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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2016年12月13日(火) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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記者の質問に答える形で、(1)今年一年を振り返って、(2)日露関係、(3)東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う損害賠償や廃炉、除染等、(4)薬価改定、(5)カジノを含む統合型リゾート(IR)整備推進法案、(6)今年の漢字、などについて発言があった。

Q: 今年も残すところ2週間と少しになった。今回が年内最後の定例記者会見となるが、今年1年を振り返っての感想を伺いたい。

小林: 世の中の時間の感覚がだんだん短くなっていると感じる。当会が発足した70年前の時間の流れは、今の10倍くらい遅いテンポだったのではないか。時間軸が短い時代だからこそ、長期的な持続可能性という視点で物事を見なければならないのだが、あまりに日々の移ろいが激しいがために、そこにかまけて、企業(経営)も政治も社会全体が、短期的なところにエネルギーを注がざるを得なかった、というのが今年感じたところだ。

Brexitやドナルド・トランプ次期米大統領の勝利とは対照的に、バラク・オバマ米大統領が当選した当初の「チェンジ」(というメッセージ)は、理解が難しくなかった。人類の歴史において、グローバル化やデモクラシー、フラット化、ボーダレス化の時代に転換していくという流れに、取り立てて抵抗感もなかった。

ここに来て「ノスタルジー」や「リターン」という言葉が正しいのではないかと思うくらい、これまで人間が歩んできた統合や地球の一体感というものが昔に戻っていくような危機感を覚える。今の状態が足踏み(をしているだけ)で、今後もう一度、人間の英知で世界全体を覆い尽くすような(統合の道へ)進んでいくのか、それとも1930年代の強い民族主義や専制君主(の時代)に戻ってしまうのか。今年一年、特に経済サイドから見た社会の流れは、予測不可能だと感じた。

経済の流れは、地理的と同時に領域もボーダレス化が進んでいる。例えば、グーグルがフォードとともに自動運転車をつくったり、ネット世界でバーチャルな経済活動をしている人がリアルの世界に入ってきたり、モノづくりの人たちがビッグデータを使って新しい展開をしていくなど、産業の垣根もなくなってきている。企業経営も連結決算になり、株主もグローバルな視点で国とは関係なく、パフォーマンスで企業を選んでいる。

(経済のグローバル化の流れが)変わり得ない一方で、国家がナショナリスティックになっていく。グローバルな経済と極めてローカルな政治(が存在している)。先日、イタリアのレンツィ首相が辞任を表明したが、欧州は来年、オランダ、フランス、ドイツで大きな選挙を控えている。民が本当の意味での変革を好まず、どちらかというとポピュリストを選んでしまうような傾向を、今後どう見ていけばいいか。昔に戻ってしまわないために、どのようにして人間の英知で前に進めていくかが一つだ。

もう一つは、シンギュラリティという一言で片付けてしまうべきはないと思うが、ITの先にあるAIとどう関わっていくか(という問題)だ。人工知能の知性が人間を凌駕するまでに発達する30年後を想定して、人類は違った意味で用意をしていくべきだろう。「人間」と、企業としての「法人」と、「AI人」がどう付き合っていくか。AIが、食事をしたりトイレに行かなかったりするだけで、本質的に人間の代わりができてしまう社会が、たったの30年後には実現する(と言われている)。また、5年後には自動運転車ができる。AIやロボットの社会が現実化してきている中で、基本的な法律や哲学といった面からの準備が必要な時代が間違いなく来ているのではないか。こうしたことを語るためには、ミレニアル世代をはじめとする若い世代と、高齢者も元気を出して、一緒に対応していけるような準備を進める必要がある。

経済同友会は創立70周年という節目を迎え、従来の問題意識として、国家を憂い、日本国のためにどういう形で進んでいくべきか(を議論することに加え)、今後はさらに「行動する経済同友会」をもっと前面に出していきたい。学術界や政治、行政などに限らず、若い層と議論や情報共有をする場として、「テラス」をつくっていく。経済界だけに閉じこもらずに、ボーダレスでフラットな議論を展開していきたい。これが当会の今後の大きな、明日に向かっていく方向性であり、メディアの皆さんの協力なくしては実現が難しい。来年も引き続きよろしくお願いしたい。

Q: 日露関係について、ウラジーミル・プーチン露大統領の訪日が15日に迫ってきた。日露首脳会談が予定されており、北方四島や平和条約、経済協力に焦点が当たっているが、首脳会談への期待と注文、経済協力への所感を伺いたい。

小林: (戦後)70年経って、このような形でかなり腹を割った会談をされるということなので、どのような方向になるか我々には分かる術もないが、(領土問題や平和条約には)あまり期待もしないくらいで、じっくり見守ることが良いのではないか。予断を持たないことだと思っており、うまくいってくれることを祈る以外にない。

経済的には、(安倍晋三首相が提示した経済協力プラン)個別の8つの条件(項目)は、政治的な領土問題や平和条約とは基本的には別で、お互いメリットがあれば進めていけばよい。そこは冷静にやっていけばいいのではないか。いずれにしても、70年間なかなか動かなかったものを動かすことは大変な作業だと思うので、首相以下の努力を見守っていく以外にない。

Q: 日露の経済関係について、どのような分野に可能性があるか。

小林: 海底ケーブルで電力を輸入するなどはなかなか採算が合わないだろうが、可能性としては、エネルギーや資源が、ロシアと組んでいける分野ではないか。

Q: 12月9日の東京電力改革・1F問題委員会で、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う損害賠償や廃炉、除染などに21.5兆円かかるという見通しが示された。3年前の想定から倍に膨らんでおり、さらに今後増える見通しもある。国民負担が増えていること、また国民に対する説明責任について所感を伺いたい。また、原発が本当にコストの低い電力かということに対して疑問が出てくるかと思うが、それについてはいかがか。

小林: まず、元々11兆円だったものが22兆円になった。(損害賠償、廃炉、除染それぞれについて述べると、)賠償については、これ以上大きな増加はないだろう。除染については、20ミリシーベルトなのか、10なのか5なのか、クライテリア(基準)次第であるが、医学的な根拠のエビデンスをとるのは簡単ではない。今のレベルで、5ミリシーベルトと想定する限り、それほど大きな増減はないだろう。当初2兆円で済むと思っていた燃料デブリの取り出しを含めた廃炉をどう考えるか。今回、8兆円(と試算され、3年前と比べて)6兆円プラスになっているが、(燃料デブリの)取り出しについては、スリーマイル島原発事故での経験をベースに(算出している)。3つの原子炉について、完全に溶融して張り付いたものを放射線量の高い中で、ロボットを使うとはいえ(取り出す)。スリーマイル島原発事故(のデータ)を中心に専門家が再度見積もったわけで、桁違いなことはないと思う。しかし、ロボットがもっと内部に入って状況を把握しない限り、正確な数値は出てこない。また、燃料デブリを取り出した後、中間貯蔵にしておくのか、最終的にどのように処理するのか、この定義によっても(金額は)動くと思うが、これが分かるのは5年、10年先である。

現状では、22兆円というところで、東京電力が廃炉に対しては全面的に償いをするわけだが、国民負担も含めてその配分をどうするかというのは、近いうちに最終的な判断が出てくると思う。まず、22兆円でフィックスした中でどう分配していくか。廃炉、賠償、除染にそれぞれいくらというように、前回もある程度数値が出ているので、そのまとめに入っている段階だと思う。

国民負担については、送配電の部分で(新電力も)負担するとか(という案も出されているが)、ほとんどは東電が責任を持つ。そうだとしても、年間5,000億円儲けなくてはならない中、柏崎刈羽(原子力発電所)を少なくとも2基は動かすという前提なので、この点をどう納得してもらうか、どう安全性を担保して、なおかつ地元の納得性を得る状況に持っていけるかというのは、かなり重要な問題である。送配電はまだまだコストダウンの余地がある。新電力にお願いするというのは、全体の中ではほんの一部ではあるが、その蓋然性については今後も一部議論を残しているのではないか。

原子力のコストについて、資源エネルギー庁の試算によると、石炭火力やLNG天然ガス系(の発電コスト)が12~13円強/kWhとすれば、原子力発電(のコスト)は10円強/kWhである。今回の不幸な事故の処理費用を22兆円と仮定しても、(原子力発電のコストは)11円/kWhまではいかない。計算上は、先述の中間貯蔵、あるいは半減期が10万年もあるような放射性廃棄物の最終処分、プルトニウムをどこへ持っていくか(の費用)をどうカウントするかという曖昧さはまだ残っているが、現状の試算やデータを見る限り、(原子力発電のコストが)11円/kWhまでいかないというのは、(他の電力に比べれば)相対的にまだ安い。

経済同友会の主張は、「縮・原発」である。人類は、原子力発電に手を染めてしまったわけで、フィンランドは非常に特殊な処分場をつくって、そこに(放射性廃棄物を)置く予定だが、日本でも最終処分は大変重い問題である。これ以上(原子炉を)増やしていくことは、次世代や次の次の世代に大変なものを残してしまうということ(を意味する)。できれば可及的速やかに(原子力発電を)止めたいが、日本は資源もエネルギーもない国で、サービス業だけで食べていけるわけではない。従来は、製造業などエネルギー多消費型の産業で食べてきたが、今でも韓国や米国よりも2倍以上電気代が高く、(そのため、)製造業はエネルギーコストの高い日本には投資しない。成長戦略を議論する中で、総合的には働き方、IoTの応用、第4次産業革命もあるが、従来のような製造業は、このような電力事情では海外に行かざるを得ない。

成長戦略との整合性を取るためには、当座、20~30年の間は、とにかく安全を第一に考えながら原子力という(エネルギーを利用する)。ある意味で、(既存の原発設備は)償却していると見なせば、既にあるものを我慢して使いながら、収益を福島の復興や研究開発に投資し、自然エネルギー、例えば太陽光や風力、あるいは地熱の開発をして、いかに(再生可能エネルギーの)コストを下げるか(が課題だ)。原子力や石炭火力とほぼ同程度の発電コストになったところで切り替えていくというのが、あまりヒステリックでない、日本の経済をダメにしないでなんとか食いつないでいく手法ではなかろうかと思っている。

Q: (今回の試算による)22兆円という額は、今後あまり大きく増えないという見解か。

小林: 基本的には、また2~3年経過して、(費用が上振れし)30兆円(になる)というようなことはないと思う。22兆円が23兆円になるのかは別として、今の段階ではできる限り正確な見積もりを、有識者、とりわけ海外(の専門家)も含めて(作成した)。スリーマイル島原発事故等のエビデンスもあり、それの何十倍かということで計算している。事故を起こさない(場合の)廃炉作業(費)は800~1,000億(円程度)で、事故を起こすということは、廃炉のコストが上がることを(意味する)。(廃炉・汚染水の処理費用について)2013年当初の見積もりでは2兆円で、それから4倍になってしまったというのは、それくらい前代未聞の、知見のない事実という部分であるから、(費用が)全く増えないとは言えない。ただ、今、世界に約400基ある原子炉は、1基も事故がなければいいのだが、いずれ(経年により)廃炉になる。廃炉のテクノロジーはかつての静脈産業で、新しいものは生まないが、経済的にはそれによって非常に新しいロボット(の技術が開発される)。ロボットが線量の高いところに入って緻密な作業をするとか、ビッグデータをどう蓄積するかといった非常に新しい知見、イノベーションの場でもある。そうした廃炉の技術の研究開発は、国家が主導して、日立、東芝、三菱重工等を含めた原子炉メーカーとも一緒にやっているので、産業としてもポジティブに捉えるべきだ。廃炉だから若い人は(研究開発を)やめたいというよりは、廃炉はおもしろいではないかと思って入社してくる若者もいるので、全てが後ろ向きではないと見るべきである。

Q: 政府は、薬の公定価格(薬価)を決める仕組みを、原則2年に一度から毎年実施に変更し、価格を柔軟に引き下げる見通しだ。薬価については、社会保障制度の維持・存続にも関わり、製薬業界からは反対意見もあるが、代表幹事の所感を伺いたい。

小林: 社会保障の一環として、できる限りジェネリック医薬品に転換していくことが望ましい。最近の数値は把握していないが、欧米でのジェネリックの普及率は80~90%程度であるのに対し、日本では徐々に増えているものの50~60%くらいだ。社会保障費の削減、持続可能な社会保障の一環と捉えれば、ジェネリックに転換していくことは、一つの方向だと思う。

安倍政権は当初、成長戦略の一つとして、第4次産業革命、IoT、環境・エネルギー問題に匹敵する以上に、創薬や新薬開発も含めたヘルスケア・ビジネスも大きな柱に位置付けていた。欧米と比べると日本の製薬会社は極めて小さく、ベンチャーが種を見付けてそれを製薬会社が薬にしていくというエコシステムのような仕組みもない。その中で、新薬ができても、薬価があっという間に下がってしまう、それも2年ごとから毎年の薬価改定となると、研究開発にお金が回らなくなり、ひいて言えば、成長戦略と矛盾する形となってしまう。薬の内容にもよるが、研究開発費がかかり、効果が大きい薬の価格に関しては、一定程度、斟酌する必要がある。薬価改定の実施期間を2年から1年にすることについては、薬価の下げ方や比率をどうするかなど、やり方次第で調整ができるのではないか。一方、今いくらで売られているか等のデータを毎年取るとなればかなりの手間がかかり、現在はコストを掛けないためにも2年に一度となっているので、(毎年の改定には)製薬業界が反対するのではないか。(2年か1年かについての)所見を述べるより、最適化すればよいと思う。

Q: カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備を推進する法案について、大阪などカジノを構想しているところもある。国会審議が不十分との声もあるが、国民心理も含めて受け止めを伺いたい。

小林: 関西経済同友会は、かなりデータを集めており、関西経済の活性化のために、万博(開催)を含め真剣に考えている。我々も関西経済同友会とは議論をしている。IR(統合型リゾート)には大いに賛成だが、個人的にはギャンブルが大嫌いなので、他に(経済活性化の)やり方はあるだろうとは思う。個人的にはギャンブルを好む人たちの気持ちが理解できないので、この件についてはなかなか述べにくい。ただ、(成立まで)こんなに拙速である必要はないだろう。もっと皆が納得できる議論をしたらよいのではないか。相対的に見ると、エネルギーや電力の問題は、震災後が悪者で5年経っても解決しないし、ホワイトカラー・エグゼンプションなどの労務系や働き方、労働基準法については2~3年経っても一向に進まないのに、(カジノを含む統合型リゾート(IR)整備推進法案は、審議のスピードが)奇異なほど速いと感じる。

Q: 代表幹事にとっての「今年の漢字」を伺いたい。

小林: 「戻」、リターン。今年は戻ってしまった。Brexitにしてもトランプ次期米大統領の当選にしても、白人のノスタルジー(と感じられる)。ダイバーシティとあれだけ言っていたアメリカ人が、トランプ氏に(対して)白人女性で約6割、白人男性、特に所得の低い層では約7割が投票しており、なんとなく違和感がある。人間には学習効果があるはずなのに、リーマン・ショックを経験してもまた似たようなことが起き始めている。将来が非常に不確実な中で、経営者は今後、どういう経営をやっていくのか。来年は相当思い悩む年になると思う。戻る。チェンジではなく、リターン。大丈夫なのかといった懸念はある。経済的には、(為替が1ドル=)115円、(株価は)20,000円(に届く勢い)なので、企業にとって今は最高である。もしこれが数か月から1年ほど続くようであれば、来年の春闘は良い方向にいくのではないか。

以上

(文責: 経済同友会 事務局)


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