長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原金一 副代表幹事・専務理事
記者の質問に答える形で、(1)新卒採用時期の後ろ倒し、(2)規制緩和・保育所への株式会社参入、(3)ボストンでの爆破事件、(4)新経済連盟、(5)特区構想、(6)G20、(7)TPP交渉参加に向けた事前協議、(8)日本アカデメイアの長期ビジョン研究会、について発言があった。
Q: 報道によると、4月19日、安倍晋三内閣総理大臣が経済三団体トップに採用活動の解禁時期後ろ倒しを直接要請するとのことだが、所感を伺いたい。
長谷川: 経済同友会では、大学4年生になる前(3年生の試験終了後)の春休みからの(広報活動)開始を提言しており、改めて政府から要請があることに違和感はない。本会での議論は、大学側から「3年生の間はできるだけ勉学に時間を割けるようにしてほしい」と何度も(企業側に)要請があったことから始まっている。もっともな話であり、できるだけ対応していけるよう会として意思決定を行い、提言に至った。
Q: 安倍首相が直接要請されることについてはいかがお考えか。賃上げの際に成果があったためではないかとの見方もあるが。
長谷川: 政権が、実施しようとすることや実行可能なことをどのようにアピールするかは政権の考えであり、私共がとやかくいうことではない。(安倍首相が、)賃上げに続き経済三団体の代表を招集して要請をすることについて、特に感想はない。
前原: 就職(活動)の時期がクローズアップされているが、(採用する)企業と(応募する)学生とのミスマッチが大きな問題で、特に地方の中小・中堅企業に対する学生のアプローチが非常に少ない。各地の商工会議所でも熱心に取り組まれているが、地方の経済界と大学がもっと協力してミスマッチを解消する動きが起きれば、この問題は解決されていくのではないか。
Q: 就職活動について、時期の問題がクローズアップされてしまうのは、新卒一括採用という仕組みが背景にあるのではないか。このために一つの企業に多くの学生が集まるという見方もある。新卒一括採用について、所感を伺いたい。
長谷川: 本来であればそのような慣行にこだわる時代ではない。中小企業の中には、採用時期が短くなるとの懸念もあると聞くが、採用する側の企業は、採用人数の目標を考えて、従来のタイミングでなくても目標を達成するまで(採用活動を)継続することも考えなくてはならない。マッチングがうまくいかない中小・中堅企業には、経済団体等もマッチングの支援をし、少しでも多くの人が就職できるようにする。それが通年採用への道を開くことになるのではないか。キャリア採用については既に通年で行っており、新卒についても今後その方向に向かうだろうし、そうなって然るべきと考えている。
前原: (各地から)東京(の大学)に来ている学生が、出身地の企業の求人情報に触れる機会を増やしてもらえるようお願いしており、ハローワークなども実施したいと言ってくれている。また、1~3ヶ月などある程度の期間のインターンシップを就職に結び付けることができるようになれば、ミスマッチはさらに減らせるのではないかと思う。
Q: (採用活動時期を)遅らせても、以前の就職協定のように結局は守られない懸念がある。これを防ぐにはどうすればよいか。
前原: 当時とは情勢がまったく異なる。当時は学生の取り合いで、(企業は)採用に非常に苦労していたが、現在は何万人も就職できずにいる。どこかの企業が抜け駆けで採用しても、その学生が他に行きたい企業があれば、後からそちらに行くだろう。
長谷川: そのような(抜け駆けの)心理が作用することは、完全には払拭できない。しかし、早く(採用活動を)すればいい人を採用できるという考え自体、いささか時代遅れだという気がする。
Q: 経済同友会では、企業側の取り組みとして、過去にどのような学校の卒業生を採用したかなどの明示が提言されている。現状について伺いたい。
長谷川: 提言では、各企業がどのようなプロフィールの人材を求めているかをできる範囲で開示すべきと(述べている)。例えば、TOEIC何点以上などを明示してはどうかと(いうことであり)、それにより互いの消耗戦が避けられる(のではないか)。極端な企業では、1社に10万人以上もの応募があるようなので、(企業側は)スクリーニングだけでも大変な手間であり、何度も落とされると学生も消耗する。企業ができるだけ求める人材のプロフィールや条件を明らかにすることで、(学生に)効率よく選択的に応募してもらえるような道を開くべきであろう。一方、大学側の就職センターでも、各大学の学生がよく就職する企業にどういう人が採用されているのかを分析し、(学生に)情報を提供すべきである。互いができることをしっかりとやり、ミスマッチの解消に努力すべきではないか。
Q: 現実的に企業がどのような取り組みをしたかなどを発表する予定はあるか。
長谷川: 今のところないが、今後検討したい。
Q: 現状では、日本経済団体連合会の倫理憲章の下、紳士協定で採用活動を行っている。強制力を持たせることは現実的でないかもしれないが、現状の形でよいのか。他の経済団体や大学も含め、枠組みのようなものを考えた方がよいか。
長谷川: 法律で決めるような性格のものではなく、紳士協定なので、各団体がどのような形で多少の縛りをかけるかは、それぞれのあり方ではないか。(現在の倫理憲章を)継続して4月から(採用活動を)実現されるのであれば、それについてコメントする立場にない。
Q: 政府内で規制緩和をめぐる議論が本格化しつつあり、総論賛成/各論反対の事象も見え隠れしている。その中で、子供を持つ団塊ジュニア世代に待機児童が非常に多いという問題がある。株式会社の保育参入について、既に認めている自治体もあるがまだまだ少なく、政府内の議論でも規制に阻まれている状況である。この問題について所感を伺いたい。
長谷川: (待機児童の問題は、)団塊ジュニア世代の子供のみならず、日本が直面している人口減少という本質的な課題に直結する。「ダブル・インカム・ウィズ・キッズ」というキャッチフレーズを述べているが、子供を持って働く際に預けられないという環境を改善するのは当然真っ先にすべきことである。産業競争力会議でも何度も取り上げているが、待機児童の問題に取り組んでいる自治体として横浜市の例があり、林文子市長の第一期満了前には「待機児童ゼロ」を実現されるだろう。様々な選択肢を(市民に)提供され、バスでの送迎なども含めた様々な施策を講じてそこまで漕ぎ着けたという実態がある。厚生労働省は2019年までに待機児童ゼロを目指しているが、(2年後の新制度施行後から)5年先では少し時間がかかりすぎるので、それは最長(の目標)として、何年後には何割の自治体が解消するなど明確なマイルストーンを設けて実現していただきたい。同時に、横浜市の例でも明らかになったが、実現できた自治体には、呼び寄せ/掘り起こし効果による移住や、今まで諦めていた人たちの潜在需要を顕在化する効果がある。この問題は、改めて今後も強調するつもりである。
Q: 日本時間の16日早朝、ボストン・マラソンの開催中に、多くの犠牲を伴う爆破事件が発生した。今回の事件について所感を伺いたい。
長谷川: 日本時間で午前3時50分頃だったと思うが、テレビを観て大変驚いた。海外の子会社の一つがケンブリッジにあるため、従業員やその家族でマラソンに参加した人もいたのではないかと思い、すぐに安否確認と犠牲になられた方へのお悔やみのメールを送った。現地のCEOからの返事では幸いにして従業員および家族は無事とのことだった。
テロとの報道のようだが、あのような多くの人が集まるところでの無差別な殺戮という卑劣な行為は絶対に許されない。非常に憤りを感じている。
Q: 4月15日、三木谷浩史楽天取締役会長兼社長が代表を務める新経済連盟のフォーラムの前夜祭が行われた。北朝鮮情勢が危ぶまれる中、安倍首相が訪れ挨拶を行ったことは破格の扱いであり、相思相愛の関係に見える。昨年6月にできた新しい団体が存在を増しているように思うが、所感を伺いたい。
長谷川: 三木谷氏は、経済同友会メンバーでもあり、教育改革による国際競争力強化PTの委員長でもある。本日開催されている「新経済サミット2013」のプログラムもご本人から直接いただいたが、今回は米国を中心にIT産業のリーダーが集まり、終日イノベーションについて様々な角度からディスカッションをすることは、非常に意義があると思う。このようなことが刺激となり、日本において新たな起業が促進されることは大変良いことである。日本の経済成長をリードする可能性がある新たな産業の方たちを、政府が支持することに違和感はない。
Q: 報道によると、明日の産業競争力会議で3大都市圏に特区を設けるという構想があるようだが、議員の一人として所感を伺いたい。
長谷川: これまでもいろいろな特区構想があり、実施されてきた。本来は、特区で実施してみて良ければ横展開をすることが前提だが、なかなか成功していない。特に経済活性化の観点からは、(経済)規模の大きな大都市で試験的に実施し、成功体験を積み、それを横展開していくことがもっとも波及効果が高いだろう。産業競争力会議に出ていて、前政権との違いは、スピード感、実行に対するコミットメント、そしてその背景にある内閣あるいは党としての意思統一が垣間見えることである。結果を出してこそ評価されるので、期待できると感じている。
Q: 東北の震災特区(復興特別区域)は機能していないように見えるが。
長谷川: (震災特区には)企業を新設した場合、法人(所得)税を5年間免除する等があるが、それだけでは新規の企業進出はなかなか難しい。もう一工夫、二工夫が必要だと思う。地域の自治体や商工会議所・経済団体などともう少ししっかりと議論し、実効性ある形にしていかないと、「仏作っても魂入らず」という部分が残るのではないか。
Q: 特区については色々なアイディアがあり、一部報道では24時間地下鉄を(走らせる)との案もあるようである。これは実現可能と考えるか。
長谷川: 何事もやろうと思えば可能であるが、それにかかるコストとリターンが問題である。あまり先入観にとらわれず、何でも試験的にやってみて、うまく働けば続ければよいし、そうでなければ止めればよい。24時間といえば、地下鉄とは話題が逸れるが、保育所などで長時間の保育ができる(ようにする)ことがもっと重要であると考える。特に、看護師や医師など専門職に就く女性には深夜の勤務がある。長時間の残業がある女性もいるので、保育所などがもっとフレキシブルに対応できるようにすることを、優先的に考えるべきではないか。
Q: 今週(18-19日)、米・ワシントンで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が予定されており、黒田東彦日本銀行総裁が初めての参加となる。為替に関する議論が予想されているが、期待を伺いたい。
長谷川: (日銀が4月4日の政策金融決定会合で打ち出した)「異次元」の緩和について様々な意見はあるが、米国も国際通貨基金(IMF)も基本的には理解を示している。経済規模との比率からすればかつてない緩和を2年間で行うとのことで、円安や株式市場の活性化を加速させている面はあるが、為替介入をしているわけではない。(前回の定例記者会見で、)ここ(調整局面)までくれば、多少の上げ下げをしながらトレンドとしてはもう少し(円安・株高が)続くかもしれないと述べたが、ボストンのテロと言われる爆破事件による株価・為替への影響もあるように、様々な要素から一本調子でいくとは思えない。G20では、麻生太郎副総理・財務・金融相も(日本の立場を)きちんと説明すると述べられている通り、(今回の金融政策が)大きく日本への批判になるとは考えていない。
Q: 先週(4月12日)代表幹事コメント「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉参加に向けた米国との事前協議について」を公表されたが、今週になって大幅譲歩、韓国と比べて不利、などの懸念が出ている。今回の事前協議は100点満点と言えるか。
長谷川: 物事に100点満点はない。教訓は、交渉事でも何でも先行者利益というものがあり、先にやった人たちがより良い条件・より大きなマーケットシェアを勝ち取る場合が多いということである。EUの経済連携協定の交渉担当者から聞いたところでは、韓国がEUでの自動車への関税10%を取り払うことに成功したら現代自動車がシェアを拡大し、これを日本にも適応すると大変なことになるとの警戒感が広がっているという。このようなことを考えれば、遅れていることのハンディキャップも克服しなくてはならないというより高いハードルがある中で、批判をすれば切りがない。(評価は)交渉の結果を見てからの判断であり、現時点では、7月の交渉に参加できるタイミングで(事前協議の合意にまで)漕ぎ着けたことは評価すべきだと思う。
Q: 日本アカデメイアで長期ビジョンの研究会が始まったようだが、抱負を伺いたい。
長谷川: 今回の研究会の構想自体は、政界・官界・学界・労働界・経済界から次世代を担う人たちが集まって意見交換をし、長期ビジョンを作り上げていこうというもので、私も一つの部会で共同座長を引き受けている。テーマにもよるが、叩き台の提案は経済界から行い、いかに自由な討議をしながら忌憚ない意見交換をし、互いが十分に知己を得ると同時に、将来の日本のあるべき姿を打ち出していくことが目的である。近々(会合が)始まるが、ぜひ実りあるものにしていきたいと思う。
以上
(文責:経済同友会事務局)