長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原 金一 副代表幹事・専務理事
記者の質問に答える形で、長谷川閑史代表幹事より、(1)日本経済団体連合会(経団連)の新体制発足(連携強化、労働規制緩和、政治献金)、(2)法人実効税率引き下げ、(3)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用見直し、(4)人手不足、(5)政府会議・経済団体・社業のバランス、などについて発言があった。また、長谷川代表幹事より、政府が公表を予定している第二弾成長戦略および「骨太の方針」について、コメントがあった。
Q: 昨日、経団連の定時総会にて、新体制が発足した。榊原定征会長は、経済同友会とも連携を強化して活動していきたいと述べていたが、これについて受け止めを伺いたい。
長谷川: 大変ありがたく思っている。昨年、日本・東京商工会議所の三村明夫会頭にも同様のコメントをいただき、就任パーティーでもそれに呼応する挨拶をさせていただいた。三団体それぞれ、立場や構成メンバーの要望などに違いはあるが、協働して(政府等への)働きかけができる案件もある。すでにエネルギー問題については経済三団体で動いており(「エネルギー問題に関する緊急提言」(2014年5月28日公表))、引き続き協力体制を作っていきたい。
Q: 榊原経団連会長は、特に働き方の規制緩和について強く要望していきたいと述べている。現在、政府会議などで推している労働規制の緩和について、労働強化になるのではないかとの懸念もあるが、どのように考えるか。
長谷川: 榊原経団連会長が、新会長として、具体的にどのような労働市場の改革を考えられているかはあらためて確認する必要があるが、産業競争力会議では私が主査を務める雇用・人材分科会のメンバーである。先般の主査ペーパーの内容については、常に連携して進めており、これまでのところについては賛成・支持をいただいている。それ以上のお考えがあれば、あらためて相談したい。
Q: 榊原経団連会長は、政治献金のあっせん再開について、政策評価のあり方を見直した上で指針の策定を検討すると述べている。政治献金のあっせんについて、所感を伺いたい。
長谷川: 経団連が決めることについて、良い悪いを述べるつもりはない。ただし、1994年に政党助成金が法制化された際、企業・団体献金はいずれ廃止の方向と決まったが、それが無視されたままになっている状況は、ある程度考慮する必要がある。年間三百数十億円も政党助成金として交付されていることと、(企業・団体献金との)バランスはしっかり考える必要があるのではないか。
Q: 歴史的経緯を見ると、経団連は自民党政権から集金マシーンのように言われたり、ゼネコン汚職により一時期あっせんを中止したこともある。また、政党助成金が導入され、国民の税金から負担することになった。一方、企業からすると、政治献金のためにはある程度の指針が必要との意見もある。政治献金のあっせんには、良いところと悪いところがあると思うが、その辺りについて考えがあれば伺いたい。
長谷川: 考えは特にないが、経団連が、各政党を政策ベースで評価し、ましてやそれが献金(の指針)につながるのであれば、できる限り透明な形でやっていただきたい。
Q: (企業・団体による)政治献金はない方が良いと思うか。
長谷川: (ない方が良いとまでは)申し上げかねる。
Q: 経団連の検討結果が出たら、あらためて意見を伺いたい。
長谷川: 私も以前(2007~2011年)は経団連で評議員会副議長を務め、夏季フォーラムでの論議にも参加したので、ある程度の背景は理解している。
Q: 法人実効税率引き下げの議論が大詰めを迎えている。昨日、自民党税制調査会から、税収の自然増をあてにするのではなく、代替財源を確保することが(引き下げの)前提であるとの見解が表明された。今の議論の進み方について、評価を伺いたい。
長谷川: 「法人税のパラドックス(税率引き下げ後に経済成長が起こり、税収の自然増が生じて、法人税収対国内総生産(GDP)比が増加する現象)」は、それぞれの国の状況やタイミング等で変わってくるので、必ずしも定説ではない。財政を預かる側として、税率引き下げ分の代替財源を確保すべきとの議論は自然な流れであり、党税調の考えも理解できる。ただし、安倍政権の課題の一つである経済成長や競争力強化の観点抜きに、課税ベースの拡大等を行うことは難しいので、その辺りの兼ね合いどうするかが肝心である。
Q: 法人実効税率について、政府・与党は来年度から引き下げる方針である。今後数年間での税率の推移について、榊原経団連会長は「3年で20%台」と述べているが、お考えを伺いたい。
長谷川: 本会では、2013年度財政・税制改革委員会(岡本圀衞委員長)の提言「法人実効税率 25%への引き下げの道~成長戦略を強固にする税制~」(2013年7月3日公表)等において、法人実効税率を25%に下げるべきと述べている。代替財源としては、固定資産税や外形標準課税なども考慮の対象に入ると提言しているが、時間軸については述べていない。20%台への引き下げを求める見解は、経済界としては一致している。榊原経団連会長は「3年で20%台」と述べられたが、政府や与党には5年間との考えもあると報道されている。財政再建との兼ね合いもあるため、これから公表される予定の政府案を見て、代替財源の問題も含めてコメントしたい。
Q: 公的年金を運用するGPIFについて、株式に運用を見直すような動きが出ている。大事な年金原資をリスクにさらす懸念も指摘されているが、これについて所見を伺いたい。
長谷川: GPIFについては、昨年、産業競争力会議で運用ポートフォリオの見直しを提言しており、その方向で改革が検討されるのは良いことである。(GPIFの資産構成比率を定めた)基本ポートフォリオでは、基本は国内株・外株ともに12%ずつだが、(昨年末時点の実勢は)株価上昇を受けて(国内株)17.2%となった。ポートフォリオを変えるとリスクは確かに増える。一方、諸外国のソブリン・ウェルス・ファンドや各種機関等では、プロのファンドマネジャーが運用し、少なくともインフレ率を上回るような運用率を上げている例も多い。シンガポールにもそのようなファンドがある。日本でもそのようなグローバル・スタンダードでの運用ができるようにならないと、危険を恐れてばかりいるようでは情けない。すでに各国で実績あるものを日本でも行うべきという趣旨で提言したものであり、その前提で(改革の検討を)進めていただければと思う。
前原: 長く保険会社で超長期の運用ポートフォリオを考えてきた立場から述べると、国債は安全資産であるとの考え方には違和感がある。長期の運用では、株や不動産などバランス良く投資をすることが重要と考えている。ここ20年程度の年金ファンドの運用は、バランスを欠いていたのかもしれず、国債の割合が高いことのリスクを考えても、見直すことは良いと思う。
Q: 人手不足について、かなり深刻な状況が出ている分野もあるが、現状認識と改善策について、お考えを伺いたい。
長谷川: 本会の会員からも、特に小売や飲食業、流通、建設業などでは完全な人手不足の状態にあると聞いている。当面の対策の一つは賃金を上げることで、すでに対応されて(人手不足が)改善している例もある。これまでデフレの中で(賃金が)抑えられ過ぎており、最低賃金を考慮する状況からは脱してきたが、(賃上げは)内需刺激にもなるので、今後も当面はあって然るべきである。なお、労働法制の改革を提案すると、厚生労働省は必ずブラック企業がさらに悪乗りすると言うが、それを言っていたら何も進まない。前回の産業競争力会議では、ブラック企業の断固取り締まりと撲滅を目標に掲げるよう述べたところである。アベノミクスで景気が回復し、今は完全雇用に近い状況で人手不足になっているため、ブラック企業で酷使されている人も他の企業に移るチャンスが増え、ブラック企業の生き残りも難しくなる。
一方で、絶対数の不足については、すぐには解決できない。当面、女性や高齢者により働いていただくことで対応するのが現実的である。また、(外国人の)技能実習制度も5年に延長する方向で合意できつつあると認識している。建設分野では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を見越して、例えば6年間の期間限定で受け入れ枠を広げる等、政府も成長戦略の一環として検討している。当面は、それらのような合わせ技で対応するしかないのではないか。
Q: 榊原経団連会長も長谷川代表幹事も、同じ産業競争力会議のメンバーであるが、社業のグローバル展開もあり、政府会議にテレビや電話で参加することもある。先般、榊原会長(当時は次期会長)と米倉前会長(当時は会長)が訪中した際、榊原会長は産業競争力会議出席のため帰国し、李源潮中国副主席との会談に同席できなかった。社業、団体長としての業務、政府会議のバランスのとり方や軽重について、所感を伺いたい。
長谷川: (政府会議は)個々の民間議員の判断になるが、政府との約束では、やむを得ない場合はテレビ会議や電話会議での参加が可能となっており、活用が進んでいる。Face to faceでの議論が望ましいが、それが難しい場合は、テレビや電話を通じての参加について政府との合意もできていると理解しており、こだわる必要はないと思っている。
<政府の第二弾成長戦略および「骨太の方針」について>
長谷川: 株価が上がっている。また、懸念されていた(消費税率引き上げの)反動としての消費の減少は、想定の範囲内に収まっている。百貨店では4月の売り上げが一桁あるいは二桁減のところもあったようだが、5月にはそれも縮小した。自動車では、軽自動車が既にプラスに転じており、6月は対前年比でプラスになる見通しも出ている。政府も公式見解を出しているが、1997年の教訓も踏まえて、政府も民間企業も対応をよく考え、今のところ順調に回復軌道に戻っていることは大変喜ばしい。政府は、今月中をめどに、第二弾成長戦略と「骨太の方針」をまとめて公表する予定である。昨年6月、「日本再興戦略」が公表された日に株価が下がるということがあった。政府もその教訓から懸念されていると思うが、ぜひ株価にも景気にもポジティブに影響するような、思い切った改革の具体案が盛り込まれることを強く期待している。
Q: 成長戦略について、株価を考えると何が一番重要か。法人税実効税率引き下げの影響は、既にマーケット関係者の間では織り込み済みと言われている。
長谷川: それが分かれば苦労はしない。マーケットが実際にどう反応するかは別にして、改革はやっていかなければならないとの姿勢で、政府がポジティブなメッセージを送ることが肝心である。外国人投資家が、プライベート・エクイティも含めて、(日本株が)少し過小評価されているとして買い戻したために1万5000円台に戻っているという解釈もあり、それが売られるとまた下がるというような、本質的・根幹的な対策とは関係ない部分で(株価が)動いているところもある。よって、そこ(株価上昇につながる政策を決めること)は難しい。本来の、中期的な(成長)戦略に資するような改革・政策を着実に打ち出していくことが重要である。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉では、豚肉(輸入)の問題で「セーフガード」の形やタイミングの折り合いがつかないようだが、6月2日に開催された世界経済フォーラム(WEF)ジャパン・ミーティングのオープニング・セッションで、甘利明 経済財政・再生相は「年内には最終合意に達したい」と述べていた。また、シンガポールで行われた閣僚会合の全体会議で、マイケル・フロマン米通商代表部代表が各国の交渉メンバーに、いったん約束したことは蒸し返さないことを強く確認しており、米国も本気だろうと感じる。規制改革会議では金丸恭文副代表幹事が画期的な提案を出しているが、(TPP協定の妥結は、)成長戦略や規制改革を後押しするためにも極めて重要である。ベルギー・ブリュッセルで開催されている先進7か国首脳会議(G7)でも、成長戦略を着実に進めるための規制改革や、EPA/FTA・TPP協定等の早期妥結を目指すことなどが首脳宣言として採択されるのではないかと報道されており、ぜひ前向きに進めていただきたい。
以上
(文責: 経済同友会 事務局)