長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原金一 副代表幹事・専務理事
記者の質問に答える形で、(1)長期金利の上昇、(2)憲法改正論議、(3)橋下徹大阪市長の発言と日韓関係、(4)円安による利益還元としての賃上げ、(5)各社本決算、(6)「もんじゅ」、(7)安倍政権の規制改革の失速、(8)ネット選挙運動の解禁、(9)参議院議員選挙の候補者支援、について発言があった。
Q: 住宅ローンや企業への貸出金利の目安となる長期金利が急上昇している。日本銀行は国債買い入れのオペレーションを実施したが、あまり効果は出ていない。急激な金利上昇は金融緩和の効果を相殺する恐れもあるが、現状をどのように見ているか。
長谷川: 一時的な現象について一喜一憂すべきではないと思う。このような(調整)局面では金利や為替に上下(変動)があってもやむを得ないし、長期金利の上昇がどの程度続くのかを見極めなければ何とも言えない。トレンドとして長期化する傾向があれば、懸念材料になる。
Q: 長期金利の上昇が長期化すると懸念が生じるとのことだが、どのような懸念があるか。
長谷川: 今、企業が大きな資金調達が必要という状況ではないにせよ、(長期金利上昇が長期化すれば)いずれ国債金利に影響することが考えられる。各所での金利負担が大きくなれば、1千兆円の借入金を抱えている国の財政にとっても大きな影響を与えることになるだろう。極端に言えば、財政規律について、現時点での国際公約である「国・地方のプライマリー・バランス(対GDP比)の2015年度までの半減、2020年度までの黒字化」達成にも懸念が生じることになり、この点でも長期金利の上昇が続くことは好ましくない。
Q: すぐにではないと思うが、アベノミクスの効果による設備投資への影響も含め、設備投資への懸念や影響はあるか。
長谷川: 現状、株式市場への好影響や円安による輸出企業への追い風という形で影響が出ているが、設備投資については、前年度と比較してもまだ大きくプラスの影響を与える状況には至っていない。企業の内部留保は、一説には200兆円ともいわれ、正確な数字は分からないが少なくとも100兆円規模である中で、企業の設備投資意欲には、金利等よりも、将来の景気見通しの方が影響が大きいと考えている。
前原: 地方の金融機関が長期国債を多く保有しており、影響は大きいのではないか。
Q: 永田町では憲法改正論議が活発化しており、安倍晋三内閣総理大臣はまず96条を改正したい考えである。憲法改正の是非と、このタイミングでの改正論議について、見解を伺いたい。
長谷川: 経済同友会でも、憲法問題については過去に何度も検討し、提言をしてきた。基本的には、制定から何十年も経って現状にそぐわないことも出てきており、例えば大災害時の対応など欠けている条項もあるため、必要に応じて改正していくことはあって然るべきと考える。タイミングについては、今この国にとって最も大事なのは、とにかく経済を成長軌道に乗せることである。世耕弘成参議院議員も、テレビ番組で安倍政権の優先課題は経済であると述べられていた。来る参議院議員選挙でどのような結果になるかは分からないが、今の支持率から見れば安定政権ができる可能性も高い。是非、日本経済が着実に成長に向かうような政策の実現を最優先いただきたい。
Q: 憲法改正論議について、経済同友会では2003年に意見書「自立した個人、自立した国たるために」(憲法問題調査会)を発表しているが、今後、政権が安定したときに、新たに憲法改正に関する議論を始めたり、提言・意見書を出すことは考えているか。
長谷川: 新たにこの局面で憲法改正に関する提言などを出すかについて、一度検討はするが、今のところその必要性は感じていない。
前原: 「2020年の日本創生—若者が輝き、世界が期待する国へ—」(2011年1月公表)でも、明確に意見を述べている。
Q: 憲法改正論議にも、「96条は変えても9条は変えるべきでない」「96条は変えずに9条は変えるべき」など、いろいろな考え方がある。今後どのような政権ができるか分からないので、あまり変えやすくすべきでないとの懸念から「96条は変えるべきでない」との声もあるが、改正のありようについて、所見を伺いたい。
長谷川: 時代の要請や国の状況の変化によって変えるべきところは変える、という基本姿勢である。個人的意見になるが、緊急性が高く、国民の支持が得られるところ、例えば災害への対応の問題などから手を付けていくことが最も自然ではないか。96条については、各国の状況も様々だが、民主主義の原理原則は多数決であり、衆参両院の3分の2というハードルについては、一度見直しても良いかなという感じはする。
Q: 橋下徹大阪市長が、慰安婦制度は必要であったなど日韓関係に影響を与えるような発言をしているが、代表幹事の受け止めを伺いたい。
長谷川: このような時期に、共同代表ではあるが一党の党首が、個人的な見解とはいえ、このような発言をされることは好ましいとは思わない。1993年に河野洋平内閣官房長官(当時)による「河野談話」があり、その翌々年、村山富市内閣総理大臣(当時)もそれを継承され、国としての公式見解はそれに尽きていると受け止めており、私としてもそれを尊重し、それ以上のコメントはない。
Q: 円安が進み、それによる利益を還元すべきとの議論もあるが、賃上げについてはどのように考えているか。
長谷川: 企業は、供給サイドであると同時に、需要創出における賃金や報酬の支払いを通じた責任もある。今年の年頭見解「経済の成長なくして日本の再生なし」でも述べたが、景気の循環が上昇局面に向かう可能性がある段階では、(企業として給与総額を引き上げるなど)後押しできることはすべきである。円安がプラスに働く企業とそうでない企業があるため、あくまでその影響を踏まえ、業績が改善すれば、最初は臨時的な賞与という形になるだろうが、還元していくことを考えるのが適切だろう。
Q: 各社の本決算が出揃ってきている。現在は為替の影響が大きいと思われるが、全体感はどう見るか。
長谷川: 相対的に見れば、円安、株価上昇がポジティブに影響を与えている企業が多いと見受けられる。全体の決算状況はまだ分からないが、傾向としては、今のところ好ましい影響が出ていると判断している。
Q: 日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」について、経済同友会は原発については“縮・原発”を表明しているが、核燃料サイクルに対する見解を伺いたい。
長谷川: 「もんじゅ」は、1980年代から累積で1兆円近くを費やしているとされているが、この技術が実用化できれば、核燃料サイクルによりいわゆる「核のゴミ」が大幅に削減でき、ウラン燃焼効率も現状の1%から大幅に改善されるという、ある意味で夢の技術と言える。世界でどこも成功していない技術の実用化に向けて、現在「もんじゅ」の再開も検討されていると聞くが、この技術の進歩は日本にとって良いことであると考える。
個人的見解としては、将来の世界の原子力技術の核となる技術でもあり、本来は日・米・仏など最先端技術を有する国が協力し、人類のために早く実用化を図ることが望ましいと考えており、国際的な場面でも機会があればそのように述べている。
Q: サイクルに関しては現状維持か。
長谷川: 誤解を招くかもしれないが、現状はそれしかないだろう。使用済み核燃料については、青森県六ヶ所村での貯蔵もほぼ満杯になりつつあり、現在停止中の原子炉にも冷温停止状態で多数置かれており、この解決は世界の共通課題でもある。MOX燃料等若干の再利用技術はあるものの、本格的な解決の目途はついておらず、当面は貯蔵しておくしかない。現段階では、最悪の場合に備えて数万年貯蔵することも想定しなければならないと思う。希望的観測ではあるが、半減期が何万年といわれるものの、これまでの科学技術の発展を見れば、何万年を待たずとも安全に処理・無害化する技術が開発されるのではないかと期待している。
Q: 先日、三木谷浩史新経済連盟代表理事より、政府の規制改革に対する勢いが、選挙を前に落ちてきているのではないかとの発言があった。産業競争力会議のメンバーとして、現状をどうとらえているか。
長谷川: 選挙が近付いたから失速したとは感じていない。産業競争力会議に参加している中で、過去の成長戦略では提起されてこなかったアプローチも一部あるが、多くはこれまでも語られてきた課題・政策が中心であり、要はそれらの実行を困難にしているところをどう突破するかにかかっている。相対論にはなるが、安倍政権の突破力・リーダーシップに期待している。例えば、あのタイミングでTPP交渉への正式参加を宣言され、米国議会の承認を待たなければならないとはいえ、その間の準備段階で国内対策、各国との交渉に対し強力なチームを作って進められているなど、強力なリーダーシップが感じられる。もう一つは、日本版NIHについてである。製薬業界の企業の経営者であるため色眼鏡で見られることがあるが、身近に感じている事項を例として述べたまでである。真意は、国家的な命題を解決するためには、複数省庁にまたがる課題について(権限・予算の)一元化を図らねばならず、その象徴の一つとして、厚生労働省・経済産業省・文部科学省・農林水産省が持つライフ・サイエンス予算を一本化し、司令塔としてアカデミアとインダストリーの橋渡しも行うことで、安倍政権も重要戦略産業と述べられているライフ・サイエンス分野の研究開発の効率化を進め、日本の研究開発を進展させ、世界に通用する医薬品を迅速につくり、人類の健康増進に貢献すると同時に、少しでも輸入超過の是正に貢献できれば良いと考えている。(安倍政権には、)こうした点(省庁の壁の突破)にも期待している。
Q: 7月の参議院議員選挙より、インターネットを活用した選挙運動が解禁になる。長所・短所ともに指摘されているが、所見を伺いたい。
長谷川: あまり詳しくないので的を射たコメントができる自信はないが、時代の趨勢として、IT技術を活用したいわゆる「ネット選挙(運動)」が進むことは当然の流れだろう。これが選挙民と候補者との相互理解を促進することにつながれば大変良い。個人的感想としては、少し飛躍するが、インターネットを通じて、個人識別をして投票できるようになれば、投票率も上がるのではないかと考える。特に、都会の若い世代の投票率が低いという問題も解決でき、また、(ネット投票が実現すれば)集計も瞬時にできるようになる。具体的実現には解決すべき様々な課題はあるが、次のステップとして検討しても良い時期に来ているのではないか。
Q: 新経済連盟では、ネット選挙活動に熱心な候補者を応援するとのことだが。
長谷川: 各団体の考えであるが、経済同友会は政党・政治については不偏不党であり、特にコメントはない。
以上
(文責:経済同友会事務局)