長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原金一 副代表幹事・専務理事
冒頭、長谷川閑史代表幹事より、東京での2020年オリンピック・パラリンピック開催決定についてコメントを述べた後、記者の質問に答える形で、(1)2020年東京オリンピック・パラリンピック開催、(2)豊田英二 トヨタ自動車最高顧問の逝去、(3)賃金・雇用等に関する政労使協議と賃上げ、(4)JR東海のリニア中央新幹線計画、(5)東京電力・柏崎刈羽原子力発電所の安全審査申請、(6)全原発停止、(7)法人実効税率引き下げ、(8)消費税率引き上げ、などについて発言があった。
その後、前原金一副代表幹事・専務理事より、『2013年9月(第106回)景気定点観測アンケート調査結果』について説明があった。
<東京での2020年オリンピック・パラリンピック開催決定について>
長谷川: 東京での2020年オリンピック・パラリンピック開催決定について、大変明るいニュースで、チーム日本全員が協力し、さまざまな公式・非公式の活動をし、結果として成功に結び付いたことは大変良かった。経済効果についてはさまざまな試算が出ているが、経済効果のみならず、これからの準備期間を含め、東京にとっても、おもてなしの精神やユニバーサルデザインの導入など新しいコンセプトを打ち出していくことで、さすがに成熟都市・東京での日本らしいオリンピック・パラリンピックである、という大会を実現できれば大変良い。7年後、ぜひ現場を観たいし、できればボランティアででも役に立てればと思う。
Q: 東京でのオリンピック・パラリンピックがもたらす効果について、社会や教育、外国語教育などいわゆる社会に対して、どのような効果や好影響を期待するか。
長谷川: 6月半ばに発表された『日本再興戦略~JAPAN is BACK』で、雇用と人材を担当したが、そこでもグローバル人材の育成が大きな柱の一つになっており、ある程度の具体案を提示し、今後フォローアップする予定になっている。グローバル人材の育成には、当然、語学教育も入っている。グローバルに活躍するためには、外国語の習得だけで済まないことは述べるまでもないが、おそらく、オリンピック・パラリンピックを契機に成長戦略における教育改革の一環としての英語教育にも弾みがつくだろう。加えて、多くの家庭でも英語を話せるようになり、日本全体でおもてなしをしていくことの弾みにもなる。海外に出るきっかけのない人たちも、多くの海外からの来訪者に対して直接・間接にサポートをすることで、グローバル化についての新たな視野が開けるなど、さまざまな面での効果が考えられ、そのような意味でも大いに期待できる。
Q: 経済界にも多大な功績を遺した豊田英二 トヨタ自動車最高顧問の逝去に対して、所感を伺いたい。
長谷川: 直接は存じ上げていないが、トヨタ自動車の中興の祖として、素晴らしい業績・実績を遺された方である。加えて、経団連でも3期副会長を務められ、多大な貢献をされたと理解している。トヨタ自動車にとっても精神的支柱のお一人であったろうし、日本の経済界にとっても偉大な方を亡くしたということで、心から哀悼の意を示し、お悔やみ申し上げる。
Q: 9月20日から政労使協議が開始される。足下の景気は良くなっているとはいえ、肝心の賃金はまだ追いついていない中で、このような取り組みをどう捉えるか、所感を伺いたい。
長谷川: 今年の年頭見解『経済の成長なくして日本の再生なし』でも触れたが、企業には、技術や製品・サービスの供給者の立場と、賃金などの報酬を通じて需要に貢献する立場と、両方ある。アベノミクスの効果で相当に追い風を受けた企業もあり、業績の向上が見られ、かつその維持や上昇傾向に見通しがつくような企業は、この機会に日本の経済を好循環につなげるためにも、個別企業の判断として、率先して賃上げを検討することは極めて重要だと思っている。政労使協議でどのような話し合いが行われるかは分からないが、政府は、過去の政権ができなかったことを相当実行しており、より景気の足取りを確かにするための協力を求められれば、個別企業として、できる限り対応し、期待に応えることを考えても良いのではないか。
Q: 賃上げについて、例えば業績の良い企業は賞与に反映して年収を引き上げているが、ベアにまで踏み込むべきと考えるか。
長谷川: その意味で述べたつもりである。賞与については、期ごとに多くの企業が業績と連動させていると思うが、数年間などある程度の期間(の業績好調が)見込めれば、賃上げを考えることも必要だと思う。政府でも、給与支給総額の5%増で法人税を減税するという措置について、最終ではないが(適用条件を)緩和をしようとの考えもあるようである。この辺りは阿吽の呼吸で、できるところは協力していくことが必要だと思う。
Q: あくまでも個別企業での対応となるが、雇用法制や税制等について国が後押しするような制度もある。どのような条件であれば、さらに賃上げが進むとお考えか。国にどのような措置を求めるか。
長谷川: (政府は、法人税減税の適用条件について)給与支給総額5%増の部分の緩和などインセンティブを考えているようだが、(国がこの措置をしてくれたら賃上げするという)交換条件のようなものではなく、企業経営者として、個別の企業に応じてできるだけ前向きに賃上げを考えると同時に、経済団体の一つである経済同友会の代表幹事の立場で、公式の場でこのような発言をすることでメッセージを送る意味も込めているつもりである。
前原: 新卒の採用状況を見てきているが、就職できない人が過去には10万人程度もいたが、今年は就職率94%といわれており、ほとんどの学生が就職できている。諸外国の就職率は50~60%程度で、日本は世界的に見ても最高水準である。この状況が続けば、全体の賃上げにも大きく影響してくるだろう。
Q: 景気の好循環の影響を受けにくい中小企業や非正規労働、パートタイマーなどの賃上げについては、今後どのように対応すべきか。
長谷川: 個々の企業の判断であり、企業の考え方や組合との話し合いにもよるが、企業としては、優先順位を付けざるを得ない。質問にあった立場の方には(効果が波及するまでに)少し時間がかかるかもしれないが、好景気が持続すれば当然目が向いていくだろう。
前原: かつて就職できずに現在非正規の立場で働く方は100万人以上いるが、厚生労働省は、その方々をきちんと訓練することを考えたいとの方針である。徐々にその効果が現れてくるだろう。
Q: 賃上げについて、基本的には個々の企業で考えるべき問題との見解だが、9月20日に予定されている政労使協議という国も入ったスキームについての所感を伺いたい。また、今回のような協議が設けられる場合、どのような方向性が見出せれば互いにとって前向きな話し合いになると考えるか。
長谷川: 政権も、景気浮揚のためにできる限りのことをしようとさまざまなインセンティブを打ち出し、それを背景に経済界や企業に協力を求めている。このような段階で、政労使が話し合いの場を持つこと自体は、悪いことではないと思う。とはいえ、賃金は個別企業の業績の実態を反映するものであり、できるところからできるだけ協力することを、できるだけ多くの経営者が考えることにより、政治側の努力と経済界側の努力がうまく景気浮揚の維持に貢献できれば、良い結果に結び付くだろう。
Q: 本日、東海旅客鉄道(JR東海)よりリニア中央新幹線の概要が発表され、詳細なルート案が各自治体に提示されたが、これについて所感を伺いたい。
長谷川: 大変明るいニュースであり、ここまでこぎつけられた(JR東海の)経営者の皆さん、従業員の皆さんに心から敬意を表したい。中間駅の位置や詳細なルートの最終案など、ある程度の具体的な案を発表されたと理解している。2027年開通とのことだが、少しでも早く開通すれば、それだけ経済効果や国民意識の高揚効果があるだろう。
Q: リニア中央新幹線について、開通の前倒しについてはどのように考えるか。2020年のオリンピック・パラリンピックに併せて部分開通との話も出ているが、いかがか。
長谷川: 一般論として、開通が早ければそれに越したことはないと述べたが、JR東海としても最大限のスピードで作業を進められると思う。事情も知らず、経済同友会として、いつ、どの区間を開通してほしいなどと述べるつもりはない。
Q: 40分で品川から名古屋まで移動することについて、感想を伺いたい。
長谷川: すごいと思う。ほとんど地下とトンネルとのことで、景色ではなく機能最優先だろうが、素晴らしい。上海でリニアに乗ったことがあるが、(時間と速度を示す)車内表示を見てすごいと思った。今回のリニア中央新幹線は、スピードでも性能でも勝るのではないかと思っているが、世界最先端の技術を開発し、実用化されることは、国民にとっても喜ばしい。ニューヨークの地下鉄車両を川崎重工業が大量受注したとの報道があったが、リニアについても同様のことを考える国が出てくれば、新幹線が死亡事故なしで運転を行ってきた実績などを含め、日本の技術を証明することで海外への展開も考えられる。大変すばらしいことである。
Q: リニア中央新幹線に乗ってみたいか。
長谷川: 日本のリニアの技術が実用化されたものに、もちろん乗ってみたい。年齢的なこともあるが、その頃には公職の立場も離れて、2020年東京五輪も観たいし、リニア中央新幹線にも乗ってみたい。
Q: 東京電力・柏崎刈羽原子力発電所について、再稼働の許認可申請が進んでいない。関西電力・大飯原子力発電所4号機が稼働を停止し、原発稼動数がゼロになったことから一部電力料金の値上げも取り沙汰されているが、柏崎刈羽原発について所感を伺いたい。
長谷川: 東京電力は、原子力規制委員会への安全審査の申請を行いたいとの意思表示をしているが実現はしておらず、既に許認可申請を行っている他の電力会社については、申請が受け付けられたと理解している。原子力規制委員会が新たに発足して新規制基準ができたのだから、きちんと国の審査を受け、追加の投資が必要なのか、あるいは根本的にやり直さなければならないのかなど、客観的事実に基づいて判断が行われるべきである。そのためにも、申請に瑕疵がなければ、粛々と受け付け、審査が進められることが望ましい。
Q: (東京電力による)再稼働の申請が進んでいない状況についてはどう考えるか。
長谷川: 柏崎市と刈羽村は再稼働を了承していると理解している。また、他の電力会社が再稼働を申請している原発について、事前に立地自治体すべての了解を得られているわけではないと理解している。先述の通り、客観的な新基準での評価を受けることが先決で、その事実に基づいてそこから先を考えることが肝要ではないか。
Q: 関西電力・大飯原子力発電所4号機が稼働を停止したことで、再度原発の稼動数がゼロの状況に戻ったが、これについて所感を伺いたい。
長谷川: 幸い今夏は乗り切ったが、冬の方が電力需要の多い地域もある。政権も、原発について、縮小はするが、新しい安全基準をクリアしたものについては再稼動を行う姿勢であるし、私も当面必要であると思っている。電力料金がさらに上がることも考えられ、報道によると、40年以上も経つ火力発電所を、相当な無理をして稼働を続けており、何かトラブルが生じれば停電に直結しかねないが、技術者の懸命な努力で乗り切っているようである。それらを考えると、(新安全基準をクリアした原発の再稼働は)当面避けて通れないと思う。
Q: 法人実効税率引き下げについての議論が減っているが、企業の競争環境は依然として厳しいものである。法人実効税率引き下げについての所感を伺いたい。
長谷川: (法人実効税率引き下げの)タイミングをどうするかは政治判断の部分が大きい。一企業経営者としては、日本が不利な状況にずっと置かれていることは、個々の企業の競争力上好ましくない。同じ営業利益を上げても純利益あるいはキャッシュフローが(法人実効税率の低い国の企業とは)まったく異なり、将来への投資意欲やM&A実行の際の資金力に直結するため、競争力上不利な立場に置かれることは、企業としては是正してほしいと考える。同時に、日本の長年の課題である対内直接投資について、OECD諸国の中でもGDP比一桁の先進国は日本しかない。高齢化や人口減少が進み、これについては当面の迅速な解決が望めない中では、もちろん国内の企業がしっかりと頑張ることも大事だが、海外から見て投資に魅力的な市場環境を整えることも重要である。幸い、いま再び日本が見直され、日本の市場の魅力が経済の浮揚とともに注目されている状況にあるため、然るべきタイミングで法人実効税率についても競争力を担保する方向に持っていけば、さらに弾みがつく一つの要素になると思う。
Q: 消費税率引き上げについて、安倍晋三首相が10月1日か2日に決断されると言われている。代表幹事は、首相がどのように判断されるとお考えか。また、増税後の景気の腰折れが懸念されており、経済対策で5兆円規模とも言われているが、所感を伺いたい。
長谷川: 報道によると(10月上旬に首相が判断されると)言われており、それが事実だとすれば、いろいろとよく考えられ、知恵を絞られたと思う。景気腰折れの懸念があり、消費税の上げ幅について、景気が必ずしも安定的に上昇していることが確認できていない段階では、少し抑えるべきとの有識者の意見もあった。そのようなことも加味した結果、報道通りであれば、法律の修正が必要ない形で3%上げられ、そのうち2%に相当する部分は補正予算として景気刺激に使うとすれば、その一年間は実質1%の消費税引き上げとなる。納税者と補正予算の受益者は異なるので個々人には差が出るが、国家の財政としてはそのような形になり、熟慮の末の案だと思う。消費税率引き上げについては、4-6月期GDP改定値も上方修正され、景気の動向の中では予定通り上げられることが望ましいと考えており、首相も予定通り判断されることを希望している。
以上
(文責:経済同友会事務局)