代表幹事の発言

小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

冒頭に小林喜光代表幹事より、直近の所感を述べた後、記者の質問に答える形で、(1)株価下落、(2)賃上げ、(3)AIIB、(4)日銀の金融緩和策、(5)イラン経済制裁解除の影響、(6)株価下落などの実体経済への影響、などについて発言があった。

小林喜光代表幹事によるコメント

1月5日の経済三団体共催の新年祝賀パーティーの挨拶で(述べたのだが)、日本の場合、企業人も含め、やることが遅いというか、アジリティ(機敏さ)が必要だということで、休まずという意味で、「留(とど)まらザル」、二番目に不測の事態も「怯(ひる)まザル」を挙げた。その不測の事態に近いことが、いきなり起こっており、今日も株価は留まることを知らずとなっている。われわれ経済人としては、これからもいろいろあるだろうが、怯まぬ心を持って、怯まザル精神でやっていきたいという覚悟を決めたところである。

Q: 株価は年明けから終値が一日だけ上がっただけで、「留まらザル」下落になっている。人民元安および中国の減速といった不安感が先行しているようだが、現状を心配しているのか、想定の範囲内なのか、どのような印象か伺いたい。

小林: 正直なところ、経済には山谷ある。上がったり下がったり。下がったものは必ず上がる。リニアに上がり続けるなど、そもそもあり得ない。ここまで元気よく来たので、何らかの形の調整は入ってしかるべきだと思っている。あまり良すぎると翌年の成長率が下がったり、経済はそういうものだという認識は皆さんも同じだと思う。

「中国(経済の先行き)は“U(字型)”でも“V(字型)”でもなくて、“L(字型)”だ」と習近平国家主席が述べているようだが、フラットで6~7%あたりの成長をたどることは既に予測されていた。新常態というか、私も「相当アブノーマルな状態になりつつある」と言った覚えがあるが、去年の8月あたりからかなり見えていたことだった。私も事業でかかわっているので(感じていたが)、コモディティは3年位前から供給過剰だった。中でも鉄やケミカル、コモディティ、繊維原料などは、リーマン・ショックの後2009年に、40~50兆円とつぎ込んで、基本的なインフラやコモディティの工場をたくさん用意(投資)しており、2~3年前、工場が稼働した2013年頃には、「これは危ないな」というのが顕在化していた。その延長線上で、供給過剰の状況で国家関連の企業が縮小の方向に向かわなかったということも(要因として)あったのかもしれない。

むしろ、やはり米国が、利上げという変曲点を迎えていることや、イランと6カ国の核合意履行を受け貿易を再開するということで、原油価格が28ドル台にまで(下落し)、かつて130~140ドルの時代を考えれば、予想以上に相当下がっている。こうしたインパクトが大きいのではないか。いろいろリスクがある中で、リスクから逃げようという段階ではないかと思う。このままずっと奈落に入っていくとはとても思えない。そろそろ“L(字型)”というレベルで落ち着くのではないかと思っている。

Q: 足元の株価が不安定な中で、円安を受けて業績が厳しいところもあるようだ。業種業態で違ってくると思うが、賃上げの動きに足元の不安定さがどのように影響してくるのか。賃上げの余地、特にベースアップの余地について伺いたい。

小林: 今の段階ではそれほど不測の事態とは思っていない。昨年考えていたこととほとんど同じペースで交渉はできると思う。自社の場合でも石油化学などのコモディティ系は、石油精製が新聞によると帳簿上とはいえ相当赤字になっていることから、心理的なものは出つつあるため楽観はしていないが、一瞬の冷や水は消えると思っている。それに今すぐ影響されるとは思わない。

Q: 政策対応について、日銀の出番だという指摘もある。現状での経済を踏まえて、日銀として追加緩和の余地は限られているのか、円高も進んできたので追加緩和という形で対応した方がいいのか。現状でのガイダンスがあれば伺いたい。

小林: 全体的に、少し悪くなったらすぐ緩和と言っていたら、いつまで緩和すればいいのか。緩和の効果が出たのは3年前の4月で、このときはドラスティックに出たと思う。しかし、80兆円を少なくとも毎年緩和していくこと自体が、大変な緩和である。それ以上の効果はあまり期待できないのではないかというのが、一つである。持続可能性を考えるとやめておいた方がいいというのが正直なところである。もう一つは、(目標としている)2%の物価上昇というのが、こういう状況の中でもコアコアCPI(エネルギーおよび食品を除く)が約1%である。エネルギーも食品も除いたもので(あれば)2%まで到達するというのを目標として下ろすべきではない。生鮮食品を除いたコアCPIがプラスマイナス・ゼロでは、原油価格が下がれば当然どうにもならない。あまり約束した2%にこだわって、かえって変な政策になる方がまずいのではないかという気がする。当然約束したことは約束したことで(あるが)、時間だって2年近くも遅れている。それよりも現状を見て、原油が少なくとも想定外に安くなっている中で、何が正しいのかをむしろ見るべきである。

Q: 現時点で、エネルギー込みの2%(物価上昇率)目標は、引き下げても良いとお考えか。

小林: 基本的には(足元のコアコアCPIは)0.9%だから、引き下げるというよりエネルギーと食品を除くコアコア(CPI)であれば2%くらいにもっていかないと、期待効果、要するに今後(物価が)上がっていくから使おうという部分は伸ばせない。これ(コアコアCPIで2%)を下げることはないと思う。ただ、当面、ガソリン代がどんどん下がると予想されるから、そっちのメリットは結構あるだろう。違う部分にその部分を回せるという期待感もある。コアコア(CPI)2%というあたりで本当のところは考えれば良いだろう。

Q: 1月16日、実質的にAIIB(アジアインフラ投資銀行)が開業した。日本政府のスタンスとしては、ガバナンスを注視したいということで、アメリカとともに参加を見送っている。あらためて、AIIBの設立、あるいは開業したことに対する経済界の受け止めについて、所感を伺いたい。

小林: 政府のスタンスの通り、ガバナンスが本当に大丈夫かという点は、注視する必要がある。57カ国が入って、さらに10カ国以上が入ろうとしている。世界銀行があり、ADB(アジア開発銀行)があり。どちらかというと中国サイドから見たら、一方に偏っているのだろうということで、習近平国家主席が2年ちょっと前(にAIIB創設を提唱した)。とにかく最初に驚くことは、たった2年でここまで持ってきたというスピード感である。なかなか国際的な関係、あるいは日本のいろいろな作業も安倍政権になってだいぶ速まったとはいえ、2年でここまでもってきたことの勢いはすごいと思う。やはり、アジアのインフラを、ADBや世銀も必要だけれども、中国・インド・ロシアが中心となってやるオーガニゼーション(組織)として、日本もガバナンス等々がある程度コンファーム(確証)されたら、入っていく方向で当然検討されていると思うので、当面、注視していく重要なアイテムの一つかと思う。新しいオーガニゼーションが出てきて非常に競争的な立場、あるいは協調的な立場も含めて、むしろスピード感も出て活性化するのではと思う。今までADBなどは融資、あるいはチェックに時間が掛かりすぎている部分もあると聞いており、そういう意味ではそのような投資機関がたくさん出てくることは良い方向だと思う。

Q: 両極端な意見かもしれないが、「バスに乗り遅れてはいけない」という議論がある。ADBや世銀のような既存の組織もある中で、日本はAIIBに参加するべきか。

小林: 協調融資しながら、そのビークルを使い、コンプライアンスやガバナンスを見ながら、考える必要があるのではないか。金立群総裁もいつでも(AIIBに)来て下さい、とにかく大歓迎と述べているので、状況を見て入っていくというのが良いのではないか。焦ることはないと思っている。

Q: チャンスになると思うか。

小林: 良いチャンスだと思う。世界のインフラ投資に対して、(国際開発金融機関が)3、4個あっても良いのではないか。1,000兆円位のディマンドがあるということならば。

Q: 良いチャンスになると言うのは、ガバナンスの問題がある程度解決されたと判断されれば、入ること自体が日本企業にとってメリットであるということか。

小林: 例えばインドや、東南アジア等、イランなどを含め、いろいろな貸し先があるとすれば、それなりに競争的、協調的(であり)、そういう投資先がたくさんあるのはいいことだと思う。スピード感も含めて。

Q: いずれ日本はAIIBに参加すべきだということか。

小林: 最終的にはきちんとガバナンスがチェックされ、全体がしっかりと動く、ということが確認された暁には、むしろ入ってもらうほうがいいのではないかと思う。ADBと世銀だけというより、いろいろな窓口があったほうがよいと思う。経済側からみれば。競争によりスピード感も出てくるだろう。

Q: イランへの経済制裁の解除による影響をどうみるか。

小林: 基本的には日本サイドからすれば、長い間、石油や石油化学の話等々、不幸にしてだいぶプロジェクトが失敗はしてきているが、歴史的にも深い関係があるので、貿易の活性化という意味で非常に良い方向だと思う。しかし一方では、サウジアラビアがああいう形で(イランと)国交断絶(したり)とか、サウジアラビアも石油のパイプのバルブを閉めない。OPECがそういう意味で全然閉める方向にいかない。シェールの方も、比較的(生産)コストが安くなっているので、まだ生産を止めないため、予想したより原油が安いという状況になっている。これによる世界経済への影響というのは、ちょっと読めないし、それは心配だ。原油価格が下がるということは、資源がなく、とりわけエネルギーのコストが高い日本では、交易条件が非常に悪かったものが、ここにきて貿易収支も含めて(改善しており)、基本的に日本経済にとっては、その点では良いと思う。しかし、経済と政治という両輪の中で、やはりおかしな政治的方向性というか、そこだけは憂慮すべきかもしれない。その点を除けば、制裁解除は大いに歓迎すべきことと思う。特に(イランは)日本にとっては貿易相手国としては意味があると思う。

Q: 株価に関連し、長期金利も下がる中、経済の停滞感が強まってきている。実体経済への影響をどのように見ているか。

小林: 個々の業種によってもだいぶ違うと思う。原因は何かというと、アメリカの金利(の影響が大きいのではないか)。実体としては0.25%か0.5%くらいだが、(金利を)上げるという宣言によって、結果として、新興国あるいは中国への資金が撤退してきている。逆に、原油価格が下がることによって、日本の場合は少なくとも、ガソリンを使う人、コンシューマーなり、それをベースにしている電力などの産業は活性化するはずだ。当然、値下げしてもらわなければいけない。あるいはケミカルなど、使う方はよいのだが、石油精製や石油化学など、そちらはかなり(厳しい)。そういう意味でアンバランスであり、エンジョイ(享受)できるところとできないところがある。全体としてどうかというのは、今の段階では言いがたいところがある。

それに加えて、中国経済(の減速)が8月段階で予兆があり、ここに来てやはり(落ちている)。半分以上を占めるサービス系、インターネット商売は相当アクティブでそう落ちていないが、鉄や化学のコモディティ系は3割、4割がオーバーサプライであるから、これに国家としてどれだけ手を打つか。打ったところで3年~5年かかる。もう一本調子で(経済成長率が)6~7%という時代は終わった。定常状態の中で、どう考えていくか。アメリカと日本の経済がどれだけ引っ張れるかというクリティカルな時期に来ている。いまここで、すぐシュリンクするというのは時期尚早だと思う。

日本は少なくとも、国内の部分は原料が安くなるので悪い方向ではない。実態としての実質賃金(を考えると)、ガソリンが下がると地方は車社会だから税金の還付のような部分もあり活性化するのではないか。(車に)よく乗る人は、月に10,000円くらい(ガソリン代を)使っているので、2割方安くなれば、(そのインパクトは)消費税というレベルではないと思う。

以上

(文責: 経済同友会 事務局)

PAGETOPへ