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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2017年2月1日(水) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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記者の質問に答える形で、(1)トランプ米大統領就任から約10日、(2)日米首脳会談・日米関係、(3)為替、(4)働き方改革・長時間労働の上限規制、などについて発言があった。

Q: トランプ米大統領の就任から約10日が経過した。トランプ大統領は矢継ぎ早に大統領令に署名をして、公約を実現に移そうとしている。昨日は、日本の為替政策を名指しで批判したほか、移民政策をめぐる混乱で、金融市場も動揺を見せている。就任からの一連の動きをどのように見ているか。

小林: 米国あるいは日本のマスメディアやわれわれも含め、3つ目の過ちを犯したというのが、就任以降の感想である。(大統領選で)トランプ氏が当選する確率はあまり高くないと考えていたことが第一の過ち、第二の過ちは、おそらく彼が当選すれば、株価が下がって円が強くなるだろうと思っていたが、これがまったく逆になった。第三は、多くの人が、彼はビジネスマン、マーチャント(商売人)であり、選挙中の公約は公約として、選挙民を大幅に裏切ることがないならば、(就任後は)状況に応じて反応が違ってくるのではないかと思っていたことだ。実際は、選挙中の主張をすごいスピードで、大統領令という方法を使い、確信をもって遂行している。それでも、とりわけ今回の中東・アフリカ(イスラム圏)7か国からの一時入国禁止、国内に入ることそのものも、ビザを持っている人でさえも入れないという、かなり強硬な、想像以上の強い覚悟でやっていることに驚いているのが現状である。

為替についても、FOMC(連邦公開市場委員会)の12月の利上げによって、必然的にドル高・円安(方向)に行ったこともあるだろうが、(トランプ大統領が)口先介入を激しくやってくることは想像ができたし、各国によって事情は違うが、今後、為替や貿易、あるいは米国内での製造について、外国に対してどういった発言をしていくのか、注目せざるを得ない。

Q: 「3つの過ちを犯した」の主語は、トランプ大統領ではなく、周りで見ているわれわれのことを意味するのか。

小林: われわれ自身のことだ。2016年9月に、経済同友会のミッションでワシントンD.C.を訪れたが、民主党(系)の代議士やシンクタンクは、当然クリントン氏(が当選すると予想していた)。共和党(系)のシンクタンクにさえ、トランプ氏に対し、言葉は悪いが「クレイジー」などと平気で発言する人達が多くいた。日本でも、5%くらいの差でクリントン氏が勝つのではないかというニュアンスがあった。われわれも、当選後に実施すると主張していた政策を聞いていると、まさか米国民は(トランプ氏を)選ばないだろうというニュアンスがあったが、これが完全に違っていた。やはり、より民族主義的で米国第一の、いわゆるかつての白人による鉄鋼業や石炭産業といった製造業の時代に回帰したいという、単純な社会へのノスタルジーがあったのだろう。10年前の女性蔑視の発言などがあれだけ漏れ聞こえると、女性は(トランプ氏に)投票しないのではないかと思っていたが、実際には白人女性の56%が投票した。マスメディアが、トランプ氏への支持状況を正確に把握し切れていなかったのも事実で、われわれはツイッターよりはマスメディアを信じ、やはりクリントン氏(が当選する)だろうと思っていた。これは選挙民というより、海外の人々も含めて一般的な判断が誤っていたということである。

また、多くのエコノミスト達も、トランプ氏が当選すれば円高になると見ていたし、将来の不確実性によって株価が下がるのではないかと見ていたが、むしろフィーバーになった。今までの延長線上でものを考えることが正しくないということかもしれない。いわゆるデモクラシーというか多数決の世界では、そういう現象も出てきたわけで、21世紀のこんな時代にこういうことが起こるのかと、個人的にはそういう気分である。

Q: 経済界のトップとして代表幹事自身も見誤ったということか。

小林: 見誤ったのは事実だ。

Q: トランプ大統領に対しては、暗い話が多いが、大規模な減税やインフラ投資など明るい期待もあった。就任後の10日間を見て、その期待感はまだあるか、遠のいたか。

小林: 法人税を15%まで引き下げるかは別として、20%までは大胆にもっていく。(さらに、)インフラ投資や石炭産業(の復活)もあり、持続可能性を無視すれば、当面2~3年は元気な社会、経済的に浮ついたフィーバーは十分に期待できる。しかし、本当にそれで良いのか。CO2、水や環境問題など、これだけ地球が大変になってきて、それらを考慮しながら、長期的に世界の人々がそれなりの生活をできるようにと考えながら、経済を運営していかなければならないというのが、キーワードとしての本来のサステナビリティ(持続可能性)であり、ここ10年来、欧米が主導的に進めてきた。それが、「今が良ければいいじゃないか」「ここ2~3年、経済が活性化すれば(いい)」「財政も、とりあえず使って成長すれば結果として何とかなるだろう」といったことに対して、暗い思いがする。日本の経済人としては、(近い将来の利益だけを考えるなら、)トランプ政権が4年あるいは8年続くとすれば、米国への大いなる投資を考えるだろう。

Q: 持続可能性の観点から、トランプ大統領の政策に疑問があるか。

小林: 非常に疑問が多い。アラブ(などイスラム圏7か国からの一時入国禁止)や、グローバルなものが国内に入ってくるのを止めるとか、環境問題(を意識せず)CO2を大量に排出する石炭産業を復活するなど、ちょっと(方向性が)違うのではないかという気がする。

Q: 本日、安倍首相から、日本政府として米国での雇用創出に協力するとの答弁があった。その内容はAIやロボット、エネルギー、鉄道等だが、経済界として現実味があるのかについて伺いたい。

小林: 安定的に法人税を下げるなど、経済活動として比較優位であり、アジアに投資するより米国の方が良い、あるいはシェールオイル、シェールガス、石炭産業(の活性化)等でエネルギーコストが相当下がる状況の中で、インフラ投資やそれに対する協力というのは、十分に経済的にペイする。現実的な方向だと思う。現に、素材・化学(産業で)は、サウジアラビアに新しい工場をつくると同時に、アメリカのシェールオイル、シェールガスの開発がプロセス的に優れていれば、十分にペイする時代が来ている。自動車に限らず、色々な産業が(拠点戦略を)もう一度見直す時代かもしれないが、それが本当に持続可能かどうかはきちんとチェックしていかなければならない。

Q: 経済界としてバックアップするということか。

小林: 経済界としてバックアップするというより、経済性があり、コスト・フィージブルで、各社にとって意味があれば、(米国に)行くと判断するのではないか。こういう時代は、あまりヒステリックにならないで、楽しんで少し様子を見ることだろう。リンカーンやケネディなど、米国の大統領は本質的には理念の人で、世界を鼓舞しリードしていく人々だと思っていたが、自分がこの年齢になって、このような人が大統領になってしまった、というのが正直なところだ。それはそれとして、お手並み拝見するしかないというのが今の心境だ。

Q: 貿易不均衡の問題も含め、(トランプ大統領は)今後日本に無理難題を言ってくる可能性がある。2月10日に日米首脳会談が予定されているが、日本がどのような姿勢で臨むことを期待するか。

小林: 通商関係では、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定を軸に、12か国が3年も4年もかけて、批准に向けて努力をしてきた。(TPPは、)単純なフリートレードというより、知的財産など通商そのもののグローバル化という意味で、もう少し幅の広いところで決着の可能性を秘めていた。本日、意見『多角的自由貿易の着実な発展に向け、日・EU経済連携協定の進展を』も公表するが、経済が不可逆的にグローバル化していく中で、基本的な考えを共有することは、今後とも諦める必要はない。また、EUとのEPAについて、できれば春までに一定程度進めることによって、状況を変えていく努力は怠るべきではない。

一方で、マルチ(多国間)よりバイラテラル(2国間)、というトランプ政権の考え方も、安倍首相が指摘されているように、無視するわけにもいかず、(無視をしては)交渉にならない。極めてフレキシブルに対応していく以外にないと思う。文字通り、相手(トランプ大統領)はディール(取引)の人だろうから、こちらもディールでいかなければならない状況だと思う。

Q: 10日の日米首脳会談では、自動車産業の話題が大きく占めると思う。トランプ大統領は(日本の自動車メーカーに対して)米国で生産をし、しかし米国メーカーのシェアを落とさないようにと、整合性の取れない政策が多く出ている。トランプ大統領の政策の整合性については、どのように評価するか。

小林: 率直に言って、整合性を議論する以前に、最初から整合性がないため何とも言い難い。

それよりも、1930年代のヒトラーのような時代を経て、人類は色々な学習をしてきて、貿易をベースにした世界経済の発展というグローバリズム、デモクラシー、民主主義、自由とは何か、平和とは何か、などを求めて、戦後70年、(世界が)一緒にやってきた。理念を明確に持ちつつ、気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)で194の国・地域が一つのテーブルに着いて、温室効果ガスを減らしていこうというところまできた。これが、まったく逆戻りし、1930年代の民族主義に戻ってしまう(という危惧がある)。人種に対しても、宗教に対しても、かつての時代に戻る危険性を秘めており、むしろそちらの方に空しさを感じる。人間の一生が70年から80年とすると、まったく学習効果がない。暗く、自分さえ良ければいいというような、民族主義的な流れに回帰してしまう危険、空しさを感じる。

ここは、米国の司法機関や立法機関のメカニズムに期待して、静かに見つめる時期ではないか。あまりヒステリックに反応することもない。いずれにしても、最後は正義が勝つと思って、じっくり見ていくしかないのではないか。

Q: 10日の日米首脳会談において、安倍首相には、トランプ大統領にどのようなことを伝えてほしいか。経済界の希望を伺いたい。

小林: (トランプ大統領は)アメリカファーストで、自国の雇用や経済を第一に考える(という主張である)。貧富の格差の中で、一部の“忘れられた白人”がトリガーとなり、それ(トランプ大統領の政策)が米国民の欲するところならば、それはそれで構わない。(安倍首相には、トランプ大統領が)どこまで(正確な)データを把握しているのかをきちんと確認し、事実に基づいて(語って)ほしい。(自動車産業については、)トヨタは今後5年間で米国内に100億ドル投資する計画を打ち出したが、(安倍首相は)メキシコを引き払うと逆にどれだけコストがかかるのか等、極めて理屈の通る議論を展開される予定だと聞いている。それが第一歩で、あとは、感覚的に馬が合うかという辺りを確認しながらになると思うが、最後は良い関係を築いていただくことに期待したい。

Q: 日米首脳会談の前に、マティス米国防長官も来日する予定である。安全保障の面では、日本は非常に米国に依存しているが、日米の2国間の対談が始まれば、信頼関係を築いて、2国間で交渉していくしかないのか。

小林: マティス米国防長官が韓国と日本を訪れるというのは、相当に意味合いが深い。トランプ大統領もマティス氏にミッションを託しているだろうが、日韓関係は非常に微妙な状況である。(世界において、)今までは中東が火種だったが、今やむしろ極東の方が危なくなっている。政府に限らず、われわれ国民も、認識や覚悟を新たにする必要があり、そのよい機会でもある。安全保障の問題も含めて、国として主張すべきことは主張し、今までのように米国への100%追随型では大きな問題点や禍根を残すという状況になるのであれば、それなりの毅然とした態度をとっていかざるを得ないと思う。

Q: 自由の国、寛容の国である米国で、トランプ氏のような大統領が出てきて、(中東・アフリカ7か国からの入国を一時禁止した大統領令に対し、)一部の州の司法長官が違憲として提訴している。毎日のように大統領令を出し、ツイッターで発信し、一種楽しんでいるようにも感じられる。将来、G7の枠組みが成り立たなくなるのではないか、どこかで転換点を見出すことができるのかとの危惧がある。半年くらい経たないと分らないという人もいるが、見極めはどうすべきか。座して待つしかないのか。

小林: (トランプ大統領の就任から)1週間から10日でだいたい見えてきたが、(イスラム圏)7か国からの一時入国禁止に関する大統領令の件は、極めて「わたくし」が前に出ている。今までの一般常識、感覚からは想像もつかないビヘイビア(振る舞い)について、オランド仏大統領も、メルケル独首相も、メイ英首相でさえ、トランプ大統領の言動に対してそれなりのコメントを出している。ディール(取引)の人とはいえ、マスメディアに対してもかなり高いボールを投げている。そのような中で、(世界)全体の世論が形成されていく以外、今は打つ手はない。少なくとも、(トランプ大統領が)選挙で選ばれたことは事実であり、ギャラップやロイター等調査会社によっても、データが異なっている。

一方で、トランプ大統領は自身のツイッターに限らず、さまざまな解析手法を使ってそれなりのオルタナティブなデータをしっかりと持っている。そのようなことも含めて、集積したデータの中で一つの世論を形成する以外は、今は、何とも手の打ちようがないと思う。

Q: ケネディ大統領の演説を100点とすると、トランプ大統領の演説は何点か。

小林: とても分かりやすい(内容だが)、20点くらいではないか。ケネディ大統領の演説を聞くと、クラシック音楽と同じように心が洗われる。

Q: トランプ大統領は過度なドル高を是正しようとしているが、現在の為替(ドル・円))相場は過度にドル高なのか。水準についての所感を伺いたい。

小林: 極めて相対的な問題である。日本の経済人としては、(1ドル=)110円から120円位が心地よく感じる。今までかなりの製造業(企業)が円高のため海外に(拠点を)移してきており、バランス上、円高に対しての抵抗力がついているとはいえ、やはり100円以下は相当きつい。今はエネルギー価格も安く、日本企業にとっては、収益的にも、換算の利益も含め、110~120円位で安定的に推移することが望ましい。ただし、どの水準が良いとするかは、購買力平価を基に90数円とする見方もあるだろうし、かつてのプラザ合意のレベルで200円とする見方もでき、まさに相対的である。4~5年前から5年先程度のスパンで見る限りは、原油価格も含めて、(110~120円位で)安定すると経済的には計画が立てやすい。投資も含めて、確実性を経営に導入できる。現状を円安とも円高とも思わないが、110円台程度が心地よいところではないかと思っている。

Q: 働き方改革実現会議で、長時間労働の是正についての議論が始まる一方、脱時間給についてはずっとたな晒しになっているが、成立を先送りさせることについて懸念はあるか。

小林: 脱時間給というか高度プロフェッショナル制度については、継続審議となっているほか、(今後、時間外労働の上限規制など)労働基準法の様々な具体的アクションが入ってくると(理解している)。とりわけ長時間労働、これは明確な指針というか、ガイドライン(を定めることは)大いに結構だと思う。それと同時に、経営者側(の考え方や)社会通念も含めて変えるべき時期だ。大いに議論は深まっているし、具体的なレギュレーションなりガイドラインとして定着することが望ましいと思っている。

Q: 長時間労働の是正に関し、政府原案では残業時間の上限規制について繁忙期は月最大100時間、年6か月までは超過を容認する内容だ。100時間というのは過労死ラインを超える線だが、このガイドラインについてはどう思うか。

小林: ボーダーをどこにするかは、医学的にもメンタルな部分でも難しいと思う。個人として、自分が若い頃はどうだったか、あるいは今も(含めて考えると)、夜も酒席があるとはいえ、朝早くから働き1日4時間オーバーするとして、(月間)20日働くとすぐに(超過勤務が)80時間くらいになってしまう。この年齢になっても、(時間外)80時間位でぎりぎり生きているという程度だ。そういった目安を専門的に検討して決めればよいのではないか。

Q: 運送などこれまで適用が除外されていた業種についても上限規制をかける方向だが。

小林: お客様(との関係)や社会通念があるので、そうバサっと(区切るわけに)はいかないが、いずれにしろスタートさせないと(いけない)。いつまで経っても例外規定というわけにはいかないので、結構なことだと思う。

以上

(文責: 経済同友会 事務局)


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