の企業でも(データ改ざんの)発表がなされたわけだが、いままで我が身を省みることなく「憂慮する」と発言されていたのかと思うところもあり、日本の財界トップとしても信用を失くすのではないか。

小林: 詳細はわからないが、榊原会長にそもそも情報が入っていなかったのではないか。(情報が)入っていたか、入っていなかったかは別として、もし入っていたらそこまで(記者会見で)言えなかったように思う。私も、(自分の所属する)企業でとんでもないことが起こっていたら、今日はもう少し言い方も変わるかもしれない。そこは何とも言えない。かつて中国製、台湾製は粗雑品の代表のように言われていたが、1950年代までは日本製品も(同様だった)。(それを)ここまでクオリティを上げてきた日本人、先輩たちの努力(がある)。もし、意図的に隠したというレベルであれば非常に問題だと思う。会社によって、(不祥事への)対応や広報の仕方も異なるが、バウンダリー(境界線上の問題)として、顧客と自らの関係において、最終商品がOKであるかというところは、公表すべきかせざるべきかは(判断が)非常に難しい。これは会社の姿勢にもよるのではないか。法令にも安全にも違反しなければよいと通している会社もある。一方で、(企業という)公的な機関である者が契約を破った場合には公表することが当然と思う会社もある。その点については、極めてグレーでコメントのしようがない。ただ、そのようなことをきちんとしていかなければ、バウンダリーがはっきりしないからずるずると「このくらいだった良いだろう」と(判断してしまい)、特別採用(といった手段を悪用することになる)。その結果はあまり良い方向に行かないという認識があれば、クリアにしていった方が会社のためになると思う。

Q : 代表幹事の出身会社もメーカーである。今のところ検査データの改ざんなどの報告はないか確認させていただきたい。

小林: 私は2007年に(三菱ケミカルホールディングスの)社長に就任し、その1ヵ月後に三菱化学四日市工場で近隣民家のガラスが割れる程の大爆発事故が起こった。これは人身事故ではなかったが、近隣に迷惑をかけた。同年7月には、三菱樹脂のポリエチレン(管等の販売価格)で独占禁止法違反の指摘を受け、11月には田辺三菱製薬が薬害で大変な問題を起こした。そして、同年12月21日に起きた三菱化学鹿島事業所(の火災事故)で、協力会社の社員4名が亡くなった。私が社長に就任してからの8ヵ月で大事故が数多く起こり、(製品の)クオリティや火災(事故)で洗礼を受けた。(そうした経験から、)会社の存在意義は、儲ける以前に社会性(こそが重要であるとの考えに至り)、三次元経営、KAITEKI経営という概念を生み出した。やはり(最も重要なのは)持続可能性であり、最後はコンプライアンス、安全・安心をもって対応しなければならない。日々、どのような会議でも、会社においてはコンプライアンスと安全が全てだと言い続けてきた。それでも小さいことは数多く起こる。あるいは、大きな事件が起こる波もある。その時、他山の石として、当社では(問題が起きてい)ないかを(社員に問い質し)、今回に限り、申告すれば罪に問わないという方法も使い(不祥事を)ピックアップするよう努めた。率直に申し上げて、企業の経営は儲ける戦いでもあるが、そういう(コンプライアンスとの)戦いでもある。その中で、(事故から)10年も経つと安全に対して気が緩むこともありえる。特に石油や化学は一番危ない産業で、爆発しないだろうか、火事を起こさないだろうかと、私は常に緊張感を持っている。ただ、100%はありえない。明日は何が起こるか分らないという(認識の)下で、(コンプライアンスの徹底を)頑張っており「今のところは無い」と言うしかない。

Q : 1991年、企業の不祥事が相次いで起きたことをきっかけに、経団連は企業行動憲章を制定した。制定当初は不祥事防止の徹底・ガバナンス強化が柱だったと思われるが、現在、ガバナンス強化に関する項目は、全10項目のうち最後の10番目になっている。持続可能性や地球環境、人権を守ることも大事だが、ガバナンス強化について、目配りの優先順位が落ちてきているのではないか。(企業行動憲章の)10項目であることが、優先順位が落ちていることの証左になるかは議論があるかもしれないが、少なくとも筆頭ではない。今回の不祥事を受け、この現状に何か考えることはあるか。

小林: 欧米と比べると、日本の経営者は資本コストに対する基本的な認識が低い。日本のROEはまだ平均8%だが、欧州は9~10%、米国は10数%と、同じ業界で見ても2倍程度の差があり、(他先進国は)みんな効率が良い。ドイツの自動車メーカーなどでも不祥事は起きているが、比較劣位にある日本企業の経営では、どうしてもまず儲ける方にプライオリティが置かれている企業もあるのかもしれない。しかし、私がいつも主張しているのは、儲けの軸と、イノベーションや成長を志向するフロンティアの軸、それと、事故やコンプライアンスだけに留まらず、CO2の削減なども含めた社会的な軸。これら3つを常に目配りしながらやっていくのが経営だろう。今は、現場にほとんど行かない社長も多いと思う。メーカーの場合は特に、口で言うだけはなく、ある程度は現場に行って(確認をすることが重要だ)。これを機会に、今回のような事象を反省する時が来ていると思う。(不祥事防止に)とにかくパーフェクトはない。ある不祥事が起きた時に(情報公開が)遅れてしまうことは、何かを隠そうとしていたとの疑惑を持たれるため、そのようなことがないようにすべきである。

Q : 財界トップというのは、日本企業の代表、日本企業の顔という面もある。今回、経団連会長の所属企業でこのような問題が起きたことで、海外から日本のものづくりに対して、さらに疑いの目を向けられる危惧がある。このことについて代表幹事はどのようにお考えか。

小林: 先週、タイのバンコクで、当社で出資した植物由来ポリマーの合弁会社の(提携先であるPTTというタイ石油公社の化学部門)トップと議論する機会があった。彼らも中国が台頭してきた中で、競争優位を保つためにすごく苦労している。安全に対しても、手抜きをしてはまずいとの議論の中で、あのレベル(のグローバル企業)でさえ、日産も神戸製鋼の問題も知らなかった。それをどう考えるかということもあるが、外のレピュテーションよりも内部を早く変革するのが先ではないかと思う。日本人は極めて清潔感のある人種であり、それは非常によいことだが、少しでも矩を外れると激しく反応する。だからこそ襟を正すことに(それを)利用すればいい。これをもって日本の信用が音を立てて崩れていくと深刻になるだけでなく、立ち直る時だとの見方をしたほうがいいのではないか。

Q : 神戸製鋼、三菱マテリアル、東レといった今回の一連の素材メーカーの会見を見ていると、今日(東レ)は特に顕著だったが、「安全性に問題はない」「法令違反ではない」といった発言や、別企業では「政府の規制が厳しすぎる」などの議論もあった。また、メディアが報道する前に自ら公表する動きなど、情報管理が問われることもあるのだろう。これらを見ると、小林代表幹事の考えと、他の経営者の考えにはずれがあるような印象を受ける。

小林: 一部の経営者には、社長を4~6年やって、あとは大過なく、辞めるまで隠しておこうという人もいないとは限らない。安倍首相が政権を担って5年が経ち、コーポレート・ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードなど、会社そのもの(のあり方)が変化してきている。(東証上場会社で)社外取締役を選任している企業が90%以上、(その内、)2名以上の社外取締役を置いている企業が約6割と、ドラスティックに変革されている中で、経営者の考え方もかなり変わってきていると思う。今回、不祥事が起こっている会社群をみると、比較的老舗で、古い文化を背負っており、会社の中に(溜まった)沈殿物がきれいに整理されていないと感じる。トップが勇気を持って今までの悪弊を(取り除き)、今までは一般的な常識と言われてきたものも、正義に則って見直す時期だと思う。隠したがるのは人間の本性だが、今の時代はそれがネガティブな効果を生むことを、経営者はもっと知るべきである。

Q : 今回の東レの件で、いつからデータの改ざんが始まったのか最終的な検証はされてはいないが、榊原会長が社長在任中の出来事のようだ。同じく社長経験者という立場から、ご自身が社長在任中に起こった問題が、こうして後になって出てきた際の責任の取り方について伺いたい。

小林: 責任の取り方は難しい。社長在任中の2007年12月21日に発生した、三菱化学の火災事故の時は、毎日家に記者が来て「いつお辞めになる」と聞かれた。現場で行方不明者が4名いらして、燃え盛る火事の最中に記者会見を行い、「責任をどうお取りになりますか」と記者から質問を受けた、6ヵ月後には「まだお辞めにならないのですか」と聞かれた。辞めるのは簡単だが、ある程度整理をして形をつけてから辞めるのも、辞め方の一つだと思った。何か起こって、さっと辞めるのは逆に責任回避ではないか。悪意をもって行ったならば別だが、報告が上がってこなかったのは、ガバナンス上問題があるということなので、報告が上がるように(組織を)改善してから辞める(ということも一つの考え方だ。)出処進退というのは個人の哲学の問題で、人がどうこう言うものではない。メディアの皆さんが辞める辞めないと聞くのも分からなくもないが、責任の取り方は美学の問題だと思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)


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